公園と先輩とUFO〆
閉園時間のアナウンスが流れる。
もうそんな時間なのだ。
言われてみれば、とっくに日は傾いているし、ちらほらといる人たちも、園の出口に向かって歩き始めている。
「遅いぞー」
入り口の近くで、アリちゃん先輩と相生さんが待っていた。
パークトレインでぐるっと回って、西立川口まで来ていたらしい。
その後、あたしたちが来るまで売店のお菓子を食べながらのんびりしてたんだって。
この人たちは、観光に来たんじゃないか……?
「アリ、写真撮ってる?」
「全然?」
ほらあ!
悪びれないでさらっと言う辺り、さすが過ぎる。
「私は現像担当。写真は上手くないんだよね。そこはほら、蘭子がやってくれるじゃない? 後はファンタジー系ならフィルマの右に出るのはいないでしょ」
「わ、わたしは撮っていましたからね!」
ここで相生さんの主張。
うん、真面目な相生さんらしい。
そして、聞き捨てならない話が聞こえたぞ。
「フィルマ先輩がファンタジー担当?」
「ハイ!」
あたしの疑問に応えて、フィルマ先輩が大変いいお返事をした。
というか、この人写真撮るんだ……!
いや、普通撮るよね、写真部だもの。
そう言えば入学式で、腕章を付けた女子が体育館をトコトコ歩き回ってたと思ったけど、あれって多分、蘭子さんとアリちゃん先輩だったんだろう。
フィルマ先輩だったなら、一発で分かるもの。
真っ白な肌で銀髪、銀色の瞳の女の子なんて、目立つなんてもんじゃない。
今思えば、この人、多分あれなんだろうなあ。
二胡先生たちが、隠してたんだ。
「なんデスカつばさちゃん。ワタシをじーっと見て」
あっ、フィルマ先輩を凝視してしまっていた。
あたしより目線二つくらいしたのところから、銀色の目がじーっとあたしを見つめてくる。
「あー、いや、フィルマ先輩が撮った写真見たいなーって思って」
「そうデスカ!?」
パッとフィルマ先輩の顔が明るくなった。
「フッフッフー。可愛い後輩に言われたナラ、仕方ありまセン! 今度、ワタシのアルバムを見せてあげまショウ!!」
「おおーっ、フィルマ、あのアルバムを解放すんのね!」
「つばさちゃん、フィルマのアルバム見るときは、気を確かに持つのよ」
なんだなんだ?
アリちゃん先輩も、蘭子さんも、妙な事を言うぞ。
ひょっとして、宇宙的なすっごい写真が見られるのだろうか。
「はい! はーい! わたしも見ます!! フィルマ先輩、わたしも銀城さんと一緒に見ますから!」
「ワオ! つばさちゃんも、のぞみちゃんも、ワタシの写真が気になるんデスネ! 意地悪な先輩たちなんか放っておいて、明日はワタシの写真を見る日にしまショウ!」
「いじわるだってー」
「人聞きが悪い」
ぶうぶう言う、二人の先輩。
だけど、フィルマ先輩はどこ吹く風。
うーん、ハートが強い。
ということで……明日の予定が決まってしまったのだった。
「また明日ねー!」
西立川口を出る前に、手を振るアリちゃん先輩とフィルマ先輩と相生さん。
三人とも、立川口まで歩いていって、立川駅から帰るんだって。
フィルマ先輩の家は、そりゃあ立川駅上空だし。
で、相生さんの家は立川の奥の方っと。
あれ?
アリちゃん先輩どこに住んでるんだろう。
「ほいほーい。じゃあねー」
蘭子さんはぶんぶんとおざなりに手を振る。
そして、あたしと蘭子さんで二人きり、電車に乗り込むわけなのだ。
「蘭子さん、どっちでしたっけ?」
「西武国分寺線。ということで、ちょっとだけ一緒なんだよー」
なんだろう。
蘭子さんの気が抜けている。
折よくやって来たのは、青梅線東京行。
これに乗っていれば、あたしの家がある武蔵小金井までは一本だ。
蘭子さんとは国分寺でお別れだけど……。
「ま、私も国分寺駅から一つだけどね」
うわ、家近っ!!
今度詳しく家の場所聞き出して、襲撃しよう……。
「ふわああ」
空いていた席に腰掛けたら、蘭子さんが大きなあくびをした。
「眠そうですねえ」
「うん。インドア派の私が、今日はめっちゃくちゃ歩いたからねえ……」
ああ、そう言えば。
昭和記念公園って、とんでもなく大きな公園だから、とにかく歩きまくるのだ。
今日だけで随分歩き回って、蘭子さんは体力を使い果たしたらしい。
もう一度大きなあくびをすると……。
「おお、いい抱きまくらがあるわい」
なんて言いながら、あたしにくっついて寝始めてしまった。
こういう時は、あたしが持って生まれた体幹の強さに感謝する。
この人、ちっちゃくて軽いので、よりかかられてても全然重くないんだよねえ。
しかし……。
国分寺まではあっという間だよなあ。
起こさなかったら怒るだろうなあ……。
暗くなっていく車窓を眺めながら、あたしはそんな事を考えるのだった。