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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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9.サロンにて

 あの学苑での魔獣騒ぎの後、同様の魔障石を用いた事件が王都のあちらこちらで数件発生した。

 その都度討伐に駆り出されるうち、なんと聖女様は石の浄化が行えるようになっていた。

 以前の研究では聖女様の『浄化』のお力は古に失われた『魔法』ではないかと考察していたが、それは全くの的外れもいいところだった。それどころか、当初考えられていた女神様の奇跡の御業に近いものだった。何せ、聖女様が「キレイにな~れ~」と強く念じるだけで、魔障石は浄化され、ただの石ころに戻ったのだから。

 さすが聖女チートと思ってしまったのは言うまでもない。

 しかしながら、まだ魔障石を浄化するのに手一杯なレベルなので、ますます『覚醒者』の選定に期待が寄せられている。


 聖女様のお力を解析することはできなかったが、わたくしは今でも『浄化魔術』の研究を続けている。それが約束だからだ。

 なんとか魔力の省エネ化が進み、現状一人分の魔力で小型魔獣位は浄化できるようになった。

 念じるだけの聖女様と比べて燃費が悪い事この上ないが、引き続き研究は続けていく所存である。

 べ、別にうらやましくなんてないんだからね!等とツンデレてしまうのも致し方ないと思う。


 さて、聖女様のお力が明らかになったのは朗報だが、あちこちで発生している魔障石から魔獣事件の捜査は遅々として進んでいない。


 学苑の魔獣事件の後、現場に残されていた衣服の破片は、カサンドラ様が着ていたものに似ていたらしい。『似ていた』としか表現できないのは、こちらの世界に科捜研に当たるものがないため、正確な事がわからないからだ。

 なので、おそらく衣服はカサンドラ様の物であろうが、最後に魔障石に魔力を注いだのがカサンドラ様である証拠はない。死体は恐らく魔獣に食われたので、亡くなっているかどうかの証明も出来ず、カサンドラ様は行方不明のままだ。

 カサンドラ様と同様にナイトレイ侯爵家の周辺では、何名か行方不明者が出ている。それこそ王都内で発生した魔障石事件の数以上に。

 状況は明らかに何らかの関係性を示しているが、証拠がない。行方不明者はあくまでも行方不明で生死不明のままなのだ。魔障石自体もナイトレイ侯爵が手配、もしくは保有している証拠は挙がらず、そもそも魔障石がどう作られるものなのかもわかっていない。


 魔障石は魔障の塊だと言われているが、その発生条件は不明のままだ。魔域の近くに落ちていたとか、魔獣を倒すと落ちているとか、そういったものではないらしい。


 行方不明者に関しても、明らかに侯爵家の関係者がいなくなっているので、あからさま過ぎて、むしろ黒幕は別にいてナイトレイ侯爵は利用されているだけなのでは?と言った意見も出ている。

 確かに娘の取り巻きを利用するとか、疑ってくれと言っているようなものだ。


 そんなこんなで、捜査は進まず、魔障石が魔獣を吐き出した段階で討伐するといった、後手後手に回っていることは否めない。

 幸い最初の発生場所が郊外の場合が多いので、今のところ重篤な被害はないが、王都の住民たちにも不安が広がっている。

 その為にも一刻も早い『覚醒者』の選定が期待されるのも 致し方ないのだろう。


 そんな日々を送って早半年。いよいよセルジュ様方3学年の方々の卒業式が近づいてきた。

 卒業式典の後は、在校生も参加できる夜会も予定されているため、ご令嬢方はドレスの用意などで、学苑内はなんとなくふわふわした空気に包まれていた。


 そんな中、学苑内ではある噂がまことしやかにささやかれていた。

 曰く、聖女様の思い人は王太子殿下であり、王太子殿下も聖女様を思ってらっしゃるため、お二人はしばし見つめ合っているらしいと。

 曰く、聖女様と王太子殿下は二人で過ごしたいが、王太子殿下の婚約者である公爵令嬢がお二人の邪魔をしているらしいと。

 曰く、王太子殿下と聖女様のご関係に嫉妬した公爵令嬢があの手この手で聖女様を虐げているらしいと。

 曰く、公爵令嬢の妨害に激怒した王太子殿下が卒業式後の夜会にて、公爵令嬢に婚約破棄を言い渡すらしいと。

 曰く、婚約破棄後すぐに聖女様と愛を誓い、『覚醒者』と『聖女』の覚醒をこの目で見られるかもしれないと。


 この話をカインお兄様から聞いた時、率直に思った事は、それなんて乙女ゲー?だった。


「それなんて乙女ゲー?」


 むしろ聖女様は口に出してた。さすが聖女様、気が合いますわね。


 今日は時間があったので、学苑のサロンでいつものメンバーでお茶会という名の情報交換会だ。

 メンバーはセルジュ様、聖女様、お兄様にヘリオンとテオ、セルジュ様の後ろにはいつもいる護衛が2名。それとわたくし。メンバーがメンバーなので、侍女とサロン付きのメイドにはお茶とお菓子を用意してもらった後、退室してもらった。


「で、おとめげーとは何だい?」


「えーっと、私の世界にあったゲーム?うーん、自分が主人公になって物語を進めていく動く読み物みたいなもので、主人公の女の子と攻略対象と呼ばれる男の人が恋愛するっていうのがメインになってます。

 で、その中で、悪役令嬢と呼ばれる攻略対象の婚約者が主人公をいじめたりして、それがばれて断罪され婚約破棄されて、主人公と攻略対象者は結ばれるっていうのが定番なんですよー」


「あぁ、以前様式美がどうこうって話していたやつかな?」


「そうそう、それですそれですー」


 ……聖女様、さも定番の乙女ゲームみたいに話していますけど、それが定番なのは乙女ゲームじゃなくてWeb小説の方では?しかも人気の悪役令嬢逆転物の方の……


「ふぅん。その流れで行くとアシュが悪役令嬢ってことなのかな?」


「そうなりますかねー。で、卒業式とか夜会とか大衆の面前でこれまでの行いを断罪されて、婚約破棄を言い渡され、悪役令嬢は国外追放とかされるまでが様式美です。人はこれを悪役令嬢ざまぁ物といいます」


 ……したり顔で話している聖女様だが、それが起こった場合巻き込まれる……むしろ当事者になる事に気づいているのだろうか?

 思わず微妙な表情になってしまったのは仕方ないと思う。それにしても国外追放ねぇ。

 もしされたら冒険者にでもなって、色々なところを見て回ろうかしら。今まで色々忙しくて個人的な旅行って行ったことないのよね。ちょっと楽しそ……


「しないからね?」


 笑顔が怖い……

 そして人の考えを読むのは止めていただきたい。本当に。


「アシュリー、もし殿下に婚約破棄されて国外追放になったら、私と一緒に逃げちゃおうよ!愛の逃避行だね!」


「しないからね!」


 ……聖女様、火に油を注ぐのは止めていただきたい。えぇ、本当に。そして殿下と笑顔でにらみ合うのもぜひとも止めていただきたい。近くにいると悪寒がすごい。背景に睨み合う龍と虎が見える気がする。というか、カインお兄様止めて!お二人を止めて!ヘリオンは二人の空気に顔色をなくしているし、テオは我関せずだしで、止める人がいない。

 遠目で見ると見つめ合うお二人で微笑ましい感じらしいが、実態はこれだ。噂の真相なんてこんなものである。

 まぁ、それ以外にも聖女様がセルジュ様の方を見つめる理由があるのだが……これは聖女様が話してくれるまで待とうと思う。


 ちなみにお二人の時間をわたくしが邪魔しているという噂も、わたくしがどちらかといると、もう一方がどこからともなく現れ、結果三人で行動しているというのが事の真相だ。君達わたくしの事大好き過ぎないか?と、この間うっかり口に出したら、当たり前と言わんばかりに両側からどこが好きかと小一時間語られた。ちょっと怖かった。

 大衆の面前で両脇から誉め殺される羞恥プレイサラウンドやめてほしい。本当に。通りすがりで目が合った人に視線をそらされたのが地味に心に痛かった。


 わたくしの羞恥心はともかく、問題はその噂を信じて行動する者がいることだ。善意で以て王太子殿下と聖女様の恋を応援している者はまだ良い。年頃の男女が在籍する学苑でロマンス小説が3次元化したら見入ってしまうのも頷ける。わたくしも当事者でなければ、楽しめていたかもしれない。


 一部、悪意を持って率先して噂を広めようとする者達が厄介で、わたくしを本格的に排除しようと動いている節があるのだ。もちろん、その筆頭は某侯爵家である。セルジュ様の卒業、聖女様の存在が重なり、わたくしを排除する攻め時と判断したのか色々鬱陶しく動いているらしい。

 らしいと他人事なのは、わたくしが認識する前にすべてセルジュ様とお兄様の方で潰されているから、わたくしは基本事後報告なのだ。最近はよっぽど鬱陶しいらしく、セルジュ様の笑顔が真っ黒だ。怖い。


 それに併せて聖女様のお命も狙っているらしい。どちらもいなくなればレイラ様が、セルジュ様の婚約者に!ひいては王太子妃!王妃!!王家と外戚に!!!という考えが捨てきれないのだろうが、聖女様がいなくなればこの国は魔障に侵される。下手したら国自体の存続も危ぶまれるため、やっていることは国賊もいいところだ。

 未遂とは言え侯爵家が格上の公爵令嬢、しかも巷の認識は王太子殿下の婚約者、未来の王太子妃と聖女様を秘密裏に狙ったのだ。表沙汰にすれば侯爵家は一族郎党ただでは済まないだろう。

 実はそろそろ証拠も積み重なってきたので、さっくり行きたいところなのだが、例の魔障石の件が引っかかっている。まぁ、この一件で引っ張って、魔障石の件も取り調べるという方法もあるにはあるのだが(いわゆる別件逮捕)、確証を持てない中のらりくらりと逃げられ、真相は闇の中となった場合の影響が大きすぎる。

 なので、とりあえず卒業式まで泳がせている段階なのだ。


「卒業式の夜会で断罪ですか……それ、使えるかもしれませんね。私もいい加減可愛い妹に羽虫がたかるのも、ケガをするかもしれない魔獣討伐に頻繁に連れ出されるのも、心底鬱陶しかったんですよね」


 カインお兄様が珍しく黒い笑顔で話し始めた。若干シスコン臭を感じるのは気のせいだと思いたい。


「と言いますと?お兄様何をなさるおつもりなんです?」


 そう尋ねると、お兄様は実に楽しそうに計画を話し始め、それを聞いたセルジュ様の笑顔がどんどん黒く……。そして聖女様も何故かノリノリで参加し始めた。ヘリオンは当惑顔で、テオは面倒くさそうだったが、否応なしに計画に巻き込まれていった。


 こうして卒業式の夜会にて、茶番劇が幕を開けることになった。


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