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魔法学園の情報屋  作者: 高橋太郎
第一章 時計塔にまつわる七不思議
4/8

「さて、一先ず第一関門は突破出来ましたねえ」

 殿下の下を辞去した後、僕達は次なる目的地に向かっていました。

「先程の言、本当か、相棒?」

「最悪の事態を想定した場合、と云う前置きが要りますけどね」

 真剣な顔付きの心友殿に僕は努めて軽い口調で答えます。

 変に力んで貰うと僕の計画が台無しになるので、程々の緊張感でいて貰いたいんですよね、多分無理だろうけど。

 そうこうしている内に、目的地である時計塔に到着します。

「またしても七不思議ですねえ」

 思わず僕は苦笑しました。

 ここまで来るときっと運命なんでしょうねえ。

「そうだな。相棒と(つる)むようになったのも七不思議だったか」

「僕が面倒事に巻き込まれるのも毎回七不思議ですよ。ちなみに今回のは、『時計塔の鐘の下、永遠の愛を誓った者たちは誰に邪魔されることなく幸せな生活を送れる』でしたかね。ちなみに、それを確認出来た方は一人たりともいません。なぜなら、駆け落ちしているから」

「そう聞くと胡散臭くなるな」

「ねー」

 肩を竦めて、僕は時計塔の扉を開けます。「本当はね、もう一人の当事者にも話を聞きたかったんですよ」

「誰のことだ?」

「婚約者の方ですよ」

 鐘楼(しょうろう)へと通じる螺旋(らせん)階段を確認してから、「まあ、今頃殿下が呼び出されているでしょうから、終わった頃には全て吐いているでしょうけどね」と、辺りを探索する。

 あれだけ怒り狂っているということは、容赦(ようしゃ)なく|詮議《せんぎ

》するでしょうから、さてはて、五体無事でいられますかねえ。

 最悪の事態でなければ()れ衣ということになりますが、実家のことを考えればほぼ自業自得の黒でしょうからね。余り、良心に呵責(かしゃく)を覚えることはありません。

「何を探しているんだ?」

「多分、地下への入り口がここら辺の何処(どこ)かにあるとは思うのですが、上の鐘楼にそこに至るための仕組みがあったら嫌だなあ」

「どうする?」

「んー、ヴァルター君は当然“甲冑(かっちゅう)”持ってきていますよね?」

「常在戦場が我が家の座右の(めい)だからな」

 心友殿はそう言うと(ふところ)から金属(かい)を取り出す。「()う云うお前こそ持ってきているのか、相棒?」

「君と違って生身で無敵というわけではないので。常日頃から持っていますよ」

 僕も懐に仕舞っている金属塊をちらりと見せた。

「ならば、力押しをするか?」

「とりあえず、中に入れたらそうする予定ですよ。入る前からそれは拙い」

 この下に居る連中が一目散に逃げ出すという選択肢を与えるわけにはいかないのです。殿下の名に懸けて。

 いや、本当に、殿下の力を借りた以上はその種のミスができなくなることが問題ですよね。上手く切り抜けた後の後始末は楽だけど。

「では、どうする?」

「んー……ここは素直に上に行きましょう」

 僕はにやりと笑うと、心友殿を促して壁に備え付けられた螺旋階段を上り始める。「ちなみにねえ、この塔の前が件の公子様と公女様が最後に目撃された場所なんですよ」

「それは初めて聞いたな」

「まあ、大前提ですからね。何で、あの二人が駆け落ちしたと思われたかって云う理由付けの」

「……成程。七不思議絡みと考えたのか」

「普通はねえ、伝説とかなら兎も角、七不思議の方で幸せになれるとか思うのはどうかと思うわけですよ、個人的には。でも、何年か一度起きる駆け落ちカップルが皆、最後に目撃された場所がこの前だと、変に信憑性が沸いちゃうんでしょうねえ」

 そろそろ良いかなと思い、会話を続けながらも手で僕は心友殿に制止の合図を出した。

 ここら辺の呼吸はこれまでに巻き込まれた数々の事件で築き上げてきた分野、まず伝達不備ということはありません。

 意図を理解した心友殿は、

「その後誰も見掛けていない、と?」

 と、会話を続けるも、その場に立ち止まり、可能な限り気配を消します。

「ところがねえ、公女さんの方を見た方がいるんですよ、これが」

「……どこで?」

「部屋の方に戻ろうとしていたらしいですね。逆に、公子の方は誰もその後見ていない。ここの前で口論していたのを何人かに見られたのが最後です」

 当然の様に気配を消し、僕は視線を下にやります。

 予測通りというか、案の定というべきか、僕達を付けていた人物がこちらを探っているようでした。

 心友殿が襲撃を掛けるかと目線で聞いてきましたが、とりあえず、今はまだその時ではないので止めておきます。

「すると、お前がここに来たのは?」

「当然、現場検証ですよ。ここで口論をする理由が何か他にあったのかというね」

 下にいる者に会話が聞かれているという前提で本当のことを答えます。

 まあ、本当のことと言ってもそれが目的であるとは言っていませんがね。

 足音を響かせないように歩いていたから、下にいる誰かさんは我々が立ち止まっているか進んでいるかは響き渡る声で推測するしかありません。

 さてはて、その様な特殊な技術を有しているかどうかも見極めに役立ちそうですが、のんびりもしているわけにはいきませんしね。

 少なくとも伺うだけでこちらに上がってくる気配がないのを見て、即座に決断します。

 目線で合図を送ると、螺旋階段から一気に飛び降り、容赦なく上から跳び蹴りをかまします。

 まあ、避けられるんですけどね、知ってました。

 とは言え、僕は囮です。

 そのまま受け身を取り、ダメージを最小限に抑えて立ち上がり、心友殿が組み伏せた曲者が何者かを確認します。

「こいつは大物が釣れましたねえ」

 流石の僕もこれは予測外でした。

 殿下より先に真相を知ることができそうです。

 ええ、この男が我々の動きを見張っていたと言うことは、僕の推理が大筋で正しかったことの傍証(ぼうしょう)ですから。

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