あたしと連休前とUFO2
「お邪魔しまー……す」
相生さんの細い声が響く。
ここはあたしの家。
マンションの四階にある我が家。
「相生さん、そんな恐る恐るじゃなくても大丈夫だよー」
「で、でも、初めての家に来るって緊張する。それに、銀城さんのお兄さんとかいるかもでしょ?」
「うーん、お兄ちゃん、大学だから帰ってきてないかも」
二人で靴を脱いで、廊下を歩く。
左右には扉があって、入り口に一番近いのは、両親の部屋とトイレ。
次にあたしの部屋とお風呂で、最後がお兄ちゃんの部屋。
「さあどうぞ! ここがリビングでーす!」
「うっわ、広……! 4LDK!?」
「そ!」
「うち……2LDKだよぉ。しかも、リビングこんなに大きくない……!」
「ふんふん」
「格差ぁ」
口ではそんな事言いながら、ソファのところまで歩いていって、そこをぽふぽふ叩く相生さん。
「すごいクッション……!! 脇に転がってるぬいぐるみこれ、何? 可愛い!」
「ラマ」
「ラマー!」
相生さんが間抜けな顔をした、うちのラマちゃんをギュッと抱きしめる。
「まあまあ、相生さんはそこでのんびりしててよ。お茶を取ってくるねー」
我が家では、ジュースと言うと果物や野菜をそのまま使ったスムージーか、フレッシュジュースなのだ。
ということで、常備してあるのは水出しのお茶。
これを作るのはあたしの役割。
「どうぞー。麦茶ですー」
「あ、どうもどうも」
コップを手にとった相生さん、口をつけるとごくごくと、あっという間に飲み干してしまった。
ぷはあっと息を吐いて、コップをテーブルに置く。
すかさず、あたしは麦茶をサッと注ぎ込んだ。
「あ、どうも!」
またごくごくと飲む相生さん。
何という飲みっぷりだろう。
よし、ではまた……。
「待って! わたし、お腹たぷたぷになっちゃう!」
「おお……つい」
ということで、お菓子を出しながら、自分の分の麦茶も用意した。
今日のお菓子は、自家製ポテトチップス……。
「なんか、ポテチが分厚い……!」
「あたしが揚げました」
「銀城さんが!? 料理まで!? 完璧超人か!?」
「この間、うち揚げ物だったの。だからその時、一緒にサーッと作っちゃったのね。薄切りにしたお芋を揚げるだけだから超簡単だよ?」
バリバリと食べるあたし。
市販のポテトチップスは、なんか量が減っていっているしお値段もするし、それならうちでまとめて作っちゃったほうが安い。
あとはお好みで粗塩を振って、出来上がり。
フレーバーが欲しいなら、スパイスとかハーブを使えばいいし。
「はえー。ほえー。ああ、美味しい……」
相生さんが呆然としながら、ぱりぽりとポテチを食べる。
そうしていたら、廊下の方で戸が開く音がした。
あら。
ぺたぺたと、裸足で歩いてくる。
姿を見せたのは、お母さんによく似た人。
「ポテチ食ってるの? 俺も欲しいー」
「お兄ちゃん帰ってたんだ。いいよー。お芋六つ分揚げたから、山程あるもん」
「おっ、サンキュー。つばさのポテチは旨えからなあ」
相生さんの横を抜けて、お兄ちゃんは適当な容器に、ポテチをザラッと盛る。
「お茶は?」
「いい。コーラ買ってきてある」
「ええー。コーラ、太るよー?」
「摂取した分は運動するわ。ゲームの中で」
「ゲームの中だと意味ないでしょ!?」
「わはは!」
ジャージ姿の彼、銀城たすくは、山盛りのポテチを持って部屋に戻っていった。
「……」
「もう、仕方ない人だよねえ。ゲームの中で運動しても痩せないだろうにー。今はまだスリムだけど、お兄ちゃんのお腹が出てきたらと思うと、あたしは心配だよ……」
「……銀城さん、さっきの」
「ん? うん、あたしのお兄ちゃん」
「お、おお……。写真撮りそこねた……」
「あー! 相生さん、アリちゃん先輩からミッションもらってたもんね! お兄ちゃん呼んでくるよ! それで写真撮ればいいでしょ?」
「待って! 待って相生さん! なんかめっちゃ恥ずかしい!! 待ってー!」
お兄ちゃんを呼びに行こうとするあたしを、相生さんが後ろからしがみついて止めてくる。
何のこれしき、相生さんを乗せたままでもどんどん動くぞ!
とは思うけど、一応止まるあたし。
「待った」
「ふいー……。銀城さん、活動的すぎるよ。心の準備をさせて……! ああ、もう……。想像以上に銀城さんっぽかった……。あれは緊張するー」
なんだなんだ。
相生さんからの、うちのお兄ちゃんへの評価が高いぞ。
生まれた時から一緒の妹としては、ゲーマーとしての兄は凄いと思っていても、それ以外はフツーかなーと感じてるんだけど。
「とりあえず! 銀城さん!」
「はい!」
相生さんに、ぎゅっと肩を掴まれた。
「お部屋見せて」
そう言うことになったのでした。
リビングじゃ駄目なのかなあ……。