12.王太子妃の部屋にて その3
「あー。で、次なんだが…とりあえず、起こった事実だけを先に話す。その後アシュに説教する時間を各々設けることとする」
どうやらお説教されるのはお兄様からだけではないらしい。
「では、続きを話すが。あー、まずアシュが!人の制止も聞かず!魔障の前に飛び出して!真名まで使って!全魔力で浄化魔術を行った!ことによって、アシュは魔力切れと魔障に憑りつかれた影響で倒れ伏したんだ!!」
……セルジュ様の圧が怖い。お兄様の視線が痛い。
「あー。もう既に説教したくて堪らないんだが。客観的に話そうとしているんだが、すべてが説教になりそうだ。もう続きはカイン、頼んだ」
「私も説教したいんですがね。仕方ありません。アシュリーが倒れた後、聖女様がお近づきになると、聖女様から光が溢れ出しました。それがどうやら聖女様のお力の覚醒だったようですね。その光によって、アシュリーに憑りついていた魔障は浄化され、さらに上級治癒魔術も発動したため、アシュリーは一命を取り止めました。すなわち、あの時聖女様が覚醒しなければ、間違いなく命を落としていたんですよアシュリー。そこの王太子妃殿下、ちゃんと聞いてますか!!無茶ばかりして!!」
お兄様、お説教が混ざってます。でも聖女様のお力が覚醒したということはやはり……?
「聖女様のお力によって救われたのですね。聖女様本当にありがとうございます。それにしてもいつの間に覚醒されたのですか?『覚醒者』はどなたに…?」
また、皆さましょっぱいものを口に含んだような顔をされてます。何故に?
「あー。続きは僕が。伝承では、聖女様のお力の覚醒は愛の力によるものって伝えられてたんだけどー、ていうかこの伝わり方だと、愛情的な相思相愛によるものだって思うじゃないー?フツー。だから『覚醒者』の候補として僕たちが聖女様のお側にいたんだけどさー。でもどうやらそれだけじゃなかったみたいなんだよねー。
聖女様との愛、それは恋情に関わらず、友愛、親愛、敬愛どれでもよくて、要は聖女様と『覚醒者』がどれだけ強く思い合っているかってとこが重要みたいー。だから、今回の場合、聖女様とアシュリー嬢の強い友愛?友愛だよね?恋情じゃないよね?!が、聖女様覚醒のお力になったみたいだよー。やったねアシュリー嬢!『覚醒者』選定おめでとう!!」
「……はっ?」
テオの話に淑女らしからぬ声が出てしまう。他の方々は相変わらずしょっぱいお顔だ。みゃーちゃんは何だか嬉しそうににやにやしている。
「そうそう!あーちゃんと私は相思相愛!ラブラブパゥワーで世界も救っちゃうんですよ!」
「はあっ!?どういう事!?」
「だから、アシュ。君が『覚醒者』に選ばれたんだ。全く相変わらずこちらの予想外の事をしてくれるよね君は」
眉間をぐりぐり揉みながらセルジュ様がおっしゃる。
「だからね、あの時あーちゃんが死んじゃうー!!って思ったら、身体の内側からこうがーっ!と力が湧いてきた感じがしてね、それが溢れてピカーっと光ったと思ったら、あーちゃんに巻き付いてた黒いヤツがきれいさっぱりいなくなってたの!その後、色々試したら、浄化もたくさんできるし、治癒魔術もすっごい強くなったよ!今なら指切断しても繋げられるよ!!多分!!」
「は、はぁ」
「んでね、あーちゃんと特別な繋がりも感じるよー!こう……なんか、魔力ってやつが繋がってる感じしない?うっすらいる方がわかるっていうかさ」
「あと、アシュリー嬢の魔力自体も増えてるよねー。基本この年になると増えないものなんだけど。『覚醒者』も魔力増量が見込めるんだったら、もちっと真面目に聖女様を口説けばよかったー」
「下心がゲスい!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐみゃーちゃんとテオをしり目に、もう、何から突っ込めばいいのやら。でも確かに目覚めたときから魔力の増大は感じていた。後、みゃーちゃんの居場所が何となくわかるというのも。
「あー、というわけで、アシュは今後『覚醒者』として公表され、魔域浄化の旅にも出てもらう。はぁ、本来ならアシュは王城で待っていてもらうつもりだったのに……いっそ孕ませて旅に出られないように……」
セルジュ様が小声で何か怖いことを言っている。
「殿下、それはおやめください。国として困ります。あと人の妹に無体を働かないでください。何なら殿下が留守番でもいいんですよ?跡取りですし」
「却下。もともと誰が選ばれても王家代表で付いていくつもりだったんだから、アシュが選ばれたなら絶対についていくに決まっているだろう。後、無体は働いていないぞ。自分の妻を愛でて何が悪い。しかも後継を残すことは王家の大事な役目だろう?」
「……セルジュ様、お兄様。先ほどから何のお話をされているんです?」
うっすら頬が染まるのが自分でもわかる。……みゃーちゃんが視界の端でニヤニヤしているのも見えた。
「で、後はアシュの話だな。一先ず真名による制止が効かなかったことと、聖女殿との関係だな。話してくれるかい?」
うーん、どこまで話せばいいのやら。
「そうだよあーちゃん!なんでこの世界にいるの?そんな銀髪紫眼の美少女になってさ!全身整形にしてもやり過ぎだよ!」
「全身整形ではありません!」
後は、こっちにいる理由……先ほどの夢を思い出す。……みゃーちゃん、キレそう。
『覚醒者』に選ばれたという事は、みゃーちゃんもわたくしの事を大切に思ってくれていたということだ。それなのに、あの事故…事故というか……ねぇ。とりあえず。
「あちらでちょっとした事故で死んで、こちらの世界に転生しました。以上!」
「……あーちゃん、それで許されると思ってるの?甘い!はちみつより甘いよ!ちょっとした事故って何?!そこを詳しく!」
「……聖女様怒るから秘密です」
人差し指を口元にあて、あざとく上目遣いで見つめてみる。現世での自分の容姿がすぐれていることを見越した作戦だ。流れ弾に被弾したセルジュ様が胸を押さえているが気にしない。
「ぐっ!可愛く言ってもダメ!怒らないとは言わないけど全部吐け!その言い方だと、私がいなくなった後、年を経てから事故にあったわけじゃなさそう!はーけー!!!」
がくがくと揺さぶられますが、誰も止めてくれない。というかみゃーちゃん。中身が私だとわかってから色々容赦ない。
「せ、聖女様おやめになって……」
「そもそもその聖女様って何!?さっき約束したでしょ!ここは親しい人しかいないプライベート!どぅゆーあんだすたーん?」
「しかし、せいじょ……「あんだすたーん?」」
目が据わってる聖女様、怖い。
「あー、あのね。みゃーちゃん。ホントに聞きたい?」
「聞きたい!」
「じゃ、話すけど。みゃーちゃんが気にする必要はかけらもないってことを予めご承知おきください。どぅゆーあんだすたーん?」
先ほどの仕返しだ。
「とりあえず前提として、こちらにいる方々はわたくしに前世の記憶があることをご存じです。わたくしが前世の記憶を思い出したのは15の時。セルジュ様から『聖女の異世界召喚』のお話を伺った時でしたわ」
それから話し始めた。
思い出したときの事、異世界人が来るならと召還魔術の研究を始めたこと、そして……あの日の事を。
「これで全てですわ。思い出したときに恐らく召喚される『聖女』がみゃーちゃんなのではないかと思い、召還魔術と浄化魔術の研究を始めました。少しでもみゃーちゃんの負担を減らしたかったので。研究を始める段階でセルジュ様には全てをお話ししましたわ。その後お兄様や他のお二人にも。皆さまには色々ご尽力いただきました」
すっと皆に向かって頭を下げる。みゃーちゃんを見ると俯いて反応が乏しい。




