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星とダムとUFO2

「高い建物が無いのも、明かりが少ないのもあるけど……何よりもね、空気が澄んでるの」


 撮影する場所は決まってるみたいで、そこまで先導しながら蘭子さん。

 時々あたしを振り返りながら言う。


「なんか分かります」


 あたし、夜の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 昼のむしっとした感じがウソみたいに、奥多摩の空気はスッキリしていた。

 標高が高いせいもあるかもしれないけど、それだけじゃないような。


「でも、なんていうか、空気が澄んでるだけじゃないような」


 あたし、キョロキョロと周りを見回す。

 すると、視界にフィルマ先輩がいた。


「ふふふ、鋭いデスね!」


「わっ、フィルマ先輩がすごくいい笑顔してる……! やな予感」


 具体的には、宇宙人方面での嫌な予感。


「はい、到着! みんな、セッティングしてー」


 撮影会場についたみたいだ。

 空を望める、奥多摩のちょっと小高い丘の上。

 丘って言っても、山の上の丘なんだから、多分小山とか言う方が正しいのかも?


 みんなめいめいに、持ってきた撮影機材の準備を始めてる。

 あたしはもちろん、蘭子さんの隣。

 相生さんは、アリちゃん先輩に引っ張られて行っている。

 撮影を教えてもらうのかな?

 アリちゃん先輩、ああ見えて一人で現像できるし、実はかなり撮影が上手いんだ。


 あたしのライバルになるつもりだな。

 ふふふ……。


「つばさちゃんつばさちゃん」


 またまたフィルマ先輩が話しかけてきた。


「むむ、今度はなんですか?」


「お話の続きデスよ。奥多摩は、とっても涼しいんです。それって、ちゃんと理由があって」


「理由?」


 先輩は笑いながら、空を仰いだ。


「これデス!」


「これ?」


 それはすぐにやって来た。

 ぴゅーっと空を横切る、何か良く分からないもの。

 流れ星?

 いや、なんていうかちょっと違う。


「なんか、ジグザグに動いてるみたい。あれじゃ、流れ星って言うか」


 呟いたら、たくさんの光るものが飛び始めた。

 下から上に、右から左に、気がついたら、こっちに向かってびゅんと近づいてきて……。


「☆※*◎※∴!!」


 フィルマ先輩が何か叫んだ。

 そうしたら、光るものの横から、もう一つ光るものが現れて、がつんと凄い音がした。

 光るものは山裾落っこちていく。

 あ、落ちる寸前で、ふらふら上がっていった。


「モー! お行儀が悪いのはダメデスねえ。協定に違反します! ☆※に言っておいて!」


 フィルマ先輩の、珍しい怒った声。

 それに応えて、もう一つの光るものは、左右に揺れた。

 そして、びゅーんと飛んで行ってしまう。


「……UFO、だよね、あれ」


「そーよ」


 蘭子さん、全然気にしてないみたいな顔をしている。


「フィルマー。空を撮るのの邪魔だからどかせてー。何なのもう。今日って会合の日?」


「そうなんデスよー。ワタシ、全然聞いてなくって。スミマセンー」


 呆然としてるのは、あたしと相生さんだけ。

 アリちゃん先輩は、「フィルマが知らないんじゃしょうがないよねー」とケラケラ笑ってる。

 部長は、「くっ、デジカメしか持ってこなかった!」


「あのー、蘭子さん。これって、よくあるんですか?」


「たまーに。普段はね、みんな街灯の光に隠れてるの。だから、動いたって下からは見えないんだよね。でも……こういう空気が綺麗なところだと、よく見えるんだ。ピカピカしてるし、速いし、あと、小さいからあんま撮ってて綺麗じゃないんだよね」


「そ、そうなんですか」


 立川上空のUFOは、確かに、そりゃあ大きかった。

 アップで撮った写真はすごく綺麗だった。


「つばさちゃんは、この星に来てる宇宙人は、ワタシたちだけだと思ってましたか?」


 フィルマ先輩が、じっとこっちを見てる。

 先輩の後ろでは、UFOがめいめい勝手に飛び回っていた。

 それが、先輩が呼んだUFOがやって来ると、だんだん規則的な動きになっていく。


「や、あの……。そうじゃないとは思ったこともあったり……なかったり……」


「たくさん来てマス」


 フィルマ先輩の背後で、無数のUFOが動きを止めた。

 一斉に、こっちを見たのが分かる。

 逆光になった先輩の顔はよく見えない。

 だけど、いつものような笑顔なのだけはよく分かった。


 まるで映画の中みたいな光景だ。

 空を埋め尽くすみたいなUFO。

 それを従える女子高生。

 二胡先生みたいな人たちが、必死にこれを隠すのも当然だ。

 こんなのみんなが知ったら、パニックになっちゃうだろう。


 あたしは音を立てて唾を飲み込んだ。

 口の中がカラカラ。

 どうしよう。何か言わなきゃ。


 そしたら、蘭子さんが、むふーっと鼻息を吹いた。


「フィルマ!」


「ハイ、解散!」


 フィルマ先輩がそう言ったら、UFOがみんな、嘘みたいに光をなくして消えてしまった。


「えへへ、蘭子に叱られてしまいマシタ」


「フィルマさん、あれの半分くらい映像でしょ? 会合っていうか遊んでたんじゃないみんな」


「奥多摩待機の人たち、ストレス溜まってマシタからねー」


 蘭子さんもフィルマ先輩も、もういつも通りだ。

 ひえー。

 すっかり慣れたと思ってたけど、やっぱりこの写真部、凄くへんてこだ!


 心臓がバクバク言っている。


「よし、邪魔な光が消えた! それじゃあ、撮影を始めよっか!」


 蘭子さんが宣言した。

 そして、あたしを手招きする。


「つばさちゃん! デモンストレーションはこれで終わり! さあさあこっち来て。カメラの使い方、手取り足取り教えてあげる」


「手取り足取り!?」


 その瞬間、UFOのことなんて頭の中から吹っ飛んでしまうあたし。

 ……いや、流石に完全に忘れるのは無理だなー。

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