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転生令嬢は愛を捧ぐ  作者: ニノハラ リョウ
第一章 学苑編
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8.裏の森にて その1

 それは聖女様とテオと教室移動の為校舎内の渡り廊下を歩いているときの事だった。

 

「ねぇ、アシュリー。裏の森全体が黒いもやでモヤモヤ…ってギャグじゃないんだけど、全体的に薄黒いんだけど、火事かなぁ?霧にしては黒過ぎる気がするんだよねー」


「はっ?!」


 慌てて聖女様が指さす裏の森を確認すると、確かに薄黒い霧が森を包んでいた。


「魔障?!何故突然こんな場所に?!予兆も何もなかったのに!?」


 動揺しつつも早く危機を知らせなければと、拡声魔術を練り上げる。


「緊急事態!緊急事態!公爵家アシュリー・カルムの名において報告します!裏の森にて魔障が発生!直ちに避難してください!先生方は関係各所への連絡をお願いします!繰り返します!裏の森にて魔障が発生!裏の森から離れてください!」


 拡声魔術によって学苑の隅々まで広がったわたくしの声に、次々返答が入る。どうやら先生方でも魔障が確認できたらしく、伝達魔術が四方へ放たれている様子が見えたので、一先ず周りにいた他の学生たちにも避難を促す。


「ねぇ、アシュリー。黒い霧が固まって、こっちに近づいてきてるみたいなんだけど……」


「はぁっ?!」


「?!聖女様!逃げますわよ!!」


 聖女様の手を握り、走り出したその瞬間。黒い霧に覆われた大きな影が森から飛び出してきて、進路を塞がれた。


「魔獣?!しかもなんでこんなところに大型がいるわけ?!」


 焦るテオの叫び声が聞こえるが、わたくしも全く同じ気持ちだ。

 それは熊に似た巨大な魔獣だった。元は普通の野生動物だったと思うのだが、魔障により巨大化かつ狂暴化している。解せないのは学苑の敷地内にこんな危険生物は元々存在していないという事だ。森と言っても王都内にある学苑の敷地内にあるからにはその規模はたかが知れている。人口の多い王都に魔障が憑いてなくても危険な生き物を野放しにするわけがないのだ。

 そして魔障があっても、それが憑りつく生き物がいなければ魔獣は発生しないと言われている。つまりこの熊はここではないどこかにいたはずなのだ。


「アシュリー!黒い霧の塊が沢山近づいてくる!!」


 それは異様な光景だった。森に漂っていた魔障が意志を持つかのように集まっていき、次々と動物の姿をかたどっていく。さらにその奥から沢山の魔障の塊が近づいてくる。

 その数、現状確認できるだけで20程。


「魔障がそのまま魔獣に変わるなんて聞いたこともない!」


 いつものんびりしている(ように見せている)テオも動揺を隠せないらしい。


「テオ様!退路が塞がれました!防御結界魔術を!!建物を背にして、聖女様をお守りください!」


「て、アシュリー嬢はどうするのさ!君今武装してないだろう?!ってなんてとこから武器出してるのさ!!」


 制服のスカートを引き上げて、太ももに括り付けたホルダーから短剣を取り出すと、テオの焦ったような声が聞こえた。

 見えてしまった太ももは、青少年垂涎のラッキースケベという事で忘れてくれまいか。

 この世界では女性の太ももでも十分パンチラに値する破廉恥さだが、緊急事態なので勘弁してほしい。


 テオが聖女様を連れて防御結界内に入ったことを確認した上で、魔獣たちと向き合う。

 援助が来るまでは討伐ではなく、阻塞に専念することにした。数が多いため、止めを刺していくには時間がかかりすぎるのだ。魔獣の手足を潰して動けなくすることを意識して動く。

 いわゆるアドレナリンが湧いてくるのがわかる。自らに身体強化魔術を用いて、スタートからトップスピードで走り出す。

 大きく振り上げられた熊型魔獣の爪をかいくぐり、その膝に短剣を突き刺す。えぐるようにして抜いた後、その後ろにいた兎型の魔獣の眉間に短剣の柄を叩き込んだ。

 熊型魔獣が呻きながらも立ち上がるのを横目に見つつ、他の魔獣に雷の魔術で足止めを行う。熊型魔獣に向き直ると、傷をつけられたことにいら立っているのか、激しい咆哮を上げて、こちらに向かってきた。


「遅い!」


 熊型魔獣の顔面に火の魔術を叩き込み視界を塞ぐと、先ほどとは反対の膝に短剣をねじ込む。そのまま剣を通して雷の魔術を流し込むと、膝下が粉々に散っていった。そのまま熊型魔獣は倒れこむものの、戦意は失っていないらしく、手を必死に動かしてうごめいている。


 それを一先ず置いておいて、他の魔獣に向き合う。熊型を除けば小型や中型の魔獣中心だったので、止めが刺せるものは刺しつつ、数を減らしていく。


「アシュリー!後ろ!!!」


 聖女様の声が響く。後ろを振り向くと、先ほどの熊型魔獣が無理やりに立ち上がり、こちらにその鋭い爪を振り下ろしたところだった。

 とっさに短剣で受け流したが、本来通すべきではない魔術を何度か無理やり流し込んだせいか、短剣が根元から折れてしまった。慌てて魔術を練るが、ついに支えきれなくなったのか、その巨体がそのままこちらに向かって倒れこんでくるところだった。


「アシュ!!」


 ぐっと腰を引かれ、後ろに飛び退る。

 間一髪、わたくしが立っていたところに、熊の巨体が轟音をたてて倒れこんでいった。

 どうやら圧死は免れたらしい。腰に回る馴染みのある腕をそっとつかむ。背中にあたる熱に安堵を感じていると、


「アシュ。お説教は後だ。一先ずここを片付けるぞ」


 全く安堵できなかった……


 わたくしから手を離し、セルジュ様は熊型魔獣に止めを刺すと、まだ残っていた魔獣に向かっていく。

 手持ちの武器がなくなってしまったわたくしは後衛に専念することにした。

 剣を振るうセルジュ様とヘリオンに、身体強化魔術の重ね掛けをしたり、中級魔術で魔獣に止めを刺したりと色々忙しい。

 その後学苑の先生方や騎士団の方々も到着し、次々と魔獣を討伐していった。


 しばらくしてヘリオンが最後の一匹に止めを刺す。その頃には魔力の残りも少なくなっており、正直立っているのもやっとの状態になっていた。

 魔獣討伐は初めてではないが、途中までとは言え一人であの数を相手にするのは骨が折れた。 

 聖女様の方をちらりと見ると、テオの防御結界に顔を張り付けるようにしてこちらを見ていた。若干半泣きになっているような気がする。これが初めて目にする魔障と魔獣討伐だったし、致し方ないのかもしれない。


 しばらくあたりの様子を確認していたセルジュ様とヘリオンが戻ってきて、頷いたのを見て、ふらふらと身体から力が抜けてその場に座り込んでしまった。


「アシュ!」


 頽れそうになった体を慌てて駆け寄ってきたセルジュ様に支えられる。


「ア゛ジュリー!!!!」


「ぐふっ!」


 聖女様に飛びつかれ、淑女らしからぬうめき声が出た。


「無事でよかったよぉぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁん!」


 聖女様ガチ泣きである。服の胸元を握りしめられ、涙やら鼻水やらで制服が湿っていくのがわかる。こんな状況前にもあったような……


「……聖女殿、アシュも疲れていることだし、一度離れてくれないかな。一先ず移動しよう。……というか誰の許可を得てアシュの胸に顔をうずめているのかな?そこは私の場所だよ」


 ……セルジュ様もきっと急な討伐で疲れていらっしゃるのね。おっしゃってる事がイマイチ理解できないわ……


「ところでテオ。アシュが隠し武器を出すとこを見たかな?」


「へぁっ?!」


 ナニを思い出したのか、テオの顔がほんのり赤くなる。


「……その記憶、私自らの手で消してもいいんだよ?持ち主ごとね…」


 ……リカイデキナイワ……


「何も見てないよー!見てないってばー!!」


 慌てて走っていくテオをぼんやりと見送っていたら、セルジュ様に抱き上げられた。

 姫抱っこ、何度されても慣れない。セルジュ様のお顔がすぐ近くに来るというだけで、ものすごく恥ずかしいのに、討伐によって体を動かしたせいか、いつもより汗の匂いを感じて、すごくドキドキする。


「ねぇねぇ。あっちに何かあるみたいなんだけど……さっきの気持ち悪い黒い霧をもっとうすーーーくしたようなのが流れてきてるよ」


 一人羞恥に見悶えていると、聖女様が森の奥を指さしてそう伝えた。その言葉に残っていた人間の間に緊張が走った。


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