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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第二章 浄化の旅編
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9.マードル子爵家にて その1

「まぁ、カルム公爵令嬢ともあろうお方が随分貧相な装いをされるのですわね。当家が子爵家という事で侮っておられるのですか?」


 晩餐の場に姿を現して開口一番マリア様の口から放たれた暴言がこれだった。

 ナイトレイ元侯爵一派はこちらの思惑通りにしか話せない呪いでもかかっているのかと不安になるくらいだ。

 想定していた為、わたくしの方は何も感じなかったが、どうやらセルジュ様他の方々はそうでもなかったらしい。というか部屋の温度がぐんぐん下がる。寒い……


「我が妃は何を着ていてもその美しさは変わらないんだがね。それを理解されていないようで残念だ。

 しかも我々は魔障を浄化する重要な旅の途中。華美な装いなぞ必要ない。旅装を持ち運ぶので十分。

 その旨先ほど子爵にお伝えしたはずだが、ご理解いただけなかったようで残念だ」


 セルジュ様、相変わらず煽り上手ですわね。

 王宮の夜会にでも出席するかのような華美なドレスを身にまとい、装飾品も見せびらかさんばかりにギラギラとつけているマリア様を一瞥すると、マードル子爵にさらに告げる。


「それに先ほどから、私の妃の事をカルム公爵令嬢と呼んでいるが……彼女は私の唯一の女性、王太子妃であり聖女殿の『覚醒者』でもある。まさか、領主を務める貴殿とそのご家族がそのような事を知らないとは思えないのだが……」


「な、なんですって?!」


 ……マリア様も知らなかったらしい。この家の情報伝達はどうなっているのか不安になる。わざとマリア様に情報を流さなかったのか、そもそもそう言った情報をご令嬢に渡さない家なのか……

 本来であれば、何らかの意図があって前者一択と考えるのだが、女性を軽く見るナイトレイ元侯爵一派なので、後者の理由も充分に考えられる。まぁ、どちらでもやることに変わりはないが。


「おや、マードル子爵令嬢は知らなかったのかい?貴族令嬢として情報収集を怠るのはいかがなものかと思うが……」


 セルジュ様、さらに煽る。


「貴族令嬢に情報収集なぞ必要ありませんわ。殿方の発言を疑う事無く耳に入れ、殿方に従うのが真の貴族令嬢ですわ!」


 残念な事に後者だった。思わずチベスナ顔になってしまう。ちらりとみゃーちゃんの様子を伺うと同じような表情をしていた。


「ふっ。そのような考えでは、私の妃の足元にも及ばないな。さて、マードル子爵。このような空気ではあまりいい晩餐にはならないだろう。構わなければ部屋で取るが?」


 セルジュ様、煽り過ぎ。作戦としてはマリア様からハニトラを仕掛けてもらわなければならないのに、あそこまで怒らせて果たしてやってくるのか……来るのでしょうね。兄のマードル子爵に命じられれば一も二もなく従うのでしょう。ナイトレイ元侯爵一派の女性を蔑視し、操り人形のようにする教育の功罪は大きい。

 ふうと気づかれないようにため息をついていると、マードル子爵も流石に分が悪いと思ったのか、マリア様を下げた。


「マリア、今日の食事は部屋で取れ。殿下方、大変申し訳ございません。どうやら情報伝達がうまくいっていないようで……私自身もまだ爵位を継いだばかりで手が回っておらず、不手際が多く、ご不便をおかけします」


「お兄様!!」


「マリア!下がれ!」


 兄のマードル子爵に強く言われ、悔しそうな表情を浮かべながらも、マリア様はしぶしぶ退室していった。


「さ、食事を運ばせます。今日は当領地で生産されたワインも用意しておりますので、お楽しみください」


 長い食卓の扉側にマードル子爵、その向かいにセルジュ様、セルジュ様を挟むようにわたくしとみゃーちゃんが席につく。みゃーちゃんの隣にトーマとスレイ、わたくしの隣にテオとヘリオンが着席すると、壁際に控えていた給仕が滑るように現れ、各々のワイングラスにロゼのような色のワインを注いでいく。全てのグラスにワインを注ぎ終わると、給仕は再び壁際に控えた。

 それを見て、マードル子爵がワイングラスを手に取る。それに倣いわたくし達もグラスを持つ。


「それでは皆様の旅のご武運を祈って」


 軽くグラスを掲げると、セルジュ様がそっとグラスをわたくしの方へ差し出す。それを受け取り、異常を感じれば直ぐに解毒の水魔術を展開できるようにしながら一口含む。ふむ。異常はなさそうだ。

 グラスをセルジュ様にお返しすると、ふっと一瞬心配そうに目元が揺れたが、すぐに普段公の場で見せている王太子の顔を見せ、ワインを飲み始めた。

 その様子を驚きを持ってマードル子爵が見ている事を視界に収めながら。


「あぁ、マードル子爵。貴殿を疑うわけでは無いが、いつ何時何があるかわからないからね」


「い、いえ。まさか妃殿下がお毒見をされるとは思わず、驚いただけですので……」


「あぁ、我が妃は稀代の魔術師だからね。解毒の水魔術も得意なんだ」


 王太子の微笑みで、マードル子爵を圧倒するセルジュ様。その後も食事は全てわたくしが毒見したものを召し上がっていただく。

 さすがにこの場で何か仕込むほど愚かではなかったらしい。マードル子爵だけが緊張を見せた晩餐も終わり、各々部屋へ引き上げる事となった。


「じゃあ、また明日ー。起きなかったらごめーんねー」


 テオが軽い調子で手を振って部屋に入っていった。どうやらテオ達の部屋も同じ並びのみゃーちゃんの隣の部屋だったらしい。

 起きなかったらって……あれは有事があっても起きるつもりがないことと同意だ。全く。


「んじゃ、アシュリーおやすみー。また明日ねー」


 そう言ってみゃーちゃんがトーマにエスコートされ隣室へ消えていく。それを見送って、セルジュ様とわたくしも部屋へ入った。

 念のため、もう一度索敵魔術を展開すると、今度は何やら引っかかった。

 この索敵魔術、非常に便利なもので、魔獣や魔障、害獣などの位置を探すだけでなく、術者に悪影響が出そうなものを全て感知するという優れものだ。そして、この索敵魔術に引っかかるものがある場合、それは何らかの悪意が込められたものである。

 すぐに自分とセルジュ様に防御魔術を展開し、索敵にかかった場所に行くと、香炉が一つベッドのサイドテーブルに置かれていた。これは先ほどまでなかったものだ。恐らく晩餐の最中に用意された物だろう。

 香炉の中を見ると、何やら乾燥した植物片が入っていた。うっすらと煙が上がっているところを見ると、既に部屋の空気に影響を与えているかもしれない。

 防御魔術を香炉を囲むように展開し、窓を開ける。風魔術で部屋の空気を循環させ、換気を行った段階で、もう一度索敵魔術を行うと、今度は何もかからなかった。

 ふうと一息ついて、わたくしとセルジュ様に掛けていた防御魔術を解除する。


「アシュ、お疲れ様。予想通りと言えばそうなんだけど、ここまで予想通りに動かれるのもね。カルム公爵家が凄すぎるのか、あの一派が単純なのか……」


 そう言って苦笑を浮かべるセルジュ様。


「で、その香炉の中身は例の情報の物と一致しそうかい?」


「恐らくは……さらに既存の媚薬効果のある植物片も混ぜてありそうですわね」


「うん。立派なはにとらだね。さらに王族に刃を向ける行動を起こすとは……貴族にしておくには頭が足りないようだ」


 セルジュ様の瞳に冷たい光が煌めく。


「同じものがみゃーちゃんのお部屋にもあるかもしれませんわ。ちょっと様子を見てきますわね」


「一緒に行こう」


 セルジュ様にエスコートされ、みゃーちゃんの部屋を訪ねると、案の定同じ香炉が置かれていて、既にトーマが対処していた。証拠保全という事で同じように防御魔術をかけておく。

 体に影響の出る毒物がみゃーちゃんの部屋に仕掛けられていた事実は、トーマの神経をも逆なでしたらしく、トーマの瞳にも冷たい光が浮かんでいた。セルジュ様とトーマ、二人の怒りを買ったマードル子爵家に朝は来ないだろうなと、心の中で合掌しておいた。まぁ、自業自得なので、わたくしも容赦はしないが。


 部屋に戻って寝支度をする。と言っても、何が起こるかわからないので、先程晩餐でも着ていたシンプルで動きやすいワンピースのままだ。すぐ動けるよう荷物も広げずに置いてある。

 セルジュ様と二人並んでベッドに腰掛けてその時を待つ……つもりだったのだが。


「セ、セルジュ様……?何をしてらっしゃいますの?って、あ……ん」


 何故か早々に押し倒されていた。


「いや、これから私ははにとらされるんだろう?ご丁寧に媚薬効果のある香まで焚かれて」


「で、ですから先程換気しましたし、もう煙は出ておりませんわ!なのになぜ……んやぁ」


 胸元のボタンが一つ二つと外されていくが、全てを乱す気はないのだろう。服の上から胸全体を柔らかく触れられる。


「ほら、一応これからこの部屋を訪れる者に、香炉の中身が効いている事を示さないとね……ふっ」


 深い口づけをねだるように自然に開く己の口元に羞恥を覚えながら、ぴちゃりと耳に響く水音に酷く感情を揺さぶられる。勝手知ったるとばかりに口腔内を暴いていくセルジュ様の胸元に縋りつきながら、官能に流されないよう己を律するが、その努力はいつまで持つのか。


「ふっ、あ……ん……」


 甘い熱情が身体の奥からふつふつと湧き上がって、溢れ出そうになった瞬間。きぃとわずかな軋み音を熱に浮かされた耳が拾った。


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