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クラスメイトと部活とUFO4

 理科の実験で使うような、バットに水をあけて、その中でフィルムを泳がせる。


「水洗促進剤を使うね」


 蘭子さんが取り出したパッケージの封を切ると、中から青い液が出てきた。

 これにを混ぜた水に漬けると、フィルムの水洗いは短くて済むんだって。

 見るもの聞くもの、みんな初めて。

 だんだん、自分が何をしているのか分かってきている感じがあって、あたしはちょっと楽しくなっていた。

 ちらりと隣の相生さんを見ると、作業をしながら、ぽかんと口を開けている。


「なんか……見えてきたかも……」

「でしょー。だけどこれからだからね。はい、次は水道水でジャーっと」


 これは、割と長い時間流水にさらした。

 それでも、五分位かな?

 洗い終わったフィルムを、専用のクリップで吊るして……スポンジで拭く。

 そこまでやったところで、蘭子さんが大きく手を打ち鳴らした。


「はい、お疲れ様ー! 今日はここまでよ!」

「ふぅーっ」

「はひーっ」


 あたしも相生さんも、くたくたっとなってその場にしゃがみ込みそうになった。

 なんだなんだ、これは。

 運動部とはまた違った疲れ方。

 あたしも相生さんも、体力にはかなり自信があるんだけど……。


「気づかれだねえ」


 アリちゃん先輩がニコニコしながら言った。

 そして、一から十まであたしたちが作業したフィルムを、目を細めて眺めている。


「うん、悪くないんじゃない?」


 すごく満足そうに言うので、あたしも気になり、フィルムを覗いてみた。

 あれっ。

 なんか、細いフィルムにしっかりと、風景とかが写ってる……。


「すごーい……」

「すごいよね……」


 ちょっと感動だ。

 真っ黒だったはずのフィルムに、今はしっかりと分かるくらい、風景や人物が映し出されている。

 これって、フィルマ先輩やアリちゃん先輩かな?

 ……蘭子さんはどこにもいない。

 ところで、変なところから相生さんの声が聞こえたと思ったら、彼女はあたしの懐からフィルムを見上げている。

 なんでそこに入ったのかな……。


「銀城さん、背が高いからわたしもスッポリ入っちゃうなーって。でもでも、それより、これがフィルム? こんな小さいのに、ちゃんと写真が入ってて。でも、これをどうやって写真にするんですか? パソコンを使うんです?」


 相生さんの口から、疑問の言葉が飛び出す。

 蘭子さんはふむふむ、とうなずく。


「それは明日。引き伸ばし機とか色々使うからね。正直、部活の時間だと全部の工程をやるのがちょっと難しくてね」

「写真にするのも、道具を使うんですね……。想像もつかないや」


 でも、相生さんの口調は、ワクワクしてる人のそれだ。

 あたしだって同じ気持ち。

 これを覚えたら、昨日撮った桜の写真も作れるかな……?


「オハヨウゴザイまーす! 遅くなりマシタ!」


 元気な声がして、扉がガラッと開いた。

 あたしたちは、揃って暗室から顔を出す。

 入り口からやって来たのは、銀色の髪の美少女。

 フィルマ先輩だ。


「よーっすフィルマ。遅かったねえ」

「ちょっと先生と二胡一尉さんと話し込んでたんです!」


 んっ?

 先生の他に、なんか変な名前が出なかった?


「あっ、ニコちゃん戻ってきたの? じゃあカラーフィルムの現像もすぐやれそうだねえ」

「そうね。つばさちゃん、カラーの写真をプリントするの楽しみにしてたもんね」


 蘭子さんに笑いかけられると、あたしもちょっと頬が緩む。

 一瞬前に覚えていた疑問を綺麗さっぱり忘れて、あたしはこくこくとうなずいた。


「桜、早く写真にしたいですー!」

「そっか、昨日の写真だね? いいなあ……わたしも写真撮りたい」


 相生さんのこの言葉を聞き逃す先輩たちじゃなかった。

 次の瞬間には、彼女の周りに三人共ピッタリと集まってきていて。


「本当? じゃあこれから下校がてら、写真撮ってみようか! ほら、レンズ付きフィルム」

「写真はいいぞー。限られた枚数で、ベストショットを狙う! たまんないよ!」

「新しい人です? よろしくですー!」


 強烈な勧誘と、フィルマ先輩はいつもの自己紹介。

 とにかく、相生さんが目を白黒させるほど、先輩たちはまくしたてる。

 あっ、蘭子さんにレンズ付きフィルムを握らされた。

 これはもう、決まりだろう。

 あと、それから!


「蘭子さん、これ!」


 あたしはこの混乱の最中、ポケットに入れていた入部届を差し出した。

 それが何なのかすぐに理解した蘭子さんは、サッと入部届を受け取る。


「確かに! よーしみんな! つばさちゃんは私たちの仲間になった! あと一人も逃さないぞー!」

「おーっ!」

「任せるですよ!」


 相生さんは手を引っ張られ、外へと連れ出される。


「えっ!? ええええっ!? ぎ、銀城さん、助けてー」

「大丈夫大丈夫! 楽しいから! 相生さんも写真撮ろ?」


 あたしは後ろから駆けつけて、相生さんの背中をぐっと押した。

 そうしたら……。


「あーっ!?」

「つばさちゃん、すごいパワー!」

「ひえーっ」


 みんな入り口で総崩れに。

 そ、そんな大げさなあ……。

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