星とダムとUFO3
極彩色のUFOの夢を見てしまった。
そりゃあ、昨晩あれだけのUFOを見たんだから仕方ない。
「つばさちゃん」
「あ、蘭子さんオハヨーございます。なんか近くないですか」
目覚めたあたしは、すぐ目の前に蘭子さんの顔があったので、一気に目が覚めてしまった。
さては、まだ夢の中にいるのでは?
いやいや、確か合宿に来ているんだった。
だとすると、彼女とは隣どうして寝たんだっけ。
「つばさちゃん、私を解放しろー」
おや?
腕の中でもぞもぞ動くものがいるぞ。
なんだろう。
じーっと腕の中を見たら、あたしの手足が蘭子さんを抱きしめていたのだ。
「うひゃ。これはすみませんでした」
名残惜しいものを感じつつ、じんわり暖かい蘭子さんを解放する。
彼女はごろごろと転がって並んだ布団から出ると、ふらふら起き上がった。
「顔洗う……」
「あっ、あたしも行きますー」
二人でざぶざぶ顔を洗う。
部屋に戻ってきたら、部長もフィルマ先輩もまだまだ夢の中だった。
「フィルマはいつ起きるのか分からないけどさ、受験生がずーっと寝てるのはどうなのって私は思うんだよね」
「確かに! でも、もしかして部長、夜型だとか?」
「あー……。そうかも。あの人、日が暮れると元気になるし」
「それって受験生としてどうなんですかね?」
「どうもならないんじゃない?」
あたしたちが喋ってるのが聞こえたのか、目を閉じていた部長はまぶたをピクピクさせた。
「おーまーえーらー……!」
カッと見開かれる目。
「つばさちゃん、逃げよう」
「はい!」
ということで、食堂まで逃げるあたしたち。
後ろからは部長の、
「受験生に縁起でもない事いうなー!」
っていう叫び声が聞こえていたのだった。
朝ごはんがずらりと並んだ食堂で、今日の予定を聞く。
部長は合宿のしおりを広げて、
「朝ごはんが冷めるといけないからさっさと話すよ。今日の予定はね、奥多摩湖。ダム見に行くの。で、写真をね。それじゃあいただきまーす!」
「いただきまーす!」
みんなで唱和する。
部長の説明、中途半端な感じだけど、だいたいやることは伝わったしね。
うちの部はその辺、すごくアバウトなんだ。
朝ごはんは、お茶碗にさわっと盛られたお米に、ベーコンエッグ、それからサラダに海苔にほうれん草のおひたしに、お漬物とお味噌汁。あと、かまぼことか色々盛られたお皿。
ゴージャスな和食の朝ごはんなのだ!
「銀城さん、眠れた?」
隣りに座った相生さんが聞いてくる。
彼女は一息で、ご飯とおかずの半分くらいを平らげて、ちょっと人心地がついたみたい。
それであたしに話しかけてきたのだ。
「爆睡だったー。蘭子さんを抱きまくらにしてた。意識がなかったのが残念……!」
「銀城さんと一緒に寝ると抱きまくらにされる……!?」
なんか、相生さんがちょっと距離を取った。
おーい。
今は起きてるよー。
「そういう相生さんは?」
「先生やアリちゃん先輩と一緒でしょ? 緊張して寝れないかなーと思ったら、寝ちゃってて……」
彼女に話を振って、お話が終わるまではご飯を食べる体勢。
お海苔にお醤油をちょっとつけて、ご飯をくるっと箸でくるんでパクっと。
黄身に箸で穴をあけて、お醤油を垂らして……ザクッと切った目玉焼きをパクっと。
後から、ご飯をもりもり食べる。
「あ、すみませーん。ご飯お代わりくださーい」
「……銀城さんよく食べるねえ」
「そういう相生さんも、お茶碗が空っぽですよ」
「うふふ」
「ふふふ」
二人で笑い合う。
そして相生さんもお代わりした。
先輩方は一年生二人の食べっぷりを見て、「若いっていいわねえ」なんて言ってたらしい。
一つか二つしか違わないのに。
「私は断じて若いっていいわねえなんて言わないけどね……!」
「二胡先生はまあ分かる……」
触れないでおこう。
食後は部屋で一休みした後、今日の撮影機材を持ち出す。
あたしは昨夜と変わらず、蘭子さんお下がりの銀塩カメラ!
ちょっとずつ使い方が分かってきたんだー。
「夜と昼とはまた全然違うからね。っていうか、もともと昼間に練習するのが普通なんだけどねー。いきなりイレギュラーな銀塩カメラデビューになっちゃったねえ」
「蘭子はアナログカメラの鉄人だからなあ。つばさちゃん、しっかり習うんだよー」
「部長は最後までカメラの使い方覚えなかったですね……」
「私はデジカメ派だから。便利でしょ」
「それはそうですけど」
カメラと言えばデジカメだったあたしからすると、部長の方が分かりやすくはある。
だけど、銀塩カメラの、どこか肉眼で見るとは違う解像度の世界って、とっても魅力的なんだよね。
レンズ付きフィルムも、アナログに入る。
だから、部に入ってから撮影したアナログの写真、あたしはとってもお気に入りなのだ。
「あたしは蘭子さんの味方ですから」
「そお? ありがとう」
蘭子さん、ちょっとずり落ち気味のメガネを押し上げてから、ニコッと笑った。
可愛いのだ。
さあ、奥多摩湖まではバスで少し。
氷川サービスステーションから出ているバスに乗って、山間の道をどんどん進んでいくのだ。
目指すは奥多摩湖の小河内ダム。
今回の合宿の目的地なんだって。
楽しみ!