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星とダムとUFO

 なんていうか、思いもよらぬメンツだけど、これはこれで夜になると、おしゃべりが捗るわけで。


「恋バナ……する?」


「部長、彼氏いたことないでしょ」


「汐見だってそうだろ? フィルマは……ああ、宇宙人だものな」


「そういう概念は最近覚えマシタネー」


「じゃあ」


「翼ちゃんは」


「どうデスカ?」


 うわーっ、先輩三人で後輩に話を振るのー!?

 温泉に入り、夕食が終わり、その後のおしゃべりなのだ。

 あたしはちょっと考える。

 中学の頃は……うーん……縁があったような無かったような。


「えっと、告白はされたことがあるんですけど」


「なにぃっ」


「……」


「告白……エット、シスターさんとかデスネ」


 部長が目を剥き、蘭子さんが無言になってじーっとあたしを見て、フィルマ先輩がよく分からないことを言った。


「えーっとですね。告白はされたんですけど、中学の頃で、よく知らない男子だったし、それにその時はそういうの興味無かったんでー」


「振ったのか! ひゅー!!」


「……」


「? ??」


 盛り上がったのは部長一人で、蘭子さんは鼻を鳴らし、フィルマ先輩は何も分かってないっぽい。

 でも、なぜか先輩方があたしを見る目に、畏敬の色が混じったような気がする。

 やだなあ……。


「私たちに恋バナは無理だとわかった。だったらどうする? そりゃあ決まってる」


 部長が勝手に話を進めだしたよ?


「実はこの後、星を撮りに出かけます!」


「ええっ!?」


 いきなりな宣言だ。聞いてない。


「寝る前にさくっと撮影して、それで戻ってこよう。奥多摩の空はね、広いんだよねー」


「うん、行こう行こう。はい、翼ちゃんこれ持って。夜用のレンズでね? 結構重くて、だけど空気が澄んでるとすごい写真が撮れるの! これは極上だよー。あ、翼ちゃんのカメラにも今度、レンズを探さないとね。でも高いんだよね。どうしようかな、バイトとかする?」


「急に喋りだしましたね蘭子さん!?」


 いざ撮影となったら、蘭子さんは立ち上がり、あっという間に準備を終えている。

 大きな肩掛けバックを持ち上げ、すでに臨戦モードだ。


「汐見待てー! ほらフィルマ急げ! 初日なんだから、カメラなんかどれでもいいから」


「どれでもいいだって!?」


「ああっ、蘭子さんの逆鱗に触れた!」


「部長いいですか仮にも写真部の部長なのにカメラにこだわらないとかそういうのはあり得ないんじゃないですかそんなんだから受験勉強も標的を絞りきれなくて今ひとつ思ったような結果が出てないんじゃないんですかどっちかっていうと部長は一点突破型なんですから手広くあちこちキョロキョロしてたらフォーカスが定まらなくてだから目的の写真がぶれぶれなんですよどうしてピンボケをフィルマにまで要求するんですが印画紙を感光させてダメにするつもりですかあなたは!!」


「ぎゃーっ」


 凄い早口だ!!

 部長が言葉の連続攻撃でボコボコにされた。

 ちょこちょこ、写真っぽい形容詞が混じってた気がするのが、蘭子さんらしい。

 うんうん、目を吊り上げて怒る蘭子さんも素敵だなあ。


「おー、勉強になりマース」


 フィルマ先輩、インチキ外国人みたいな口調なんですけど。

 ちなみに、部長は堂々とデジタルカメラを取り出した。


「アナログカメラ高いのよね」


「ねっ翼ちゃん!! この人こういうところがあるの!! 真似しちゃだめだよ!!」


「あっはい」


 あたしは蘭子さんに倣って銀塩カメラ。

 って言っても、しばらくはレンズ付きフィルムなんですけど!


「……ということで、はい、翼ちゃん」


 蘭子さんがカバンをごそごそして、何かどっしりしたものを手渡してきた。

 がっしりしてて、重くて、ゴツゴツしてる……。

 これは……。


「私がね、父さんから最初にプレゼントされたカメラ」


「蘭子さんの!? それじゃあそっちは」


「父さんのカメラ。つまり、君に貸したのは練習用だよ。さ、使い方はこの頼りになる先輩が教えてあげる。行きましょ」


「はいっ! うわー、蘭子さんのカメラかー! うひょー!」


「汐見のカメラを持ったら、後輩ちゃんのテンションが上ったんだけど……」


「つばさちゃんは、蘭子が大好きですからネー」


 ってなわけで、星空撮影に飛び出すわけだ!

 途中で相生さんと、アリちゃん先輩を回収。


「先生は?」


「お酒飲んで転がってる」


「不良教師ー」


 とんでもない情報だ。

 まあ、二胡先生、いつも仕事大変で疲れてるだろうしなあ。




 というわけで、奥多摩の夜に繰り出したあたしたち。

 空気は澄んでるし、辺りはとっても静か。


「思ったよりも街灯が少ないんですねえ」


 相生さんがキョロキョロしている。

 確かに。

 普段、あたしたちが暮らしてる街は、もっと街灯があるし、ビルの明かりだって多いもんね。

 地上が明るすぎて、空まで照らしちゃうものだから、ほら。

 こんな星空なんて見えないんだ。


 見上げたあたしは、「ほえー」と溜め息をついてしまった。

 空が広い。

 どこまでも広がる空は、満天に星明かり。


「やっばあ……」


「あー、いいね今日。晴れてて良かった!」


 蘭子さんが嬉しそうだ。

 それだけであたしも嬉しくなる。

 さあさあ、星空を撮りに行こう。

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