うちと友達とUFO3
ひとまず、立川駅の北口にやってきたあたしたち。
ペデストリアンデッキ全体を釣り上げている、クロスしたアーチ状のオブジェを見ながら、どこに行くか話し合うことにした。
「それじゃあ、まずはゲーセンでしょ。北口来ちゃったけど、南口のセガワールド行こ!」
「ぶっぶー」
ぺんちゃんの提案に、あたしは口を尖らせて頭上でばってんを作った。
「ええーっ、なんでよつばつばー」
「あたしは北高の制服でーす。この制服着てゲーセン入ったら、大変なことになるよ」
「ただでさえ、つばつば目立つもんねえ。でっかいし」
よっちゃんがいらぬ一言を付け加えた。
あたしは彼女に組み付くと、こちょこちょとくすぐり始める。
「うわ、わはは、あはは、やめ、やめてつばつば」
げらげら笑い出すよっちゃん。
ぺんちゃんはと言うと、むつかしい顔をしていて、
「うぬぬ、北高の制服を見たいという欲望が裏目に出たか……! えっと、それじゃあ……」
考え込んでいる。
「とりあえず、ラーメン食べに行こうか」
そういう事になったのだった。
立川上空に浮かぶUFOは、ちょうど立川駅の真上にある形だ。
端から端までたどれば、北口の駅前地区から、南口の駅前地区まですっぽり入ってしまうだろう。
とんでもなく大きなUFO。
「いやー、やっぱおっきいねえ」
「うん。つばつば、毎日これを見てるんでしょ?」
空を見上げながら歩く二人。
「そうだねえ。でも一週間も見ていると慣れてくるっていうか」
「ええ、慣れるものなの?」
よっちゃんが訝しげな顔をした。
「まあ、割と」
そういう風に答えながら、あたしの頭の中では、フィルマ先輩がにこにこ笑っている。
知り合いが宇宙人だからなあ。
そう考えると、あのUFOはうちの先輩のお家なのだ。
人間、わけがわからないものは怖いけれど、それが何だか分かっているものは、どれだけ変なものでも怖くなくなるものだと思う。
あたし達は、アレアレア2を目指して南口のデッキを歩く。
やっぱりモノレール沿いに作られている、この空中回廊は、下に降りること無く駅前の大体のビルに入れてしまうのだ。
アレアレア2は、その中でもちょっと変わった商業ビル。
デッキから二階に入ると、目の前にはスーパー。
二階に上がると、ニューヨークをイメージしたらしいラーメン屋さんが集まった場所、ラーメンスクエアに着く。
ここでお昼ご飯というわけ。
ちなみに、ラーメン屋さんと同じフロアには、立川のあちこちに展開する書店、オリオン書房アレアレア店があって、すっごくたくさん本が揃ってるのだ。
「とんこつ」
「みそ」
「どっちでもいいなあ」
「つばつばは好き嫌い無いもんねえ。でも、私はとんこつがいい。彼氏がいない内しか食べられないでしょ……!」
そんなことを言うのは、私達の中で唯一の彼氏持ち……だったことがある、ぺんちゃん。
この圧倒的説得力よ。
「仕方ない。ぺんには負けたよ。とんこつにしよっか」
「替え玉楽しみだねえ」
「流石つばつば、食べる前から替え玉前提とか……!!」
とんこつに決定したので、女三人でお店に入り、つるつると濃いお味のとんこつラーメンを平らげた。
たまに三人で遊ぶのだからと、今日はカロリーセーブはなし。
結局みんなで替え玉を頼んだ。
あたしは二回替え玉を食べた!
「腹に来るぞー」
「また背が伸びるゾー」
ぺんちゃんとよっちゃんが脅してくるぞ!?
だけど、そんなものはあたしには何も怖くないのだ。
「最近、食べたものはお尻と胸周りに来るんで大丈夫」
「な、なに……? それほんと……?」
「あっ、ぺんがすっごいダメージ受けてる。ぺんってすばしっこいけど、そのぶん割と流線型ボディだもんね」
「流線型って言うなあ!?」
わはははは、と盛り上がった。
たらふく食べた後は、これから何をしようかということで、歩き回ることにする。
カラオケかなあ。
あたしたちはぶらぶらと、アレアレア1のビルまで戻ってきた。
その時だ。
「あ」
あたしは気付いた。
リュックを背負った男の人が、カメラを構えてUFOを撮ろうとしてる。
「あれ? UFOってカメラで撮れないんじゃなかったっけ」
よっちゃんも気付いて、疑問を口にした。
そう、その通りだ。
デジタルカメラじゃ撮れないんだよね。
だけど、それがデジタルじゃなくて、銀塩カメラなら。
アナログのフィルムカメラなら撮れてしまうのだ。
そう言えばどうして今まで、フィルムカメラなら撮れるのに、その事があまり知られていなかったんだろう。
男の人はあたしたちには構った様子もなく、ピントを合わせてUFOを撮ろうとする。
「やっぱりだ。ネットで見た通り、フィルムカメラなら写るんだ……。あの書き込みすぐ消えたけど、なんだよ、なんで誰もフィルムカメラ使ってない……」
「はい、そこまで」
いつの間にか、男の人の周りに、スーツを着た男女がいた。
「えっ!? ちょ、ちょっと、なな、なんだよあんたたち」
「うん、フィルムカメラはね、この辺りじゃ撮影禁止だからね。ちょっとこっちに行こうか」
「はあ!? どこにも書いてないだろうが!」
スーツの人に言われて、カメラを持った男の人がちょっと声を荒げる。
「うわ、喧嘩?」
ぺんちゃんがちょっと引いてる。
だけど、男の人はすぐに静かになった。
スーツの人が胸ポケットから取り出したペンが、ピカッと光ったのだ。
そしたら、男の人はぼんやりした顔になって、口をつぐんでしまった。
うわ、うわー、うわー。
なんだあれ。
なんだあれ。
見てはいけないものを見てしまった気がする!!
これには、ぺんちゃんもよっちゃんも、無言。
スーツの人たちが壁になって、この光景はあたしたち以外には見えてなかったみたい。
そして、男の人は連れて行かれてしまった。
残ったのは、スーツの女の人が一人だけ。
彼女は、ゆっくりとあたしたちに振り返った。
「ひえー」
思わず悲鳴が漏れる。
だけど……。
「こーら。土曜なのに制服着て遊んでるんじゃないの」
そんな事を言ったスーツの女の人は……なんと、二胡先生だったのだ!
「困ったなあ。目撃者が出てしまったねえ……」
ちらちらとあたしたちを見る先生は、その後、ちょっといたずらっぽく微笑んだ。
「じゃあ、先生がカラオケ奢ってあげるから、そこ行こっか」
「は、はあ」
引きつった笑顔で、あたしは答えたのだった。