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クラスメイトと部活とUFO〆

 翌日。

 相生さんと共に、あたしは部室を訪れた。


「こんにちはー」

「こ、こんにちは」


 あたしはごく自然に。

 相生さんは、ちょっとだけ恐る恐る。

 昨日、最終下校時刻まで、彼女がレンズ付きフィルムを持って駅前を駆け回っていた事は記憶に新しい。

 あのはしゃぎっぷりが、今はちょっと恥ずかしいみたいだ。


「うううっ、弱みを握られてしまった気分だよ銀城さん」

「でも楽しかったでしょ?」

「う、うん」


 というやり取りを、教室で何度やったことか。


「指先がね、シャッターを押すと、そのことで何かが動いて風景を切り取ったんだっていうのが分かるの。目じゃなくて、指で分かる。なんだか不思議だった……」


 相生さんは、フィルムカメラが好きになって来ている。

 だから恥ずかしがりながらも、部室にはやって来るんだ。


「いらっしゃーい!」


 アリちゃん先輩が出迎えてくれた。

 この人、必ず誰よりも先に部室にいるなあ。

 彼女は何やら、大きな機械を用意しているところだった。

 理科室のカーテンは閉められ、さらに暗室も作られていっている最中。

 それに機械の準備まで。


「ちょっと一人だと手が足りなくて! 二人とも、暗室作るのお任せ! やり方は教えるから!」

「は、はい!?」


 ということで、いきなり肉体労働に駆り出される、あたしと相生さんなのだった。

 だが、そこは中学時代に部活で慣らしたあたしたち。

 やり方さえ指示されれば、てきぱきと作業してしまうのだ。


「おおーっ、すごい、つばさちゃん、脚立いらず! ……っていうかジャンプして天井に手が届く女子!」

「その褒められ方は嬉しくないです!」


 あっという間に暗室が出来上がり、その中にアリちゃん先輩が用意した機械を運び込んだ。


「これ、なんですか?」


 相生さんが、不思議そうにそれを眺める。

 金属の板の上に、柱が立っていて、柱に紡錘型の機械がくっついている不思議な代物だ。

 あたしはこんなの、生まれてから一度も見たことがない。


「これね。うっふっふー。引き伸ばし機。昨日現像したフィルムをね、いよいよ写真にします」

「写真に!」


 相生さんが食いついた。

 すっかりハマってしまったな。

 あたしはと言うと、蘭子さんを探し求めているのだけど……。


「にょーっす」


 あ、来た。

 気怠い感じで扉を開けてきた蘭子さん、あたしの姿を見ると、目を輝かせて走ってきた。


「つばさちゃーん! あー、なんか今年はつばさちゃんを見ると、学校が終わったーって実感できるなあ」


 後ろから、ひしっとあたしに抱きついてくる。


「ちょ、ちょっと蘭子さん!?」

「ほらほら蘭子ー。焼付やるから、つばさちゃんを解放しろー」

「いやよ。つばさちゃん大きいから、抱き心地がいいんだもん。逆に抱きしめられているような抱擁感……」

「だめだ。こいつは無視しよう」


 アリちゃん先輩はそう言って、蘭子さんをスルーすることに決めたみたい。

 その後、すぐにフィルマ先輩もやって来て、写真部総出でモノクロ写真の焼付を始めた。




 引き伸ばし機の下に、厚めで表面がつやつやした紙が引き出される。

 これが印画紙だって。

 その上に載せた器具がイーゼル……?


「見て。これが昨日現像したネガね。あとはレンズとか印画紙とか使うけど、まずは見ててよ」


 説明しながら、アリちゃん先輩が作業を進めていく。


「これもなかなか一発勝負感が強くてね。印画紙が百枚で二万くらいしたり」

「ひえっ」

「ひぃ」


 あたしと相生さんが悲鳴をあげる。

 失敗できないじゃないか、そんなの!


「まあ一期一会だよねえ」


 けらけら笑いながら、アリちゃん先輩は引き伸ばし機を起動させた。

 機械には、フィルムが挟み込まれている。

 それが光に映し出されて、用意された印画紙へと映し出される。

 フィルムのままだと小さくて、よく分からなかったものが、こうするとはっきり見える。

 白黒で写っているのは、両手でピースサインするフィルマ先輩。


「ワタシです、ワタシワタシ」

「あっはい」


 フィルマ先輩のノリに押されて、相生さんがたじたじになる。

 写真に写っているのは、他には……駅前のペデストリアンデッキから見える雑居ビルと、UFO。

 ひええ、なんて核心的な写真だ。

 相生さんは気づいてないようだけど、宇宙人とUFOがセットで写ってる恐ろしい写真じゃないか。


「蘭子は写真、ヤッパリ上手いですねー。ワタシ、ちゃーんと写ってます」

「そりゃあもう。それにフィルマは写りがいいもん。素材がいいんだね」

「エヘヘ、それほどでも」


 蘭子さんとフィルマ先輩のやり取りをよそに、作業が進む。

 きっかり90秒。

 光を停めて30秒。

 そこから、いつの間にかアリちゃん先輩が用意してた、定着液が入ったバットに漬ける。


「ここから最後は水洗いして、それから干すのね。でね。今回はストレートに焼いたけど、これに加減をつけてどういうふうな写真にしたいかってビジョンがあれば、露光とかは調節するのね」


 テキパキ作業を進めて見せながら、アリちゃん先輩が説明してくれる。

 定着液から引き上げられた紙には、もう写真ができあがっていた。

 あたしは、思わず見入ってしまっていた。

 これが、生まれたての写真。

 あのフィルムから、あたしたちがよく知る写真という姿になったもの。


「すごいなあ……。あたしもやりたいなあ……」


 写真の中のフィルマ先輩は、普段の彼女とは全然違って見えた……いや、見えないな。いつもどおりだ。


「んー?」


 ちらっと見たら、フィルマ先輩もこっちを見ていたので目が合った。


「キレイに撮れてるでしょー」

「ですねえ、ほんと、先輩写真写りいいですよね……」

「宇宙人だもん」


 笑っていいのか笑っちゃいけないのか、微妙なギャグを飛ばされつつ。

 あたしの横では、相生さんは入部の意志を固めていたらしい。

 そんなわけで、北崎女子高校写真部は、五人になった。

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