顧問と秘密とUFO2
「蘭子さーん! お昼一緒に食べましょー!」
あたしが声を掛けると、二年生の教室がちょっとザワッとした。
どうしたのかな。
「つばさちゃん、度胸あるねえ」
教室の奥から、見知ったメガネ姿の彼女がやってくる。
今日の彼女のメガネは、横の柄がUFOみたいになったブランド物のセルフレーム。
それはフィルマ先輩をイメージしたやつなのかな?
そんな蘭子さんは手ぶらで、お弁当を持ってる様子はない。
「二年生の教室って、結構みんな緊張したりするものじゃない?」
「そうかなあ。あたし、あんま上下とか気にしないんですよね。だから中学の時も、先輩には嫌な顔されてました」
「運動部が上下をないがしろにするの? あっはっは、ゆかい!」
二人並んで、向かう先は食堂だ。
昼休みの食堂は、なかなかの大賑わい。
蘭子さんはカレー、あたしは大盛りラーメンに野菜増し肉増し。
「食うねー」
「育ち盛りですもん」
「それ以上育つの……? もう180とかあるんじゃない?」
「ありませんー! ギリギリ174ですー!」
「でかい」
「プロのバスケ選手とかバレー選手より小さいですよう」
あたしは割り箸を口を使って割ると、一気に丼に突きこむ。
ずぞぞぞぞっと一気に啜る。
蘭子さんはと言うと、まず福神漬を食べて、それからルーとライスをぐりぐり混ぜ始める。
すっかり、ルーとライスが混じったところで、もくもく食べ始めた。
「あ、そうそう、蘭子さん」
「もむ?」
「さっき体育の時間、変な先生に会ってですね。その話をしようと思ったんですけど」
「んー。変な先生……一人しか心当たりないなあ」
「あたしがバスケしてたら、イイカラダしてるねー、隊に入らない? みたいな」
「うん、ニコちゃんでしょそれ」
蘭子さん、もぐもぐとカレーを食べた後、スプーンであたしをピッと指し示した。
あら、お行儀。
「二胡美野里先生。故あって、外部からうちの学校に出向してるのよ」
「へえ! 有名な人だったんですねえ」
あたしは麺をずるずるっと。
野菜をむしゃむしゃ食べて、スープをグッと飲んだ。
「うんうちの部の顧問よ」
「ぶっ」
いきなりな話をされて、あたしは思わずスープを吹きかけた。
「蘭子さんが話してた、カラー写真を現像したりする時にいなきゃいけない人って、あの人ですかあ」
「そうそう。ああ見えて有能な人なのよ。一応司令部付きの人だからキャリア組で……いやいや、これは秘密だった」
「んん? んんんんんー?」
ますます分からなくなった。
何の仕事をしてた人だろう。
考え事をしているうちに、ラーメンは食べ終わってしまった。
「あっという間に食べたねえ……」
「ラーメンは飲み物ですから」
だけど、運動部の頃と同じくらい食べてると、食べた分だけお肉になるんだよね。
あたしは今、朝と晩に涙ぐましいダイエットをしているのだ。
具体的には徹底的に走り込む。
少なくとも、運動部で体を動かしてた時と同じくらいはカロリーを消費しなくてはいけないのだ。
スープまで全て飲み尽くした後、あたしは口元をハンカチで拭った。
「ごちそうさまでした」
「凄いなあ」
蘭子さんはまだ、ライスが半分くらい残っている。
少食なのかもしれない。
あたしは彼女がもぐもぐしている姿をじーっと見ながら、お水を何回かお替りした。
「ごめんね。私、食が細くてさ。つばさちゃんくらい食べられたら、私もそんなのっぽになれてたのかなあ」
「蘭子さんは小さい方が可愛いと思います」
「先輩に可愛いって言うのかあ」
彼女は微妙そうな顔をして、今度はカレーにソースを注いだ。
そしてまた、ちょこちょこ食べ始める。
「よーっす」
「二人でお昼です?」
またボーッと蘭子さんの食事風景を見ていたら、聞き覚えのある声がした。
アリちゃん先輩とフィルマ先輩だ。
二人ともご飯を食べ終わったみたい。
アリちゃん先輩はナポリタンで、フィルマ先輩はカツ丼だって。
「今日の日替わり定食は、カツ丼とチキン南蛮だったので迷いマシタ」
フィルマ先輩は、深刻そうな顔で言う。
手にしてるのがお箸なので、この人はお箸を使えるんだなあ。
「つばさちゃん。アナタはカツ丼とチキン南蛮ならどちらを選ぶですか?」
「えっ、もしかしてフィルマ先輩後悔してるの!?」
「地球はままならない選択が多すぎマス……」
「そっかあ……。あたしなら、迷ったら両方食べちゃう」
「両方!? お腹がはちきれてしまいマス!」
「食べた分動けば大丈夫ですよ!」
あたしとフィルマ先輩のやり取りを、アリちゃん先輩はニコニコしながら眺めている。
そして、食べ終わった蘭子さんに向かってぼそっと言った。
「ちょっとそうかなって思ってたけど、つばさちゃんって変な娘だねえ」
「そうねー」
「類は友を呼ぶよねえ」
「私が変だと……!?」
「蘭子さんは変じゃないですよ!」
「つばさちゃんが入ってくると話がややこしくなる……」
そんなわけで、賑やかなお昼休みは終わったのだった。
あの先生の謎も解けたし、蘭子さんは可愛かったし。
そう言えば、ニコちゃんっていう人が顧問の先生なら、今日の部活にはやって来るのかな?