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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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12.王太子妃の部屋にて その1

 ふっと、意識が浮上した。

 随分と懐かしい夢を見た。あの日みゃーちゃんが選ばれたのは必然だったのか。それにわたくしが巻き込まれたことも。すべては女神の掌の上っぽくてなんだか嫌だ。あの威厳も何もない……


「クソ女神め」


 自分の悪態で目が覚めた。

 視界に広がる天井の様子から、王城内のわたくしの私室の寝台らしい。


「ああああああああああーじゃんーーーーーーーー!!!!!」


「ぐぇっ!」


 何か黒い影が横から飛び込んできたと思ったら、ぎゅうぎゅうに抱き着かれた。

 力が強すぎて息もできない。酸欠でハクハクと口が開閉する。


「聖女殿!アシュを殺す気か!」


 黒い影が無理やり引きはがされた。どうやら、黒い影は聖女様で、引きはがしてくれたのはセルジュ様らしい。

 引きはがした聖女様を一先ず離れたところの椅子に預け、セルジュ様が顔を覗き込んできた。


「アシュ、目が覚めてよかった。身体は動くかい?どこか不調はないかい」


 そう問われて、身体を起こしてあちこち動かしてみる。ふむ、どこも不調はないようだ。

 というか、わたくしは魔障に憑りつかれそうになっていたはずだが……少しはしたないが、夜着の胸元から覗き込んで、魔障が入ってきていたお腹のあたりを見てみるも、特に異変は感じられない。


「どこも異常はないようです。あのわたくし……」


 ぎゅうとセルジュ様に抱きしめられた。


「よかった……君を失うかと思った……」


 わたくしの肩口に顔を付け、そっと呟かれた。その声はわずかに湿っていて、肩口に温い水滴を感じる。

 普段完璧に感情をコントロールされているセルジュ様の涙に驚きを感じるが、そこまで心配をかけたのだと、セルジュ様の背中に腕を回し、同じくらいの強さで抱きしめ返す。


「……ご心配をおかけしました」


「あぁ、まったくだ!無茶ばかりして!私の心臓を止める気か!!」


 がばっと顔を上げるセルジュ様。どうやら涙は止まったようだ。がっと肩をつかまれ、据わった目で見つめられる。まだ目には涙の跡が残っていた。その目を見つめていると、ふっと近づいてきて、そのまま口を塞がれた。

 次第に激しくなる口づけに先ほどとは違う意味で酸欠になりそうになっていると、


「ちょっとちょっと殿下!私が涙に暮れているうちに何不埒なことしてるんですか!あーちゃん目が覚めたばっかりなんですよ!!」


「ふぎゃん!」


 聖女様の存在を忘れていた!慌ててセルジュ様を引きはがすと、唇についたどちらのものと定かでない水滴をなめとっているのを至近距離で見てしまい、ますます顔が赤くなる。


「とりあえず、アシュは大丈夫そうだね。色々話をしたいから、着替えて隣の応接間においで」


 そういって、頭を軽くなでると、セルジュ様は続きの間へ向かった。

 ぽつんと残された聖女様が、こちらを勢いよく振り向くと、先ほどのセルジュ様のように肩をつかんできた。


「とりあえず、単刀直入に聞くけど、あーちゃんなんだよね?」


 その目は真剣だ。


「……そうだよみゃーちゃん。黙ってて……」


 謝罪の言葉は最後まで言えなかった。ぎゅうと抱きしめられ、先ほどとは逆の肩に涙の気配を感じる。

 そっと背中を撫で、懐かしいリズムであやすように叩いた。


「そう、それだよそれ。その叩き方あーちゃんだよ。召喚された時から違和感があったんだよ。あとトーマ様の事とかいろいろおかしいと思ってたんだよ!何がどうして……?!」


 がばっと顔を上げ、半泣きのまま問い詰められる。と思った瞬間、扉がノックされ、入室を求める侍女の声が聞こえた。

 恐らく着替えを持ってきてくれたのだろう。


「みゃーちゃん。ちゃんと全部話すから。セルジュ様達にも。だからとりあえず準備して向こうの部屋に行こう。どうしてわたくしが無事だったのかも教えてもらわないと……」


 聖女様を促すと、幼子のようにこくんと頷いて、離れて行った。

 そう、どうしてわたくしが助かったのかも確認しないと。それに、目覚めたときから感じるこの体の違和感についても。


 侍女の入室を許可すると、案の定着替えを持ってきてくれた。病み上がり(になるのか?)だからか、あまり締め付けのないシンプルなワンピースだ。

 顔と身体を簡単に清拭して、ワンピースに着替える。髪も簡単にまとめてもらうと、準備完了だ。


「お待たせしました聖女様。参りましょう」


「アシュリーがあーちゃんだってわかったから、セイジョサマはやめてー。みゃーちゃんでいいよみゃーちゃんで。これは真名に当たらないんでしょ?もっとふつーに話して!壁を感じる!あーちゃんにかしこまられるとか死にたくなる!」


 そう言って、聖女様改めみゃーちゃんは泣き真似を始めた。


「そんなに!?だけど。みゃーちゃんて呼んじゃうと、私の言葉に引きずられそうで……一応王太子妃としての世間体もあるから、プライベートの時だけでいい?」


「そりゃそだねー。いいよーん。プライベートの時は私もあーちゃんて呼ぶね!

 はっ!そういえば、アシュリー人妻!既に人妻!若妻!!何それ萌える!!!ねね!殿下とはもうあれやこれや一線を越えてるの?!ていうか越えてるね!?今のあーちゃんを前にして我慢できるとは思えんね!銀髪美少女!萌え!!さぁさぁ、詳しく聞かせてもらおうか!!」


 手をワキワキし始めたみゃーちゃんに顔を引きつらせていると、ノック無しで隣室に続く扉が開いた。

 この部屋の扉を許可なく開けられるのは一人だけだ。


「アシュ?時間かかっているようだけど大丈夫?体調に変化でも?」


 セルジュ様が心配そうに入室してきた。


「大丈夫ですわ。少し聖女様とお話を……」


「そうか。立ち話もなんだし、私たちも聞きたいからこちらへおいで」


 そういって、そっとわたくしをエスコートして、隣室へ連れて行った。

 さりげなく現れたトーマ様がみゃーちゃんをエスコートして後に続く。

 隣室には既に、お兄様、ヘリオン、テオが集まっていた。


「とりあえず、一度ここで話をまとめて、陛下に報告することにしたよ」


 そう言って、わたくしを隣に座らせると、メイドにお茶を用意させ、その後人払いをした。


「テオ、結界を」


 素早く部屋全体に結界が張られる。それだけ内密の話として扱ってくれるという事だ。


「……さて、何から話そうか」


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