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部長と合宿とUFO3

『次は青梅、青梅……』


「青梅駅だって!」


「銀城さん、本当に青梅初めてなんだねえ」


 相生さんが目を丸くする。


「うん。二十三区とその辺りで暮らしてきたから」


「あるあるだねえ」


 蘭子さんが笑った。


「あるあるってなんです?」


「つばさちゃんの家って小金井でしょ? そうすると、中央線か総武線を使うじゃない。中央線で多いのは、高尾に行くから……遠足とか高尾山だった」


「正解!」


 あたしの言葉に、蘭子さんはぐっとガッツポーズをした。

 そうそう。

 あたしが子供の頃、遠足に行ったのは高尾だった。

 青梅には行かないんだよね。

 だから、窓から見えるちょっと古めかしい町並みに、あたしはショックを受けたわけだ。

 なんだこれ、見たこと無いぞ。

 田舎って言うのとは、ちょっと違う。

 何ていうか……わざと古くしてる、みたいな?


「青梅はね、昭和の町ってのを売りにしてるの。猫のお祭りみたいなのをしたりするし、割と写真撮ってて楽しい所だよ。あちこちに、昔の映画看板とかあってね、猫っぽい飾りも町のあちこちにあるの。で、青梅七福神とかあるけど、これはそうでもない……?」


「詳しい……! でも、話を聞くと降りたくなっちゃうなあ」


 電車は青梅駅で停車している。

 ここから奥多摩まで直通らしい。

 ちらちらっと、駅から見える青梅の町を見ている。

 駅を挟んでロータリーの逆側には、山を背にした小学校。

 なんだろう。

 初めてくるはずなのに、どこか懐かしい感じを覚える町だ。


「あらら、蘭子に何か吹き込まれた? だめだよ、つばさちゃん! 青梅で降りたら、次の奥多摩行きが来るのは45分後だよ」


 アリちゃん先輩が何やらすごいことを言った。


「45分!?」


「そう、45分。そんだけあったら、あっちでいろいろできるでしょ」


 うんうん、とあたしは頷いた。


「じゃ、大人しくしてマショ。奥多摩行くまでの風景も、とっても綺麗だカラ」


「おや? 一年生女子は青梅に興味ある? じゃ、今度別の用事で来ようか! その頃には、私の受験は終わっているであろう……!」


「部長、何年後になるんですか」


「今年度中だよ!? 物部おまえーっ!?」


「ぎえーっ、部長、髪セットして来たんだから、くしゃくしゃしないでー!?」


 部長とアリちゃん先輩がじゃれてる。

 フィルマ先輩は、それをニコニコ眺めてるなあ。

 そして、先生は寝たまま起きない。

 うん、部長が加わったけど、いつも通りの風景だ。

 あたしは上げかけた腰を、ストンと下ろした。


「今度来ようか」


 蘭子さんに言われて、


「はいっ」


 と思わずいい返事をしてしまうのだった。




「山!」


「谷!?」


「川の向こうに町が!」


「ひい、崖!」


 ……と、盛り沢山な旅路だった。

 ほんの三十分くらいだったんだけど、見慣れないものをたくさんみてびっくりした。

 片側が山肌で、そこに張り付いたみたいな線路を走っていく。

 山の形に沿って走っていくので、振り返るとさっき走っていた線路が、ぐるりと回って見えた。

 これ、線路がCの字みたいになって走ってるのね……!


 ということで、スマホでばしばし写真を撮っちゃった。

 そんなあたしを、部のみんながニコニコしながら眺めている。

 いやあ、取り乱してしまいました。

 お恥ずかしい。


「つばさちゃん、写真なら、降りて撮るほうがいいかもね?」


 電車の窓は開かない。

 ということで、窓ごしだと写真の鮮明さが落ちる、と。

 確かにそうでした。

 相生さんも腰を上げかけていたのだけど、先輩方にいじられるあたしを見て慌てて座り直した。

 裏切ったなー。


 そうこうしているうちに、電車は奥多摩に到着。

 みるみるうちに、風景が山の奥の大自然いっぱいって感じに変わっていったから、結構長い時間電車に揺られていたように思ったけど、実は青梅から30分なのだ。

 近い近い!

 立川から一時間だよ?


「とうちゃーく!」


 あたしと相生さん、手をつないで電車の外にぴょんと出た。

 他のお客さんが、それを見てくすくす笑っている。

 先輩方、他人のふりをして別の扉からスッと出た。

 ええー。


「もうー、何やってんのよー」


 アリちゃん先輩が半笑いで突っ込んできた。


「いや、ついノリで……」


 ちなみに奥多摩駅、なんか青梅駅に似てるのだ。

 ホームから、地下を通って駅舎に入るし、駅舎の反対側には小学校があるし。

 そして線路のどん詰まりの先に、何かごちゃごちゃとした構造物がある。


「蘭子さん、あれなに?」


「工場。イカスでしょ」


「ほえー……! 工場……! 確かに」


「それから駅舎。こっちから見るとパッとしないけど、ロッジみたいな感じで可愛いの」


「へえー!」


 蘭子さん、なんでも知ってるわー。

 さすが……!

 相生さんは蘭子さんの話を聞いてから、マップアプリを広げて現在位置を確認したりしている。


「あ、銀城さん、写真あるよ。ほんとだ、かわいー」


「えー、どれどれ? かわいー!」


 奥多摩駅、2階建てで、上の階にも窓がついてて屋根があるの。

 これは可愛い……。


「おーい一年生たち! せっかく奥多摩に来たのにスマホ見てるなんてもったいないでしょ! 本物を見る、本物を!」


「た、確かに!」


 部長に言われて、あたしと相生さん、慌てて駅舎へと移動していくのだった。

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