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皇紀2701年の零式  作者: SHOーDA
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第14章 対峙

第14章 対峙  


 第二試合の結果を見て騒然とする本部の中だが

「立花、どこまで予想通りだった、お前にとって?」

 武内は平然と立花技術中佐に下問していた。

「一試合目の勝敗だけですな。後は決勝の結果も予想通りです。」

「決勝はこれからだと思うが?」

「始まる前から、もう終わったも同然。目に見えていますな。敷島くん。」

「は~い。」

 再び楽しそうな敷島の声。

「でも、まあ語ることは、あまりありません。なにしろ、神藤もと少尉が見せた実績の大部分は、副操縦士、立花三飛曹の霊力があってこそ。第二次外気圏戦役もまたしかり。その立花三飛曹が対戦相手の副操縦士。しかも主操縦士の鮫島大尉は上官で、その操縦技術は互角以上。あらゆる面で、勝つのは壱甲改でしょう。お、すまないね。」

 敷島は、茶を淹れなおしてくれた白鳥に礼を言った。その茶葉が、さっきの出がらしを一度処分して、また回収し、淹れなおしたものであることは当然知らない。

「さっきも似たようなことを聞いた気もするが・・・ま、せっかくの勝負だ。楽しく見学させてもらおう。」

 武内は椅子にふんぞり返った。

「それよりも・・・あの計画は実働するのか?」

「それも、ほぼ。決勝の勝敗に関わらず、の予定です。」

ここで駒泉も話に入ってきた。 

「うん。陸軍としては、壱式甲型の量産が始まるならば、新乙兵の採用も辞さんよ。」

「新乙兵の採用・・・新年度から女子にも霊力検査を義務付ける、と。やめてほしいな。それでなくとも民力の低下はただならん。この上、女子まで軍に持っていかれては社会そのものが崩壊するぞ・・・神威省が言うべき話でもないが。」

「だから、一般の兵としては採用しない。あくまで、霊力が優れた者のみだ。年間に最大でも100は越えんよ。」

「では言いなおそう。十代の少女を軍人にする?今以上に社会の、軍の秩序が崩壊するぞ。」

 武内と駒泉はしばらくにらみ合った。

 やはりここは空気が悪い、白鳥はため息をついて、また抜け出すことにした。


 第一整備場では、零式が整備を終えていた。白鳥は引き上げ途中の青木に軽く挨拶をし、昇降機に上がって、中を覗き込む。

「また来ちゃった~・・・洋一郎くん?」

 洋一郎の様子がおかしい。彼にしては見慣れない・・・重苦しい表情である。一度、海神の中で、市民への攻撃を示唆された時に近いが・・・。

「どうしたの?何か・・・怒ってる?」

 洋一郎は瞬きをして、不思議そうな顔をして見せた。

「え?そうですか?」

「さっきと違うよ。さっきは、きちんと言えたことが、今は言えないのね。」

「・・・何もありませんよ。」

 表情を、声を変えまいとした。が、できなかったのか。自分は未熟だ。しかもそれを認めたくない。

「そう。」

 白鳥は、伊達に問題多い少女兵の衛星兵として採用されていない。相手の心理的な変化には敏感だ。一応大人でもある。ここは無理をすると、洋一郎ですら意固地になるであろうと判断できた。迷ったが、それでも、ついこの繊細な年下の少年を放っておけなかった。

「戦いに無理するな、なんて言えない。例え実戦じゃなくても、あの子と戦うんだから、きっとつらいよね・・・でも。」

「すみません、中尉。・・・試合前です。一人にしてもらえますか?」

 洋一郎は白鳥が自分を気遣ってくれていることがわかっていたが、この時はそれが煩わしかった。ただ、やはり、今は触れられたくなかった。そのことに、自分の心に。そのいら立ちが、白鳥に向けられた。白鳥を拒絶し、正面装甲を閉じる操作をさせた。 

「あ、洋一郎くん!」

 装甲は固く閉じられ、彼のかたくなな心情を表しているようだった。

「あ~あ・・・壱甲は鮫島大尉がいて、園香ちゃんに会えないし・・・。」

 あの二人が、戦う。あんなに・・・あんなに?何て言えばいいんだろう?

 仲がいい?確かによくくっついてたけど、軍務以外の会話がほぼない。

 息が合う?戦闘中は合ってはいるけど、根本的には、水と油。軍人としては完全に真逆。いつも衝突ばかり。

 でも、二人でいるのが、とても自然だ。

 たった何日か・・・二、三日しか一緒じゃないって思えないくらい、二人でいるのが当たり前に見える。

 だから、零式に洋一郎一人、壱甲に鮫島と園香という、ちょっと前では当たり前の組み合わせが、とてもおかしく白鳥には感じた。

 零式が寂しそうだ。そう思えるのは、自分が感じすぎなのだろう。


 酷似した機影の二機が対峙する。色彩こそ、零式の濃紺、壱甲改の緑に斑状迷彩と異なるが、ともに右腕に七二式20mm機関砲を携え、胸部は操縦席があるために厚く、頭部は各種探査機が集中し人の頭部に近い。

 しかし、操縦士は一対二。また、未だ零式が実験機扱いなのに対して、壱甲改は量産を視野に入れながらも性能を向上させ改修した機体である。

 零式の勝算はない。そう思う者が大部分であり・・・洋一郎自身もまた、その一人である。


 園香は、壱甲改の副操縦席内にいた。目は閉じている。どうせ情報は封鎖されている。副操縦士としての役割はない。ただの霊力供給器と化しているだけ。なら、何も見ない方が、周囲の状況はわかる。こう言うと鮫島に「いい気になって」などと言われるので、もちろん何も言わないが。

 本部からは、とても大きな気配が二つ感じられる。少し人と違う。白鳥中尉もいる。あの人の霊力も実は大きくて澄んでいる。戦神機にも乗れるのではないかと思うが、これも少し違う気もする。

 本部の前にも大きな気配が二つ。「鉄神」と「操神」。強い。あの「操神」の砲撃をよくはじけたと自分でも思う。改修前なら、或いは自分が障壁強化に専念していなかったら無理だったと思う。

 ・・・そして、近くに、少尉。懐かしい気配。

 しかし、今の少尉の気配は・・・普段と違う。さっきとも違う。どうしたのだろう。

 少尉の霊力の波が揺らいでいる。

 少尉の霊力は、強くないとみんな言う。機械がそう測定しているからだという。

 違う。彼の霊力は大きく、ただなぜか一度に大量に放出されないだけ。その分、少量でも恐ろしく純粋で圧力・・・霊圧とでもいうもの・・・が強い。例えるなら、まるで深海の底で圧縮され結晶した宝石のように、純粋に凝縮されたきれいな青。

 さらにその制御。少量であるが故だろうか。とても効率よく繊細に霊力を操り、零式という機体を自由に操縦する。

 他の人がなぜ彼のすごさに気づかないのか、いつも不思議だった。

 しかし、今、少尉の霊力は、深い海底ではなく、海の表面のように、波打っている。

 少尉。念信で問いかけたい。しかし、今は敵。


 信号弾が上がり、開戦を告げる。

 動いたのは零式。素早く前に出て距離を詰めようとする。よほどの至近距離以外は攻撃は無効と悟ってのことだろう。初手の一手で勝機を得ようという洋一郎だった。

 壱甲改は無造作に20mm機関砲を放つ。

「それは読んでた!」

 20mm砲弾をかわして更に詰める零式・・・だが、強い衝撃波!

 20mmの弾が障壁をかすっただけで、零式は姿勢を大きく崩し、後方に飛ばされた。

 戦神機としては軽量の零式だが、推進機関によって進む勢いを、一射で完全に吹っ飛ばされた。

「20mmの威力じゃないってわかってて、なおこれか!」

 一発の威力は凱山の127mmほどではないが、連射されることを考えるとその威力ははるかに大きい。

 零式を後退させながら態勢を立て直す洋一郎だが、そのスキを見逃す相手ではない。二射、三射と立て続けに砲撃される。

 姿勢を崩しながらも直撃は避け続ける。それでも至近弾を食らうごとに右に、左に

後方へと揺れ続け、一撃ごとに零式の動きが鈍くなっていく。


「これは、もう終わったかな。」

「ええ。早かったですが・・・こんなものでしょう。」

 本部では立花と敷島が、勝負が予想通り終わりそうなことに満足していた。


「・・・あんなものではない、そう思ったのだがな。」

 本部前では鉄神と操神が並んで試合を見ていた。

「鋼田少佐、買いかぶりとは言いませんが、壱甲改は本当に強い。さすがにムリでは。」

「そうかもしれん・・・が、な。まあ、そろそろ審判も出番かもしれん。」

 黒い機体は戦闘空域に向かうことにした。


 零式は更に至近弾を受け、姿勢制御に失敗した。機体は失速し、落下を始めた。

「打つ手は・・・ち。ない、か。」

 正直、最初から、勝てる気がしなかった。せめて鮫島大尉が油断してれば最初の一撃くらいは・・・そんな投げやりな策だった。

 崩れた態勢で、それでも20mm機関砲を乱射する。奇跡的に数発は当たったが、当然弾かれる。とても不快な、いらただしさが洋一郎を襲う。なぜかわからない。

 壱甲改を見ているだけで、イライラする。

自分でもわからないくらい、この戦いには集中できない・・・。勝たなければ、先に進めないのに。目指すものは、手に入らないのに。

 機体は落下している。立て直して・・・立て直して・・・どうする?

「どうすればいい、なあ、相棒?」

 愛機に問いかける・・・あるいは、相方に、か?

(・・・バカ。)

 え?

(おい、おい?園香クンか?)

 返事はなかった。だが胸がうずく。そして彼女からの一声でもたらされたうずきが、ようやく気づかせてくれた。なぜ、この戦いにこうも集中できなかったのか?


 嫉妬だ。

 園香が、あの鮫島と一緒にいて、ヤツの機体を守っていることへの。

 自分の霊力が弱くて、まともに戦えないことへの。

 本当にくだらない嫉妬だ。それで、戦いに集中できなかった。


(すまない。・・・これじゃ戦友失格だな。)

 

(だから、バカですか!)

 え?

(借り物の偽物の壊れ物のバカの・・・ダメ少尉!人殺しはイヤだって散々言って、軍も辞めたのに、わざわざこんなところにまで来て、もう終わるのですか!)

ダメ少尉?・・・全く、また罵倒する言葉が増えやがった。

(そんな半端な覚悟で何しに来たんですか!)

・・・あれ?

(この戦い、全然少尉らしくない。こんなんじゃ、最初から負けですよ!)

 ・・・らしくない?

(戦う前から、負ける戦い、そんな戦い、少尉の戦いじゃないでしょう!)

 ・・・自分の、神藤洋一郎の戦い。

 思いっきり奥歯をかむ。ギリリ。歯ぎしりをしたのは生まれて始めてか?

 思いっきり左手で顔をはたく。そして一度だけ、空を、天を仰ごうとする。

 負けられない、でも、それだけじゃない。勝つために、願いをかなえるために。

 もう一度、あの子の戦友に戻るために!

 やれることは、まだあるはずだ。

 この戦い、まだ、俺は、神藤洋一郎は何もやってはいないのだから。

(ありがとう。キミの戦友に戻るために、もう一度悪あがきさせてもらうよ。)

(礼は不要です。敵に岩塩をぶつける、そんなものです。)

 どこでそんな言い回しを知ったやら・・・星天祭のアレか?

(了解だ。俺の戦いはこれからだ。覚悟してくれ。)

 洋一郎は零式の態勢を戻さず、そのまま降下させる。すばやく左腕で噴進弾投射機を後方に投げつける。壱甲改の砲撃を遮り、大きな爆発を起こす。一瞬、目の前を爆煙でふさがれる壱甲改。そのすきに、零式は砂丘の地表近くまで降下する。

 煙がなくなり、零式を見つけると、壱甲改はゆっくりと機体を接近させ、とどめの一撃を放とうとする。


「そうやら、観念したようだな。さっきの爆煙のスキになんかやるかと思ったが、ま、どうせ無駄と諦めたか。」

 鮫島は舌なめずりをせんばかりのご機嫌で引き金を引いた・・・。

 が、突如零式の周囲に砂塵が巻き起こり、その姿を隠す。

「なんだあ?」

 軽い衝撃。立て続けに20mm砲弾の直撃を受けたらしい。もちろん、壱甲改の・・・あの人形の障壁の前ではものの数ではないが、勝ったと思った瞬間に一撃を食らい、鮫島は頭に血が上った。

「味な真似を・・・。」

 零式は地表の砂塵を巻き上げながら疾走している。20mmを連射するが、砂塵が正確な照準を妨げる。

「あれは、どういう手品だ?」


「障壁に接した砂を意図的に巻き上げている・・・そんなところですか?」

安井が映像見て、つぶやく。

「そんなことが、できる・・・のだろうな。初戦の霊力の集中も器用ではあったが。」

 とはいえ自分はそんな面倒なことはしない、と暗に鉄神は言っている。

「しかし、障壁が地表にギリギリ接する高度で、あの速度。そして、障壁で砂を巻き上げる操作・・・かなり繊細な操縦と霊力操作です。念動だけの人ではできませんね。」

 自分ならできますけど、と操神は言外に言っている。

「だが、問題は・・・壱甲改の、あの障壁。」

「ええ。不意を突いた40mmでも無理でした。ならば、勝機は・・・。」

 特機の双璧は、再びそれぞれの映像盤を注視した。


 さっきとは段違いに、集中できる。我ながら現金な性格だ、と思う。

 とりあえず主導権を握った。表面的には有利と見る馬鹿もいるかもしれない。が、

「相手は、これくらいで消耗するような霊力じゃない。」

 園香の霊力は底なしだ。20mmを防ぐ程度では大して消耗しない。

 鮫島の砲撃が外れ、砂塵が上がる。

「むしろ、大尉が20mmを打ち尽くす方が、まだありそうだ。」

 この地表での戦闘では砂塵が味方する。一方、壱甲改は丸見え。時々20mmで応射する。壱甲改は零式を甘く見て分身すらしないため、けっこう当たる。模擬戦なら洋一郎の圧勝である。が、もちろんそれに何の意味もない。相手がそう思えば。思うか、思わないか?

 がががっ。

「それでも、至近弾でこの威力・・・。」

 振動に揺られながらつぶやく洋一郎。

「大尉、どっちにしますか?」

 鮫島がどうでるか。いくら何でもこのまま20mmを打ち尽くすまでバカでもあるまい。なら、高度を上げて態勢を整えるか、逆に距離を詰めて接近戦を取るか・・・。

「まあ、一択だな。」

 来た!

 壱甲改が急速に迫る。洋一郎は一層砂塵を派手に巻き上げながら、機体をジグザグに後退させる。

 距離を詰めた壱甲改は、20mmを連射する。至近弾が続き、操縦席で揺れ続ける洋一郎。

 そして・・・出た。海に。後退を続けた零式は砂塵ではなく、水飛沫を吹き上げ、そして、海中に潜った。


「格闘戦、砂丘戦に続いて海中戦・・・いろいろ資料提供ありがたい、などと言いたくもない。」

 本部の大型映像盤を見ながら立花は吐き捨てた。勝負は見えている。所詮は時間稼ぎの小細工。しかも、海中の様子まではさすがにわからない。偵察機はともかく偵察用潜水艦は手配してなかった。

「早く終わらせろ。」

 そう不機嫌に繰り返すだけだった。

 そんな立花に武内は質問した。純粋な好奇心のようだが。

「水中では、砲撃は可能なのか?」

「ええ。大昔ならいざ知らず、今の銃砲は、薬莢が十分に密閉されていますし、発砲は可能です。もちろん射程も威力も大きく減衰しますが。」

「あっ?」

 敷島が奇声を上げたのを立花は聞きとがめた。

「いえ、前任の第一潜水戦隊では、戦神機の海中戦の可能性について考慮していまして・・・。」


「さて、陸さんの大尉殿は、ちゃんと覚えていらしたかな?」

 なにしろ未だに陸軍の仮想敵は北茶那が第一である。アメリゴ戦はあくまでオマケ。まあ海軍も歩みよりはなく、よくアラスカ攻略が発動できたと感心するし、当然そんな状態だから実際に動けば不都合ばかりでさっさととん挫する。いずれにしても、皇島国陸軍が創設以来海上戦に参加することを想定したことがほとんどないことは有名である。

 その陸軍から出向で特機にやってきた鮫島は、当然海神にいた時は不機嫌であり、潜水空母に必要と思われる戦術・戦法の学習意欲は乏しかった。

 戦神機による水中戦では、まず銃砲は大きく役割を減ずる。しかし、水中での障壁を展開して携行する火器を包むようにすれば、空中と同等の初速は得られる。そして、弾の軌道を強くイメージすることで念動による補正が加わり、射程・威力の減衰を多少カヴァーできる。攻撃対象が潜水艦程度であれば、充分な威力にまでは。

 洋一郎は、今それを実行している。20mm砲は単発で撃つ。引き金を引くごとに壱甲改までの軌道を強く念じ、命中まで制御するほどに集中する。

 一方、壱甲改の鮫島は、連射しても砲弾が全く威力なく、途中で沈降するので、後部席に怒号を送った。

「ちゃんと誘導しろ、あのへなちょこが当ててくるのに、なんでこっちの弾が沈むんだ。」

かつん。

 幾度めかの直撃。水中では戦神機の速度も激減する。互いにいい的なのだが、まともな攻撃をしているのは、零式だけだ。

 もっとも、有効弾には程遠いことは撃った本人が一番よく知っている。空中での直撃が無効な相手に、威力が弱まった水中で命中したところで、精神的な意味しかない。

 しかし、精神的な意味は、どこまでだろう?鮫島がその操縦技術の半分ほども人格者であれば、気にしないであろう。が、彼はそうではない。攻撃され続けるという状況に耐えられないのではないか。なにしろ皇島国軍の模範である。つまりは残念軍人。

「いつまで我慢できるかな。大尉殿。」

洋一郎は、思いっきり悪い顔をして笑った。わざわざ階級に「殿」をつけるのも陸軍調の呼び方への嫌味である。特機軍と海軍では階級そのものが敬称なので殿や閣下はつけない。

 案の定、壱甲改の動きが変わった。が、代わり方は少々予想外であったが。

「ウソ?」

 連射した20mm砲弾が、急に勢いを増し、零式に向かってくるではないか。あの、砲身内まで水が入った状態で、しかも連射した砲弾が全て!

「どれだけ霊力の無駄遣いだ!」

 全く、あの子の霊力は底なしだ。自分が星なら、太陽だ。燦燦と燃え続け、真っ赤な紅炎を周囲に放つ。

 洋一郎はしばらく砲撃をやめ、敵の砲弾を下に逸らすように念じながら機体を上昇させた。水圧と洋一郎の念動で下方に逸れた20mm砲弾が零式の足元の障壁をかすめ、操縦席の洋一郎を揺さぶる。

 互いの霊力、念動の強さは隔絶しているが、さすがにこの悪条件ではわずかに洋一郎が勝ったようだ・・・いや、これほどの条件でギリギリである。さっきまでの余裕が一瞬で吹き飛んだ。

「あの霊力を一発に集中したら・・・当てられるな。」

 なまじ連射して、全ての弾に力を分散したから、かろうじて避けられただけである。幸い鮫島は気づかず、連射を続け、園香には全弾の誘導を指示する。

 

 誰も見ていない海中の戦いは、表面上は、攻守が逆転し、壱甲改が一方的に攻撃し続けている。しかし、少なくとも押されているはずの洋一郎に怯みも焦りもない。先ほどまでとは別人のように冷静で、かつ闘志に満ちている。

 しかし回避するたび、零式は自然に海面へと近づいていく。このままでは浮上せざるを得ない。かと言って深度を下げようとすれば、今度は水圧が壱甲改の砲弾の味方をし、零式に直撃するであろう。それに気づいた鮫島は、ようやく余裕を取り戻した。

「やっと海から出てくれるか。それともここで直撃か、一発で吹っ飛ぶぜ。」

 鮫島は、借物は下手をすれば海中に沈んで死ぬであろう、死んでもいい気味なだけだが、と笑った。そして、零式が砲弾を避け、海上に飛び立った瞬間、勝った、と思った。砂も水もない空中戦なら楽勝である。

 壱甲改も零式に続いて浮上し、海上を飛ぶ。いた。逃げる零式に追いつき、視認した。

「照準固定・・・射っ!」

 必勝を確信して、引き金を引く。

 が、目の前の零式が不意に消えた。

 数瞬の間。

「何っ?」

 ガアン!

 次の瞬間、後ろから強い衝撃が鮫島を襲い、彼は操縦席から飛び出し、すぐに固定帯で引き戻された。まだ頭がグラグラする。

「何があった?」

 壱甲改は霊力機関を停止し、失速を始めた。

「おい、人形!・・・気絶でもしてやがるのか?」

 副操縦席からの返答はない。


「木の葉返し!・・・いや、違うな。」

 壱甲改が海上から飛び立ち、零式にとどめを刺そうとした瞬間、零式は斜め後方へ全力で加速した。そしてそこから再加速。切っ先に全ての霊力を込めた機刀で壱甲改の後ろに突撃した。副映像盤からは、したり顔の安井が解説を始めた。

「まあ、わたしの木の葉返しは、分身と後方全力加速の合わせ技なのですが、彼は分身の代わりに、敵が海中から脱出した油断を利用しました。・・・しかも砲撃が効かないので得意の霊力一点集中での突撃を組み合わせた・・・木の葉返しに値しますよ。」

「さしずめ、木の葉返し・改と言うところ・・・それでも勝てんのか。」

 零式の渾身の一撃は、しかし壱甲改の無敵の障壁に阻まれ、その刃は再び砕け散った。

衝撃のせいか、さすがに壱甲改は体勢を崩し失速したが、かろうじて飛行を維持した。が、主推進機関は停止したのか、かろうじて補助推進機関で飛んでいる状態である。

 しかし零式は、完全に体勢を崩し、再び海中に落ちた。

「あれはいかん。勝敗は・・・まだ決してはいないが、海中では危険だ。救助に行く。」

「救助されたら、あの少年の敗北は決しますよ。いいのですか?」

「死なれるよりましだ。」

 そう言って鋼田は、海中の零式に向かった。

「壱甲改も、もう浮いてるだけ。何があったやら。一応様子見に行きますか。」

 愛機はまだ修理中であった。それでも予備機の九八式を見つけ、安井は本部前から飛び乗った。


「ヤレヤレ・・・あれでもダメか。キミは強いな。」

「いいえ。わたしも気絶中です。操縦士がもう一人いたから飛んでるだけです。」

 淡い色合いの、不思議な空間にいる。しかし二人とも気絶中らしい。おかしな夢もあったモノだ、と洋一郎はおかしくなった。

「それでも、それが壱甲改のウリだ。立派な勝ちさ。」

「いいえ。少尉の機刀が、いつもの愛刀でしたら、貫かれていました。」

「それも規則の内・・・できることは全部やった。それでも勝てなかった。」

 悔し気に、それでも潔くあろうとする洋一郎である。しかし、夢の中でも園香は頑固だった。

「全部?嘘でしょう。」

「え?嘘じゃないけど。」

 困惑した。それでも相手は止めない。

「なぜ少尉はいつも自分の力を小出しにするんですか?本気でその力を振るえば今だって。」

「小出し?本気?」

 とんだ言いがかりだ。彼にとって年下の少女とはいつも理不尽な生き物なのだが、今回はとびきりである。そんな力があれば、さっきまでのように嫉妬で戦いに集中すらできないなどという無様はさらすまい。

「俺はいつだって全力だよ!全力でこんなモンなの!」

「このウソつき少尉!」

 嘘つき?夢の中とは言え久々の再会なのに、なぜまたもや罵倒されなければならないのか?

「俺がいつ嘘なんか!」

「はい。そこまで~。」

 突然、第三者の声が響いた。そして空間の中心に光が渦を巻き、人型になる。

 あっけに取られる洋一郎と園香。二人の間に再登場したのは曾祖父様である。相変わらず軽薄な身なりに緩んだ顔。ヘイセイではチャライと言われるらしい。

「な、何で曽爺さんが、しかもこの前これで最後だって!」

「・・・少尉の曾祖父様・・・進藤直登!では星天祭の方が!」

「いやあ、園香ちゃんだっけ?かわいいねえ。愛想ないけど。」

 これは恥ずかしい。洋一郎は軽薄な曾祖父な言動を見るに耐え兼ね、左手で顔を覆った。

「ああ、すまない。あれで最後のつもりだったんだけど、なんかまた曾孫くんの様子が変なので、気になっちゃって。・・・で、結論だ。」

「はい?」

「だから、キミたちのケンカの原因。・・・これだよ。」

 何やら曾祖父は、黒縁のメガネをひらひらさせた。

「・・・何ですか。それ?」

「少尉。あれは眼鏡と言って視力を補正する道具です。」

「いや、そうじゃなくて・・・。」

「ん~。ちゃんと忘れてるのに。なんでかなあ。昔からキミは素直そうに見えて、結構ひねくれてると言うか、裏表なく面倒くさいというか・・・ねえ園香ちゃん。昔この子は女の子みたいな外見で・・・」

「わ~わ~っ。」

 トラウマの一つである。ヘイセイで言うところの黒歴史だ。

「結論って言ってから、話を引っ張りすぎでしょう!」

「ちえっ。ホントにサイゴなんだから、少しくらいいいじゃないか。・・・この子の前に出るってのは覚悟がいるんだぜ。」

「あ、大丈夫です。今わたし気絶中ですから。きっと霊体の曾祖父様にもそんな影響ないと思います。」

「・・・まあ、どうせ大人しく成仏する予定だから、大差ないんだけどね。」

 何の話しやら。洋一郎は話についていけず、ちょっと不貞腐れた。

「そうタソガレないの。男がそんな顔したって何も出ないよ。」

「はいはい・・・じゃ結論をどうぞ。」

 曾祖父様は、少々不満げに、自分の髪を撫でつけ、それでも話を戻した。

「キミが特機校に入る前に、ちょっと小細工したけどちゃんと忘れてる?」

「変な言い方ですが・・・覚えてませんよ。」

 ヤレヤレ、と言いたげに肩をすくめる曾祖父は、本当にそういう異人めいた仕草が似合う。

「じゃあ、ちゃんと忘れていたまえ。キミが覚えてなきゃいけないのは・・・もうキミを縛るものはない!それだけだから、とっとと目を覚ませ。そして・・・今度こそ、さよならだ。」

 そう言われた洋一郎は、急に何かに突き落とされたような感覚に陥り、そして、目を覚ました。


「園香ちゃんには、わかってたみたいだね。」

「・・・少尉の祖霊様が、少尉の霊力を制限していらしたのでしょうか?」

「近い。あの子自身が、ちゃんと制御できるまで、暗示をかけたってとこかな。で、まあ、これがその小道具。実際は飛行中とかは普通に外してるんだけど、心理的なブレーキってやつかな。」

 そう言って直登は黒メガネを振り回した。そういう仕草は、血縁には見えない、と園香は思った。

「あと、やっぱりここ数年あの子に取りついていたから、やはり霊力がこっちにも流れてたみたいでね。だから、もうこれは持ってって、俺ももう曾孫離れしようかな、と。」

 これだけ死後も自己主張があって、その上ちゃんと周りに配慮もしている、稀有な霊体である。園香は、さすがは、と素直に感心した。

「では、本当に旅立たれるのですね。皇島国の英霊としてとどまることもできますけど。」

「それこそ、まっぴらだね。あの子たちの後ろにいるのは結構楽しかったんだぜ。星天祭なんかは、さきとデートできたし。孫の嫁もきれいだし。それをやめるのに、だれが英霊なんて窮屈なものになるか。」

「・・・変わってますね。」

「キミにいわれたくない。」

 ふと、園香は小さく口元を緩めた。やはり似ている、変にわがままなところはなんかそっくり、そう思った。

「じゃ、俺はいくよ。キミには、いろいろ曾孫くんが世話になるけど、お願いするよ。で、この後、もう一戦ある。今度こそ、あの子の全力だ。相手してやってくれ。」

 似合わない、真面目な表情をつくる直登に、園香は敬礼を返した。

「・・・立花三飛曹、了解しました。」

 そして、園香も目を覚ましたのだ。


 洋一郎はすばやく状況を確認する。近くに機影?

「神藤くん、大丈夫か?」

 鋼田少佐の声がする。どうやら自分の救助に来たのか?

「大丈夫です・・・少佐。申し訳ありませんが、救助は無用にお願いします。」

 失礼かとも思ったが、はっきりと伝える。ここで終わるわけにはいかないのだ。

 負けた、と思っていた。しかし、目が覚めると、まだやれる、という気がした。何かあったかな?夢を見たような気もするが・・・。覚えていない。

 が・・・零式も、やる気だ。何か、伝わってくる。やれる!

 根拠はない。が、自分も零式も、ここからだ。やけに視界が、いや、世界がはっきりと見える。

 海上の、壱甲改の状況も手に取るようにわかる。今、園香クンも目を覚ました。壱甲改が霊力を充満させ、こちらを見つけた。あの子もやる気だ!

 もう小細工は抜き。互いの全力を出し切るだけだ。園香と戦うことが、急に楽しくなった。

「少佐、ここは危険です。離れてください。」

 そう言って洋一郎は、機体を急浮上させる。零式は完全にその操縦に応え、海上に、そして空中に飛び立った。水飛沫が大きく広がる。

「・・・なんだ。どうやらいらぬお節介だったか。」

 鋼田は、拍子抜けをしたが、気を取り直し、勝負を見守ることにした。

「少々、変わったな、また。何があったやら。」


 園香は、目覚めるとすぐに霊力機関の再起動をする。次いで自分の霊力を機関にまわす。

 来た!大きな気配が下方からやって来る。

 少尉だ。やっと本気になった。なんで力を出し惜しみするのかわからないが、今は強い力を感じる。あの、深く青い宝石がまぶしく輝いている。目をくらませるほど。

「大尉。」

 伝声管に声をかける。自分から鮫島に呼び掛けるのは、おそらく初めてだ。

「ああん?」

「少尉が来ます。今度は本気です・・・油断したら死にますよ。」

「人形が何を言ってやがる。」

「じゃ、こっちで勝手にやります。」

「何だと!」

 がん!

 下から大きな衝撃。再び前方に飛び出す鮫島。が、すぐに操縦席に戻される。

 しかしそれは強化された障壁によって緩和されていたものだった。逆に強化が遅れていたら、致命傷であった。

「今のはなんだ?」

「拳。」

「はあ?」

「零式の拳です。」

 先ほどの渾身の一撃に匹敵する衝撃が、機刀ではなくただの拳から?

 鮫島はやや理解が遅れた。それでも電探で敵影を探す・・・?見えない。

「大尉。右斜め上から、また来ます。」

「俺に指図するな!」

 そう言いながらも、その方向を見る。確かに何かが来る。速い!とっさに20mmを向け発砲する。

 が、砲弾はことごとく逸らされた。

「ちゃんと力を込めたのか?」

「互いの念動力が拮抗していれば、狙うより逸らす方が有利です。」

「拮抗?」

「今、わたしと少尉の力は拮抗しています。機刀があったら、さっきの一撃で負けてました よ。」

 接近する零式にさすがに鮫島も警戒する。

「回避する!分身しろ!」

「了解。」

 園香は残像を残し、また精神的虚影を周囲に飛ばす。無駄とは思いながら。

案の定、零式は分身に目もくれず、壱甲改に攻撃を加える。上からの拳の打撃。その速度に鮫島はよけきれず、直撃を受ける。それでもその強化された障壁は耐えた。

(さすが、園香クンの障壁だ。)

(いいえ、少尉こそ。電探から消えるとは。どうやって?)

(それは機密だ。)

 何のことはない。障壁で電波を受け止めず、流しているだけである。砂塵を巻き上げる操作は、できる。ただ、電波という微細なものを流すには、さすがに繊細な操作だけでは難しい。今は思いっきり後ろに吹き飛ばしている、そんなイメージで操作している。

 そして、砲弾も、その応用で受け流す。逸らす。

 壱甲改は、操縦士と念動者が別であり、そのため射撃も操縦も、霊力の補正が始まるまで一瞬の間がある。それがかすかに反応の鈍さとして洋一郎や安井には感じ取られる。

 それでも、逆に操縦にとらわれずに張り巡らされるその障壁の頑強さは舌を巻く。基本的な攻防は、さっきと大きく変わらない。

 装備の20mm機関砲は、水をかぶったせいか、不発。ち。なんで向こうの20mmは壊れないんだ。機刀はない。固定の7.7mmはさすがに論外。

 拳に蹴り。体当たり。さすがにつけ焼き刃では、鉄神に程遠い。

 ・・・そう言えば。規則には書いてなかったな。やっちまうか!

 ガン!

 油断したせいか、威力のこもった砲弾を受けてしまった。それでも、おや、まだ飛んでいる?思ったより自分もやれるらしい。だったら!


 零式の動きが止まったか。右腕を機体の前に突き出し何かをつかもうとしているようだ。

「何だあ・・・諦めたか。今だ!」

 20mm機関砲を連射する。園香も念を込め誘導する。・・・スッ。弾が通りすぎた・・・残像?だまされたか・・・カチッ。ついに弾切れだ。

「これもまだあるぜ。」

 両肩の固定武装、12.7mm機関銃を放つ。改修し、7.7mmから換装されたのだ。20mmには及ばないが、園香の霊力がこもるとなかなか威力がある。が、それも残像に向けてはなっていれば無効である。

「いくつ作ってんだ?」

 移動しながら残した残像は4つ。それがなくなる前に、零式の周りに青い光が集まる。そして、その光が右腕に集まった。

 来た。

 整備場にある予備の機刀が。


「物品引寄?」

「いつの間に、あんなことができるようになった?」

 本部では立花が愕然としていた。神藤もと少尉が物品引寄・・・アポーツ・・・という希少な力を使えるという記録はない。分身を作ったというのも。

資料を作った敷島も、当然驚愕している。ついでに

「そうか、白鳥くんの資料を再検討しなければ!」

 などと言い始めた。以前、捕虜になった洋一郎の救出を働きかけるために、白鳥がつくった・・・実は一部改ざんした・・・資料によれば、彼は零式に乗り霊力機関の融合・増幅の後大きく能力を向上させたとあった。その後彼の負傷のため価値なしとして結局廃棄したのだが。ひょっとしたら零式には操縦士の能力を大きく伸ばす何かがあるのか?

 新たな研究課題の発見に、敷島のメガネがギラッとあやしく光る。

「ヤバ・・・。」

 いらないことを思い出させてしまったようだ。改ざんがばれるとややこしくなる。白鳥はまたまたこっそりと抜け出し、整備場の映像盤で二人を見守ることにした。

「あれは規定違反ではないのかね?対戦が始まったら武器や弾薬の補給はできないのでは?」

駒泉が聞いた内容には、敷島が答えた。

「厳密にいうと、整備場での補給はできない、となっていまして。盲点でした。整備場以外で補給する手があったとは。これは貴重な教訓だ。」

「・・・。」

駒泉は不満げだったが、何も言わなかった。


「大尉。接近戦です。用意してください。」

 気配で零式が再び機刀を手にしたのを察した園香は、鮫島に呼び掛けた。決して話したい相手ではないが、茫然とされて勝手に負けられては、なぜか少尉に申し訳が立たないような気がしたのである。

「うるせえ。」

 そう言いながらも鮫島も20mm機関砲を捨て、機刀を構える。

 どうやらそれを待っていたらしい。零式は機刀を正眼に構え、接近してきた。

 零式の機刀は青く光を発し、まぶしいほどだ。園香は負けじと、壱甲改の機刀に霊力を送る。鮫島の指示など待っていられない。その機刀が赤く輝き始める。輝きの強さでは決して負けていない。むしろ勝っていると思った。しかし、零式の機刀が、切り結ぶ瞬間に強い輝きを放つのに対して、壱甲改の機刀の赤い輝きは一定である。刃がぶつかると、青い輝きが一瞬、赤い輝きを打ち消す。

「使い手と送り手が別人では!」

 いや、少尉と自分ならできた。しかしそうでないなら、どうしても霊力を込める瞬間がずれてしまう。そのずれが、おそらくは・・・。

 四度目の機刀の激突。壱甲改が上段から切り下した赤く輝く機刀は、下から迎え撃った青く輝く零式の機刀に受け止められ、そして、両断された。刃先が海面に落ちていく。

「さすがです、少尉。」

 そう呟きながらも、園香は霊力障壁を全開にした。あの青の結晶のような刀を防げるか。しかし、最後まで少尉の全力を受け止めるのが自分の責務なのだと思う。

 零式は、機刀を壱甲改に突き立てる。その刃先に少尉の霊力が満ちる。

 壱甲改は全身を赤い光で覆い、その突きを受け止めた。刃と交わる一点が、一層赤く輝く。

 刃に接する障壁の輝きが、赤から紫へ、そして、青に変わった時、ついに零式の機刀によってその頑強な障壁は破られ、壱甲改の頭部が貫かれた。

「勝者、零式 神藤もと少尉!」

 鉄神の宣言が、響き渡った。

 ほうっ。園香は大きく息を吐き、座席に深く持たれた。そして、ゆっくり瞳を開く。その顔は満足げに微笑んでいた。


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