クラスメイトと部活とUFO3
部室の中に通された、あたしと相生さん。
そこは、相変わらず独特のにおいがして、真っ暗な理科室。
「うっ、すごい薬くさい……」
相生さんが未体験のにおいに顔をしかめる。
あたしは二回目だけど、よく考えたら昨日はちょっとしか部室にいなかったもんな。
やっぱりにおいがきつい。
二人で凄い顔をしてたら、部屋に設けられた暗室みたいなところから、にゅっと見覚えのある顔が出てきた。
蘭子さんだ。
いつものメガネの上に、透明なゴーグルを付けている。
「やっほー、つばさちゃん! 今現像するとこだよ。見てく見てく? そしてそこの彼女もー」
「はーい! 相生さん、行こ!」
「う、うん」
あたしたちはゴーグルを手渡された。
写真を現像するときに使う薬品がはねると、目に良くないらしい。
だからゴーグルで目を守るんだって。
暗室の中は、真っ赤なランプで照らされている。
なんだか不思議空間だ。
「あれ? だって昨日のアリちゃん先輩とフィルマ先輩は」
「フィルマは宇宙人だからねー」
あたしの疑問は、その人ことで片付けられてしまった。
そうか……。
宇宙人と一緒なら、ゴーグルいらないんだ。
話題のフィルマ先輩は、今日はいない。
「フィルマは掃除当番よ。少ししたら来るんじゃない?」
後から暗室に入ってきたアリちゃん先輩が言った。
四人も狭い空間に入ったので、ぎゅうぎゅうだ。
そこには、可愛いポリバケツみたいなのとか、見たことが無い道具が並んでいる。
「本格的……!」
相生さんがごくり、と喉を鳴らす。
「わたしにできるかな……」
「おっ、ということは、やる気だね相生さん」
ニマニマ笑うアリちゃん先輩。
新入部員二人ゲット、とか思ってるに違いない。
でも、確かに相生さんの気持ちは分かる。
写真って、こうして暗くしないと現像できないんだよね。すごく特別な感じがする。
「まあ、普段は窓も開けて明るいままやってるんだけどね」
そこにいきなり、蘭子さんがとんでもない事を言ってきた。
「なんですって!?」
「パフォーマンスよ! ほら、なんか神秘的でしょ……! 写真部っぽいっていうか!」
あたしも相生さんも、がっくり来た。
「でも、暗室じゃないとできないことってあるのよ。これ、赤い光はセーフライトって言って、モノクロ写真を焼き付けるためのものなのね。で、普段はカメラのフィルムは、このダークバッグっていう袋の中で引き出したり、リールに巻きつけてタンクに入れたりするわけ。それが、バッグの外でも出来るのが暗室のいいところなのよ」
「準備がめっちゃ大変だけれどもね! だから部活見学シーズンか、文化祭のときしか使わないのよ」
アリちゃん先輩が、笑ったみたいな声で言った。
天井から下がってる黒いカーテンとか、確かに用意するのは大変なんだろうなあ。
「ほんとねー。私なんか背丈が届かないから、脚立の一番上にのぼらないと」
「蘭子って一回落っこちかけて大変だったよねえ」
先輩二人は談笑しながら、手際よく作業を進めていく。
フィルムの中から、ピッカーという道具を使って中身をするするっと抜き出す。
これをリールという巻きつけ器みたいなのに巻いて、可愛いポリバケツにどぼん。
中には薬品が満たされてるみたい。
「はい、つばさちゃん、これ回して!」
「ま、回す!?」
「撹拌するの。一分ごとに一回くらいね。のんびりやって。あれ、そっちの子も手が空いてる? じゃあ今からもう一個用意するからー」
蘭子さんは喋りながら、フィルムをまた抜き出してリールに巻き付け、ポリバケツに入れる。
そして現像液とか言う液体をどぼどぼ。
「はい。これ一分に一回撹拌ね。七分くらいでいいから」
「あっ、は、はい!」
相生さんも、蘭子さんの勢いに飲まれちゃったみたい。
ということで、あたしと蘭子さん、二人並んで神妙な顔をしながら、口の中でぶつぶつと六十数えることになった。
途中で相生さんが、
「わたし、いま何をしてるんだ……」
とか疑問を口にしていた気がする。
アリちゃん先輩は人が悪くて、ニヤニヤしながらあたしたちの神妙な顔を眺めている。
元がすっごい美人なだけに、この顔がもう腹が立つんだ。
「はい七分! 現像液捨ててー」
「は、はいっ!」
あたしと相生さんは、蘭子さんの号令に合わせてバケツの中の液体を捨てる。
そこで登場するのが酢酸。
もう、あたしも相生さんも、凄い顔してバケツに流し込む。
くさいくさい!!
「三十秒撹拌! で、捨ててから定着液で……」
ああ、もう、何が何やら!!
いきなり、実地で現像する羽目になったあたしと相生さん。
暗いし臭いし意味がわからないしで、とにかく大変なのだった。