幕間4 二人の大臣
幕間4 二人の大臣
駒泉勝軍。皇島国の最大勢力、陸軍の頂点にいる男である。総理大臣になることも容易いと言われている。武内は珍しく駒泉の会談要請に応じた。同席は駒泉の秘書のみ。
東都府の国会議事堂内、陸軍大臣室は、少々広い上に調度品が武内の趣味に合わない。
駒泉は日中にもかかわらず、秘書に秘蔵のスコッチ・・・ヴァランタインの30年・・・を持って来させることにした。
武内は平然と酒杯を奪い、飲み始める。
「武内くん。神野くんの消息を知らないかね。」
関白閣下を「くん」づけだが、武内は気にする様子はない。
「先日以来、少々体調が悪い。知っているだろう?」
外見だけなら20歳以上年下に見える、これも違和感のある言葉遣いであるが、当然誰も気にしない。
「本当なのか?あの神野くんが体調不良とは、この100年で初めてではないのかね。」
「こちらこそ、貴様に聞こうと思っていたのだが・・・本当に知らんようだ。」
「私が知っている?何を?」
「・・・。本題を言え。」
駒泉は相変わらずの短気に呆れつつ、腹芸なしで交渉することにした。
「例の件だが、なぜ鉄神を出さん。」
「本人に断られた。今さら六一式で出るのも乗り換えるのもイヤだ、と。」
「さすがは鉄神と言いたいところだが・・・その代わりが問題侯爵騎士の零式?どういう魂胆かと聞いている?」
上質の葉巻に火をつけ、煙を吐き出す駒泉と、それを見る武内。
「魂胆?特にないが。まあそれで勝てば、俺の要求も通りやすい。」
「・・・零式の採用はありえんぞ。あれは制式採用できる代物ではない。」
「俺が造ったものではないが・・・まあそうだろうな。通常の単座なら乙型、複座式なら壱甲・・・霊力融合が可能とする場合でも操縦士を選びすぎる。特に今回のトライアルでは条件がひどく悪い。」
「だから、なぜだ?」
「褒美だ・・・先日の、攻撃衛星への無傷の勝利。あれほどのことをしてもらった。ヤツが勝ち続ける限り、そのささやかな要求は聞いてやろうと思う。ま、俺と利害が一致するうちは。」
駒泉はチーズをつまみに酒は一口ずつゆっくり舐めるように飲んでいる。まだ一杯目である。
武内は、ひたすら杯をあおる。ほとんど一人で飲んでいる。
「あれはまぐれだろう?」
「続くうちはまぐれではない・・・運もよかったが、それも込みだ。」
「武内くんらしくもないが・・・では、武内くん。」
「乗ることはできん。」
「できんかね?」
「条件が合えば、考えるかもしれんが。」
「神野くんもそれでいいのかな?」
「やつも、だ。・・・終わったか。なら帰る。酒はうまかった。」
スコッチの瓶はちょうど空になっていた。
「貴様、最近目立ち過ぎではないか?」
そう言い捨てて武内は去った。
東都の梅雨はとっくに明けている。明るい陽射しの中、駒泉は窓際に立った。
「・・・わたしは、あと20年くらいしか、こうしていられない。急ぐのは当たり前ですよ。」
駒泉は秘書に聞こえない声で、そうつぶやいた。




