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白い満月

 ああ、月が出てる。


 まん丸で、真っ白い月。

 見上げた夜空の真ん中に、ぽっかりと浮かんでいる、ただただ真っ白、月。

 淡く蒼白い月の光は森の木々の合間を縫って、思いの外明るく周囲を照らしている。


 僕はぼぉっと満月を見上げ、ふと足元に視線を落とす。

 そこには僕の足元まで広がっている紅い血溜まり……。

 その傍に、すでに事切れて物言わぬ男が一人、地面に突っ伏している。


 ここからではその表情は全く見えないけれど、観たいとは思わない。


 ……僕がこの手で殺したのだから、今更観たいはずも無い……。


 これは一体なんだろう?

 人を殺したというのに、僕は何も感じていない。


 罪悪感が無いわけでは無い。

 手にしたナイフと腕や身体に纏わりついた返り血は、ベタついていて不快ではあったけど、ただそれだけだ。


 僕が殺したこの男は、僕を殺そうとした。


 僕はこの森が好きだ。

 友達と来る事もあるけれど、よく一人でここへ遊びに来ている。

 今日もそうだった。


 もうすぐ夕方になろうという時刻、僕はお気に入りの大木の根本に腰を下ろして本を読んでいた。

 その男は僕にそっと近づいて来て、いきなり襲い掛かって来た。

 組み伏せられ、覆い被さられて首を絞められた。


 徐々に意識が朦朧としてゆく中で、男の腰のナイフが目についた。


 男は酷く無防備に見え、今ナイフを抜いて斬りつけたら、簡単に殺せる。


 そう思った次の瞬間には、ナイフの鞘を蹴飛ばして飛び出たナイフを掴んで、なんの躊躇いも無く男の首を切り裂いていた。


 そこには殺さないと殺されるから、とか、自分の身を守る為だったから、とか言う理由は全くの皆無で、ただただ、簡単に殺せる、そう思っただけだった。


 首を切り裂かれた男の最後の顔は、よく覚えていない。

 首を絞めていた腕の力が抜け、男はそのまま横へ倒れこんだ。

 僕は何度も咳込んで、息を吸うのに必死になっていた。


 落ち着いてから、手にしたナイフと男の死体を交互に見て、それからボンヤリと空を見上げて……


 ああ、月が出てる。


 まん丸で、真っ白い月。

 見上げた夜空の真ん中に、ぽっかりと浮かんでいる、ただただ真っ白、月。


 僕はその足で歩き出した。

 人殺しは罪だ。

 罪は贖わないと。


 でも……、殺した事自体に、僕は何の感慨も抱けなかった。


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