うちと友達とUFO2
「あら、つばさ。土曜日だってのに制服着てどこ行くのー?」
「むっふっふ、二人からのリクエストなの」
あたしは、北崎女子の制服を着ていた。
まだ半分寝ているような目をしたお母さんは、首を傾げた。
寝癖だらけの髪がさらさら揺れる。
お父さんと並ぶと、大人と子供みたいなサイズ差がある。
こんなちっちゃい人だけど、昼を過ぎると凄くパワフルになるんだよなあ。
「んじゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい」
お母さんはまだまだ夢の中みたいで、特製のフレンチトーストを頬張りながら、こてんとお父さんに寄りかかった。
うーん、いつまでも仲のいい人達だ。
「おっ」
スカートのポケットで、スマホがぶるぶる震える。
インストールしてる、トークアプリのPINEから、『新しいメッセージがあります』と連絡があった。
ぺん『やっほー、今どこ? 超早くついちゃった』
よしよし『ぺんちゃん早すぎ!? 私は布団から出たところだよ( ˘ω˘)スヤァ』
二人とも、相変わらずだなあ。
あたしはサクサクと返事を返す。
つばば『うっへっへ、ご期待通りの北高の制服ですよん』
自撮りして、送りつけた。
ぺん『おほー! ええのう、北高の女子高生はええのう!』
よしよし『あばばばば、トラウマが蘇る・・・! 無理だったのだ、わしらには北高は偏差値が高すぎたのだ・・。。。』
つばば『テンションたっか!? んじゃ、あたし電車に乗りますので!!』
よしよし『おっ小金井? んじゃ、私もそちらに参りますぞ』
ぺん『よしよし起きたばっかでしょ。時間かかるんじゃないの。』
よしよし『んだとーこの音無佳子のマルチタスクを舐めんなよぉ』
おっとっと。
PINEやってると時間が経つのを忘れちゃう。
あたしは慌てて、JR武蔵小金井駅に駆け込んだ。
中央線に乗って、一路、立川へ!
あたしの中学時代からの親友である、音無佳子と辺見花純。
今朝、フレンチトーストを食べた後、あたしは二人に連絡を取った。立川で遊ぼう? と。
そうしたら、ちょうど暇だったらしい二人は即座にOK。
その代りのリクエストが、この制服姿というわけ。
スマホを見ていたら、ぺんちゃんこと花純が延々と一人で喋っていて、よっちゃんこと佳子は既読もつけていない。
これは、よっちゃん全力で準備モードだな?
武蔵小金井駅から立川駅までは、快速と言う名の各駅停車に乗って、四駅目。
あっという間に到着する。
待ち合わせは立川の北改札前だ。
ここは新しい出口で、モノレールが通る真下に出てくるんだ。
向かいにあるカフェの前で、見覚えのある娘が待っていた。
すらっと足が長くて、ブルーのキャップに黒いシャツ。まだ四月で肌寒いのに、二の腕をむき出しにしてニットのカーディガンの袖を、腰で縛ってかっこつけている。
新調したっぽい黒縁眼鏡の下から、やたらと強い目力のある顔が覗いていた。
「や、ややややや!!」
彼女はあたしを見て、ぴょんと跳ねる。
本当に跳ねた。
「北高の制服!! あひゃああああああ! 尊い! すごい! ああああつばつばが北高の制服着てるう! やっぱ制服カワイ……かわ……?」
「おい」
あたしは歩み寄りざま、彼女のキャップ越しにチョップを叩き込んだ。
「ぐわーっ!?」
頭を押さえて悲鳴をあげる、辺見花純こと、ぺんちゃん。
うん、結構いい音したね。
久々で加減を誤った……。
「額が割れるかと……! これ以上私の頭が悪くなったら責任を取って、つばつばは私を嫁にするべき!!」
「やーだよ! ぺんちゃん料理も掃除もできない系女子じゃん? あたしは生活力のある女子が好きだなあ」
「ぐぬぬ、贅沢を言いおって! 北高生めえ。つばつばをそんな子に育てた覚えはないわよ!?」
「育てられてないっつーの!」
「うおーっ! またチョップは勘弁!! ぬおおおおー!」
あたしのチョップを、両手で受け止めるぺんちゃん。
だが甘い。
両手程度であたしのパワーに対抗できると思われては困るのだ。
あたしはぐんぐんとチョップを押し込んでいく。
ぺんちゃんは両手をぷるぷる震わせながら、近づくチョップに絶望の悲鳴を上げた。
「お、おのればけものめえ!!」
「何をしてんだ、あんたたちは」
そこへ、あたしの脇腹をつつつんっと突く指先。
「ひゃあっ」
くすぐったさに、あたしは仰け反った。
ぺんちゃんがその隙に、驚くほどの速さであたしの前から消える。
流石、元シューティングガード。
彼氏との約束がなければ、あの日レギュラーになっていたかもしれない女だ。
その彼氏とはすぐに別れたらしいけど。
そして、あたしに気づかれずに背後を取ったのは、予想よりも遥かに早くやってきた、もうひとりの親友。
「よっちゃーん!」
振り返ったあたしは、バッと手を広げた。
すると、サラサラの髪をロングにした、切れ長の目の女の子が飛び込んでくる。
「つばつばー!! 会いたかったー! うんうん、また育った?」
「育ってないわ!」
「あっはっは、相変わらずでかいー。つばつばに抱っこされていると、昔に帰ったみたいだよー」
辺見佳子はそう言いながら、あたしの背中をばしばし叩いた。
ストライプのシャツに、紺色のジャケットを羽織ってる。大人っぽい格好だ!
彼女は元ポイントガードで、あたしたち三人のリーダー格みたいな娘だった。
んで、あたしは元センターね。
久方ぶりに集まった……と言っても十日ぶりくらいなんだけど、今日はこの三人で立川を遊んでしまおうという訳なのだ!