クラスメイトと部活とUFO2
相生さんと一緒に、部活に向かうことにした。
彼女、何か考えてるみたいで、ずーっと静かなまま。
「どうしたの? お腹痛い?」
「や、や、別に?」
あたしが聞いてみたら、相生さんは曖昧に笑って誤魔化した。
そして、ちらちらとあたしの顔を見る。
なんだなんだ。
「銀城さん、あのさ、中学でさ。なんで部活やめたの? あ、いや受験があるのは分かってるけど」
いきなりの質問だ。
あたしとしては、部活に未練とかはなかった。
バスケットボールが一番やりたい事でも無かったし、部の仲間とわいわいやれていればそれでよかったのだ。
そんな友達とも、高校でお別れ。
ぼっちになって、なんでバスケをやるのか。
……というようなことを、あたしは一瞬で考えた。
そして、相生さんに答える。
「中学を卒業したから。高校からは違うことやって、違う友達を作るの」
「へ……?」
相生さん、なんだかポカーンとしたみたいだった。
「や、それって、別に部活にやな思い出があったとかじゃなくて? なんとなくやってて、なんとなくやめちゃうみたいな」
「それが一番近いかなあ……。あたし、やる気はそんなに無かったから、レギュラーにはあんましてくれなかったんだよね」
そう言うと、相生さんはちょっとむくれた。
なんだなんだ。
「ず、ずるい」
「ええっ!?」
いきなりの発言に、思わず階段の踊り場で立ち止まるあたし。
一段上に立っている相生さんは、それであたしと同じくらいの目線になる。
あたしがびっくりした顔をしていたら、相生さんもハッと我に返ったみたい。
「ご、ごめんなさい!! わたしもその、陸上やめたんだけど……その、色々ムカムカすることがあったからって言うか」
「なるほど」
「銀城さん、そんなちゃんとバスケ向きっぽいのに、やめちゃうとか何か理由があるのかなって。や。人それぞれだよね。ごめんなさい」
「いいよいいよ、気にしないで」
あたしはへらへらと笑った。
人それぞれに理由があるものだなあ。
相生さんがここにいるのは、本人としてもまだ消化しきれてない理由があるからみたい。
詮索せず、自分から話してくれるまで触れないでおこう……。
あたし、君子危うきに近寄らずがモットーなのだ。
でも、この怪しい写真部に入部しようとしているわけで、そこら辺へちょっと矛盾が……いやいや。
結局この話以降、あたしたちは言葉数も少なくなって部室に向かうことになった。
部活見学日はまだ二日目。
昨日の今日だから、校内はまだまだ騒がしい。
どういう魔法を使ったのか、すでに友達を作ったっぽい女子グループが、きゃいきゃい騒ぎながら廊下を歩いていった。
……いいなあ。
見れば、相生さんも羨ましそうに女子グループを眺めていた。
ふっと、あたしと彼女の視線が合う。
なんとなくうなずき合うあたしたち。
そう、あたしたちはもうぼっちではなーい。
この瞬間が、多分あたしと相生さんが友達になった瞬間である。
理科室の前に到着すると、そこは昨日と同様、真っ黒なカーテンが引かれて暗闇の中にあった。
この一角だけ、異様な静けさに満ちている。
「……ここ?」
相生さんが聞いてきた。
「ここ。それっぽいでしょ」
「いやいやいや。待って銀城さん。写真ってほら。わたしはもっと明るい感じのイメージをしてたんだけど……えっと、ほら、キャッキャしながら自撮りしたり写し合ったり」
「ここ、フィルムカメラの部活だからなあ……。っていうか、そもそもなんであたしたちが到着するより早く、部室は現像モードになってるの」
「あ、それはね!」
いきなり後ろから声が掛かった。
あたしと相生さん、「ぎゃっ」とか叫びながら文字通り跳び上がった。
「おー! びっくりした? びっくりした? いやあ、銀城さんなんか天井付きそうだったんじゃない? 背が高いの羨ましいなー」
あたしを銀城さんと呼ぶのは、今日仲良くなった相生さんを除くと、ただ一人。
「アリちゃん先輩?」
「ピンポーン。物部有沙先輩です! ……それで、そっちの子は、もしや……!」
アリちゃん先輩の目は、背中を向けて固まっている相生さんに注がれている。
「相生さん、この人、写真部の先輩でね? アリちゃん先輩っていう……ほら、振り返って振り返って。先輩優しいから、取って食われたりしないから」
「そ、そんな心配はしてないから!」
慌てて、相生さんが振り返った。
そうしたら、アリちゃん先輩の見た目がイメージと違ったのだろう。
またびっくりした顔のまま固まってしまった。
「アリちゃん先輩、美人さんだよねえ。こんな美人が暗室に籠もって、酢酸ににおいに包まれて現像してるとは……!」
「ふっふっふ。ギャップ萌えするでしょ」
アリちゃん先輩、得意げに笑う。
そして、相生さんに尋ねる。
「で、君は誰かな? 入部希望者だったりするとお姉さんは嬉しいんだけどなあ」
「あ、は、はい! わたしは、相生希です! そのっ、銀城さんに誘われて部活見学にっ!」
希っていう名前だったのか……。
入学初日に自己紹介があったはずだけど、完全に忘れてた。
アリちゃん先輩は、相生さんの自己紹介を受けると、満足したようにうなずいた。
そして扉に手を掛ける。
「ではでは、いざご案内しましょう! 北崎女子高校写真部の世界へ!」
広がる真っ暗な教室。
漂うのは現像の時の薬品のにおい。
思わず一歩下がる相生さんの肩を、あたしはがっしりと掴んで教室の中へ押し込んでいくのだった。