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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジーシリーズ

鮮やかな裏切り


“二十三日月”の夜。

 弦の張った銀白色のそれは、やっと地上に姿を見せた。夜の帳は薄くなり、森も城も街並みも。明度は増して行き、闇の眠りは浅くなっていくであろうことよと思われた。


「夜は早く訪れてしまいますのね……」


 若き男女が2人きり……白外壁の洋風建築物となる城の、3階部分で外に張り出されたバルコニーにて2人は至近に立ち、同じ安らぎの時を過ごしていた。


「ええ、本当に。気がつけばもう夕刻はとうに過ぎ、空は墨のように黒く……でも。貴女がそう仰るということは、これまでに楽しき時を過ごせたということ。楽しき時は、早くも過ぎ去るかに感じてしまうものです」


 男は青地の上から青銅で出来た、兜と、膝下までを覆う重い甲冑を(まと)っており、胸甲騎兵に似た身なりをしている。剣や銃器は城内に持ち込めず手持ちではないが、見ただけでは彼を王子だと判る者はいないであろう。名をリーガといった。従国ロウナの第一子次期王子である。


「ということは貴方もですのね。ふふ。お互いに時を短く感じていた、ということですわね」


 女は強国ルネサンズの王女。今2人が出席しているパーティの、主宰の娘……トゥーナといった。金に照り光る天然髪の長い毛先だけをウェーブに仕立て、胸元を大胆にも(あらわ)にした白基調のドレスで本日は参列している……とはいっても、今宵の主役は彼女であった。齢15を迎えるため、それを名目にした盛大で豪華なパーティが開かれていたというわけである。


 王子はパーティに出席する際に従者をひとりもつけず、王女も侍女はバルコニーの出入り口で待機させて遠巻きにしていた。文字通りの2人きりであるこの場には、ワイワイガヤガヤといった昼間の喧騒とはかけ離れており。わずか一滴ばかりの滴り落ちる水音を耳に届かせることが出来るほどの静けさを手に、入れていた。

 月と、風と、目には見えない遊ぶ妖精たちと。

 王女の純白なドレスに散りばめられた宝石の数々は、控えめに輝いている。


「……何故わたしを?」

 リーガは尋ねた。ずっと胸中で聞けと(うごめ)いていた感情であった。何故わたしを―― この場所に? 他にも、貴女に相応しく申し分のない王や王子……華婿候補は幾らでもいたはずだ、と。そう言いたかった。

 トゥーナは濡れた目で祈りを捧げるように手を組み、息と言葉を小さく吐きかけた。

「何故でしょうね……」

 品よく上向きにと巻いた睫毛の下に、(うれ)いを浮かべた瞳があった。リーガはそれがとても気にかかり、昼間の時分を思い出す……王女に群がる各国からのダンスのお相手の申し出を、トゥーナはひとり、ひとりと順に受け応えていっていた。リーガも数に入ってはいるが、その時には少なくとも王女の表情に影などなかったのだがと思っている。

 あまり他人とは打ち解けないリーガが、あの時にかけた言葉はひとつだけ。


『お綺麗ですね』


 それだけであった。

 それがトゥーナの心を打ち起こしたというのか。リーガには疑問である。


 何故と尋ねてはみたものの。ずっと黙り(うつむ)いている王女を見下ろし、リーガは答えを待っていた……また静かな時が流れていく。何故、わたしを呼び出しこの場へと……数ある候補の中からわたしをと。膨らむ期待と自信を辛抱するのに無駄なエネルギーを費やしているのではないかとリーガは心中で一笑してしまった。


 だがやがて堰を切って、王女トゥーナが重い口を開き話し始めると。リーガの握り締められていた(こぶし)に次第に力が入っていくのであった……


「我が国ルネサンズは、ロウナ国に重圧をかけたと聞きます。ロウナは、かつて独立した国として、内陸で採れるミイル―― 鉄のような鉱物を採掘でき、それで豊かに栄えた国だったと。しかし近年、連期として長く続く酷い悪天候による不作と、底をつき始めたミイルの資源力によって、国は危機に……それで我が国は」


 リーガは途中で口を挟みトゥーナの瞳を真剣に見つめた。「ロウナを従属国とさせました」

 言ったが、リーガは少し笑う。「と、仰りたいのか、王女?」 リーガの物言いは、ただの皮肉であったのだが。

 トゥーナは真摯に受け止め続けている。


「周辺諸国にお金と待遇や優遇で働きかけ提携を結び、ただでさえ財政と下級貧困で苦しいロウナをさらに孤立させたというではありませんか。それが果たして故意によるものなのか真偽の追究とまでは行かずとも、貴方の国は、窮地に立たせられたのだと。わたくしには……」


 王女は胸の内を痛めている。純粋可憐で、まだ擦れてもおらず世間を知らない幼き少女なのだとリーガは理解した。年の頃は15、と。自分と同じである。

 せっかく握り締め潰しかけていた拳が緩んでほどけて行きそうになったのを(こら)えた。そしてリーガは自分の感情をひたすら追う。この儚き夢のような女を今、包み抱くのか。それとも……。


 ―― これまで築いてきた信念を貫き守、る、の、か?


 ……


 リーガという男はトゥーナを(ふところ)に抱いた。「……」


 トゥーナは祈りを捧げたまま。リーガの大きな胸に我が身を預け、悲しみの瞳はまぶたで閉じ込める。

 ミイルで出来たと思われる鎧は熱を決して通してはくれず、トゥーナにまで体温は届かなかった。冷たくあしらわれを感じさせないようにと、リーガはとても力強くトゥーナの肩を抱いて耳元に。自らの顔が触れる所にまで近づけて抱いていた。

「貴女にもうひとつ教えて差し上げよう……」

 吐息の音と心臓の音がトゥーナの中へと進入する。リズムに乗って、耳たぶに可愛らしげに着けられているピアスから装飾で垂れていた小花がゆらゆらと揺れていた。

 甲冑の下の、血管が浮き出たリーガの骨ばった腕はトゥーナの香漂う麗しい髪を愛おしく何度も掻き撫でている。

「わたしの……王妃である母は」

 リーガの湿(しと)り目の行き着く先は、白く汚れなき月光に晒されて水浅葱に照る冷やかな床であった。俯いていたトゥーナは知らない。リーガという男の体躯に覆い隠され見え気がついていないこと。


 此処は孤を描く形状の手すりが外に突き出たバルコニー。リーガの背に手すりはある。

 手すりを超えれば向こうへ落下する。見渡す下は一面の林冠、常緑針葉樹林が、地平の線まで続いている……薄き闇の森の中から、風に似せて騒ぐ音が立った。

 ガサ。


 ひとつではない。

 ガサ、ガサガサ、がさ。


 何重にも、衣と葉の擦れ奏でる音がする。


 がさら。


 やがて正体が明らかとなった時。王子リーガは口元を歪め、乾いて笑った。

「母はあなたの……国の王に人質となっているのですよ?」

 恨みを込めて。

 眼は光る。

 王女トゥーナは身を離そうと、腕を思い切り突き伸ばした。しかし。

 それより素早く腕は絡み取り巻かれ、王女の背後から脇の下に差し入れた王子の両手は首の後ろに組まれて。王女は強く締め付けられた。「何を!」

 羽交いじめとされた王女の抵抗は、刹那途切れた。何故ならば、バルコニー内部にはすでに他の者がひとり、またひとりと増えて幾人立ちいたからである。

 恐らくは樹を伝い、門の外部からの侵入であろうと王女は瞬時に察知した。

 助けを呼ぶ……呼ばずとも、これもすでに怪しい物音を聞きつけて、侍女は兵をすぐさま呼んでいた。

 場は騒然と。漆黒の衣を覆い被った外部者と、駆けつけた正装、礼装の軍服で着飾った将官、下士官、兵で埋まってしまう。

 その中で。

 リーガは黒の覆いを被った者のひとりから、刃渡りが30センチほどの細身である剣を受け取った―― そして。王女の首にと構えて睨み、場の人間の動きを制しにと脅す。

「王女の命、頂戴する」

 王子は有利な立場にあった。誰もが思うであろう、優越の位。だがしかしである。


「王子。国のために、死んで下さい。我が国は、強国の従国となるべきなのです」


 王子リーガの一番傍らにいた黒の覆いの者が言った。

 思わぬ所からの声の出現に、王子は自らの耳を疑い、そち傍らへとよそ見をしてしまった。「何だと?」

 王子が(いぶか)しく眉ひそめている隙に。よそ見とは反対側からである。王子の片腹を、別の黒の覆いの者が手に持つ剣で躊躇(ためら)わず、ひと思いに貫き刺した。「すみませぬ……」 暗く表情の見えぬ者の手と言の葉の意味は、合ってはいない。おかしいであろう。詫びるのであれば、何故このようなことをする?

 これは裏切り。

 黒の覆いの者たちは、王子と共謀して集った、小規模ではあるが仲間であった。

 リーガは王女であるトゥーナを殺そうと企んで初から来ていた。国のため、貧民のため、母を捕られた自分のために。

 己の命を懸けて、己の実力で可能となるべき範囲ごとをするのだと。これまでに、思考を一日始終と毎日繰り返し考え苦しんでいた。そこで得た結論とは、警備と自己防衛の薄い王女を狙うことであった。

 威厳慎ましい王や王妃を狙うより、誕生の日で浮き足立っている若き王女を狙うが易かろうと判断し……たとえ最期は無様に敵なる剣で果て倒れて過ぎ、女、子どもを狙うとはと俗世に卑怯で罵られようとも。

 過度に権力強き国―― 強国に一矢でも報いることが出来たならば(これ)、わたしの本望なりと――。

 無力さの諦めで、塗り固められた心は事を起こすに至ったというわけである。


 しかし予想外のことが。腹に刺さる裏切りの剣。

 王子は憤慨しながらも。本能が自らの剣で、ある所業を成し遂げようと動き出していた。

 ―― 王女の首を斬る。ザシュ。


 生温かく、赤き廉潔の血は湯が雨のように斬り口から噴出される。

 王子だけでなく周囲の者にも浴びてかかった。「ひやあああああ!」「ぎゃああ!」

 名を呼ぶ声も(そぞ)ろに。「トゥウウウナァァア!」

 出血の量から見ても、王女の方が救いがない。ずるりとリーガの腕から滑りよく落ち、堅き床が出迎えていた。痙攣していた身は、静かに息をひきとり沈み果てる。

「ざまを、見るが……いい……」

 王子の両目からは赤き筋の―― 涙ではないがそう見えるものが流れていた。

 わたしは全てを失ったと……カシャンと激しい音で王子は剣を床へと落とす。

 グラリと傾いた体を、背中に触れた手すりが支えてくれそうであった。王子は喜んで体重を手すりにもたれかける。ギシ、と微かに軋みの音をさせていた。

 腹の剣を抜き、出血を止めようと手で塞いでも。ドクドクと熱いものが後押しで流れてきていて止まらない。


(裏切りがわたしを強くするのだ……)


 仲間は魂を相手に売ったのだという。もはや悲しみの境か峠、一線など、越えてしまって悲しくも何でもなくなっている。そしてリーガは終焉をひとり、迎え入る羽目にな、る。


 ―― かと思えば。


 パンッ、パパン。

 軽い音が数回と、叩かれたように弾き出された。銃声であった。

「ぐああ!」「ひい!」

 悲鳴が飛ぶ。王子を囲んでいた、黒の覆いの者たちの醜く詰まった声が。

 胸、頭、手足。千切れはしなかったが、穴が開いていく。

 撃ち始めたのは王女の侍女が呼び、駆けつけていた将官、兵たちや従者であった。「撃てぇ!」 それぞれの武器が、黒の覆いの者たちを撃ち倒していく……ひとりも残さず全てであった。「止め!」

 ひとりも残さず黒の覆いの者たちは―― であったが、王子だけは撃たれずに外されていた。

 もう我の生涯ここまでと決めてかかろうとしていた王子リーガに、(はなむけ)の花火でも贈られたのかと麻痺のする頭はそちらに(うつつ)を抜かしそうになる。

 はっきりとも言い難いリーガの脳は、答えを求めようとしていた。

「何ごとだ……?」


 半ば信じられない、青白い顔をして腹を押さえながらリーガは手すりに片手を預けて崩れそうな膝を必死に堪えた。仲間は自分を裏切った、強国を崩壊とまでは無理でも王女の殺害ということで痛手を王に与えてやるのだと誓い合ってきた仲間は仲間ではなかった、あろうことかひょっとしたら金で仲間を買われて自分だけが取り残されてしまっていたのかも知れない……リーガは混乱している。

 わたしの仲間たちと、こいつら王女の側近はグルではなかったのか?


 撃たれ無造作に寝たかつての仲間たちの(しかばね)は、リーガに言葉なき問いを投げかけている。さあどういうことだろうか、と。



「鮮やかな裏切り」



 初めて聞く声が響いた。


 ……落ち着き、凛とした口調で通りのよい女の子らしき声色の。

 不純な物など混じりない、清廉さを表現したかのような澄んだ声……


 聞いた途端に背筋がゾクリとし、毛が逆立った。

 それは王子だけではなかったが。

「誰だ……」

 見物人を含めて場にいる者は総立ちで隣人と身を寄せ合い、押し黙ったままで時の経過を待ち様子を見守っている。

 その中から、パールグレイを基調としたドレスの女が前に進み出て来ていた。顔が「私だ」と言明している。

 一定の距離を置き、女は背筋を棒のように真っ直ぐにして立ちリーガを正面で捉えていた。

「鮮やかな……だと?」

 リーガは、甲冑の隙間から覗く傷口を痛そうに押さえて、とめどなく流れ滴り落ちる汗を拭きはせずに放っておいた。汗の量は尋常ではなく、息も絶え絶えで立っているのがやっとの状態である。

 女が言う、鮮やかな……何が鮮やかだというのか。馬鹿を見る目つきで鋭くリーガは女を見つめていた。


 女の顔は厚めの化粧で白く、紅は端整に。美しく固め繕われている。

 フ、と息を短く吹くように笑っていた。

「私のことよ……お前が手にかけたのは、私の影武者」

「……か……!?」


 リーガに目も当てられぬ衝撃が加わった。酷く焦り、リーガは地面に伏して先に眠る血だらけの死体を急ぎ見た。顔は下を向き不明ではあるが、白であったはずのドレスはもう白とは言えず、赤と臭いにまみれている。

 リーガは頭を整理する……やがて判った。全てが判った。

 殺したのは王女ではなく――。

「まさか貴女(おまえ)が!」

 リーガが暫しの時をともに過ごした相手は偽者。全くの知らぬ者であったということ。

 パーティが開始とされた始まりから今までに。「……何と」 王子が驚くのも無理はない。


「私が真の王女……トゥーナ。しかし私の素顔を知る者などひとりもいないであろう。今のこの顔も、所詮は化粧でつくられた偽りの顔。気をつけよ、浅はかな勇者。嘘と偽りは、即座に見抜かねばならぬ……」


 抑揚なく、王女と名乗り出た女は続けて言った。

「私の影を綺麗だと。言葉で飾り立てたようにな……」

 王女は王子の表面など、見透かしている。王子は叫ぶ。

「お前は―― 魔女か!」

 魔女ではない。魔女という戯言は、リーガの弱りゆく精神から漏れ出たただの苦痛の叫びであった。

「王女を愚弄するか若僧めが!」

 居合わせていた、騎士の男が落ちていた剣を拾い上げリーガに襲いかかろうとしていた。

 それを制するのも、王女の威厳ある声である。

「―― お止めなさい! 私はそれを望んではいない。他の者もだ、剣と銃を下ろしなさい」

 命に従い、王女を護るべき立場の者たちは皆、渋々として後退し王女の次指示を待つに務めることにした。


 下々の者を屈従させた後に王女はさらに前へと進み出でて、腕を組み両上腕の表を衣の上からさする……変化なき顔、決して首傾かず瞳はリーガを射抜いている。さらに言うならば、見え居るはずがない迫真の猛虎を背面(そとも)に付き従えているのかとも思わすほどの(おびや)かな威光を有していた。品格と極美の象徴を愚に見せ与え占めようとする気色をも放つ。


 至極痺れ圧倒させられてリーガは……なけなしに残留する熱き血も凍え、王女に激しい畏怖を覚えてしまった。

 衆目を集め息詰まる情勢は、王女の言葉へと続いていくさまよ。


「お前に一度の機会をやろう……私は、目を瞑る。私を襲うのか、逃げを選び獣の棲みかである森の奥闇へと消え失せるのか。どちらかを、好きにするがいい」


 そのような起死回生ごとを気高き王女、トゥーナの口は物言った。

 驚き騒ぎ立てる従者をまた一喝し押し(とど)め、王女は彼らには控え伏せよと命を出した。


 リーガ……王子の浮き沈みさせられた揺らぐ信念。王女を殺害することだけに懸けてきた命運。王子は思う。わたしは。わたしだけは裏――。


 瀕死に陥りながらも、主人の手から離れて待って床に落ちていた剣を、王子は小刻みに震えながら、拾う。(にせ)の王女の首をかき斬り、固まった血で錆色に成り変わるはずであった王子の剣の、柄をひとまずと片手で握り締める。

 刃を横高く持つ。その意味は。

(月明りよ、剣に……もはや弱りくたばり寸前の、力の無い、このわたしの唯一の剣に……明るく照らせ)

 王子の乾き充血した眼は厳しく王女を捉えていた。


 しかし。

(さらばだ……)

 王子は、王女に背を向けて手すりを越える。

 下は暗闇、森の奥底であった……リーガは、落ちていく――。

「待て!」

 群衆の中から、がたいの大きな騎士が呼び、ひとり突進し飛び出しては来たが。豪腕はつまらなく空をかいて、もはや手遅れであった。騎士が手すりに寄りかかって下を見ようとも、すでにリーガの姿はなく。魔に似る闇が広がり、そこから舞い上がって夜光の蝶が鱗片を振り撒き、月の光を反射しながら見え隠れして昇ってくる。

 王子リーガは黒く溶けてなくなってしまった。

 騎士は激しい舌打ちをして暫く底闇を睨み、歯ぎしりを繰り返していた。背中に声をぶつけたのは、腹の底知れぬ策士横柄な王女の……トゥーナ。


「それでよい。未来ある若者よ……」



 ……いつか。我を討ちに再びにやって来るがいい。このような場で命、投げ捨て去るよりは、と――。

 果たしてそう意図し取り計らったのかどうかの真は、王女の心中を察する目や耳、もしくは脳を兼ね備えし賢者のみに限られる。虚を破り、曇りなき心を持つがいい。リーガの下した自己への決断は、恐らく王女の黙策然りであろう。嘘、裏切りは。


 わたしを、強くさせるであろう。



 ……


 やがて国も泰平に見えて、若き王女は17の時を迎えた。

 強国の従属である国も、ひと騒動から早2年……事の王子は行方知れず、指名手配をされるも世は無視をし安定の期にへと入っている。

 忘れられた王子を待つ者は、その言いの通りに誰もおらず。

 月下の悲しき運命は、音も無く再訪(さいおとず)れて繰り返されることとなるのであろうか……。 



《END》




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