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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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6.お茶会にて

 聖女様が召喚されてから早3週間。

 色々大変だった……と少し遠い目になってしまうのは致し方ないと思う。


 まずは聖女様のハンガーストライキからことは始まった。元の世界に還れないなら生きていたくないと、少しでも先のとがったものや布類、凶器になりそうなものを置いておくと自死を試みて危険なため、聖女様のお部屋には必要最低限の物しか置けなくなったという。


 食事も当初は水も飲もうとしなかったため、無理やりに飲ませることも多々あったらしい。食事もまともに取らなかったため、召喚から1週間程度でげっそりとやつれてしまったのだ。そしてある日、御不浄に行くために立ち上がった聖女様が歩くのも覚束なくなったと聞いて、わたくしが限界を迎えた。


 聖女様に取りすがって号泣したのだ。どうか生きてくれと、諦めないでくれと、何ができるかはまだわからないが、生きて待っていてほしいと。

 召還魔術の研究に関してはまだ何の糸口もつかめていないため、変に期待を持たせてしまうことから伝えることはできなかったが、何かしらの力に全力でなるから、生きていてほしいと。きつくきつく聖女様のお身体を抱きしめながら願ったのだ。


 その淑女の仮面を吹っ飛ばした号泣にほだされてくれたのか、聖女様はほつりほつりと生きていくための行動を始めてくれた。


 まずは、軽いものからの食事。体力や筋力を戻すための軽い散歩からの運動。そして、色々話をした。聖女様ご自身のことや、離れ離れになってしまった友人のこと。わたくしからもこの世界のことや、この国の風土や文化について、わたくし個人のことも色々話題にした。

 その中で、聖女様のご家族は既にいらっしゃらない事、召喚された時一緒にいた友人が親友だったこと等も伺うことが出来た。

 その話を聞きながら涙をこぼし始めたわたくしを、聖女様が逆に慰めるといった展開になったのはわたくしの本意ではなかったと声を大にして言いたい。


 さて、そんな風に順調に距離を縮めていったわたくしと聖女様であるが、候補者達は何をしていたかというと、これが全く進展していなかった。

 というのも、聖女様が男性を、というかわたくし以外の人間を近づけることを嫌がったためである。

 曰く、わたくしが元の世界の親友に雰囲気が似ているため、そばにいてくれると心強い、慣れるまでそばにいて欲しいと。それを聞いた時のわたくしの心情はいかばかりかと。再びあふれ出そうになる涙をぐっと我慢して変な顔になっていたのを聖女様に具合が悪いと勘違いされたのは黒歴史だ。

 顔色の変化をすべて体調不良に向けるあたりヘリオンと気が合うのでは?とそこはかとなく思ってしまった。


 そうして2週間が過ぎるころには聖女様も落ち着かれ、王城内の庭園を散歩したり、他の候補者達とのお茶会に参加したりすることが出来るようになってきた。


 今日はその3回目のお茶会である。

 参加者はセルジュ様とわたくし、候補者の3名である。今日は日和もよいので、王城の中庭にテーブルを設え、お茶と可愛らしいお菓子やケーキ、軽食を用意し、明るい雰囲気で話ができるような形に整えた。


「さて、聖女殿。実は王都には学苑というものがあって、同じような世代の子女が集まって色々学ぶ場なんだ。聖女殿が良ければ、学苑に通ってみないかい」


 そう切り出したのはセルジュ様だ。


「学苑…ですか。うちでいうところの学校みたいなものですかね?アシュリーも通ってるの?」


「えぇ。新学期が始まれば2学年になるわ。学苑では基本的な語学や算術、礼儀作法と言ったものから、魔術や武術と言った実用的なものまで選択制で学ぶことが出来るの」


 聖女様とはこの2週間ですっかり打ち解け、言葉遣いも砕けたものになっていた。


「ふぅん。どっちかというと大学っぽいね。アシュリーが一緒なら行ってみようかな。でも急に行っても大丈夫なものなの?聖女だけど平民だから他のお貴族様にいじめられたりしない?ノート破かれたり、水かけられたり…階段から突き落とされたりとか!!!」


 ……そういえば彼女も乙女ゲーム好きだったわね。あとWeb小説も。


「聖女様にそんなことをしたら、その貴族は一族郎党罰せられるわね。特に最後の階段から落とすのは立派な殺人未遂で犯罪よ」


「……それもそうだね」


「……やたら行為が具体的だったけど、聖女殿はそういった被害にあったことがあるのかい?」


「いえー、今のは乙女ゲー的あるあるというか、様式美というか…そういう展開の物語が元の世界に溢れていたってだけです」


「ふぅん。まぁ、万が一にもそんなことはないと思うけど、何かあったら遠慮なく言ってくれればいいから。聖女殿を害そうとするのは国に対して反意があると言っても過言ではないから、私直々に手を下してあげよう」


 そう、聖女様ににっこりと微笑みけるセルジュ様。


「…怖い怖い!笑顔が怖い!殿下ってあれですよね。絶対腹黒ってやつですよね!アシュリーそばにいて大丈夫なの?逃げたいときは言ってね?」


 ……こっちに話を振らないでほしい。そう思って、聞かなかったふりをする。


「いくら聖女殿と言えど、私からアシュを引き離そうとするのはいただけないな。どうなるかわからないよ?」


「怖い怖い!さっき私を害するのは国に対する反意とか言ってませんでした?!何率先して害そうとしてるんですか!」


「害するなんて言ってないよ。聖女殿の気のせいじゃないかな?」


「う、嘘だ!!」


「……で、学苑はどうされますか?」


 収拾がつかなくなりそうだったので、話を切るように割り込んだ。


「そうだなぁ。ある程度でいいからアシュリーが一緒なら行くー。あとやっぱり魔術とか勉強しなきゃダメなんでしょ?私聖女とか言われてるけど、今のとこそれっぽい事何もできないし。ていうか、ホントに何か力があるのかなー?」


「せいじょさまにはたくさん魔力あるよー。元の世界では魔術なかったんでしょ?使い方を知らないなら感じようがないよー。要は蛇口の付いてないでっかい水がめみたいな状態―」


 そういうのは、相変わらずお菓子を消費する速度が速いテオだ。


「そういえばテオは人が持つ魔力量や魔力の流れが見えるんだったな。聖女殿の魔力はいか程なのかい?」


「そだねー。潜在魔力は僕やアシュリー嬢と同じくらいかなー」


 一同が驚きに息を飲む。


「……それはすごいな」


「えぇ、魔術を行使できるようになれば魔獣討伐についても大きく期待できます」


「えー、私魔獣討伐なんて出来るかわかりませんよー。血見るの苦手で、魚捌くのすらイヤだったんで。ところでテオさんはなんとなく魔術師っぽくて魔術強そうに見えますが、アシュリーも強いの?」


「私のアシュはすごいぞ。本来魔術師は後衛として下がっていて、前衛が魔獣を引き付けている間に魔術を準備して行使する必要があるが、アシュは前衛も出来る程武術の腕も素晴らしい魔術師なんだ。ある程度の魔術は無詠唱で使えるから、それで魔獣の足止めをしつつ、剣で魔獣を仕留める。その様はまるで戦女神のようで……」


 何故かセルジュ様がうっとりと得意げである。これがいわゆるドヤ顔というやつなのか。見目麗しいとドヤ顔もイラっとしないのね。新しい発見だわ。


「そうなんですね!アシュリーすごい!」


 そういって聖女様が抱き着いてくる。前からスキンシップ多めだったから、わたくしに慣れてきているんだなぁとほほえましく思うけど、その相手がわたくしだけっていうのは良いのだろうか?『覚醒者』候補仕事しろ!と思ってしまうのは気のせいかしら?

 あと、聖女様に抱き着かれた時のセルジュ様の視線が怖い。聖女様に殺気を送らないでください。


「魔術の規模や火力でいえば僕の方がいい線行ってると思うけど、アシュリー嬢の剣技と合わせた魔術の使い方は僕でもうっとりするよー」


「テオ殿はもう少々剣技を鍛えてもよいのでは?」


 ヘリオンが珍しく口を開くと、テオが食って掛かる。


「僕はいいんだよー。僕の売りは広範囲を対象とした大規模魔術と魔術研究なんだからー。ヘリオンと一緒にしないでー」


「だがな、体力は必要だろう。討伐に行って体力切れでへばるのは毎度どうかと思うぞ」


「そーだけどさー。運動している時間があるなら研究していたいんだよー」


 このお二人、仲はそれほど悪くないんだけど、持っている性質が真逆なのよね。もやしっ子と脳筋的な。

 そんなお二人の喧嘩というかじゃれ合いの収拾がつかなくなってきたところで、カインお兄様の制止ついでのまとめが入った。


「では、聖女様には新学期から学苑の2学年目に編入していただくということで。それならアシュリーと共に授業も受けられますし。それに学苑内では自分たちも極力お側におりますし、王家からの護衛騎士も付きます。特にアシュリーとは女性しか入れないところもありますので、出来る限り離れないでいただきたい。アシュリーの能力は先ほど殿下とテオが話していた通りなので、護衛としてもお役に立てるでしょう」


 というか、お兄様。やっと長文でお話しされたかと思ったらまとめ始めちゃいましたわ。候補者なんだから、もっとお話に加わってくださいな。と思うのはわたくしだけ?

 わたくし?わたくしはいいんです。候補者ではないですし。そもそも現状乙女ゲーでいうところの好感度?が一番高いのはわたくしのような気がしますの。それでいいのかしら?と思わなくもないので、お三方にはもう少し頑張っていただきたいのですが…


 この1週間後、学苑の新学期が始まり、無事聖女様は2学年に編入することとなった。


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