魔女集会で会いましょう 〜古の血筋・古代の文明〜
また『魔女集会で会いましょう』ネタです。
今から遠い遠い遥か昔。この世界には科学と魔法を融合させた高度な文明……超文明を有する古代人が居りました。超文明の恩恵で森羅万象全てを手にした彼等古代人は、自らの意のままに天候を、環境を、地形を変え、灰色の土で大地を包み込みます。灰色の大地には天を貫く塔や無数の建物が建てられ、夜でも絶えず文明の日を灯し続けていました。
古代人は超文明をもって自らが暮らし易い世界を創造します。科学と魔法の力で望む物は何でも手に入る夢の様な世界が誕生し、貧困や退屈といった言葉は辞書から消え、繁栄を極めた古代人は人生を謳歌します。しかし古代人が自らの欲の為だけに発展させた超文明は、世界にとって毒でしかありませんでした。
世界の理を無視した創造の結果、世界は徐々に壊れていきます。古代人がその事実に気が付いた時には、世界は既に手の施しようがないくらい壊れてしまっていました。
自らの意のままに天候を操つり続けた結果気候は乱れ、青かった空は灰色に変わり、有害物質が大気中に含まれる様になります。
自らが住みやすい環境を作った結果、灰色の大地には朝になると燃える様な日差しが降り注ぎ、夜は全てが凍る極寒の世界へと変貌します。
蒼い海は紫色へと変わり、海に住んでいた物達は銀色の腹を海上に晒して風に揺蕩います。
度重なる地殻変動によって土地は作物が実らなくなる程枯れ果て、僅かに残った肥沃な大地は強者が力で奪い、また別の強者が奪います。そして戦火に晒され続けた肥沃な大地は徐々に汚染されていきました。
高度に進みすぎた文明と、その文明を自制、制御出来ない者達の所為で、世界に住む生きとし生ける者は例外なく破滅の道を歩みます。
程なくして超文明は滅び、古代人は姿を消してしまいました。
それから永い年月が過ぎました。
毒を撒き散らす存在が消えた事で、傷付いた世界はゆっくりとですが本来の姿を取り戻していきます。
やがて蒼色を取り戻した海に命が芽生えました。そして海に命が芽生えてから更に数千年後、緑が生い茂る大地に『人類』と呼ばれる存在が出現しました。
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「ちょっとこの馬鹿ゴーレム!道具はもっと丁寧に扱いなさいよ!ぶっ壊す気!?」
「ワレ、シャザイ、スル。スマナイ」
「すまないと思うなら最初から気をつけなさいっての!道具が無いと!発掘が!出来なくなるでしょうがぁあ!っ、だぁあぁい!!」
辺り一面が緑の絨毯で覆われた様な広大な草原に、裾の長い白地の服を着た少女の声が響き渡りました。胸に赤い石が埋め込まれたペンダントを下げ、輝く様な金色の髪を後頭部で1本に結んだ小柄な少女の目線の先には、見るからに頑丈で巨大な岩がありました。その岩を何故か怒り心頭といった様子の少女は、小さな手でポカポカと叩いています。
すると、少女しか居ない草原に妙な声が広がりました。その声は皺がれた老夫の様な響きを持ちながらも、舌ったらずな子供の様に途切れ度切れに言葉……というよりも単語を紡ぎ、少女に意志を伝えます。皺がれた声が最後に発した単語を聞き、少女は更に声を荒げました。
岩を叩く速度が徐々に上がり、付随して動きも大きくなっていきます。そしてゴチン!と大きな音が鳴りました。それは少女が全力で岩を殴った音でした。少女は目に涙を浮かべながらジンジンと鈍く痛む手を抱くと、その場に蹲ってしまいます。
「シュジン、ダイジョウブ、カ」
「だ、大丈夫に決まってんでしょ!それより早く準備に戻りなさい!」
皺がれた声は痛みに震える少女を主人と呼び気遣います。対する少女は目尻に涙を溜めながら小さな体をプルプルと震わせつつ、その声になん等かの準備を命じました。
「ワカッタ」
ゴゴゴゴ!
少女の命令に皺がれた声が応えます。と同時に、少女の目の前に有る岩が音を立てて揺れ始めたではありませんか。
数秒の後、少女の目の前に有った岩は人の形を成し、太い2本の足で大地に立ちました。この岩は少女が古の魔法で生み出した岩の人形だったのです。
主人である少女の命令を受けたゴーレムは、自身の脇に置かれた複数の木箱や木材、布の束を持ち上げました。
「はぁ……この子、力仕事は任せられるけど繊細さが足りないのよねぇ。知能が低いゴーレムだから仕方ないとは言え、繊細な助手が欲しいわ……下手をするとこの子に古代人の遺跡を破壊されかねない……もしそうなったらそうなったら一考古学者として笑われる!」
岩の巨人、ゴーレムが木材を組み立て骨組みを建て、布を被せてテントを作る様子を見守りながら尚も拳を労る様に摩る少女は呟きます。
そう、金色の髪を後頭部で結った小柄な少女は、遥か昔に栄えたと伝説で語られる超文明の謎を追う考古学者で、ゴーレムはその助手だったのです。
先程少女がゴーレムを叩いていたのは、調査に使う道具類をゴーレムが乱雑に扱ったから。そして少女がゴーレムに命じたのは、今から行う発掘の拠点となるテントを建てる事でした。
「やっと有力な情報を得て此処まで来たんだからしっかり働きなさいよ!」
「ワカッタ」
ゴーレムは太い指をチマチマと動かして健気にテントを作っています。そんなゴーレムを少女はどやしつつ、古代人を追うキッカケとなった出来事を思い出していました。
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「お嬢ちゃん知ってるかい?今俺達が居るこの世界には昔、凄い文明を持った古代人が居たんだぞ」
少女は昔、自身が住んでいた村を訪れた行商人から、この世界には昔凄い文明を持った古代人が居たという伝説を聞きました。
その伝説を聞いた少女は行商人には問います。
「何故おじ様は古代人が居たと分かるの?」
「昔通った森の中で、たまたま木でも土でも煉瓦でもない素材で建てられた古い建物……神殿を見つけたからさ。その神殿は長い間ずっと放置されていたみたいで木がすっぽり覆い隠してんだ。きっと木が生えるずっと昔に建てられたんだろう。
お嬢ちゃんも一眼見れば、あの神殿は古代人が建てた物だって分かる筈さ」
行商人は何故古代人が居ると結論付けるに至ったのか、その訳を少女には話します。行商人が見つけた木でも土でも煉瓦でもない素材で建てられた古い建物は、木に覆い隠されていた様です。
木が建物を覆い隠すくらい成長するには永い年月が必要で、つまりそれは、件の建物は木が生える遥か以前から其処に在ったという事を表しています。
だから行商人は木が生えるずっと前に、見た事もない素材で建物を建てた古代人が居たのだろうと結論付けた様でした。
「それに俺にはその神殿の中で見た事もない物を見つけたんだよ。ほら、これが証拠だ」
更に行商人はそう言うと首からぶら下げた丸い物体を少女に見せ付けながら、上部に付いた突起を押しました。すると物体がカパッと上下に分かれます。
「な、なにこれ!?」
「さぁな。それは俺にも分からん。だがこれだけはハッキリ言える。コレはきっとあの神殿を建てた古代人が使ってた道具だ」
少女はその物体を見て声を上げました。
少女の瞳に、透明で丸い入れ物に埋め込まれた無数の円形や四角の物体が映り込みます。
透明な入れ物の中に埋め込まれた部品は指先より小さいにも関わらず全ての形が均一で、明らかに人の手が加えられていると、少女は幼いながらも理解しました。更に透明な入れ物には計12個の文字らしきモノが刻まれており、この物体は紛れもない人工物であるという証拠にもなりました。
行商人は勿論、少女にもその物体の用途は分かりませんでしたが、少なくとも少女は入れ物に書かれた文字らしきモノは見た事がありませんでしたし、これ程までに小さくて形が均一な物体を作れる人はこの世界を探しても居ないだろうという事は分かりました。
少女の反応を見て行商人はしたり顔で答えます。
「知り合いの鍛冶屋にコレを見せたが、とても作れる気がしないと言っていた。こんな小さな部品を作れるのは神か、俺達より高い技術力を持った奴等だろうってな。どうだいお嬢ちゃん。俺の話、信じるかい?」
「凄い……凄い凄い!こんな物を作った人達が私達の生まれるずっと前に居たかも知れないなんて!おじ様のお話、勿論信じます!」
知的好奇心が旺盛だった少女は行商人の話に目を輝かせます。そして古代人の伝説を聞いたその日から、少女の心にある願望が生まれました。
調べてみたい。何故そこまで高度な文明を持っていた彼等が今は居ないのか。
調べてみたい。なら何故彼等は居なくなったのか。
調べてみたい。彼等が居なくなった理由を。古に何があったのかを。
少女の中で日に日に超文明と古代人に対する知的欲求は強くなっていき、少女は学ばなければならない魔法の勉強もそっちのけで伝手を頼りに各地で語られている古代人の伝説を出来る限り調べ上げ、古代人の文字を解読しようと躍起になりました。
やがて時が移ろい、少女は村の仕来りで独り立ちをする歳を迎えると、超文明と古代人達の身に何があったのかを調べる考古学者として生まれ育った村を飛び出します。
そんな少女の脇には、魔法の勉強を殆どしてこなかった少女が唯一得意とした『錬成魔法』で生み出した雑用係のゴーレムが居りました。
村を飛び出した少女が今回訪れたのは草原に飲まれた大地です。少女は依然調べた古代人の遺跡から、この地にはかつて古代人の都市が在ったと記した書物を奇跡的に発見し、その記録が真実か確かめる為にこの地を訪れたのです。
「それにしても……今まで調べた遺跡やこの景色を見るに、古代人が消えたのは1000年以上前……いえ、1000年程度じゃすまないわね……紙の書物を何千年も風化させずに保存しておく高い技術力を持っていながら何で……」
ガチャァァアン!
「あぁぁぁあ!?何やってんのよこの間抜け!」
少女が顎に手を当てて目の前の光景に想いを馳せます。かつてこの地で自分達と同じ様に暮らしていた人達が居たかも知れない事に。まだ見ぬその痕跡に。
その時、少女の背後で何かが崩れ落ちる音がしました。
慌てて少女が振り返ると、地面に散乱する調査道具や倒れた木箱、そして其れ等の前で茫然と立ち尽くすゴーレムの姿が目に飛び込んできました。少女の頭から一瞬にして古代人の事が消え去ります。
「シャザイ、スル。スグ、二、カタズケ、ル」
「はぁぁぁぁ……やっぱり繊細な助手が欲しい……」
キャンキャンと吠える少女の叱咤を受け、ゴーレムは太い指で散乱した調査道具を拾い木箱に片付けていますが、指が太すぎる所為で少なくない量の土も道具と一緒に木箱に入ってしまいます。
それでもゴーレムは気にした様子はありません。
「おおぃ、こんな所で何してんだお嬢ちゃん。ゴーレムと一緒に……土遊びかい?」
大雑把な、より酷い言葉で言うとがさつなゴーレムを横目に少女は深い溜息を溢します。
すると不意に少女の背後から声がしました。ハッと少女が振り返ると、背後には2頭の馬に引かれる馬車が停まっており、御者席に座った恰幅の良い老夫が少女を見つめていました。
「つ、土遊……ごほん!あら、こんにちはおじ様。私は考古学者なんですの。今日はこの一帯の発掘調査をさせて頂こうかと」
「っと……なるほど。そりゃ失礼したね。しかし……こんな石と草しか無い場所でかい?」
「それはこの場所本来の姿ではありませんわ。かつてこの地には優れた超文明を持つ古代人の都市が存在していたのです!恐らく風で運ばれた土が都市を覆い隠し、その上に草が生え草原となったのでしょう」
少女は声を掛けたと思しき老夫に対して優雅に頭を下げながら自身は考古学者だと強調して言うと、訝しげに首を傾げる老夫へ瞳をキラキラさせながら身振り手振りで憶測を語ります。その姿はまるで恋に恋する乙女の様ですらありました。
「ははは。ワシにはその超文明とやらも古代人の事もよく分からんが、発掘調査をやると言うなら色々と必要な物は多いだろう?どうだ、ワシの品物を見てみる気はないか?」
「商品?でしたら是非!おじ様は行商人でしたのね」
「おうとも。さて、お嬢ちゃんこっちだ」
「まぁ凄い!調査に役立ちそうな物が一杯ですわ!あら……?」
「……」
老夫は愛くるしい少女の仕草を見て優しい笑みを浮かべ、御者席から降りると馬車の背後に回ります。そして馬車を覆っていた布を捲ると、荷台には土を掘り返すシャベルや発掘品の土埃を払う時に使える歯ブラシ等、様々な雑貨が所狭しと置かれていました。
品物を見た少女は弾けんばかりの笑みを浮かべます。すると、品物を眺める少女は隅っこにポツンと座る少年を見つけました。
「おじ様、あの子はおじ様の子供ですか?」
「いや、ワシの親戚の子さ。矢張り病で両親を失ってな。不憫だからワシが引き取ったのさ」
「成る程……」
「さ、お前さん。お嬢ちゃんにご挨拶しな」
「……」
「随分と無口な子の様ですわね」
「すまんねお嬢ちゃん。この子ぁ自分が興味ある事しか口にしないんだ」
「いえいえ、お気になさらず。それにしても……器用そうな細い指に整理整頓に余念のない性格……そうだわ!」
少年は荷台から飛び降りると無言のまま少女に頭を下げます。とても無口な性格らしい少年に少女は目線を向けると、少年をじっくり観察しました。その少年は少女の目線を気にも留めず、移動時に乱れたらしい品物達を綺麗に整えています。
そんな少年の姿を見て少女は声を上げました。
「おじ様!その子、私に預けて下さらないかしら!」
「この子を……かい?それまたどうして」
「丁度細かい作業を任せる事ができる助手を欲していた所でしたの!彼は些細な事に目が届く繊細で発掘調査向けの性格をしていると見ましたわ!お願いですおじ様!」
「分かった分かった。だが何にしろその前に、この子へ返事を聞くべきじゃぁないかい?」
「……お見苦しい所をお見せしましたわ。おじ様のおっしゃる通りですわね。ねぇ貴方、私はかつてこの世界に存在していた超文明と古代人の調査をしているの。良ければ私の調査の手伝いをしてくださらないかしら?
御給金は……難しいですし、住む場所……もテント暮らしですから難しいですわね。で、でも食べ物や着る物は補助しますし色々と勉強も教えてあげますわ!如何でしょう?」
「超文明……?古代人……?なにそれ」
少女はコホンと咳払いすると、少年に向き直り静かに話しかけます。少女の言葉を聞き、少年は品物の整理整頓を止めて振り返るとポツリと言葉を漏らしました。
「っ!そうね、貴方は何も知らないのよね。良いわ、それじゃ分かりやすく説明してあげる!
ゴホン……驚かないで聞きなさい?実は、この世界には私達が生まれる遥か昔、私達じゃ理解出来ない高度で優れた超文明を持つ人々が居たのよ。私は彼等の事を古代人と呼んでいるのだけど、その古代人が建てたと思しき建築物が今も尚、各地に遺跡として残されているの!
それ等の建物は殆どが森に飲み込まていたり大地に覆わていたり湖に沈んでいて発見は困難だけど、それが逆説的にかつてその地には森や湖は存在せず、古代人が暮らす環境が整っていた証拠に、かつ永い月日を経て建物が自然に飲み込まれても、その形を保ち続ける事が可能な高度な技術力と文明を有する古代人が存在していた証明にもなるわ!
ここまで聞けば、貴方も超文明の存在と古代人が実在した事が分かったと思う。でも遺跡を作った筈の古代人は今はもう居ない……何らかの原因があって古代人は絶滅してしまったと見て間違いないわ。なら何が原因で古代人は居なくなったのか。私はその原因を探っているの!古代人の遺跡には彼等が消えたヒントが眠ってるかも知れない。そのヒントを見つける調査のお手伝いを貴方にお願いしたいのよ!」
老夫から自分が興味のある事にしか口を出さないと聞かされていた少年が言葉を発したという事は、少なからず少年は超文明や古代人に興味を持ったという事。
それを瞬時に理解した少女は、更に捲し立てる様に丁寧な言葉遣いも忘れて鼻息荒く少年に詰め寄りました。
「……楽しそう」
少女の口から次から次へと言葉が溢れ出ます。止まる事のない言葉の濁流に飲まれ、老夫は面食らった様子でしたが、言葉を向けられていた少年はやや俯いていた瞳を上げ、ポツリと呟きました。
「おじさん、僕、この子の調査を手伝いたい」
「本当!?」
「ん」
「お前はそれで良いのかい?」
「良い。楽しそうだから」
「そうかい、ならワシが反対する理由はないな。お嬢ちゃんを手助けしてやりな。無茶だけはするんじゃないぞ」
「決まりですわね!!」
老夫の問いにも少年はハッキリ頷きます。少年の同意を得られた少女は小躍りせんばかりに喜びました。
「あ、おじ様、無理を言ってすみません。これはほんのお礼です」
「こいつは……あそこのゴーレムを見てもしかしたらと思っておったが、お嬢ちゃんやっぱり魔女だったのかい」
少女はワガママを言ったお詫びにと、胸からぶら下げていたペンダントを男へ差し出します。赤い石が埋め込まれたペンダントを見た老夫は、驚いた様に声を上げました。
石には魔法の呪文が刻まれていたからです。
「私はちょっと魔法が使えるだけのしがない考古学者ですわ。それと、その赤い石には私が唯一使える錬成魔法が刻まれていますの。その石に願えば、1度だけ形ある物を別の形に変える事が出来ますわ。例えば道端に転がる小石を宝石に変えたり、巻木を金の延棒に変えたりと言った具合に。さぁどうぞ、お受け取りくださいませ」
「そ、そんな凄い物はとても貰えないよ」
「それでは私の気がすみません!」
「ワシにはその気持ちだけで充分過ぎる程さ。それでもお嬢ちゃんが申し訳ないと思うなら……そうだね、ワシの品をいくばか買って貰えるかな?」
「……分かりました。おじ様がそれでよろしければ」
ペンダントが秘めた力を聞いた老夫は受け取れないと手を振ります。少女は逆に受け取って貰おうと必死になりましたが、優しく微笑む老夫の言葉を受け、眉を下げながら申し訳なさそうなか細い微笑を返しました。
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「助手2号!分かってるわよね、丁寧に!丁寧によ!」
「承知しておりますよ先生。私が何年先生の元で助手をしてるかお忘れですか?せっかちなのは昔から変わりませんね。幼い見た目も変わりませんが」
「うるさい!あんたは年々嫌味ったらしくなってくわね!癪だからその白髪が抜け落ちる魔法でもかけてやろうかしら」
「私がこの様な性格になったのは先生と一緒に居たからですよ。初めて会った時みたく猫を被っていた方がまだ可愛げがありましたのに」
「喧嘩売ってる?」
「いえいえ滅相もない」
「ケンカ、ヨク、ナイ」
青々とした木々が生い茂る深い森の中で、幾つもの影がモゾモゾと蠢いています。その影の中で一際小さな影がやや大きめの影の後ろで動き回り、その更に後ろでは巨大な影が静かに佇んでいます。
小さな影に声をかけられたやや大きめの影が、小さな溜息を吐いて振り返りました。
木々の隙間から差し込む光が小さな影とやや大きめの影を照らし出します。光が照らし出したのは、長い金色の髪を後頭部で1本に結んだ少女と、白に近い灰色の髪をオールバックにした初老の男です。
そうです。森の中で蠢く影の正体は、古代人の軌跡を追い求める考古学者と、少女に雇われたあの少年。そして少女が生み出したゴーレムでした。
数十年の長い月日を経て、超文明と古代人に興味を持ち少女の2人めの助手となった少年は、老紳士と言っていい風貌に様変りしました。対して少女は数十年前と変わらぬ姿で結んだ髪を揺らし、ジロリと助手を睨みてています。
その様子を見て、2人の後ろで佇むゴーレムは諫める言葉を発しました。
「ふふ、そうですね。さゴーレムさん、この木を退かしてください」
「ワカッタ」
自らと主人である少女を気に掛けるゴーレムに助手は笑みを向けると、ゴーレムに目の前の大木を退かす様にお願いします。事前に助手が邪魔な枝を切り落とし周囲の土を掘り返していたお陰で、大木はゴーレムの力をもって容易く大地から引き離されました。
「コレで良し。先生、これで通れる様になりましたよ」
「よっし!よくやったわ!助手2号付いてきなさい!ゴーレムは此処で荷物番よ!」
先生と呼ばれる少女と助手2号と言われた老紳士は、木々に取り囲まれた小高い丘の前に立ちます。この丘こそ少女達が探し求めていた遺跡です。
丘には古代人の痕跡を示す、土でも木でも煉瓦でもない素材で作られた大きな扉が埋め込まれていました。
前回少女と助手、そしてゴーレムが調べた遺跡に残っていた資料によると、この地には古代人が滅びる間際に建てられた施設が在ると記されていたのです。
少女は今まで得た情報や経験から、見事その施設に通じるだろう扉が埋め込まれた丘を見事発見しました。
その扉は何故か既に開かれていたのですが、先程ゴーレムが抜いた大木が出入り口を塞ぐ様に立っていた為、助手とゴーレムはその大木を抜き、出入り口を確保したのです。
「入ってすぐに階段ね。この下に何かがある筈!」
「先生。足場が不安定なんですからもう少し気を付けてください」
「大丈夫大丈夫。良いから黙って付いてくる!私の感が正しければそろそろ……見つけた!」
出入り口が出来た事だ少女は意気揚々と先陣を切り扉を潜ります。扉の向こうには地下へと伸びる階段がありました。
階段は侵食した木の根や風に運ばれた土で覆われ歩き難くなっていましたが、それでも少女はお構いなしに突き進みます。すると、階段を1番下まで降った所で先程の扉よりも巨大で重厚な扉を見つけました。
「おっきいわね。これまで遺跡で見かけた扉の中で1番の大きさだわ」
「古代人が滅びる間際に建てた施設との事ですから、古代人にとって重要な施設だったのは間違いないでしょう。となると、此処はどういった目的で建てられた施設なのかという疑問が出てきますが」
「その答えも進めば分かるわ。よっと!」
扉の前で助手が首を傾げて唸ります。助手が感じる疑問も、自分が長年追い求めてきた真相もこの先にある。何故か確信めいた直感を少女は感じながら目の前に聳え立つ扉に手を付けます。
「な、ななななな!?」
「先生!っ、これは……」
「……地下神殿?」
「ふむ……繭の様な物体に石碑らしき物が見えます。今まで発掘した遺跡からは発見されなかった物ですね。それに……此処の雰囲気は明らかに異質です。地下神殿というのはあらがち間違いではないのでは」
「……取り敢えずあの石碑を調べれば、この場所がどう言った場所なのか分かるかも知れないわね」
すると扉が光を放ちました。眩い光が2人を包み込み、静かに扉が開きます。
扉の向こう側に広がる光景を見て、2人は息を飲みました。
扉の先には広大な灰色の空間が広がり、まるで昆虫の繭の様な楕円形の物体が幾つも、壁際に規則正しく並べられています。そして空間の中心に、高さ1m程の石碑が静かに鎮座していました。この空間も繭も石碑も、扉と同じ未知の素材で作られている様です。
「ん〜、見た所石碑に文字の類は無し。代わりに中心には手形が有る……此処に手を乗せろって事よね?」
「先生。何が起きるか分からないんですからもう少し慎重に……」
「分かってるわよっ」
「先生!?慎重にと言った矢先に!」
この光景だけでも2人には驚愕でしたが、湧き上がる知的好奇心を抑えきれなくなった少女が石碑の手形部分に自身の手を置いた瞬間、2人は更に驚く事になります。
『魔力反応を検知。魔力反応を検知。照合を開始します』
「え、助手何か言った?」
「いえ、私は何も。先生こそ何かおっしゃいましたか?」
「私は何も言ってない!……って事は……」
『解析中……解析中……』
「お化け!?古代人のお化けが出たの!?ってあれ!手が退けられない!?」
「本当ですか!?今助けます!」
『解析終了。高等魔術師ワルプルガ様の魔力反応と一致しました』
「え……?キャッ!?」
少女が石碑に手を置いた直ぐ後、少女とも助手とも違う妙にカクカクした女性とも男性とも取れるゴーレムに似た謎の声色が空間一杯に響き渡ったのです。しかも何故か少女の手が石碑に貼り付き離れなくなってしまいました。
その間も謎の声は絶えず響き続けます。
少女の手が漸く離れたのは、謎の声がワルプルガという名前を発した後でした。
『高等魔術師ワルプルガ様の権限により端末のロックを解除。ワルプルガ様、お久しぶりでございます』
「わ……ワルプルガ……?」
「先生、そのワルプルガさんに何か思い当たる事でも?」
「ど、どうもこうも、ワルプルガって私の遠いご先祖様の名前よ!?どうなってるの!」
少女は地下空間に響いた謎の声と謎の声が発した名前に目を見開きます。なんと、謎の声が発したワルプルガという名は、少女の遠い先祖の名前とだというではありませんか。
少女の脳内で様々な情報がグルグルと回ります。
「先生のご先祖様がこの遺跡に来た事がある……とは考えにくいですね。荒唐無稽な事を言いますが……状況から見て、先生のご先祖様がこの空間を作った古代人だったとなれば、この声が先生のご先祖様の名を知っているのも納得出来ます」
「私のご先祖様が古代人?あんた、何馬鹿な事言ってるのよ」
「ですから荒唐無稽な事を言うと前置きしたじゃないですか。それよりももっと調べてましょう。少なくとも、この遺跡には今まで得た情報とは比べ物にならないモノが眠っている筈です」
「……分かったわ。それじゃまずはこの石碑を調べましょう」
「先程の様に手が離れなくなるかも知れません。充分にご注意を」
これまで数多くの遺跡発掘に従事した助手は、冷静に状況を判断してこの遺跡に先生が長年求めていた情報が…… 古代人が滅んだ謎があると判断しました。
少女は改めて石碑を睨む様に見つめると、先程と同じ様に小さな手を石碑に乗せます。
すると……
『お帰りなさいませワルプルガ様。前回の起動から5847万2491年356日ぶりとなります。本日はどう言ったご用件でしょうか』
「え、えっと……私はワルプルガじゃないわ。それに貴方は誰なの?起動から5847万年ぶりってどういう事!?」
『……ワルプルガ様が本人である事を否定。真偽断定の為登録情報と対象者の魔力反応、生体反応、指紋の再度照合。並びに血液を採取。登録済みDNAと再度照合』
「っ!」
「先生!大丈夫ですか!」
「え、えぇ。大丈夫よ。指先がチクッとしたけど……」
周囲が日の下に居るかの如く明るく照らし出され、またも謎の声が聞こえました。
少女は謎の声に問いかけます。少女の問いを受けた謎の声は、少し間を置いて少女達が理解出来ない単語を幾つも呟くと青白い魔法陣が石碑に手を置く少女を包み込みました。
『確認。登録情報と一部差異を発見。情報修正……修正完了。大変失礼いたしました。貴女様はワルプルガ様と同一の魔力反応、DNAを有しておりますが生体反応、並びに指紋が登録情報と異なります。
以上の事を踏まえ、私は貴女様をワルプルガ様ではなく、ワルプルガ様の子孫であると認識しました。
改めましてご挨拶させて頂きます。私は『ワルプルギス』。ワルプルガ様方の復活を見届ける為に作られた石碑型ゴーレムです』
数分の間を置き、少女を包み込んでいた魔法陣が消えると、謎の声は自らを石碑型ゴーレム『ワルプルギス』と名乗りました。
先程から少女と助手の耳に届いていた声は、2人の目線の先にある石碑が発する声だったのです。
「復活……?見届ける?」
「先生、私は夢を見ているのでしょうか。ゴーレムは自我こそ有れ此処まで流暢に話せませんし、数百万年前のゴーレムが居る事すら信じられません……私では理解が追い付きません」
『理解が追い付かない。かしこまりました。それでは全ての始まりから順序立ててご説明させていただきます』
その石碑から更に新たな情報が掲示されると、以下な数多くの遺跡を発掘してきた少女と助手と言えども混乱は避けられません。
呆気に取られた2人の姿を確認した『ワルプルギス』は、混乱する2人の為に静かに語り出しました。
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『以上が古代人が滅んだ経緯、そして私がこの地に留まっていた理由となります』
「そんな事が……」
「遽には信じられませんが、今のこの状況や、これまで発掘した遺跡を見た後ではその話を信じる他ありませんね」
「えぇ、あんたの言う通りだわ」
『そう仰って頂けて幸いです。まとめると、お2人が仰る古代人は世界を意のままに操りその結果天候を、環境を、地形を、生態系を狂わせ今から数億年以上前に滅んでしまいました。
その後、所謂自浄作用で世界が本来有るべき姿を取り戻した頃、私はこの地で世界の再生を待ち永い眠りに付いていたワルプルガ様方を眠りから覚まし、目覚めたワルプルガ様方はこの地を発ちました。
その後の事は私も存じ上げません。私はワルプルガ様方のお眠りを管理する為だけに生み出されたワルプルガ様の模倣品ですので」
石碑型ゴーレム『ワルプルギス』の長い昔話が終わりました。
今から1時間程前、自らの常識の範疇を遥かに超える事態に遭遇した少女と助手の為に、『ワルプルギス』は何故古代人が消えたのか1から説明したのです。
かつて古代人は己が欲の為だけに世界を動かした結果、滅びの道を歩む事となります。多くの古代人は世界の崩壊は止められないと悟り、世界の流れに身を委ねる中、古代人の絶滅を何とか回避出来ないかと数名の高名な魔法使い達が立ち上がりました。
ですが魔法使い達が如何なる手を尽くしても世界の崩壊は止まりません。魔法使い達は自らの肉体を科学と魔法の力で改造し、老いる速度を鈍らせて更に長い時間を掛けて世界の崩壊を止める方法を模索し続けましたが、それでも世界の崩壊をほんの少し遅らせるだけで精一杯でした。
滅びへの流れは止められない。
この事実を認めた魔法使い達は、残された最後の手段……世界が本来持つ自浄作用に賭けたのです。
その為、魔法使い達は長い月日を経て世界が元通りになるその日まで、自らの肉体を、魂を保存する方法を確立しました。全ては復活した世界に自らという新たな命を根付かせ未来を繋ぐ為に。
その魔法使い達の中に、ワルプルガと呼ばれる女性が居りました。魔法使い達の中で特に錬成魔法に長けていた彼女は自らの肉体を保存する繭と、自身の名を授けた繭を管理する石碑『ワルプルギス』を作り出し、永い眠りに付きます。
そして気の遠くなる様な永い月日を経て、世界が本来有るべき姿を取り戻した事を確認した『ワルプルギス』は、ワルプルガ達を眠りから覚ましました。
再び緑が戻った大地に足を踏み出したワルプルガ達はかつての教訓を胸にこの地を発ち、『ワルプルギス』は役目を終え、その機能を停止。ワルプルガ達と入れ替わる形で深い眠りに付いたのです。
この遺跡は言うなれば再誕の地。古代人達が再生を果たした世界に復活する為の場所。旅立ちの場所だったのです。
「先生がそのワルプルガさんの子孫というのは間違いないのでしょうか」
『はい。このお方はワルプルガ様と同一の魔力を有しており肉体を構成している遺伝子も一致しております。まるでワルプルガ様の生まれ変わり。ワルプルガ様の生写し。恐らく先祖返りという現象と思われます。ワルプルガ様のご子孫で間違いありません』
更に驚くべき事に、古代人が消えた謎を追い求めていた少女は、かつてこの地を旅立った魔女の子孫でもあったのです。
『ワルプルギス』は少女とワルプルガの情報を照合し、少女がワルプルガの子孫であると断定しました。
「肉体を構成している遺伝子?もしや先生の老いの速度が遅い事もワルプルガさんと関係が?」
『貴方様の仰る通りです。より分かりやすく説明するならば、このお方の老いの速度には遺伝子という血筋が関係しております。血筋、つまり血にはその人の祖先の個性が受け継がれる場合が多く、ワルプルガ様を始めとする魔術師様方は、魔法と科学の力を用いて老化速度を遅めておりました。それがワルプルガ様のご子孫で有るこのお方に受け継がれております。
魔術師様やこのお方の肉体と遺伝子はそれ以外の一般的な人間と大きく異なっており、人間的時間感覚で言えば、人間の10年は魔術師様にとって1年程と老いの速度が極端に遅いのです』
「助手の成長速度は私と比べてとても早い……助手には魔術師の血は流れていないの?」
『いえ、流れている筈です。今現在この世界に生きる人と呼ばれる存在の祖は、皆この地より蘇った魔法使い様方を起源としておりますから。ですが永い年月を経た結果、そのお方の祖先の遺伝子は退化……いえ、本来有るべき姿に戻ってしまったのやも知れません』
「成る程。やっぱりあんたがおかしいんじゃなくて私がおかしかったのね」
「先生……」
加えて、少女にはかつてワルプルガが自らに施した老化を遅める遺伝子が受け継がれている事も告げます。この遺伝子により少女の姿は数十年経っても変わらず、反対に本来あるべき人の肉体となった助手は年相応の見た目となったのです。
やはり私は助手とは違う。私の一族も村の人達も皆老いる速度が遅かったから違和感を感じなかったけど、助手と過ごす内に違和感に気が付いた。
助手は老いる速度が速い。しかし助手はこれくらいが普通だと言った。私の知る普通とは違った。
古代人の事を知るという目的があった私は、そんな些細な事はすぐに忘れたけど、今改めて実感した。
おかしいのは助手ではなく私だったのだ。
超文明の事を、古代人の事を知りたいと願っていた少女は突きつけられた現実に眉を歪めます。
「ま、それでもその遺伝子とやらのお陰で私は長い間遺跡調査が出来たんだから、感謝こそすれ余計な事してくれちゃって!なんて言うのはお門違いね。ご先祖様もまさかこうなるなんて思ってなかったでしょうし」
『ワルプルガ様が聞いたら安堵したでしょう。それと、ワルプルガ様がもし後の世にこの地を訪れた子孫が居れば、此方をお聞かせする様に仰せ付かっております』
「ご先祖様が?何かしら?」
『少々お待ち下さい。再生致します』
自分は普通の人とは、助手とは違う。それを知っても尚、少女は仕方ないという風に言葉を漏らし微笑みを浮かべます。少女の祖先を元に作られたゴーレムはその笑みを受け、何処か安堵した様な声色で言葉を紡ぎながら少女のご先祖様から伝言が有ると告げました。
『これを聴いてる後の世の我等が子孫よ』
「ワルプルギスさんとも違う声……この声が」
「私のご先祖様……ワルプルガの声なのね」
石碑が少女に一言告げ、ジジジッと、まるで小さな雷の様な音を奏でると、石碑から滑らかな女性の肉声が響き始めます。
女性の声は静かですが、心の奥まで染み込んでくる様な、耳を傾けたくなる様な不思議な魅力があり、発する言葉には優しさと慈しみ、そして僅かばかりの悲哀が込められていました。
『人の理から外れ、全てを望み全てを手に入れようとすると我等の二の舞となる。全てを滅し自らまでもが滅ぶ結末が待っている。我等の子供達に我等の傲慢な行いの償いをさせる事となる。
それだけはさせてはならない。これを聴いている後の世の人よ。どうか我等が得た愚かな教訓を子に孫に子孫に、伝えて欲しい。私達も伝えます。後の世に生きる子等が我等と同じ過ちを繰り返さない様に……』
ワルプルガが今にも泣き出しそうな声で言葉を紡ぎます。そして最後に、小さく、本当に小さな声で『ごめんなさい』と呟きました。
少女には、その謝罪が何に対して向けられたモノなのか分かりません。滅んでしまった古代人達に向けられたのか、崩壊を止める事が出来なかった自分を責めているのか、もしくはその両方か。
「全く、仕方ないご先祖様ね……」
それでも、少女はか細く微笑みました。
蘇った古代人達は自らが犯した過ちを繰り返さない様にと、後の世の子供達にその償いをさせてはならないと戒めの言葉を送ります。
やがてその戒めが人々から忘れ去られても、彼等が残した血は脈々と受け継がれ、そして今日、かつてこの地を旅立った者達の子供が故郷に帰ってきたのです。
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「ねぇ、古代人が滅んだのは世界の理を無視した為だったのね。他の人が聞けば古代人の身の程知らずと言うかも知れないけど、私は真実を知れて良かったと思っているわ」
小高い丘の上に憂いを帯びた綺麗な声が流れます。眼下には深い森が広がり、生命が命を営んでいます。
かつて古代人が再出発を果たした地を見下ろす丘に立つ少女は、隣に建てられた石碑に目線を向けると、眉を下げます。
「『ワルプルギス』が言っていた通り、あんたの肉体は私とは違ったわね。あの後直ぐに……でも、あんたが力を貸してくれたお陰で私は知りたい事を知る事が出来たわ」
丘に小さな風が吹き抜けます。草木がそよぐぎ少女と石碑を優しく撫でると、少女は視線を天へと向け呟きました。
「あんたは先に行って待ってなさい。あと数百年もしたら私もそっちに行くから、そうしたらそっちの世界の遺跡も調べましょう。
え?神の世界に遺跡が在るか?在るでしょ、神が居るんだから!遺跡は意思ある者が居れば存在するの!あんたも知ってるでしょ?だから今度はそっちの世界の遺跡調査よ!
あんたはつべこべ言わず待ってなさい!私は私達のご先祖様が得た教訓を皆に伝える使命があるのよ」
少女はそう捲し立てると呼吸を整え、小さく息を吐き立ち上がると、少女は石碑の手形部分に自身の手を乗せながら噛み締めるように呟きます。
「……分かってるわよ。人は過ちを繰り返す。でも人は学び成長する事も出来る。私はご先祖様達が学んだ事を糧に、後の世の人達も成長を続けてくれると信じてる」
「だからあんたはそっちの世界で私達の成長を見守りながら待ってなさいって言ってるの。あ、あと設定変更。機能停止後は例えワルプルガの血筋でも起動は不可に設定して。そう、『ワルプルギス』と同じ様に。今度こそゆっくり休ませてあげましょう。
他には?もう何もないわ。それじゃ、暫くお別れね。今度はあっちの世界で会いましょう。……今までありがとう」
「機能停止。さよなら、私の自慢の助手」
そして最後に別れの言葉を告げると、赤い石が消えたペンダントを乗せた石碑に、少女は背を向けて歩き始めます。
「さて……それじゃまずはこの事実をあそこに報告しないといけないわね。あの人達も私と同じ存在でしょうから」
少女の手には、『魔女集会で会いましょう』と書かれた便箋が握られていましたとさ。




