部長と合宿とUFO4
まずは駅を出て、すぐの所にあるバス停へ。
停留所の横に、なんだか雰囲気たっぷりの建物があるのだ。
これが食堂にもなってるらしい。
「氷川サービスステーション! さ、お昼ご飯食べよ食べよー」
部長が率先して乗り込んでいった。
「ご、ごめんくださーい」
あたしもその後をついていく。
なんか、テレビで見た昔のお店って感じ。
木枠のガラス戸の向こうに、昔ながらっぽい売店がある。
それで、売店の横が食堂。
「食べてから、宿に移動しよ! それから、回りの撮影ねー」
はーい、と先輩方が返事する。
あたしと相生さんはそれどころじゃない。
「おおー……」
「おー」
二人で、このちょっぴり古めかしい木造の建物を、きょろきょろ。
こういう、多分昔の食堂って感じのところ、初めてなのだ。
今って、どこに行ってもチェーン店だから、大体どういう店って想像つくじゃない。
でも、ここって、店の中も、窓から見える風景も初めて見るものばかり。
四席ずつのテーブルが、九つ?
「じゃあ分かれて座りましょ」
部長の号令で、あたしたちは一斉に動く……なんてわけはなく。
「じゃあ私こっち!」
「ワタシ、窓際がいいデス!」
「つばさちゃん、こっちこっちー」
うちの先輩、自由過ぎる!
「お、お前らー! 部長の言うことを聞けえー!」
間仲部長、じたばたして暴れる。
その後ろから、二胡先生がガッチリとキャッチした。
「落ち着いてー。ここは学校の食堂じゃないんだからね。はい、悪ガキども、こっちに集まる。窓際がいいの? じゃあ窓際のテーブル二つね」
流石は先生。
キビキビと指示を下し、混沌に陥ろうとしていた蘭子さんたち三人を集めていく。
何ていうか、部長よりもカリスマみたいなのが凄いのだ。
「いい?」
「はい」
蘭子さんがおとなしくなった。
決めるところは決める先生だ。
彼女の裏の顔を知っているあたしとしては、逆らうなんて気には全然ならないんだけど。
ということで、あたしのテーブルには、あたし、蘭子さん、相生さん、フィルマ先輩。
「ここのお蕎麦は手打ちデス! お蕎麦にしまショウ! ワタシ、奥多摩セットにしまスね!」
「フィルマ先輩が詳しい!!」
「UFOでたまにこっちに来ますカラ!」
「……奥多摩でUFOの目撃情報が多発してたりして……」
そんなお話をしながら、フィルマ先輩おすすめだというお蕎麦と、きのこごはん(小)のセットにする。
食べ盛りの相生さんも一緒だ。
天ぷらそばときのこごはんの、雲取セットなり。
蘭子さんは少食なので、山菜そばだけ。
「いただきまーす!」
ずるずるーっと一気にすする。
お蕎麦の食べ方については、うちのお母さんが詳しい。
子供の頃に、しっかり叩き込まれたのだ。
「いい音させマスね! 負けまセン!」
箸を巧みに扱うフィルマ先輩。
お蕎麦をささっと手繰ると、ずぞぞーっとすすった。
いい音がする!
「このために、地球人のデータは研究して来ましたカラね!」
「そんなことのために!」
衝撃を受ける、あたしと相生さん。
その後、あたしとフィルマ先輩は、競うようにしてお蕎麦を食べた。
つゆまで飲み干して、きのこごはんをパクパク。
美味しいのだ。
気がつくと、お椀も丼も空っぽになっていた。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったー」
相生さんも同時期に食べ終わったみたいで、満腹のお腹をさすっている。
よく鍛えられた彼女の腹筋は、お腹いっぱいになってもあんまり出っ張らないなあ。
あたしはちょっと手を伸ばして、
「どれどれ?」
触ってみた。
「きゃっ」
「おっ、膨らんでる膨らんでる。これはかなり育ってますねえー」
「何言ってるの銀城さん! うは、うはは、くすぐったい! 食べたばっかりだから口からお蕎麦が出ちゃう!」
それはいけない。
あたしは手を引っ込めた。
しかし、腹筋の感触がなかなか。
鍛えられてるなあ。
「うーむ」
自分のお腹を触ったら、明らかに春先よりもぷにぷにしていた。
運動しなくなっても、バスケをしてた頃と同じペースで食べたら、あたしはおでぶちゃんになってしまうのでは……!?
「相生さん、今度、あたしも一緒に走る」
「なに、急に!?」
目を白黒させる相生さん。
そうしたら、フィルマ先輩まで加わってきた。
「じゃあワタシも走りマス! 炎天下でグラウンドを走る! 修行デスねー」
この人は何か勘違いしてるなあ。
そんなあたしたちの横で、すそそっと、静かにお蕎麦を啜る蘭子さんなのだった。
「いやあ、食った食った」
間仲部長が満足そう。
アリちゃん先輩は、しきりに首を傾げている。
「どうしたんですか、アリちゃん先輩」
「あ、つばさちゃん。あのさ、ニコちゃんが、ヤマメの唐揚げを頼んだんだから、飲まなきゃ嘘でしょって言って」
「えっ、引率の初めにいきなり飲酒を!!」
振り返ると、アルコールフリーのビールっぽいドリンクを飲みながら、先生が歩いている。
ほんのり頬が赤い。
「何よー」
「なんでもないですー」
ひえー、不良先生だー。
「ま、ニコちゃんには常識は通用しないからなー」
「あ、ある意味ではそうですねえ」
「なんだとぉー」
後ろから、ガバっと二胡先生が抱きついてきた!
うわ、お酒くさ……くはないな。
「飲んでないわよ! 一応、夜まで我慢なんだからね……!」
「あ、夜は飲むんですね」
「当たり前でしょ」
当たり前らしい。
「それよりニコちゃん重い重い! 抱きつくならつばさちゃんだけにしてー!」
「ええーっ!? アリちゃん先輩ひどいですー!」
「ふむ、それもそうか。よーし、銀城さん、私をおんぶして歩くように!」
「ひえー!」
ということで、私は変なノリになっている二胡先生をおぶって宿まで歩くことになるのだった。
本当に飲んでないんだよね?