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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

訳あり隠者のスローライフ

作者: ばっちい

 3つの国に挟まれた森がある。その森は広くて強い魔物が沢山いる。どこの国にも属さない不可侵の領域とされている。そこに住むのはよっぽどの罪人か訳ありな者だ。何故なら強い魔物の所為で弱い者は生きていけないからだ。






 枯れ木を集め、蔓を使って木をこすり合わせ火を灯す。焚き火の完成だ。昼に川でとってきた魚を枝に刺して焼べた。


 ーー火は見てても全然飽きないな。あの光景が浮かんでは消えていく。







 私は慕ってくれた部下達と主君に反発する聖職者達を使い城を囲み、主君を追い込んだ。騎士達が不在の間を狙った為に私は謀反に成功した。


 主人だった者は命を狙う私を見て愉快そうに笑った。


「是非に及ばず」


 男臭い顔付きにどきりとした。私は剣を上段に構えて己の気持ちを込めながら剣を振り下ろした。剣は下から受け止められ鍔迫り合いになる。誰かが火を放ったのか壁が燃えた。肌に伝わる熱なのか内側から込み上げる熱なのか、もはやどちらの熱かわからなかった。汗が流れた。相手は涼しげな表情で汗ひとつかいてない。それが悔しいような羨ましいような複雑な心境で剣に力を込めた。


「やめにしよう」


「っつ」


「そなたと戦いたくない」


 優しい眼差しに私の腕の力がゆるゆると抜けた。こんなの間違ってる。このお方は悪くない。全ては自分の責任。自責の念に苛まれた。すいませんなんて言葉で済む段階をとっくに超えた。床を観ながら私は願いを言った。


「お伴します」


 最期は一緒に。


「ならん」


 やはり嫌われたか。


「そなたにはこの先を見届ける役目があるだろう。途中で投げ出すなどゆるさん」


 この方は完璧主義である。自分にも他人にも厳しくて苛烈だ。誰からも嫌われ、誰からも尊敬された。何もかも中途半端な自分とは違う。何もかもが違う所為か強く惹かれた。


 この方を失った先に何があると言うのだ。不安から謀反を企てたくせに不安が拭い去れない。新たな不安でそれを拭っても無駄であった。


 最後の最後で踏ん張れない。やっぱり私は中途半端だ。


 顔を上げた。情け無い表情だっただろう。顔を顰めると思って緊張したが、予想と違って優しい眼差しのまま私を見ていた。


「我は到底中途半端な者を許す事は出来ん。だが、世には中途半端で良いと許す者がいてこそ丁度いい。リューエール。そなたには人を安心させる力がある。我はそなたのそこに惹かれた」


「えっ」


 ガラゴロと部屋が崩れてきた。私は手を引かれ窓から落とされた。信じられない気持ちで見た最後の表情はやはり優しくて幻聴が聴こえた。


「愛してる」






 バチ


 火が爆ぜた。ああ。いけないいけない魚が焦げる。慌てて掴んだ魚の枝は熱かったが、手の皮が厚いので持てない事もない。ふうふうしながら食べた魚は美味しかった。視界がぼやけた。頬を伝う雫は魚に落ちて塩っぱくした。ああ。美味しいな。






 森のでの生活は危険との隣り合わせで、自分で何でもしないといけなくて、とても充実していた。そして、私はお腹を下していた。生水を飲んでしまったのだ。綺麗な川の水だと油断した。胃薬が欲しいな。お腹をさする。


 グキュゴロゴロ


 酷い音だ。我慢しながら家を作る為の木材を集めていた。川の岸に丁度良さそうなのが流れついてる。それを拾い拠点となる場所に運んでいると1人の青年が来た。垂れ気味の瞳の穏やかそうな印象の彼は私に笑顔で話しかけてきた。


「一緒に帰ろうリューエール」


 また来たな。私はそっぽを向いた。


「私の家はここです。お帰り下さい」


 青年は鼻で笑った。


「家ないじゃん」


「今から作るんです」


「リューエール」


 手をそっと握られた。青年の瞳は潤む。乙女か貴様。


「女の子がこんな危険な場所で暮らすだなんて間違ってる。僕と帰ろう」


 私は仕返しに鼻で笑った。


「生憎と男として生きた記憶が長いので、自分が女だとは思えません。そのお言葉到底奥さんが2人もいるとは思えませんね」


 青年は眉尻を下げる。


「違うんだ」


「何が」


「3人だ」


「あっそう」


 2人だろうが3人だろうがどうでもよろしい。問題は私のことも奥さんにしようとしてることだ。


「私は奥さんになりませんから」


「それは残念」


 おや? 今日はアッサリしてる。いつもはもっと粘るのに。いい加減諦めたか。良かった良かった。木を蔓で縛る。力を込めて縛ると蔓が千切れて仕方がない。


「知恵を借りにきた」


 やっぱりロープって大事。人間の作る物って凄いわ。


「王が騎士の仕事を作る為に他国に戦争を仕掛けた。それを辞めさせたい」


 勝手に何を言ってくるんだこいつ。え? それ解決して私になんのメリットがあるんだい?


「礼は何でもやる。好きな物を言ってくれ」


 オッケー喜んで!


「王ってマルシェの王様でしょ? 私を騙しやがったあんちくしょう」


 思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る。


 謀反に成功した私だが、直ぐに玉座から落とされた。クロワール様の部下であった遠くに派遣されてたあんちくしょうが騎士と共に舞い戻り私を仇とし討伐した。


 そもそも、私がクロワール様を討つように促したのはあんちくしょうなのだ。


 青年は頷いた。


「そうあのあんちくしょう」


「なら放って置け」


「知恵は貸してくれないと?」


「じゃなくてそのまんまの意味。あんちくしょうは重い病にかかってる。そのうち死ぬ」


「なるほど、行事への参加が少なくなったのはその為か。だが、後継者がいる。しかもまだ5歳だ。亡くなっても意志を継いで戦争は終わらなかったりして?」


「なあパラン。誰が幼い後継者の後ろ盾になると思う? 今2番目に勢力がある権力者は誰だ?」


「……僕だな」


「ハイじゃあ。何もしなくても大丈夫じゃん。良かったね。それで欲しい物なんだけどーー


「だが、それを王が許すと思うか? きっと僕が謀反を起こすんじゃないかと警戒してる」


 けっ あんちくしょうが謀反に怯えるなんて自業自得だ。


「いいじゃん。謀反起こしちゃいなよ。幼い後継者なんて無力だ。民の為にも起こしちゃいなよ謀反」


「は? 正気か?」


「もちろん。私は天下の大罪人リューエール様だぞ。私が倒したクロエール様に比べると楽勝だろう」


 クロエール様……名前を呼ぶだけでも切ない。


「……じゃあ。僕が王様になったら、結婚してくれる?」


 ぷっ あっ 吹き出してしまった。きっと、元気付ける為に冗談を言ってるな。モテる男は違うね。私じゃなかったら本気にするぞ。


「まずはロープと薬を寄越しな。話はそれからだ」


「え? それだけで良いの? もっと欲しいのあるっしょ?」


「いいから寄越しな」


「わかった。取りに戻るから、くれぐれも魔物に気をつけてね」


「へいへい」


 そんなこんなでリューエールはロープと薬を手に入れた。やったね! 木材をロープで縛って板で屋根を作って小屋が完成! いえーい 雑だな素敵! クロエール様ならもっと凝るだろうなぁ。そもそもこんな状況にならんか! お腹の調子も胃薬で治ったよ! また生水飲めるぜ! ……やっぱりせめて沸かしてから飲むか。



 ウオオオオオォォォ!!

 うわああああぁぁぁ!?



 ん? なんか魔物と人の叫びが聞こえるな。ちょっとだけ様子を見てくるか。




 深手を負った青年が地面に半分横たわりながら黒い狼に剣で牽制してる。


 ガルルルル


 あっこれほっといたら死ぬな。


 私は黒い狼を後ろから剣で引き裂いた。


 ズシャッ キュンッ


 狼って食べれない? 折角殺したし、試してみるか……。あれ? この男、傷が深くて気絶してる。


 ズルズル


 私は男を抱えて小屋に戻った。傷薬あったで塗っとくか。包帯でぐるぐる巻きにしたる。






「うっここは?」


 隙間風が吹く小屋に男は寝そべっていた。怪我のあった足は包帯でぐるぐる巻きだ。横には葉っぱによそわれた何かの焼肉。土の地面には[私を食べて]と書かれていた。


「誰かいるのか?」


 シーン


 反応がなかった。


 ぐぅ〜


 ……有り難く頂こう。


 ムシャムシャ


「……美味いな」






 すー すー ハッ


 男はいつの間にか眠っていたようだ。


[私を食べて]の文字の横に葉っぱの上にのった焼肉。


 またか。あっ包帯が替えてある。外に出てみたが誰もいない。


「誰かいないか?」


 シーン







 すー すー


 お邪魔しまーす。って私の家か。どれどれ、おっ傷がだいぶ塞がってるようだ。もうすぐ帰ってくれるかもな。よしよし。包帯をぐるぐるしてーー


 ガシッ


「いーーやーー!?」


 腕掴まれた!? 顔見られた!?


「驚かせてすまない」


 クロエール様の次に良い声だな! 私の顔をまじまじ見るな〜!


「男のなりだが、その声の高さ女か?」


 しまった!? 低い声で喋るようにしてたのに思わず素の声出しちゃった。


「傷の手当てに食事まで用意してもらい感謝する。怪我が治るまでここにいて良いだろうか? この状態で帰るわけにはいかない」


「……何か。ご事情があるのですか?」


「少し長くなるが聞いてくれるか?」


「はあ。まあ、どうぞ」


「私は騎士をやっていてな。主君は良い方で、私は気に入られている。だがな、私は不実な事をしている。主君の妻と関係を持ってしまったんだ」


 ドロドロですねーっ。まあ、謀反を起こした私よりはマシですね。


「今でも関係が続いて、ある日助けた女性に媚薬を盛られた私はその女性と一緒に夜を過ごしてしまったんだ。それがバレてしまい主君の妻に顔も見たくないと怒られてしまった」


 ドロドロにドロドロが加わってきたぞ。第一そんなことを私に言って良いの? あっ構わずすらすら喋りますね。


「私は馬上試合で名誉挽回のチャンスを貰った。優勝出来たのは良いのだが、足に怪我を負ってしまった。完璧な勝利でないと彼女は納得しない。それで、私は逃げた」


「あの〜。その関係を止めるって選択肢はないんですか? その彼女ちょっと面倒じゃないですか?」


 真面目な顔で首を振られた。イケメンなのに残念だな。あっクロワール様の次にイケメンね。


「この愛は誰にも止められない。彼女は苛烈な性格だ。私は振り回されてばかりだが、抜け出せない」


 なるほど、ドロ沼な愛憎劇にハマってると。悲劇な自分に酔うタイプか? こういうのって周りが騒ぐほど盛り上がるんだろうか。


「はあ。まあ。分かりました。このままご静養して下さい」


「すまぬ」







 ふむふむ傷は塞がってもう大丈夫そうだね! じゃあ、お帰り下さい! 私は快適な1人生活に戻るんだー!


「世話になったな。何か欲しい物はあるか? 礼をさせてほしい」


 話を聞いて分かったのだが、この騎士はシュバリエ出身らしい。その国は騎士の国で武器が素晴らしかった筈だ。


「じゃあ。斬れ味の良い剣と鍬が欲しいです」


「わかった。必ず届けに来よう」







 鍬で土を耕す。少し離れた場所には2人の青年が私を眺めていた。助けてから騎士までよく来るようになってここは賑やかだ。2人は暇なのか?






 しゃがんでたパランはやや垂れ気味の目を細めて横に立つ騎士を見上げた。


 この男今日も来てるな。もしかしてリューエールの事が好きなのか? リューエールの事をよく知らない奴には譲らんぞ!


「騎士様でしたっけ? ここには何しに?」


「主君の妻が彼女に恩を感じたそうで、護衛するように命じられた」


「え? 主君の妻って王妃?」


「そうだ」


「リューエールとその王妃様って面識あるの?」


「ない」


「じゃあ、何で恩を感じたの?」


「私が救われたからだ」


「へー。騎士様は王妃様に相当気に入られてますねー」


「ああ」


 照れおったよこの騎士。えー。護衛かー。リューエールの事心配だし、護衛がいるのは心強いけど複雑だわ。


 ガヤガヤ


 ん? 人の気配が近づいてきた。


 ガシッ


「2人共小屋に入って!」


 必死な顔でリューエールはパランと騎士を小屋に引きずり自身も入り声をひそめる。草が積まれた小屋は周りの緑色に同化するようになってる。


 その前を6人通過した。足音が聞こえなくなり、そもそも僕が隠れる意味がないことに気づいて外に出ようとしたが、リューエールに阻まれた。


 ガヤガヤ


 どうやらまた同じメンバーが前を通過していった。どうしたんだと不審に思った。


 ガヤガヤ


 ……またか。もしや迷子?


 パランは小声で「リューエール。もしや、連中は迷ったんじゃ?」


 リューエールは小声で「なんて間抜けな連中だ。チッ」


 外に出るリューエールは何やら地面に文字を書くと戻ってきた。


 ガヤガヤ


「おっ! 地図だ! 有り難い! ん? お礼は濾過装置でだってさ!」


 パランはニヤリと仄暗く笑うリューエールをなんとも言えない表情で見つめた。


 こいつちゃっかりしてんな。連中科学者っぽいし確かに濾過装置とか作れそうだな。



 こうしてリューエールは濾過装置を手に入れることが出来た。やったね!




 ごくごく


 水が美味い! プハー



 うわあああぁぁぁ!?

 ウオオオオォォォ!!


 またか! あっ騎士も一緒に行くって! んじゃま、人助けに行きますか。


 ずささささ


 おや? あれは見た事ある顔だなぁ。やっべ。まじやっべ。ぶっちゃけ見捨てたい。あんちくしょうの部下じゃん。しかも、また黒い狼かよ。悪の代名詞かよ。


「うわあああ!!? 死ぬ!!? やめろおおお!!」


 ガルルルル


 しゃあない。助けるか。


 狼の横っ面を剣でサクッと斬り裂いた。


 グキュッ


 斬れ味最高。流石シュバリエの剣だわ。また食材としていただくわワンちゃん。騎士が「凄いな」って褒めてくれた。


「お前はまさかリューエールか!?」


「さあね。そのリューエールって奴誰かさんの所為で死んだんじゃね?」


 あー思い出すだけでも腹立たしい。私はこの男の主君に騙されてクロワール様を討った。そして、私は謀反の罪でこの男の主君に追い詰められこの森に逃げてきた。


 この男ことトロワは宰相だったかな。トロワの策で私は謀反人になったに違いない。


 トロワを観察すると肩から血が滲んでる。狼に噛まれたのか?


 気に入らないが仕方ない。


「ついてきな」


 私は歩き出した。トロワは「はあ!?」と戸惑っている。私は忌々しく睨んでやった。


「だから、怪我を治してやるって言ってんだ!」


「正気か? 敵なのに?」


 チッ 面倒だな。私は騎士に運んでやってと頼んだ。騎士は頷くとトロワに肩を貸した。トロワは騎士なら、信用できるのか抵抗はしなかった。





 傷薬を塗り包帯でぐるぐる巻きにしてやった。トロワはされるがままだった。小屋を観察してたのか「こんな場所に逃げてたか」と内装を見て感心半分呆れ半分のようだ。「おかげ様でね」と嫌みたらしく言ってやった。


 ずささささ


 外が騒がしいな。


 トロワが敏感に外の様子に反応した。小屋に突入してきたパランはトロワを見つけると鬼の形相になる。あの穏やかな青年もこんな顔が出来るんだ。と驚いている場合ではなかった。パランはトロワに斬りかかってきたのだ。私は慌ててパランの剣を自分の剣で食い止める。くっ。強いな!


 力に押されている私を信じられないという顔で睨むパラン。気持ちはめちゃくちゃ分かる。


「リューエール!? 何故その者を助ける!? 貴女を陥れたのだぞ!!」


「わかっている。わかっているんだが、怪我人は放って置けない! パラン引いてくれ!」


「貴女に剣は向けたくはない。貴女が引いて下さい」


「女だからか? 舐められたものだな」


 女だと聞いたトロワは愕然とする。


 女だったのか? 俺は女を陥れたのか!?


「そうだ。貴女は女です。女は男の庇護下にいるべきだ。僕の元へ来てください」


「……断る。生憎女を捨てたのでな」


「捨てられるものじゃない。……わかりました。僕が引きます」


 悔しそうに顔を歪めたパランは剣を引っ込めた。私はほっと安堵し剣を納めた。


 その後マルシェは滅び、オルディネールと改名した。トロワの事は騎士の国で匿ってもらう事にした。パランもそれならと渋々折れてくれた。こうして私の隠者のスローライフはまだまだ続くのであった。


 完


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