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星とダムとUFO4

 バスがどんどん進んでいく。

 途中、山岳救助隊って書かれた看板のある建物が。

 なんだあれは!


「あれは多分、消防署だよ。そっか、奥多摩って山の中だもんね」


「なるほどっ」


 相生さんの話に頷くあたし。

 そこからすぐに、家が少なくなった。山間の道とは言うけれど、挟まれてる感じはあまりしない。

 ちょこちょこと家があって、その家の向こうが森ーって感じ。

 そしたらいきなり、左手側の光景が変わった。

 谷だ!


「若い子は元気ねえ。右から左に忙しそう」


『席を立たないでくださーい』

 

 二胡先生はそうでもなかったけど、バスの運転手さんに注意されてしまった。

 反省反省。


 バスは橋を渡り、ぐんぐん曲がりながら道を登っていく。

 ダムに続く道のはずなのに、ひたすら上り坂なのだ!


 奥多摩駅前から小河内ダムまでは、大体三キロちょい。

 ぐねぐねっと曲がった道を走ると、途中からはトンネルの連続だ。


「またトンネル!」


「出たと思ったらトンネルだ」


 あたしと相生さんで、きゃっきゃはしゃぐ。

 子供のとき、遠足はバスに乗ってるだけで楽しかったけど、今も同じ気分。


 何度も何度もトンネルをくぐって、もしかしたら普通の道のほうが、トンネルより少ないかも知れない。

 中には怪談が語られるようなトンネルもあるんだそうで、夜に来たら雰囲気たっぷりかも知れない。

 だって、長くて薄暗いトンネルが続いてるんだもの。

 トンネルの内側はゴツゴツしてて、岩を削り出したみたい。

 薄暗いのは、明かりが少ないせいかな?


「はい、後輩ちゃんたち、前ちゅうもーく! 抜けるよ!」


 部長が正面を指差す。

 ちょっと長めのトンネルを越えて、光が見えてくる。

 トンネルを抜けた先には……!


「なんかある!!」


 森やトンネルや山じゃない、いきなりの大きな人工物。

 それは、谷を埋めるようにして、こっち側とあっち側の岸壁の間にドーンと存在していた。

 橋のような……でも、下の方はこちらに向かって道みたいなのがせり出してて、どこにも隙間なんかない。


「ダムよ、つばさちゃん」


 蘭子さんが教えてくれる。


「ダム!?」


「正しくは余水吐って言って、ダムに貯まりすぎた余計な水を流すの。その時には、あの道路みたいな所が一面、河みたいになって、滝のようにだーっと流れ出すんだって」


「へえーっ!」


 そう思ったら、すぐに山の風景に紛れて消えてしまった。

 そこからバスは、グリグリっとカーブ。

 トンネル抜けても、思ったよりも走るなあ、バス!


 そしてカーブをぐるりと抜けた途端、左側の視界が一気に開けた。


「うわっ、湖だあ」


「そう、奥多摩湖」


 降り注ぐ夏の日差し。

 光を受けて、きらきら輝く湖面。

 ダムの管理センターみたいなところを横目にしながら行くと、バス停に到着。

 目的地はここみたい。


「はい、降りるよー」


 部長が率先して降りていく。

 あたしたちはわいわいと、後に続く。

 その後で、バスは走っていってしまった。この先にもまだまだ、バスが停まる所があるんだなあ。


「えー、これが、水と緑のふれあい館です。1日限定20食の、小河内ダムカレーが食べられまーす」


 なんで部長が観光案内みたいなことをしているんだろう。

 あ、合宿のしおりに書いてある。

 この人、受験勉強の合間にこういうことを調べてたんだな。

 息抜きなのか、現実逃避なのか……。


「この中で休憩してもいいけど、まずはぐるっとダムを回ってみるでしょ」


 そう言った部長、ぱたんとしおりを閉じてしまった。

 なるほど、ここからは筋書きのないドラマだね。


 みんな適当な距離を取りながら、率先する部長に続く。

 管理センターを抜けると、その先にダムがある。

 あたしは右、左と、目移りがしそう。

 右手には、たっぷりの水を讃えた貯水池、奥多摩湖!

 水の色はちょっと濁った青色で、よくよく見たら魚が泳いでる。


「つばさちゃん、この辺から撮ると、結構すごい風景になるの」


 蘭子さんはもうカメラを構えていて、ぱしゃりと一枚。

 素早い。

 あたしも遅れて、彼女の真似をした。

 被写体?

 それは、奥多摩湖全部だ!

 あたしは豪快に、パシャッと全図を収めるつもりで撮影した。


「つばさちゃん、何を中心にしたの?」


「えっと、なんかてきとうです」


「そうだねえ……ここからだと、あそこに屋根が見えるでしょ? あれを画面のこの辺に収めるとメリハリが出るかも」


「な、なるほどー!」


「それに、ズームしてもいいわけだから、こうやって……」


「へえ……手動なんですねえ」


 スマホのカメラで、ピンチアウトするのと同じ感じか。


「じゃあ、気を取り直してもう一枚……」


「おーい! 二人とも何してるのー! 置いてくよー!」


 アリちゃん先輩の声が響いた。

 あっ!

 いつの間にか、みんなが遠くに!

 道を真っ直ぐ行くと、二つの白い建物を生やしたダムにたどり着くのだ。

 みんなはもう、ダムを渡るところだった。


「蘭子さん、急ぎましょう!」


「えー。私は好きに撮影してるからいいよう」


「だめですよー! 蘭子さんがはぐれちゃったら、あたしが心配なんですから!」


 あたしは彼女の手をぎゅっと握ると、みんなのところに向かって走り出した。


「うひゃー! つばさちゃん、速い速い! 重いカメラ下げて、なんでそんなに速く走れるのっ!」


「あっつ、そう言えば蘭子さんも重いカメラ下げてましたね。じゃあ、あたしが持ったげます」


「だめよつばさちゃん。これ幾らするか知らないでしょ。ぶつけたら大変なんだから」


「へ? いくらなんですか?」


「三桁まんえん」


「ひ、ひぃー」


 あたしはか細い悲鳴を上げた。

 そ、そんなとんでもないものを蘭子さんは使ってたのかーっ!

 それじゃあもしかして、あたしが彼女から借りてるこのカメラも……?


「そーっと扱うようにしよ」


 あたしは再び、蘭子さんの手を引いて走る。

 だけど今度は、カメラに衝撃が加わらないよう、そーっと小走りで行くのだった。

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