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桜とカメラとUFO2

 次の日の放課後。

 写真部の活動場所は理科室だって聞いて、あたしは階段を降りていくところ。

 本日も、あたしは無事にぼっち。

 というか、あたしのクラス、中学の時に仲が良かった子たちが念入りにばらけさせられたみたいで、ぼっち率が凄く多い気がする。

 何ていうか、入学二日目はまだまだ腹の探り合いっていうか……。

 高校生活って、こういうものだったっけ……?


 ぱたぱたと階段を降りる。

 公式の屋内シューズはまだ足に馴染んでいなくて、違和感ばりばり。

 校舎はどの階でも、放課後の喧騒に包まれてる。

 クラブ活動の見学期間なんだよね。

 みんな、連れ立って、あるいは一人でクラブを覗いては、活動にちょっと参加してみたりする。

 どのクラブに入るかって、これからの高校生活を大きく左右する要素だ。

 だからみんな真剣。

 きゃあきゃあと黄色い声を上げて、どこに行こうかってはしゃいでても、多分、真剣。


「えっと……。理科室、理科室……」


 北崎女子高校の理科室は、一階。

 それも、校舎の端っこにある。

 学び舎はコの字型してて結構大きい。

 その中でも、裏口側にあるコの字の端っこ。


「ここだ」


『理科室』という看板を見つけて、あたしは頷いた。

 そして真顔になる。

 だって、室内は灯りなんかついてなくて……っていうか、不自然なくらい真っ暗だ。

 普通、陽の光くらい入ってこない?


「ここ……? ほんとに、ここ……?」


 顔が引きつっていくのが分かる。

 だって、雰囲気が異常だもの。

 音は何もしない。

 話し声も、物音も、何もない。

 しーんっと静まり返っていて、遠くで生徒たちがはしゃぐ声が聞こえてくるばかり。


「そもそも、人、いるの……?」


 口に出しながら、あたしはなんで、さっさと立ち去らないのかと考えてみた。

 昨日までのあたしだったら、絶対帰ってる。

 人気のない校舎の端で、真っ暗で、物音がしない理科室なんて、怪しいし怖すぎるからだ。

 だけど……。

 あたしの頭に浮かぶのは、昨日見た汐見蘭子さんの顔。

 彼女が手にしていた、ごっついカメラ。

 撮影された、UFOの写真。

 それが気になって仕方ないのだ。


「と、言うわけで……。行ってみますかぁ」


 あたしは理科室扉の前で、深呼吸した。

 扉を、ノックしてみる。


「すみませーん。あの、部活見学で……」


 そうしたら、いきなり教室の中から、ガタガタっとすごい音が聞こえた。

 何人かが動き回る気配と、ざわざわする声。

 うわあーっ!

 こわっ、こわぁっ!

 帰ろうかな!?

 さすがにびっくりしたあたしが、帰りかけた時だ。

 ガラッと扉が開いて、見覚えのある人が顔を出した。


「うひゃあ、来てくれたんだ銀城さん!」

「あっ、蘭子さ……じゃなくて、汐見、先輩」

「そんなぁ。かたっ苦しいよ」


 けらけら笑いながら、蘭子さんはあたしを手招きする。

 真っ暗な理科室の中へ。


「じゃあ、蘭子さん?」

「うんうん! それじゃあ、私もあなたのこと、つばさちゃんって呼ぶね?」

「は、はい!」


 何か、ホッとした。

 この理科室は、蘭子さんに教えられた通りの場所だったのだ。

 それに、いきなり名前呼びとか、蘭子さんと距離がグーッと近づいたみたいで嬉しくなる。


「失礼しまぁす」


 あたしは半開きになった扉をくぐると、真っ暗な中へ身を投じた。

 そうしたら、なんだか強烈な臭いがする。

 す、酸っぱい……!


「ぷわっ! こ、これ……! お酢のにおい!?」

「そうそう。今ね、現像してるの。酢酸はちょっと癖があるよねえ。はい、つばさちゃん」

「!」


 蘭子さんがニュッと手を伸ばし、あたしの手を握った。


「暗くて見えないでしょ。みんなのところまで案内するから」

「は、はい!」


 彼女の手は小さくて、でも、とっても力強かった。

 ぐいぐい引っ張られていくあたし。

 そうしながら、周りを見回した。

 理科室の窓は分厚いカーテンで仕切られている。

 そして、さらに教室の中心が、真っ黒い異様な布で囲まれていて……。


「あれ、なんですか?」

「暗室。銀塩カメラのフィルムってね、ああいうとこで現像するの。光が当たっちゃうとね、ダメになっちゃうんだなあ」

「へえー……。パソコンに繋いで印刷したりできないんだ」

「そうなんだよねー。一応写真部だから、自前でね」


 あたしたちが近づくと、暗室から二つ、顔が出てきた。

 一つは、整った顔立ちの大人っぽい美人さん。

 もう一つは、なんと銀髪で真っ白な肌の女の子。


「なになに? 蘭子が話してた新入部員?」

「そうそう。銀城つばさちゃん。みんなでつばさちゃんって呼ぼう!」

「ヨロシクね、つばさちゃん! ワタクシは、こっちの言葉で言うとフィルナ・ポッペ・ファム。宇宙人です」

「あ、ど、どうもー」


 銀髪の彼女が変なことを言って、握手を求めてきた。

 あたしはちょっと圧倒されて、彼女と手を握る。

 それを見て、もうひとりの女の人が笑った。


「いきなり宇宙人って言われてもびっくりするよねえ。私は物部有沙(ものべありさ)。アリちゃんって呼ばれてるから、そう呼んでね」

「は、はい……あ、アリ……アリちゃん先輩」


 彼女はニコニコするとすぐまた暗室に引っ込んでいった。

 フィルナ先輩はしばらく、ぎゅっとあたしの手を握ってたんだけど、飽きたみたいで手を離し、現像作業に戻っていく。


「変わった子たちでしょ」

「はい。……じゃなくて、えっと」

「いいのいいの! うち、ちょっと特別だから」


 けらけらと、蘭子さんが笑った。


「初日から、いきなり現像っていうのもハードル高いでしょ。写真部って言ったら、やっぱり写真!」


 彼女はいつの間にか、首からあのカメラを下げている。

 そして、あたしの手に何かを握らせた。

 ……なんだろう、この緑色の……。


「レンズ付きフィルム。さ、つばさちゃん。一緒に写真撮りに行こうじゃない」

「え、ええっ!?」

「この時期なら、まだ玉川上水に桜が残ってるから。立川バスに乗ってね、若葉町団地で降りて、ちょっと奥に行けば遊歩道だからさ」


 蘭子さん、あたしの手を取って、どんどん先に行ってしまう。

 小さいのに、押しの強さがすごい!

 でも、そんな彼女に引っ張って行かれるのは、嫌じゃなかった。

 いきなりの、フィルムカメラ(?)初体験があたしを待っているのだ!

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