公園と先輩とUFO
学校を終えたあたしは、電車に乗り込んだ。
だけど、それは中央線の東京行きじゃない。
青梅線青梅行き。
一駅走ると、そこは西立川駅なのだ。
「実はあたし、昭和記念公園は初めてで」
「へえー。楽しいよ。とにかくおっきな公園って感じ」
「やー、想像つかないです」
蘭子さんの隣で、あたしはにやにやする。
たった一駅だけど、電車が出るまではまだまだあるみたい。
立川駅の一番端っこ、1,2番線から発車する青梅行きは、中央線と比べると数が多くない。
あたしたち、北崎女子の写真部一同は、横一列に電車の座席を占領していた。
端っこが蘭子さん。次にあたし。掴まるポールみたいなのを挟んで、相生さん、アリちゃん先輩にフィルマ先輩。
二胡先生は来てない。
だけど絶対、二胡先生の同業者さんが近くにいるんだろうなー。
「あふ……」
相生さんが欠伸をした。
「どしたの、相生さん。ねむい?」
「かも。昨日買った本、ずっと読んでたの」
「あー、なんかそう言ってたね」
「睡眠時間、足りてないかも……。銀城さん、つくまでの間、ちょっと肩を貸して……」
こてん、と相生さんがあたしにもたれてきた。
おいおい。
たった一駅なのに。
「まだ発車まで七分あるから。軽く寝れるでしょ」
マイペースな蘭子さんは、ちらっとあたしを見てから、カメラをいじっている。
うーん、ちょっとは面白くなさそうな素振りをしてくれたら、キュンと来るんだけどなあ。
あたしがチラチラと蘭子さんを見ている間に、相生さんがすうすうと寝息を立て始めてしまった。
本当に寝るかあ。
「あっはっは。つばさちゃんは安定感あるからねえ。背が高いだけじゃなくて、重心がしっかりしているというか」
「あたし、そんなどっしりした体型じゃないですよ!?」
「お尻が大きい娘も、ワタシは好きデス」
「フィルマ先輩、そうじゃなくってえー」
先輩たちは、わっはっは、と笑う。
なんだかなー。
遊ばれてるぞ、あたし。
あっ、蘭子さんもくすくす笑ってるし。
「ひどいですー」
あたしがむくれたら、蘭子さんはいそいそとカメラをしまい、ほっぺたを突っついてきた。
「わっ、つばさちゃんのほっぺ柔らかい! いつまでも突ついていたくなるー」
「むむうっ」
「どれどれ?」
身を乗り出して、相生さんごしにあたしを突つこうとするアリちゃん先輩。
フィルマ先輩まで、わくわくした顔で身構えてる!
ひいー。
あたしが先輩三人にいじられそうになった、正にその時だ。
扉がプシューッと閉じて、電車がゆっくりと動き出した。
「おっ」
アリちゃん先輩が、慌てて席に戻る。
「青梅線ってさ。ここからすぐのところで、変にガタンって言うんだよね」
「いいマス!」
フィルマ先輩が笑った。
「ワタシ、慣れてなかった時、それでガタンってバランス崩して、近くのおじさんにぶつかっちゃいマシタ!」
「あー、あれは傑作だった! おじさんも、フィルマが外人みたいな見た目だから、怒るに怒れなくてさ」
「うん。フィルマがゴメンナサイってたどたどしく言ったら、ちょっと頬ゆるんでたよね。美人は得だなー」
それって、蘭子さんたちが一年生の頃かな?
いいなー。
それは面白そうだなあ。
羨ましそうに、三人をきょろきょろ見てたら、車掌さんのアナウンス。
電車が揺れますって。
あたし、真面目な顔をして眼の前のポールをがっしり掴んだ。
「大丈夫だって、つばさちゃん。あの時のフィルマが無防備だっただけだからさ」
「座ってればオーケーデス!」
「そ、そうなんですか?」
あたしはポールから手を離した。
そうしたら、ガタンッ、ガタガタガタンっと電車が揺れる。
「うわっ」
「これね、なんかカーブしてるとか、分かれた線路が一つになるところだとか、そういう理由で揺れるんでしょ?」
「たぶんね」
アリちゃん先輩の言葉に、蘭子さんはおざなりに返した。
ちなみに、あたしにもたれて寝ていた相生さん。
このショックで、ビクッとして起きた。
「ふぁ、ふぁーっ」
「あらおはよう、相生さん」
「お、おは……。なんか揺れなかった?」
「揺れた」
先輩たちも、相生さんにおはよー、と声を掛ける。
相生さんは律儀に、先輩たちに挨拶返し。
この辺り、彼女は基本が運動部なんだよね。本当に、なんで陸上辞めたんだろう。
でも、深く突っ込まないのがあたしなのだ。
あたしだってあまり考えずにバスケしなくなったしね。
「すぐに西立川につくんです?」
「うん、すぐだけど、案外、立川から西立川ってあるんだよ。歩くと三十分くらいかかるよ?」
「そんなに!?」
蘭子さん、いかにして自分が西立川まで歩いたか、という話をしてくれる。
重いカメラを背負って、一駅だからと電車代をケチったら、大変な目に遭ったとか。
「これが、ひとつ先の西立川から中神駅なら全く問題ないの。だって、西立川から向こうの駅のホームが見えるんだもん」
「ほえー」
「でも、今日の目的地は西立川駅。そして昭和記念公園!」
「はいっ! 楽しみです!」
あたし、大いに盛り上がる。
「蘭子も、つばさちゃんがきちんと反応してくれるから嬉しそうねえ。希ちゃんは、私たちと行こうねー」
「あ、は、はい!?」
相生さんが、アリちゃん先輩にギュッと抱きしめられてしまった。
そういうの耐性なさそうな彼女は、あたふたしてる。
そしてマイペースなフィルマ先輩が……。
「つきマシタ~」
見えてきた、昭和記念公園!
既に、あたしたちが座った背中側には家はなく、どこまでも続きそうな公園が広がっている。
さあ、今日はこの大きな公園での撮影なのだ。