部長と合宿とUFO
撮影旅行……。
それはつまり、夏の合宿ってことだ。
我が、立川北崎女子高等学校は、何事もなく夏休みに突入した。
そして夏休みになっても、部活に出たりはするわけで。
「写真部って文化系なのに、夏休みもやるとか意外でした」
「そお?」
あたしの隣では、蘭子さんがカメラを磨いている。
彼女の撮影機材はいつも手入れされていて、ピカピカだ。
あたしのと言うと、お父さんのお下がりなんだけど……ちょっとここ一週間くらいは触ってないかも。
帰ったら磨く。
うん。
そんな、我ながらあてにならない決意を固めつつ、蘭子さんの手付きを眺める。
蘭子さんの手ってきれいなのだ。
肌とか、指の形がきれいっていうことじゃなく、彼女の手がカメラを触っている瞬間、すごくきれいになる。
思わず見とれちゃうくらい。
あまり冷房が効いてない部室で、蘭子さんと二人きり。
夏服が透けそうなくらい汗をかいてるけど、これもまあ、あり。
だって夏だもんね。
蘭子さんの匂いがする。
そうしたら、急に蘭子さんがこっちを見た。
びくっとするあたし。
いつの間にか近づいてた距離を、サッと戻した。
「ん? そっか、つばさちゃん、カメラ忘れて来たんだっけ。そうだねえ、今日は撮影の予定も無いからねえ」
「あ、あははー。写真部なのにスミマセン」
「いいのいいの。うち、そういうの緩いから。むしろ来たことが大事。だって今日は」
蘭子さんの言葉がそこまで出たところで、扉がバーンと開いた。
「合宿のしおりを作ってきた!!」
二人きりの部室に、闖入者だ!
いや、部長なんだけど。
夏休み前の先日、初めて会った部長は、写真部唯一の三年生。
間仲かなめ先輩。
「ほうほう、部員は二人かね。感心感心。よくぞこの暑い中やって来てくれた……。というか!」
眼力が強い彼女、今日は長い黒髪をお団子に結っている。
首筋がきれいだなあ。
「他の二年二人は何をしてるのかーっ!」
「アリは親の手伝いという名の合法バイトで、フィルマはまた宇宙にでも行ってるんじゃないですか?」
「もうひとりの一年の子は?」
間仲部長の目があたしに向いた。
うーん、なんていうか、純和風美人。
「相生さんはグラウンドで走ってます。陸上の子に誘われたとかで」
「どうして写真部がグラウンド走るの……?」
相生さん、体育会系だからなあ。
もう陸上はやってないけど、体を動かしてないと落ち着かないタイプらしい。
だから、今日は陸上に混じってグラウンドで走ったりしている。
「そういう人なんです。あ、そろそろ戻ってくると思いますよ」
「むう……。相変わらず、うちの部員は自由過ぎる」
「部長だって、一学期中、最後しか来なかったでしょう? もともとうちは自由なんです」
「ぐぬぬ、それを言われると何も言えなくなる。汐見、言うようになったわね」
「先輩に鍛えられましたから」
「去年はあんなに可愛かったのに……」
可愛い蘭子さん……!?
今もじゅうぶん可愛いけど、違う感じだったんです……!?
興味があり過ぎる。
ちょっと鼻息を荒くするあたしを見て、間仲先輩はにやーっと笑った。
「な、なんですか?」
「銀城さん、だっけ? 汐見になついてるねえって思って」
「あ、それはあの。蘭子さんがカメラを教えてくれてるから」
「なるほどねえ」
まだにやにやしてるー。
この人、苦手だなー。
何より目力がすごいんだもん。
「遅くなりましたー!」
そこに救いの主現る!
陸上部のシャワーを借りてすっきりした相生さんが、とってもいい笑顔で部室にやって来たのだ。
「あ、こんにちは部長! よろしくお願いします!」
ハキハキ言いながら、ペコっと頭を下げる。
「よろしくねー、相生さん。やっぱり運動部出身の子は礼儀正しくて好きだわ!!」
「やっぱりって、部長、運動部出身の生徒は彼女が初めてですよね」
「もうー!! ああ言えばこう言う!! 銀城さん! そこのちっちゃいのを静かにさせて、ほら、キスとかでいいから!」
「いやいやいや……! 落ち着いてください部長!!」
「ね、テンション高いでしょ? 部長は受験勉強で疲れてるの」
「今は受験の話をしなーい!」
部長は高らかに叫ぶと、手にしていたものを卓上にドンと置いた。
これは……!!
「合宿のしおりよ!!」
それは、きれいにカラーコピーで作られた、イラスト満載のしおりだった。
「わあ、可愛いー!」
相生さんが歓声をあげて、間仲部長にたずねた。
「もらって……いいんですか?」
「もちろん! 自信作だわ!! 文章、編集、挿絵、表紙の全てが……私!!」
「ええ……!?」
部長をキャラクター化したらしい、二頭身の女の子が表紙にいる。
『楽しい撮影合宿のしおり』と、そこにはあった。
「あたしもいただきます。えっと……すご……! 中身もフルカラーだ……! しかもイラストとか、地図まで載ってる……!」
「部長、そんなに受験勉強が嫌だったんですか……」
蘭子さんが部長に、可愛そうなものを見る目を向けた。
「ううう、うるさーい! 気分転換よ、あくまで! ということで、これが私たち写真部が向かう合宿先。奥多摩よ!!」
「奥多摩……!!」