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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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5.私室にて その2

「あの家、まだ頑張ってるのー?いい加減諦めればいいのにー。あの家おっさんもうっとおしいけど、ご令嬢の方もなかなかだよねー。アシュリー嬢この間も絡まれてなかったー?」


 そう、ナイトレイ侯爵家と言えば例の学苑で3日と空けず絡んでくるレイラ様のご実家だ。あの家はなかなか野心溢るるご一家で、あの手この手で王家とつながりを持ち、のし上がろうとしている。

 その一環として、レイラ様をセルジュ様の妃にしたいらしいが、セルジュ様の対応がけんもほろろなので、わたくしを貶めんとばかりに絡んでくるというのが、絡まれる真相だ。

 また、目的の為には手段を選ばず悪事にも手を染めているという噂があるご一家でもある。そんな黒い噂のある人間を王家が近づけるはずもなく、侯爵家の思惑とは裏腹になかなか思うようにいってないらしい。そのため、ますます手段を選ばなくなっているとかなんとか、何かと厄介事になりそうな家でもあるのだ。


 なので、実害弊害その他諸々の被害を大なり小なりかぶっているこの部屋のメンバーが、苦虫をかみつぶしたような顔になるのは当然のことといえる。


 それにしても、レイラ様をセルジュ様の妃に近づけようと頑張っている一方で、セルジュ様を『覚醒者』にせんと狙ってくるとは、矛盾もいいところである。

 セルジュ様が『覚醒者』になった場合、その妃の立場は当然のごとく『聖女』のものになる。なぜならお二人は相思相愛なのだから。そうでないと『聖女』の『覚醒者』にはなれないので、この考えは当然の帰結だ。恐らく神殿のルイ神官を聖女様の後ろ盾にすることによって、セルジュ様引いては王家との繋がりを狙っているのだろう。にもかかわらずレイラ様を妃にせんとけしかけるとは……前世のことわざに二兎を追う者は一兎をも得ずとあったが、言い得て妙だと思う。


「まぁ、そもそも私は『覚醒者』の候補ではないしね。なので、皆にはしっかりと頑張って聖女様の御心をつかんでほしい」


「ずりぃー。殿下ずりぃー。人の気持ちとか魔術でどうにかならないものは専門外なんだよー。女の子とかどう扱っていいかわかんないよー」


 セルジュ様の押しの強いキラキラスマイルに押されながら、テオが不満をこぼすので、なんだか申し訳ない気分にさせられた。

 それに気づいたカインお兄様がちらっとこちらを見るが、気づかないふりをして、別の話題を持ち出すことにした。


「そういえばお兄様は聖女様のお名前ちゃんと言えまして?」


「あー……アシュカ様……いやアシュ……アシュカ様……」


「違うよカインー。アシュカ様!ってあれ?!」


「お二人とも何を…アシュカ殿だろう?……うぬ?」


 どうやらしっかりと発音できないのはセルジュ様だけではないらしい。


「アシュはちゃんと言えるのかい?」


「えぇ、アスカ様ですわ。と言っても、聖女様のお名前をお呼びする機会などわたくしには早々巡ってこないと思うので、披露する機会はなさそうですが」


 苦笑しながらテーブルに用意されていたお茶をいただくことにする。


「異世界の名前とはこちらと異なり、なかなか難しいものだな」


「文化とかも違うんだよねー。それを聞くのは楽しみだなー」


「楽しみついでにぜひ聖女殿と親しくなってくれればいいんだよ?テオ?」


「それはそれー。これはこれー」


 そう言って何個目になるかわからない焼き菓子に手を伸ばすテオ。テーブルに用意されている甘味のほとんどはテオのお腹に収められている。

 曰く、頭脳派には糖分が必須らしい。その割に同じく頭脳派と言われているカインお兄様は甘味嫌いなのだが、その辺り指摘するのはやめておくのが賢明というものだろう。


「さて、とりあえず誰が『覚醒者』になるかは置いておくとして。聖女殿にこの世界を知って、慣れていただくためにも、予定通り学苑に通ってもらおうと考えている。17歳ということはアシュと同じ学年ということでいいのかな。随分お若く見えたが……」


 日本人若く見える問題はまさかの異世界でも有効だった。確かに聖女様と比べて自分が老け顔なのはよくわかったが。なんでしょうこの現象。骨格の問題なのかしら?


「基本的には学苑では聖女様にはわたくしたちと一緒に行動していただくことにいたしましょう。学年別の授業はわたくしとテオ様が、男性が入りにくい場所にはわたくしが必ず付く形でお守りできれば良いかと思いますわ」


 聖女様には、政治的思惑を多分に含んだこちらが選んだ候補者から『覚醒者』を選んでいただくのが望ましいので、囲い込むような形になってしまう。

 なお、候補者となっているカインお兄様方3名だが、全員高位貴族出身で、各々方向性は異なるが見目も麗しいと、巷のご令嬢方には大変な人気を誇っている。しかも現王太子殿下の側近を務めており、誰が選ばれても政治的思惑に大きな影響がない為、今代聖女様の『覚醒者』候補に選ばれたのだ。

 これ、傍から見れば聖女様とそれを取り囲む見目の良い殿方と言った、前世でいうところの逆ハーというものにあたりそうだが、影の実情はこう言っては何だがゲスい。色々と酷い。いえ、国の為には必要な事なんですけど。

 それにしても逆ハーとかねぇ。本当にここ乙女ゲーなんじゃ…ありとあらゆる要素がその可能性を推してきてて恐怖しかない。だってその場合わたくし悪役令嬢役っぽいですもの。あら?レイラ様かしら?とりあえず悪役令嬢ざまぁとか勘弁していただきたいわ。


「そうだね。ちょうど来月から学苑の新学期が始まるし。それまでにこの世界の基本的な事を聖女様には学んでいただこう。その辺りの手配はカインに任せていいかな」


「御意に」


「さて、後は聖女殿のお目覚めを待つしかないかな。各々仕事に戻っていいよ。私も後から向かうから」


 そうおっしゃると、セルジュ様はひょいっとわたくしを膝の上に載せられた。


「ほどほどにお願いいたします」


 そう言ってカインお兄様が扉の方に向かっていく。その後をやれやれと言わんばかりの雰囲気でヘリオンとテオが続く。セルジュ様に常に付き従っている護衛騎士の2人も、扉の外での護衛に切り替えるようで、外に出ていく。


「お、お兄様!?」


 慌てて膝の上から降りようとするが、ぐっと腰を抱かれて脱出不可能となった。

 それを見たお兄様が諦めろと言わんばかりに頭を振って、慇懃に礼を取りながら扉の外に出ていかれた。その後扉はぴっちりと閉められた。


「さて、お義兄様から釘を刺されたことだし。程々にするためにも、逃げちゃダメだよ」


「な、何を……まだお仕事中ですわよね?!」


「効率的な業務の為にも息抜きは大事だといってたのはアシュじゃないか」


 そう言って不埒な動きをするセルジュ様の手から逃げようとするが、上手くいかない。


「そ、そういう意味ではございませんわ!」


「そういう意味ってどういう意味かな?」


「ですから……!いやん!そんなとこ触らないで……」


「もう黙って」


 そう言って物理的に塞がれた口が解放されるのはしばらく後のこと。その後解放された口からのぼる甘い声。それを聞くのはただ一人だけだった。



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