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部長と合宿とUFO5

 奥多摩の道を歩くのだ。

 写真部一同の最前列は、あたし。

 あと、あたしに引っ張られている蘭子さん。


「つばさちゃん、速い速い!」


「あっ、すみません! 興奮しちゃってて」


 思わず早足になってた。

 あたしってば、歩幅が広いらしくて気を抜くとすごい速度になっちゃう。

 蘭子さん、ふうっと一息。


「つばさちゃん、初めて宿に行くでしょ? 場所わかる?」


「はい! ほら、マップアプリですぐに到着ですから」


「ほえー、便利な時代になったもんだねえ」


 あたしより一個上なだけなのに、年寄りっぽいことをおっしゃる。


 奥多摩の空は広くて、見上げると視界いっぱいに空と雲がある。

 真ん中で照っている太陽が、容赦なく日差しを叩きつけてくる。

 剥き出しの腕とか足が、ひりひりと痛い。

 日焼け止めは塗ってるけど、これは絶対、そういうのとか貫通してくるやつだ。


「おうおう、元気だねえ」


 あたしの背中から降ろされた先生は、どこからか日傘を取り出して、ゆったり後ろを歩いてくる。

 先輩方は日陰を選んで移動してるみたい。

 道のあちこちから木々がせり出してて、たっぷり葉っぱがついているから、結構日陰があるんだよね。


「でもなんか、立川より涼しい気がしますね」


「そりゃそうだよ。道路の脇見てみて」


「あっ、土になってますね」


「そうそう。それに、日陰もたくさんあるし、ビルなんかも建ってないでしょ。何より、ここって立川とどれくらい高度差があるか分かる?」


「高度差……?」


 蘭子さんの言葉に、あたしは首を傾げた。

 まるで山登りでもしたかのような事を仰る。

 ここは平地ですよ……?


「つばさちゃん。奥多摩はね、さっきの駅が海抜で341mあるの。つまり、東京タワーのてっぺんとそんなに変わらない高さを、私達は歩いているってわけ」


「ほええ……! そうだったんですか!」


 山とかは、登るほど涼しくなるって言うもんね。

 今日の都心だと、気温は40度近いかも知れない。

 ここはそこより、5度くらい低いんだって蘭子さんは教えてくれた。

 涼しいはずだ。


 あたしは感心しながら、ずんずんと進んでいった。

 すぐに木々の間から、家並みが見えてくる。

 一軒家ばっかりだ。

 宿は、もうすぐ。


「到着!」


 軒先に、可愛い看板があるお宿。

 温泉が有名なんだって。


「何ていうか、江戸時代」


「そう、分かる!」


 相生さんが口にした感想に、あたしはすっごく納得した。

 雰囲気たっぷりの入り口、江戸時代とかそういう感じなのだ。

 いよいよチェックインだ。

 こう言う時、普段はだらっとしている二胡先生がピシッとする。


 宿の人とのお話は先生に任せて……。

 あたしと相生さんで、あちこちにある雰囲気たっぷりの置き物を指さしてはしゃぐ。


「たぬき!」


「でっかい提灯!」


「お地蔵さん……?」


 ツッコミどころ満載だ。

 そんなあたし達に、がばっと覆いかぶさってくる人がいた。


「きゃっ、汗でペタッとしました!」


「ペタッとは失敬なー」


 アリちゃん先輩でした。


「二人共、ここのお風呂は温泉の汲み湯でね。鶴の湯温泉っていう、美人の湯なんだってさ」


「ふーん」


「あっ、つばさちゃんの反応が薄い」


「銀城さんまさか、自分には必要ないっていう自信が……?」


 あれっ、なんだかビミョーな空気になってきたぞ!?


「い、いやだなあー。あたしも美人の湯には興味ありますよー。楽しみだなあ、あはは」


「よろしい。素直に喜ぶ後輩ちゃんは可愛いよ」


 アリちゃん先輩、相生さんの頭をナデナデして、それから背伸びしてあたしの頭を撫でようとした。

 無理をしなくても……!


「でかすぎる」


「それ、可愛い後輩に言う言葉じゃないんじゃないですかッ」


 アリちゃん先輩は、ずけずけ物を言うなあ。


「アリ、こうすんのよ。ほれっ」


 蘭子さんが現れて、アリちゃん先輩の背中に飛び乗った。


「うおーっ」


 よろけるアリちゃん先輩。

 あたしは慌てて、彼女をがっちりと受け止めた。

 そうしたら、彼女の背中に乗っかった蘭子さんが、あたしの頭を撫でるではないか。


「つばさちゃんはいい子だねー」


「えへへ、それほどでもありますー」


 ついついにやけるあたし。

 蘭子さんのにおいがするー。


「こら、鼻をくんくんさせない。ほら、先生がお話し終わったみたいだよ。部屋割り部屋割り」


 蘭子さん、乗っかっているアリちゃん先輩をぺちぺち叩く。


「くおーっ、蘭子、私は馬じゃないぞー!」


「一度乗ってしまったんだから仕方ないでしょ。ほら、きりきり動く」


「重いーっ」


「つばさちゃんを見習いなさい。アリももっと鍛えなきゃ! それに、今私が降りたら、そこであんたに飛び乗りたがってうずうずしてるフィルマが来るわよ」


「うっ、フィルマは重い!」


「重く無いデスよー!!」


 フィルマ先輩から抗議が来た!


「おーい、騒がしいぞー! 静まれ、静まれー!」


 部長がやって来て一声。

 これで、先輩方は一応静かになった。


「部屋割りを発表する。三人部屋と四人部屋があるから、好きに分かれて。以上」


 は?

 部屋割りでもなんでもない!

 結局、先生も交えて、全員のじゃんけんで部屋が決定するのだった。


 わーい、蘭子さんと同じ部屋だ!

 部長とフィルマ先輩もいるけど。

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