あたしと連休前とUFO
フィルマ先輩の写真は……なんていうか、すっごく……。
「コズミックって感じですねー」
「銀城さん、言ってる意味がわかんない。だけど、なんか分かる……」
あたしと相生さんは、並んで微妙な顔をした。
それは、なんだかよく分からない、真っ黒な空間を背景にしていた。
暗い中を、カラフルな光があちこちに走り回っている。
フィルマ先輩のシャッター速度が合ってないのか、光は糸みたいに伸びて、どこから来たのか、どこに行くのかも分からない。
そういう色とりどりのものが絡み合って、なんとも言えない写真になっていた。
「まだまだいっぱいありマスヨー」
先輩が、どんどんアルバムをめくっていく。
そこにあるのは、オレンジ色の渦巻きをピンクの光が縦横に切り裂いているのや、まるで馬の頭みたいにみえる曖昧な青い光が、逆さになって写っているものだったりした。
「なんだろう、これ……。すごく綺麗なのは分かるんだけど、なんなのか分からない……」
あたしは首をひねった。
想像以上だ、フィルマ先輩。
なんか不思議な、ワカラナイものを撮ってる。
「なになに? 二人とも何をむつかしい顔してんの」
アリちゃん先輩が、あたしと相生さんの間に入ってきた。
ぎゅうぎゅうくっついてくる。
蘭子さんもそうだけど、アリちゃん先輩もなんかスキンシップ好きじゃない?
「あ、これ? フィルマ上手くなってるじゃん! キレーな馬頭星雲!」
「デショー」
フィルマ先輩がにっこにこ。
は?
馬頭星雲!?
「それって、オリオン座にあるっていうあれ?」
「知っているの銀城さん!?」
相生さん、詳しく、という表情をする。
「や、知ってるも何も。オリオン座に、馬の頭みたいな形をした星雲があるの。三ツ星は知ってるでしょ? あれの東の端の星の、南辺りにね……」
「銀城さん、星にも詳しい……!」
「違うから! 子供の頃に科学のアルバムとか読んでただけだから! お兄ちゃんのお下がりだから!」
「お兄ちゃん!?」
「つばさちゃんのお兄ちゃんとな!」
「お兄さんデスカ!」
わっ、変なところに食いついてきた!
「ほう……つばさちゃんはそのお兄ちゃんが大好きなのかね」
「蘭子さんまでいつの間に……!!」
いけない!
写真部が全員集合している!
幽霊部員の部長さんを除く。
「な……なんであたしのお兄ちゃんの話になるんですかね……」
「だって、つばさちゃんってハイスペックガールじゃん? ってことは、お兄さんもハイスペックなんでしょ……! 私、イケてる男子は大歓迎だから!」
おお、迫ってくるアリちゃん先輩。
圧が凄い。
これ、フィルマ先輩はニコニコしてて、ただただ盛り上がる話題が楽しいだけだな。
で、相生さんはなんでかおどおどしている。
想定外の情報が入ってきて、混乱しているみたいだ。
そして、蘭子さんの顔に見えるのは……こ、これは対抗心……!?
「いやいや、でも、うちのお兄ちゃん、背丈はアリちゃん先輩くらいしか無いですし、スポーツとか全然駄目で、そんなイケてるってわけでは!」
「ええっ、じゃあ、つばさちゃんと正反対!?」
「ですね! スポーツとか背丈はあたしで、頭がいいのはお兄ちゃんですね」
「銀城さんよりも頭がいい!?」
あっ、相生さんが食いついてきた!!
「あ、う、うん。一応帝国大学の……」
「帝国大学!?」
「国内最上位偏差値……」
「ざわざわ」
「これは部長には秘密にしておこう。憤死する」
先輩三人、角を突き合わせてこそこそ、ぼそぼそ。
相生さんが、キラキラした目であたしを見ている。
「やっぱり銀城さんエリートだったのね……! 勉強教えて……!」
「いやいや、同学年だから、あたしたち」
「おうちにお邪魔したい……」
「いいよ?」
「やっぱりそれは厚かまし……いいの!? じゃあ行く! 今日!!」
ということで。
いきなり、部活終了後に相生さんが遊びに来ることになってしまった。
今日の部活は、二胡先生がお仕事の都合で来れないそうで、特にやることもなし。
ぺちゃぺちゃ喋ったあと、では解散、となった。
先輩たちが集まって、相生さんに近づいていく。
「相生さん、ミッションを与える」
「は、はい!?」
「つばさちゃんブラザーを撮影するのよ……! 玉の輿……!」
「アリちゃん、欲望がだだ漏れデス。あと、つばさちゃんの家を撮影してクダサイ!」
「兄妹関係が友好かどうかとか、それとなく探って……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ先輩方!! えっと、その、とても覚えて」
「ミッションの達成は全て、相生さんの双肩に掛かっているの!!」
「は、はいぃ」
あっ、蘭子さんに押し切られた。
元陸上部の相生さん、先輩との上下関係には大変弱いらしい。
だが、ただ命令だけするような先輩方ではない。
「明日の昼食にパンを奢ってあげよう」
「ジュースを買ってあげるから……頼む……頼む……! イケ男子……!」
「宇宙に連れて行ってあげマショウ」
なんか、フィルマ先輩、凄いこと言った気がするぞ!!
そして、ギクシャクした動きをしつつ、相生さんはこっちにやって来たのだった。
遠巻きに眺める先輩たちが、なんだかいやーな笑顔を浮かべている。
ひいい、相生さんに何を吹き込んだんだあ。