うちと友達とUFO〆
「……ということがあってね」
「ひいい」
月曜日の朝。
朝のホームルーム前に、相生さんとおしゃべりなのだ。
隣同士だから、自然と話す機会も多いしね。
それで、土曜日にあったあの件のお話をした。
顔をひきつらせて、がくがく震える相生さん。
「まるで映画みたいじゃない。ほら、MJ12だったっけ」
「マイケル・ジャクソン12? MI6とか」
「そっちはミッション・インポッシブル……。うーん」
「うーん、なんて言ったっけ。昔の映画でしょ?」
あたしたちは、多分同じ映画のことを言ってるんだと思う。
宇宙人の目撃者を脅したりして、見てなかったことにしちゃう人たちの話。
相生さんがMJ12って言ったのは、マジェスティックトゥエルブの話かな?
あたしは、フィルマ先輩と会った後、色々ネットで調べてみたのだ。
何ていうか、あたしが先輩と会ってなかったら、都市伝説で終わりだよね。
「あっ、メン・イン・ブラック」
相生さん、思い出した。
「そう、それだ! 見たこと無いけど」
「わたしは、母さんが見てた。コメディだと思ってたんだけど、現実になったらめちゃくちゃ怖いねえ……」
うんうん。
なかなか、あたしたち、洒落にならない状況の中にいるんじゃないか。
「でも相生さん、ちょっと待って」
「んん?」
「つまりこれって、UFOを撮影することはできるけど、やるのは特別な許可がいるってことなんじゃないかな。例えば、フィルマ先輩に直接オーケーもらう、みたいな」
「例えっていうか、それで全部じゃない?」
うん、全部だ。
で、あたしたちはその許可が降りてる状態。
……あれ?
それなら何も問題がなくない?
「? 銀城さん、急に顔が明るくなった」
「あたしの不安は全て晴れたのだ……」
「ええーっ!? なんでなんで!?」
「怖いものはあたしたちの味方だからなのだよ……!」
「えっ、えっ!?」
相生さんがついていけなさそうな顔をした。
あたしが説明をしようとした所で……。
「はい、ホームルームの時間です!」
先生が入ってきたので、お預けになってしまったのだった。
「銀城さん! どういうこと!?」
ホームルームが終わるや否や、説明を求めてくる相生さん。
ずーっともじもじしてたもんなあ。
そもそも、あたしが彼女にこの不安の種をまいたわけなので、説明責任は果たさなきゃいけないだろう。
「えっとね、つまりね。一番怖い二胡先生は顧問だし、フィルマ先輩はかわいい先輩だし。あ、次の授業なんだっけ」
「確かに、それはそうだけど……ううう、なんか、銀城さんに不安を煽られちゃったなあ。当の銀城さんは自己解決してるし……!」
「だから気にしなくていいんだってば。あたしの友達も記憶をちょっと消されちゃったけど、元気だったし」
「ちょっと!? うわー、銀城さんのハートの強さはわたし、理解できないわ……」
何ていうか、あたしは、別に写真部周辺のものが、恐れるようなものではないって気付いただけなんだけど。
だって、写真大好きな蘭子さんが、UFOや立川駅の周りを好きに撮影して回れるのだ。
それって、何も危ないことなんかないってことじゃないか。
こと、北崎女子に入ってから、あたしの中の基準は蘭子さんだ。
彼女があたしを写真部に誘った。
それって、写真分は悪くないところだってことじゃない?
ならば、悩むだけムダ。
あたしは蘭子さんを信じるのだ。
「まあ、わたしも、フィルムカメラ、きらいじゃないけど。っていうか、撮った写真が浮かび上がってくるの、好きだし」
ほら、相生さんも。
彼女は、あたしを見て、ちょっと頬を膨らませた。
「もう、銀城さん、何をにこにこしてるの。あ、次の授業英語だよ」
「さんきゅ」
そそくさと、教科書とノートを取り出す。
土曜日の件はちょっと衝撃的だったけど、でもあれをやってる二胡先生は休日出勤してるわけだし、撮影してるUFOはフィルマ先輩のおうちだし、なんだかんだ言って蘭子さんには何の影響もないし。
「今日の部活、どこ行くんだろうねえ」
「どこって? どこか行くのかな? わたし、駅で写真撮っただけなんだけど」
「むふふ、あたし、蘭子さんと二人で玉川上水行ったから。桜はもう散っちゃったかなー」
「ええ、ずるいー! それじゃあわたし、桜を撮るにはあと一年待たなくちゃいけないんじゃない! むむむ、今日、絶対どこか連れて行ってもらう。銀城さんより凄い写真撮らなきゃ、気が済まない!」
相生さんが燃えている。
すっかり、あたしたちの間に不穏な空気は無くなってしまった。
そうだよね。
写真は楽しいのだ。
ちょっと身の回りに怪しいことがあるけれど、そのお陰であたしの学校生活は充実しているのだし。
「ところで銀城さん。結構、その、立川出てくるの……?」
「え? うん、ちょこちょこ。新宿よりは空いてるし」
「じゃあ、その、別にわたし、暇してたら、呼んでくれても大丈夫だよ。色々案内とかするから」
お?
こ、これはなんだろう。
「中学の友達だけじゃなく、高校の友達とも遊んだほうがいいでしょ?」
友達……。
おお。
なんか、グッと来た。
あたしは、横にいる相生さんをむぎゅっと抱きしめる。
「うわーっ!? いきなりどうしたのー!?」
「むふふ、あたしたち、友達だもんね? よーし、じゃあ今度の休みは朝から付き合ってもらっちゃう!」
「な、なんだとー! のっ……望むところよ!」
きゃあきゃあと騒ぐあたしたちは、クラスから注目されたり、早めにやって来た英語の教諭にお小言を言われたり。
だけど、あたしのテンションはだだ上がり。
よーしよし、週末の予定、今から立てなくちゃ。