クラスメイトと部活とUFO
衝撃の事実から一夜明けて。
立川駅に降り立ったあたしは、空のUFOを複雑な気持ちで見上げた。
「そっかあ……。あれ、フィルマ先輩のおうちかあ……。宇宙人が立川の学校通ってたから、UFOがずっと上にあるのね……」
知りたかったような、知りたくなかったような事実だ。
昨日までは、不思議で神秘的で、写真にも動画にも映らない理不尽の象徴だったようなUFOが、今はフィルマ先輩の顔がだぶって見える。
うーん。
あたしは複雑な思いを抱きながら登校することになった。
ガラッと教室の扉を開けると、まだそんなに人が来ていない。
入学三日目ということで、友達がいる人も少ないみたいで、教室の中は静かなものだ。
三日目も絶賛ぼっち中のあたし。
通路側二番目、最前列という微妙な位置にある席につく。
出席番号順なんて嫌いだあ。
隣の席の人も来ていて、今から予習みたいなことをしていた。
席について早速、カバンから一枚の紙を取り出す。
これは昨日、蘭子さんからもらった入部届。
「やっぱ、写真部で間違いないよね……。蘭子さん優しいし、あたし、割とあの人好きだし。アリちゃん先輩はよくわかんないけど、フィルマ先輩宇宙人だし……」
特に、入部が嫌な要素はない。
北崎女子高校は、部活動が必須。
みんなどこかに入らなくてはいけないのだ。
強制ならば、せめて気に入った部活に入りたい。
「ということで!」
あたしは入部希望の部活に写真部と、横に自分の名前を書いた。
ふと、視線を感じる。
隣の席の子……、つまり、出席番号一番の人の視線だ。
名前は確か……。
「ど、どうしたの、相生さん」
「あっ、ご、ごめんなさい」
相生さんは、慌てて目をそらした。
彼女はベリーショートに近いくらいの短い髪で、小麦色の肌をしている。
背丈はあたしより低い……いや、これはあたしが、クラスで二番目くらいに背が高いから大体みんな低いか。
まあ、背丈はないけど引き締まった体つきをしてる。
スポーツをやってた子だろう。
一旦、目をそらした相生さん。
おずおずと、あたしに話しかけてきた。
「ね、ねえ、銀城さん。銀城さんは写真部に入るの?」
「うん、そう。昨日部活見学に行ったら、思ったよりも楽しそうでさ」
「そっかあ……。わたし、銀城さんは絶対体育会系の部活やるんだと思ってた。背が高いし、動きだってスポーツやってた人の動きだし」
この子、あたしと同じような事を考えてるぞ……。
「そういう相生さんだって、スポーツしてたでしょ。日焼けしてるから、屋外でやるスポーツで……陸上とか?」
「当たり。もっとも、もうやらないんだけれども」
「……やらないの?」
この子、あたしと同じ体育会系からのドロップアウト組か……?
「色々あるのよ。部活は考え中。……でも……」
あっ、またちらっとあたしの入部届を見た。
「写真部って面白そう?」
「んー。どうだろう。あそこ、デジカメとかスマホじゃなくてね、フィルムを使った銀塩カメラってので撮る部活なんだけど。なんかねえ……パーッと桜の花びらが散ってる時に、フィルムって枚数が決まってるから、一番いい一瞬を狙ってシャッターを切るの。それで、巻き上げるギザギザをグリグリやらなきゃいけなかったりね、シャッターの音がパシャッと、指に伝わってきたりね。あ、まだ現像はできないんだけど、それは今週の終わりくらいで」
相生さんが目を丸くしていた。
あっ、なんか喋りすぎたみたいだ。
なんだろう。あたしの口から、昨日の記憶がどばどばーっと溢れ出てきたのだ。
「じゃあ……やっぱり、昨日バスに乗ってたの、銀城さんなのね」
「へ?」
「団地の前を通ったでしょ」
「あ、うん。……もしかして、相生さん」
「そうよ。わたし、あの団地に住んでるから」
団地のベランダで、夜風に当たっていた相生さん。
通過するバスの窓から、あたしが見えたらしい。
凄い視力だ……。
や、あたしも視力1,5あるけど。
「桜の話っていうことは、玉川上水で桜を撮影してきた」
「当たり」
「そっかあ……。わたし、桜にはあんまりいい思い出がないなあ。でもなんていうのかな。銀城さんが桜の話をした時、ちょっといいと思っちゃった」
おや。
これは……?
彼女も写真部に興味が?
それに、なんだかあたしと相生さん、入部届を通して親しげに会話しちゃってたりする。
「じゃあさ、相生さん。あたしが案内……ってほど詳しくはないけど、連れて行くからさ。放課後に写真部行ってみる?」
すると彼女は、びっくりしたような顔をした後、ほんの少しだけ唇の端が上がった。
「や、や、そんな興味があるってわけじゃないんだけれども、でも、特に入りたい部活は考えていないし、銀城さんが誘ってくれるなら見学に行くのもいいかなって」
素直じゃない子だなあ。
でも、あたしは彼女の唇が、ちょっとだけ笑みの形になるのを見逃さなかったぞ。
誘われるの待ってたな。
ということで、入部届提出だけのつもりが、新たな部員候補を連れて行くことになったあたしなのだった。