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顧問と秘密とUFO

 体育館の床を、シューズの底がこする音。

 オレンジ色のボールを抱えながら、注意深く辺りを見回す。

 四人は素人。

 一人は、現役のバスケットボール部員、桜庭さん。

 あたし、ブランクがちょいちょいあるからなあ。

 抜けるかな?


「ほいっパス」


 抜けないかな、なんて思ったので、ちょっと向こうで合図をしてきた相生さんにボールを投げた。

 ナイスキャッチ。

 相生さん、それなりにいい感じの動きで、コートを走っていく。

 あたしも逆側から彼女と一緒に上がっていって……。


「くっ」


 桜庭さんが、あたしをマークしてる。

 そんなに警戒しなくても……。


「銀城さん、パス!」

「ほーい!」


 結構容赦ない速さでボールが来た。

 桜庭さんがそれをキャッチしようとするけど、身長で優るあたしの方が、手が届くのが早いんだな。

 がしっとキャッチして、ドリブルを開始する。

 桜庭さんの反応が早い。

 あっという間に回り込んで、あたしを止めようとしてくる。

 あたし、勢い余ってゴール下のサークルまで来ちゃってたみたい。


「おしっ、ここはシュートしかない」

「させないって!」


 あたしがボールを片手にジャンプしたら、桜庭さんも手を伸ばしてきた。

 ボールをはたき落とそうというのかな。

 だけど、そこは体格とパワーに優るあたしに分があるのだ!


「ふんぬ!」

「わっ!?」


 なんだこの馬鹿力!? みたいな目をした桜庭さんが跳ね飛ばされて、あたしの手にしたボールはゴールの中に。

 うんうん。

 シュートの精度に問題があるあたしは、やっぱダンクが一番カンタンだね。


「あたた……。すっごいパワー。銀城さん、本当にもうバスケやらないの……?」


 起き上がった桜庭さんが、お尻をさすっている。

 ホイッスルを口にくわえた体育教師の大川先生は、ファウルがどうか判断に迷ってるみたいだ。


「うん、あたし、見ての通りエンジョイ勢なので! 絶賛写真部で活動中です」

「この写真部、フィジカルが強すぎる……! もったいない……!!」


 桜庭さんはさめざめと嘆いた。

 体育の時間を使った、このバスケットボールの試合。

 結局、あたしと相生さんという動ける女子が二人いた我がチームが勝った。

 ローテーションでチームが試合をしていく形式なんだけど、この見学中にも、桜庭さんがやたらとあたしを口説いてくるのだ。


「ぜったい、ぜったいに銀城さんはバスケやるべき!! その背丈! 女子離れした馬鹿力! 写真部にしとくのは惜しい……!」

「それ絶対ほめてないでしょ」


 馬鹿力をほめられて喜ぶ女子がどこにいるのだ。

 背丈だってこんなにいらないぞ。

 あたしはちょっとむくれた。

 相生さんはそれを見て、くすくす笑っている。

 ふと、相生さんの向こう、体育館の入口で、じーっとあたしを見つめる人影があった。

 その人は、体育教師と同じで、ジャージ姿の女の人。

 なぜかサングラスをしてて、髪の毛をオールバックにしてて、やたらと姿勢がいい。

 彼女はサングラスをかっこいい動きで外すと、今度は間違いなくあたしを見た。

 あっ、こっちに来る。


「ねえ君!! そのフィジカル凄いわね! 隊に入らない!?」

「はあ!?」


 いきなりな話に、あたしはびっくり。

 相生さんも目を見開いて、状況が理解できないみたい。

 桜庭さんは、すすすっとあたしから離れていった。薄情者ー!


「うんうん、肩にも背中にも、筋肉がしっかりついてる。体幹もできてるじゃない。これは天性の才能ね。とんだ掘り出し物を見つけてしまったわ……! 我が隊にぜひ欲しい……!!」

「ちょっと、ちょっと二胡先生!? 授業中にいきなり生徒をスカウトしないで下さい!?」


 慌てて、体育の大川先生が止めに来た。


「第一、あなた出向してきてて今は教師でしょう……」

「あっ、そうでした」


 ……ニコ先生?

 どこかで聞いたような……。

 ジャージの彼女は、大川先生にガミガミと叱られている。

 その間は、体育の授業はストップ。

 みんなポカーンとして、この光景を見つめているのだ。

 しばらくして、ニコ先生とかいう人は、しょんぼりしながら帰っていった。

 でも、ちらちらあたしを見てたので、あれは絶対懲りてない。

 相生さんは同情するみたいに囁く。


「変な人に注目されたね銀城さん……。やっぱ、銀城さん目立つもんね」

「そういう方向で目立ちたくないよう」


 バスケに、変な勧誘。

 あたしの高校生活には望んでないものばっかりだぞ!?

 その日のあたしは、ちょこちょこと視線を感じながら過ごすことになったのだった。

 あの先生、絶対に諦めてないな……!

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