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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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3.王城にて その1

 殿下の馬車に同乗して王城までやってきた。

 この国のお城は、某有名テーマパークの城のように塔が建っていたりするきらびやかなものではなく、高い塀に囲まれ、パッと見要塞のような堅牢な建物となっている。

 これは、魔獣が万が一押し寄せてきた場合、王都の住民を避難させ、最終防衛ラインとして機能させるためだ。

 なので、塀は高く頑丈に作られ、建物もちょっとやそっとじゃ壊れない頑丈な造りをしている。さらに地下には通路が張り巡らされ、もし落城した場合も安全に住民を避難させられるようになっている。この事実は極秘情報とされ一般には伏せられているが、王家の教育の一環として教えられた。


 ……というか、こんな極秘情報知ってしまってどうすればいいんだろう。本当に『聖女』が召喚され、万が一殿下が『覚醒者』となったら、行きつく先は聖女様とのご成婚である。キラキライケメン(前世では顔が良い事をイケメンというらしい)で王太子殿下とか、女性を魅了しそうな要素たっぷりの殿下だ。聖女様もお心惹かれることは間違いないだろうし、国としても安泰であると、周囲の人間も認めること請け合いだ。


 その場合わたくしは婚約破棄されることになるだろう。

『聖女』絡みで致し方ないとは言え、殿下から婚約破棄され、王家の秘密事項を知っている女性など怖くて他家に嫁がせることはできないだろう。

 良くて公爵家、下手したら王城の中で幽閉生活じゃなかろうか。そしたら人生終わったようなものである。

 前回が17歳で終わっているので、今度こそ長生きして人生を楽しみたかったのだが、先行きはだいぶ不透明で不安でしかない。


 等々つらつら考えて鬱々していると、どうやら案内された部屋についたようだ。

 今日案内されたのは殿下の私室だったので、話の内容も個人的な事らしいと見当を付ける。


「殿下がいらっしゃるまで今しばらくかかるようです。よろしければ浴室で汗を流されてから、お茶などいかがですか?今日は少し暑かったですし、さっぱりなされてはいかがですか」


 確かに。

 いつも王城に来るたび付き人になってくれる侍女のマーサに言われると、夏が近いこの時期、まだ本格的な暑さではないが微妙に汗ばむ日が続いていたのもあって、湯を浴びるといった誘惑には抗いがたい魅力があった。

 湯を浴びてすっきりした後、何故か用意されていた新しいワンピースに着替えさせられ、これまたすっきりとした味わいのお茶をいただいていると、先ほどまであった憂鬱な気持ちが少し晴れてきた。


 マーサが用意してくれた料理長新作のクッキーも大変美味しく、ふわふわと幸せな気分になれる。


(やっぱり疲れたときは甘いものに限るわねー)


 と、そこまで考えて、レイラ様に絡まれたのが結構なストレスとなっていた自分に気づいた。

 最近は面倒くさくなって何を言われても聞き流しているだけだったのだが、それでも結構なストレスにはなっていたらしい。


(殿下にお任せするのは怖いから、わたくしの方で一度あの根拠の薄い矜持を折ってみようかしら……えぇ、完膚なきまでにぽっきりと……)


 と、前向きなのか物騒なのかわからないことを考えてニヤニヤしていたら、殿下が戻ってきた。

 殿下もどこかで汗を流してきたのか、学苑の制服からシンプルなシャツとパンツに着替えている。


(シンプルな格好でもキラキラがすごいとか、イケメンズルい)


 と、やくたいもないことを考えていたら、殿下が控えていた侍女と護衛騎士を外に出し、しっかりと扉の鍵を閉めてから近づいてくるところだった。


「あの……殿下?」


 一応婚約者同士とは言え、完全に二人きりというのはあまり許容されることではない。

 この国、特に貴族社会では婚姻前の男女が二人っきりになるのはふしだらであり、必ずお付きのものを同伴させ、お付きがいても扉を開け、完全な密室になることは防ぐことが鉄則である。


 ちなみにこの国は一夫一妻制で、これは王族も平民も例に漏れない。浮気などは許されず、愛人など持とうものなら貴族社会では総スカンを食らう。平民でも浮気がバレるとなかなか肩身の狭い思いをするらしい。


 つまり、何が言いたいかというと、殿下と言えど密室で二人っきりとか、バレたらわたくしの令嬢人生終了のお知らせである。


「あぁ、これから話す内容は機密事項のため、人払いをさせてもらったよ」


 にっこりと、ただにっこりと微笑む殿下に若干の恐怖を感じるのは気のせいだろうか…

 ただまぁ、機密事項と言われてしまうとこの状況を受け入れざるを得ない。


「さようでございますか。それでお話とはって、なんで隣に座るんですか!?て、近い近い!!」


「最愛の婚約者が相手なら適切な距離だと思うよ」


 距離を開けようと座面を移動すると、殿下に詰められるというのを繰り返しているうちに、広いソファーの端まで気づいたら追い詰められていた。

 殿下の腕が腰に回され、さらに引き寄せられる。ふわりと殿下から漂う石鹸の香りに距離の近さを実感して顔が赤くなっていくのがわかり、思わずうつむいてしまうと、それは許さないとばかりに頤を優しくつかまれ、上を向かされる。


「ち、ち、ちちち、近いですー!!」


 前世で17年、こちらで16年生きているが男女交際のあれやこれやの経験は殿下以外皆無に等しい。

 その殿下とも普段は適切な距離感でのエスコート(たまに腰に手を回され密着度が上がるが)や、口づけ一つとっても手の甲や頬への口づけが主である(たまに唇同士を触れ合わせる口づけもするが)。


 と、そこまで考えて、一度だけがっつり口づけをされた記憶がまたも蘇ってきた。

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