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あたしと連休前とUFO4

「走らなきゃ」


「おっ、行きますか」


 ずっとハッピータ◯ンを食べていた相生さんが、ふと呟いた。

 うん、よくぞ決心した!

 でも、全部食べ終わったところで決心するのはどうなんだろう。

 あたしとしては、一緒に走るのはやぶさかではない。


「ちょっと待ってね。着替える……」


「わっ、銀城さんそれはランニング用のスーツ……!? 本格的……」


「ふふふ、このサイズのは日本だとあんま見つかんないから、お母さんが個人輸入してくれたの」


「ほええ」


 ということで、暖かくなってきたとは言えまだ肌寒さがある四月の終わり。

 あたしは長袖のランニングスーツに身を包んだのだった。

 このスーツ、白地に黒と、蛍光ピンクの反射素材が使われていて、夜間に着て走るととっても目立つのだ。


「わたしはそのデザインを着こなす自信はないなあ」


「そお? 派手なくらいがちょうどいいんだよ。みんなそこまで他人のこと見てないって」


「そうかなあ」


 そう言いながらも、相生さんも着替えてる。

 これは体育で使うジャージだね。

 スポーツする姿のあたしと相生さん。

 まさか、この二人が文化部だとは誰も思うまい。


「じゃあ、駅まで送るね! 人が多いから、走っては行けないけど……」


「あ、うん! わたしも家に付いてから、周りを走るつもり」


 ということで、あたしたちは家を出ることにした。

 玄関までやって来ると、人の気配を感じたお兄ちゃんが部屋から出てきた。


「おっ、帰るの? なんもない家でごめんねー」


「あ、は、はいっ!!」


 おっ、いきなり相生さんが挙動不審になったぞ。

 うちのお兄ちゃんって、家に帰ってくると髪型をボサボサに崩して、コンタクトを外してメガネにするから、妹であるあたしから見てもイケてないのではと思うんだけど。


「あ、あの、お写真、よろしいですかっ」


 相生さんが、ぶるぶる震える手でスマホを取り出した。

 ええっ!?

 本気でミッションを達成するつもりですか!

 お兄ちゃん、相生さんの言葉にポカンとした後、にやっと笑った。


「ははあ、それ、つばさが入ってる部活の先輩からの命令だろ。話を聞いてると、面白そうな子たちだもんな。いいよいいよ。だけどネットに流すのは勘弁な」


「ははは、はいっ! でで、では、失礼ます!」


 あー、相生さんの手が震えているから、スマホのカメラもぶれぶれだぞ。

 見てられなくなったあたし。

 彼女を後ろからがっちりと抱きしめた。


「!? ぎ、銀城さん!?」


「あたしが腕を固めるから、相生さんは撮影に集中!」


「ふぁいっ!?」


 相生さん、甲高い声で返事をした。

 お兄ちゃんたら調子に乗って、メガネを外して髪をさっと撫で付け、かっこつけたポーズをする。

 あっ!

 相生さんが赤くなった!

 こんな兄のどこがいいのだろう。

 カシャリ、とカメラが音を立てて、撮影は終了。

 相生さんたら、ぷしゅーっと煙を上げそうなくらい赤くなっていた。


「はい、お疲れさん。あ、つばさ」


「はいはい」


「このお金で、コーラを買ってくるのだ……。コンビニで500缶のやつ3つな。お釣りでジュースを買っても良い」


 お兄ちゃんが、あたしに五百円玉を握らせた。


「えっへっへ、まいどー」


「毎度じゃないぞ? 俺の買い物を済ませてくれたら残りをお駄賃にしていいというだけだ。つまり、つばさがより安い所でコーラを調達できればお小遣いが増えるんだ。しかし1,5リットルのペットボトルは禁止する。瓶の次に美味いのは缶だからな」


「はーい」


 お兄ちゃんがあたしの頭脳に挑戦してきた。

 いつものことだ。

 あたしはスマホを起動して、近隣のスーパーのセール情報を高速で検索し始める。


「あの、銀城さん?」


「ああ、ごめんごめん! 行こっか!」


 検索ワードを絞り込めば、ほんの一分かそこらで情報は集まってくるのだ。

 さっきの一操作で、大体コーラが安そうなお店は検索できた。

 あとはルート選択だな。

 何店舗か回って……。


「また銀城さん、別のこと考えてる! ……あっ、では、さようならー!」


 相生さんはお兄ちゃんに声を掛け、あたしの背中を押して外に出た。

 うちのマンション、一階に三部屋があるタイプで、中央のエレベーターを使って降りるのだ。

 だから、扉の外に出たって行ってもそれはまだ屋内。

 共用の廊下部分が、エレベーターを巻くようにコの字型になっている。


「やっぱりこのマンション、ゴージャスな作りだよね……。格差ぁ……」


「どしたの相生さん? あ、そっか、走るだけなら下のジム行くって手もあるもんねえ」


「ジム付きのマンションとかどうなの!?」


「どうなのって言われても……うーん、便利?」


「そうじゃなくてぇ」


 ちょっとお喋りしていたら、エレベーターがやって来た。

 乗り込んで、一階へのボタンを押すと、あっという間にエントランスへ到着。


「でかい」


 マンションを出た相生さん、改めて建物を見上げて呟く。


「でかいと言われると、あたしの身長を言われているような気がする……!」


「175だっけ」


「174ですぅ! そ、育ってるかもだけどまだ174ですぅ!」


「どこまで伸びるのか……!」


「もう伸びない。伸びないと言ってくれ……!!」


 ということで、駅まで到着。

 また明日、なのだ。

 別れ際の相生さん、


「やっぱりそのスーツ、めっちゃ注目されてない……?」


 なんて言っていた。

 そんなことはない。

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