公園と先輩とUFO4
みんなの原っぱってい得のが、公園の中心になるこの広場なのね。
ぐるっと回って、反対側の花畑も撮ることにしたあたしたち。
ここであたし、ハッと天才的発想。
「フィルムが無いなら、スマホで撮ればいいんじゃん!!」
「むっ」
あっ、蘭子さんが反応した。
「まあ、つばさちゃんには予備のフィルムを使うという選択肢が無いから、それもまたよし……。文明の利器が悪いわけじゃないもの」
「凄くひねたこと言ってる!」
だけど、レンズ付きフィルムの残り枚数も切れちゃったことだし、背に腹は代えられないのだ……。
パシャパシャやっていたら、遠くから何やら「ポッポー」なんて音が聞こえてきた。
「なに!?」
耳慣れない音に、振り返るあたし。
「うん。園内を走るパークトレインというものがあってね。公園の中を隅々まで走ってくれるの」
「へえー」
しゅっしゅっぽっぽと音を立て、可愛い汽車がやって来る。
タイヤで普通に道を走ってくるんだねー。
あっ。
「……」
「……相生さんだ」
相生さんと、アリちゃん先輩が乗ってる。
あの二人は何をやっているんだろう。
「二人とも、砂川口まで行って、わざわざ乗ったんだねえ。まあ、私たちはボート乗ってたわけだし。自分たちなりに、みんなに公園を楽しんでもらいたいわけ」
「なるほどですねえ」
あたしが、じーっとパークトレインを眺めていたら、蘭子さんはニヤッと笑った。
「乗る?」
「こ、今度!!」
「はいはい。また来ようね。それとも、一日楽しむなら休日にでも来る?」
「……来るって、蘭子さんと二人で?」
おっ、それもいいなあ。
一日中二人で園内を満喫するのだ。
こんな広い公園だとは思ってなかったから、周り切るには放課後じゃあとても時間が足りない。
「今のつばさちゃんのノリ、なんだか身の危険を感じたんだけど」
「ええー。あたし、人畜無害ですよう。それにパワーだってあるから、あたしが蘭子さんを守りますから!」
「いやいやいや、私、危ないところには近づかないから」
蘭子さん、写真のためならどこまでも突き進んで行きそう。
絶対にあたしが守らねばならない気がするんだよね。
「なに、つばさちゃん。どうしてそんな力んで私を見てるの……」
たじたじ、と下がる蘭子さん。
ふふふ、逃がすものですか。
あたしたちが、そんな風にじりじりと動いていたら、ポワーンとした顔のフィルマ先輩がやって来た。
「あー……良かったデス」
気がついたら、あたしたちは日本庭園前までやって来ていた。
ちょうど盆栽苑を見終わったフィルマ先輩が、戻ってくるところだったのだ。
「おかえりなさいです、フィルマ先輩!」
「あー、つばさちゃん! もう、盆栽苑が尊くて尊くて。はー」
おお、宇宙人が拝むみたいなポーズをしてる……。
すすすっと、蘭子さんはフィルマ先輩の後ろに移動した。
あっ、逃げられてしまった。
「鬼ごっこデス? 地球の遊びは奥深いデス」
「フィルマ先輩は、鬼ごっことかしないんですか?」
「しないですネエ。ワタシたち、個というものが無いので、遊びや娯楽がないんですヨネ」
「へえー」
……なんか凄いことを聞いた気がするなあ。
「ワタシがこうして見聞きしたものは、他のたくさんのワタシも見聞きできマス。だけど、不思議なんデス。この目で見た美しいものは、じかに見たワタシと伝わって見たワタシでは、全然感じ方が違う……。ワタシには個はないのに、でも、ワタシは他のワタシと違うワタシになっていく」
目をうるうるさせるフィルマ先輩。
絵になるなあ。
「それはね、写真も同じなんデス。映像で撮ってしまえば、みんな同じになるんデスヨ。だけど……この原始的なカメラで撮影されたものは、同じものを撮っているはずなのにみんな違うんデス。ねえ、この目で見たものとも違ってて、プリントされた写真の姿って、想像もできないような素敵なものになってて」
興奮したフィルマ先輩が、あたしの手を握ってぶんぶん振る。
「分かるデショ、つばさちゃん!」
「分かります!! あたしだってそうです!」
「やっぱり!」
あたしとフィルマ先輩、手と手を取り合って、きゃーっと盛り上がった。
なるほど、フィルマ先輩も、フィルム写真の素敵さに魅了されてここにいるんだなあ。
それに、彼女が言ってた、素敵なものを直に見るのと、伝えられて知るのとでは確かに全然違うと思う。
そっか。
立川の上にUFOがずっと留まってるのは、みんなでこの感覚を調べてるんだ。
それで、フィルマ先輩が一番感激したのがカメラだったと。
……だから、UFOはフィルムカメラに写る……?
「ソフトクリーム食べにいきマショウ、つばさちゃん!」
「いいですねー! 蘭子さんも!」
「えっ、まだ食べるの!? 絶対つばさちゃん、まだ育ち盛りだって」
ともかく、今はこの、いくら食べてもぺこぺこなお腹を満たさないとなのだ。
ちょっとだけ真実に近づいた気がしたけど、あたしは真実よりも、今は甘味が大事なのだった。