幕間6 ある少女の追憶
幕間6 ある少女の追憶
父という人物は、彼女を機械に乗せた。それは人型の機械だった。しかし、敬うべきものが宿っていた機械ではあった。
その機械を完成させ、操るためには、軍という組織に入らなければならない、そうも言った。
自分の意志など、持ったこともなかったし、今もない。ただ、この年の最後の大祓いの儀式でこの世を去る、それだけのために生きて来たのに、なぜまだ生きねばならないのか不思議だった。それだけだ。
軍という場所では、人の生死を・・・主に死だが・・・司るということを学んだ。どうせ死ぬはずだった自分であれば、なるほど、死ぬのは大したことではない。
また、災厄をもたらす御霊をお連れする役目の代わりに、害をまき散らす「敵」というものをあの世に送る、それも、まあ、かつての自分の役割からすればそう変わらないような気もする。随分卑小にはなったが、別に否やはなかった。そういうものか、と思うだけ。
とはいえ、自分は死んではならない、代わりはいないのだから、とも言われた。この機械を完成させるには自分が必要だから、ということらしい。どうもこの機械は自分よりも尊いもののようだ。
確かに修行中に何度か感じた尊いものを、この機械からも感じる。
しかし、それならば、他の社も大切ではないか。
なぜこの機械だけが大切なのか、誰も教えてくれない。
かなり後になって「計画」ということを教わったが。
軍は、人の・・・魂ではなく肉体の・・・殺し方を彼女に教えた。「味方」の軍人と協力して戦うための方法も。しかし、「味方」という人間は理解できなかった。なぜ教本通りにしないのか、なぜ軍律を守らないのか、なぜ無駄なことに時間を費やすのか、そして、なぜ己の死を恐れるのか?
彼女は死ぬなと命令を受けている。しかし、「味方」はそうではない。では、死ぬまで戦えばよいではないか?それが軍の命令ならば。
だから、彼女は、「味方」を時に説得し、時に脅迫し、それでも間違った行動をするならば、正しい処罰が下るように行動した。
それは、ますます彼女が「味方」を、「味方」が彼女を理解できない存在に遠ざけるだけだった。
困った軍は、彼女に「上官」をつけた。全ての判断は「上官」に従う。それは軍律の上で正しくもあるから、彼女は当然だと思った。
ただ、今の「上官」も、理解不能な「味方」だった。結局その「上官」は彼女を機械を動かすための「部品」として、扱うことにしたらしい。
その「上官」の指揮下で、初めて実戦に出ることになった。
しかし、その中で、突然「上官」がいなくなった。誰も自分に命令しない。できるのは、この機械の機密を守ることだけ。ならば、そのために最善の行動をしよう、そう思った。
ところが、そこに「少尉」が現れた。命令も出ていないのに「味方」を救出する?充分怪しい行動である。「間諜」と思われて当然だ。しかし、今にして思えば、これはこの困った「少尉」の奇行の中ではかなりマシな方だった。
「少尉」と一緒にいればいるほど、その軍人らしからぬ奇行に困惑したものだ。
しかし、まさか「少尉」こそが、「実験」に、この機械の完成に必要な存在だったとは!・・・不思議だ。彼女は驚き、困惑し、怒り・・・そして、あの時、初めて笑ったのだ。




