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あたしと連休前とUFO3

「突撃、銀城さんのお部屋!」


「なんで相生さんテンション上がってるの?」


「だって、普通は友達を通すなら自分の部屋でしょ? それが立派なリビングに通されたから……落ち着かなかったぁ」


「広い所は苦手なのねー」


 あたしは戸を開ける。

 ようこそ、銀城つばさのお部屋へ。

 と言っても、別に特別なものはないんだけどね。

 広さは六畳。

 窓際にはベッドがあって、入り口脇はクローゼットといろいろ仕舞った棚で挟んである。

 で、小学校から使ってる学習机。

 床にはカーペットが敷いてあって、ちっちゃい本棚が一個。


「……すごくスッキリしてるのね」


「でしょー。あたし、割と無趣味なので」


 ここには、友達をもてなす用のテーブルも無いので、それは持ってこないといけない。

 あたしはリビングまでひとっ走りして、テーブルとクッションを小脇に抱え、お茶とコップを持ってきた。


「うわっ、一度に持ってきた! さすが銀城さん、なんてパワー……」


「これくらい普通にできるでしょー」


「テーブルを小脇に抱えて軽やかに歩く女子は少ないとおもうなあ」


 相生さんが何やらぶつぶつ言っている。

 そうかなあ。

 あたしはごく普通の女子だと思うんだけどなあ。

 テーブルを部屋の中心に置いて、その上にお茶とコップをどん。


「お菓子は、部屋に常備してあります……」


 学習机の引き出しを開けると、そこにはハッピータ◯ンが一袋。

 これを、部屋に備え付けのお皿にざらざらと開ける。


「常備してるお菓子が渋い」


「この粉が美味しいの! パリパリかじってると、脳が活性化しない?」


「ハッピータ◯ンで活性化……!?」


 いぶかしげな顔をする相生さんだけど、お菓子をパリッとかじったら静かになった。

 ハッピータ◯ンは食べるものを無言にする魔力があるよね。

 二人でしばらく、無言で包み紙を空け、お菓子をかじる。

 この甘じょっぱい味のおかげで、麦茶が進む進む。


「はっ、いけない!! 3日分くらいお菓子を食べてしまった!」


 ハッとする相生さん。

 普段はお菓子の量を抑えてるのね。

 元陸上部だからなあ。

 今は文化系の写真部になった彼女だけど、体つきはスラリと精悍なスポーツ少女なんだよなあ。


「相生さんはもっと脂肪をつけてもいいんじゃない?」


「一回脂肪がつくと、癖になるの! 落とそうとしたら、筋肉を道連れにして落ちるんだよ?」


「脂肪は胸とお尻周りにつくから」


「銀城さんっ!! それはクラスのみんなの前で絶対言ってはいけないからね!? 全ての女子を鬼に変える恐ろしい言葉だよ……」


「お、おう……」


 なんて必死な顔をするのだ、相生さん。

 その後、彼女は女子にとって、脂肪がいかに恐ろしい存在であるかを身振り手振りで語った。

 中学の頃の相生さんの仲間は、何人かが陸上を辞めているそうで、人づてに聞いた話ではほとんどの子が太ってしまったのだとか。

 スポーツをしてるとご飯が美味しいもんねえ。

 してなくても美味しいけど。

 それで、部活の時と同じくらいの量をもりもり食べていると、それは消費されないで、体にしっかりと蓄えられていくんだとか。

 うん、分かる分かる。

 高校に入ってから、サイズが増えて困るもんね……。


「銀城さんっっっ」


「はい、人前では言いません!」


 ということで、相生さんは朝夕に筋トレや走り込み、おやつや食事の品目の管理などをして余計な脂肪がつかないように気をつけているのだとか。

 そこまでするのか。


「うちの母さんが太りやすいのっ」


「なるほど……」


 身内に自分の未来の姿がいるわけか。

 それは必死になるなあ。

 うちのお母さん、豆タンクって感じだけど、太ってはいないもんな。

 骨格が太い。

 あたしは、お父さんの背丈とお母さんの骨格を受け継いでいるので、見た目よりもがっしりしていて重かったりする。

 なので、身長から換算する平均体重は目安に過ぎないことを知っているのだ……。

 あたしたちは、こうして脂肪談義に花を咲かせた。


 ふっと一息。

 ぺちゃくちゃ話して、ちょっと一休みだ。

 そうしたら、相生さんがキョロキョロと部屋の中を見回し始めた。

 そして、「あ」と声を上げる。


「気付いた?」


 と、あたし。

 相生さんの目の先には、壁に止められた大きなコルクボードがある。


「気付いたも何も。どーんって貼ってあるじゃない。それって、銀城さんが撮った写真でしょ?」


「正解。まだ入部して一ヶ月経ってないのに、結構撮ったなーって」


 桜の写真に、川の写真。

 花畑に、公園を走るパークトレイン。

 池から見た葦の写真。

 それから……蘭子さんの頭。

 こっそり撮ったら、なんか「むきー!」って暴れてきたのでびっくりした。

 写真に撮られるのが苦手なのかな、蘭子さん。

 ということで、あたしが持ってる蘭子さんの写真は、あの髪の毛が写った一枚だけ。


「ふむふむふむ、ほーん」


 しげしげと、写真を眺める相生さん。


「やっぱり、銀城さんセンス悪くないよね」


「そお? 才能ある?」


「才能は……ちょい普通」


「普通かあ」


 普通って言われて、あたしはにやにや。

 写真はなかなか難しいなあ。

 すぐには上手くなれないや。

 あたしが自分で見ても、コルクボードの写真はピントがぶれかけてたり、構図がパッとしなかったり。

 でもでも、お父さんは「天才だ!」って大喜びだし、あたしも自分なりにお気に入り。

 ただ……あたしがあの日、立川駅で見せてもらった蘭子さんのアルバムは、もっと素敵だった。


「ちょっと頑張らなきゃな。うん、頑張らなくちゃだ。うふふ」


 我知らず、笑いがこみ上げてきた。

 そんなあたしを、相生さんがちょっと引きながら眺めているのだった。

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