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ダンジョン&ダメガールズ -岩の中にいる-  作者: 仲田悠
第三話「あね」
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がーるずとーく?

 一通り観光し終えたアキからこんな提案。

「ヒトの姿でもお邪魔して、大釜の広報を手伝おうか?」

「む。広報とな」

「私絵描きなのよ。ユキちゃんがそうだったってのは聞いてたかもしれないけど」

「ぬお。では頼もう」

「ユキちゃんもやろうよ。もう吹っ切れる事が出来たんじゃない?」

「ん。じゃあ、頑張ってみる」

 広報担当として大釜の手伝い。挿絵を入れたチラシとかね。アキの事で悩んで描けなくなってたから、今の私なら大丈夫かも。私も手伝おう。

 この際だからと私達もニアと同じ悪魔族の体を用意してみる。名前は本名で。愛用の画材道具も能力で生み出したら鞄に詰め込んでニアと一緒にギルドへ行こう。

「うお? ニアさんの知り合いか?」

「うむ。絵描きのアキとユキじゃ。妾と同じ平和主義者で、逃げてきたから店の広報を手伝って貰う事にしてな。その為の挨拶周りじゃ」

「アキだよ。宜しくね」

「ユキよ。魔族で絵描きって殆ど居ないから肩身が狭くてね。ひ弱だし戦うの怖いからアキと逃げて来たの」

 絵描きが居ないって言うのは本当みたい。ヒト側から見ても珍しい方らしいわ。まだそう言う文明水準に至ってないし、漫画家となると皆無。

 妖精の私達も一緒で自作自演もしてるからすんなり受け入れて貰えた。騎士団もそう。あの嫌な騎士団以外は全て回って受け入れて貰えたわ。

 挨拶周りが終わったら大釜の作業室の片隅で早速作業開始。

「やるって言っておいてアレなんだけど、この世界の出版技術ってどんなもんなの?」

「ふむ。出版技術とは?」

「あ、そもそもそこからかー。えーと、本を印刷する技術。活版印刷も無いかな」

「活版印刷なら聞いた事がありますよ。確か文字を奇麗に印刷して本等を沢山作る技術ですよね」

 そう言えば印刷技術がどうか確かめて無かったわね。活版印刷が有るなら文字の問題は解決かもしれないけど。絵の印刷は難しそう。

「あのさ。見た物をそのまま何かに写す魔法って無いかな。それをアーティファクトに出来れば印刷物を増やすのが楽なんだけど」

「ぬお。少々待て。魔法を構築してみる」

「編み出す事も出来ちゃうんだね。幻影を見せる魔法とか無い? それを応用するみたいな」

「おおお!? いけるかもしれん!」

 え、それかなり大きな話じゃ。要するにあれよね?

「コピー機?」

「そそ。それからカメラ」

「あああ! カメラも欲しい!」

 コピー機どころかカメラも! それが有れば広報は無敵。印刷が楽になるならギルドの役にも立てそうだし、ダンジョン探索にも使える。それは是非とも作って欲しい。

「大まかだけど作って欲しい物の絵を描くね。どこがどんな意味を持ってるかも描くよ」

「頼む。やはり異世界に有る道具かや?」

「うん。ユキちゃんの考えは解るし私も賛成なんだけど、私が仕事するならこれは欲しいんだ」

 印刷機は最低限欲しい。活版印刷が生まれてるなら大丈夫だと思うし。カメラはオマケ。

 魔法を構築して貰ってる間に完成予想図をかきかき。久しぶりのお絵描きが結構楽しい。やっぱりアキと一緒だからだと思う。

「流石は本職ですね。初めて見る道具でも奇麗に描かれています」

「それなりに売れてたしね」

 あ、そう言えば。

「連載とか大丈夫?」

 アキは連載を抱えてた。そう言う意味でも自殺なんかしちゃって大丈夫だったのかと心配。

「終わらせて来たよ。それくらいの節度は持ってるさー。めっちゃ苦しかったけど」

「そっか。お疲れ様。後で生み出して読ませて」

「勿論勿論」

 ちゃんと終わらせて来たのね。流石プロ。

 好みがアキ譲りなのもあって、アキの漫画も凄い好きだった。どんな結末なのか凄い楽しみ。

「ユキちゃんもブランクを感じさせない線じゃん」

「ふっふっふー。現役時代の勘を能力で無理矢理取り戻してみたっ」

「あははは! 流石は最強のチート能力!」

 色んな意味で昔を取り戻す時間。ペン入れが楽しい。スクリーントーンが無いから全部ペンで。ニアの似顔絵を描いて、お店の紹介や地図も描いて。商品の挿絵とか値段とか。平和主義者の魔族がやってるって事も書かないと駄目ね。

「変わった画風ですが、これも異世界では普通なのですか?」

「んーと、漫画って表現方法だね。絵本から派生した大衆向けの物って感じかな?」

「ええ。元々私達が暮らしてた国は昔から簡略化された人物画が流行ってて、漫画って手法に取り入れたの」

「ユキさんが描く漫画は面白いんですよ。私でも読めましたし」

「ぶふぅっ!? ちょ、それで良いのか知の女神様……!」

 やっぱりアキもそう思うわよね? 色々とツッコミ所満載でしょ?

「えっと」

「漫画って絵本みたいに字が読めれば誰でも読めるから。難しい知識とか必要無いし。それを自分でも読めるって、知の女神なのに大丈夫なのかとツッコミを入れるべきでしょ」

「あ」

「てへ」

 てへ、じゃないわよ。自覚しないで。物悲しくなるし、この世界のヒト達が可哀想になるから。ほんと大丈夫なのか知の女神。

「しかもユキちゃんの漫画って、全部成年向けじゃない」

「成年向けと言うと?」

「エロい内容」

「え」

 そこもツッコミ所。漫画は成年向けしか描いてないってアキは良く知ってる。

「ぷ、くく……! エロい絵本とは、流石ユキじゃの……!」

「ど、どんな内容なんですか!? とても気になるのですけど!」

「結構手広かったよね?」

「殆ど百合物だけどね。イケメン同士とか少年同士とか女装少年物も描いてたわよ」

「なにぃ!? 男の娘物じゃとお!?」

「うあ、読んでみたいです!」

「ぶふぅっ!? ここは類友ばかりか……!」

 あ、そう言えばちゃんとアキに話してなかったわ。ここ楽園だから。女神様からしてショタコンだし、ニアは男の娘、イヴは百合のドM、ランシェも百合に染めた。ラニもMよりっぽいし。

「え。って言うか、むしろ勝ち組じゃない?」

「勝ち組でしょ。何の気兼ねも要らないなんて元の世界じゃ有り得ないし」

 死んで良かったとまでは言わないけど、転生させてくれた女神様には本当に感謝してる。その女神様すら同類だし。

「ちょ、ユキのも生み出しておくれ。妾も読みたいぞ」

「あー、うん。思い出してみるかー」

「この世界で初めて生まれた漫画がどれも成年向けってのウケる」

「ぷふっ。確かにね……!」

 しかも特殊性癖の成年向けのみ。酷い話。でも女神様とか期待顔だし。流石私のファン。

 試しに昔描いた百合物と男の娘物を出そう。男の娘物は男の娘ウケで。

「お、おお……! 良いな……!」

「はぅんっ。道理でユキ様がわたくしを受け入れて下さる訳ですっ」

「凄い。これが漫画。確かにエロい」

「はわわっ」

「実物を読めるなんて幸せですーっ」

 でも、出来ればそれで漫画文化を覚えないで欲しい。漫画家の偉大な先達に物凄く申し訳ない。アキの本も出して。お願い。一巻から。

「おおお。確かに大衆向けと言える読みやすさじゃ。面白いぞ」

「でしょでしょ。演劇みたいな物にも採用されてて人気が有るのよ」

 アニメ化もしてる。勿論全部録画した。自分の姉ながら面白い漫画ばかり描くと自慢出来る。

 あ、そうだ。

「ねえアキ。ギルドにも顔を出してみない? ギルドの情報誌的な。進展を先取り出来るし」

「あ、良いね。これ仕上げて売り込みに行こう」

「なれば妾も開発を急がねばならんな」

 印刷機が出来ればギルドの新聞みたいな感じで情報提供の場を作れそう。勿論売買対象の情報は別になるけど、新しく見つかった要素の宣伝とかだけでも違うと思うのよね。新しいフロアとか新しい魔物とか外見だけでも載せられると違うはず。

「新聞かー。なら四コマ描こうよ」

「四コマ良いわね。やろうやろう」

 毎日は難しいかもしれないかな。週一くらいで出して四コマも二人で。これはこれで楽しそう。

 広告を仕上げてギルドに掛け合いましょう。




「うあ。お願い出来るなら是非とも」

 支部長が即決。この際だからと一部を銅貨一枚で販売したらと提案してみたの。ギルドの収入源になるし、もしかしたら一般人も欲しがるかもしれないし。特に生産業なんかは情報が入ったかどうか解るから助かるはず。

 冒険者達にも説明したら全員が買うと言ってくれたわ。

「それはマジで欲しい」

「な。大まかな進展だけでも銅貨一枚なら毎回買うぜ」

「まだどんな紙面にするかは決めてないけど、こんな風に挿絵とか入れようと思うの」

「「うおお!」」

 情報量次第では挿絵を入れる余裕が出る。それも印刷機次第になっちゃうけどね。解りやすい紙面って大事。皆揃って字ばかりのものって苦手そうだし。偏見だけど。

「これニアさんか?」

「変わった絵だな。確かにニアさんだって解るんだが」

「こう言う挿絵もつくなら読みやすそうだ」

「都とかで見る新聞って奴は文字ばっかで読む気になれねぇんだよな。俺達にゃ関係無え話ばかりってのもあるけどよ」

 偏見じゃなかったし。新聞を売ってる場所も有るのね。活版印刷が生まれてるなら当然かな。存在してるんなら一般人への普及も早そう。何ならラビリンスでも普通の新聞を作り始めても良いんだし。これがきっかけになると良いな。

「今はニアが絵も印刷出来るアーティファクト印刷機を考えてるとこなの」

「それが出来れば可能だし、もしかしたら他のヒトが新聞を始めたり出版物が変わるかもよ」

「「おおー」」

 結局自分でも深くダンジョンに関わる事になっちゃったけど、アキと一緒なら悪くない。絵でちゃんと稼げるのも嬉しいし。やっぱり参加した方が楽しいわ。

「新聞記者の経験が有るヒトが居ないか探してみてくれない? 居なくても私達で良ければ多少は教えられるし、私達二人だけでって言うのも大変だと思うのよ」

「確かに。解りました。探しながら募集を掛けましょう。今ならすぐ集まるはずです」

 最低限の情報源もこれで確保。ヒトを集めやすい今だからこそ整えたい。そこから独立して普通の新聞をって流れも有りだと思うしね。どんな事でも先ずは始めてみなきゃ。何かの先駆者になって皆を引っ張ってみるのも悪くない。

「皆、やったぞ!」

「「おお?」」

 あ、来た来た。これも察知してた。新しく来た冒険者のパーティが序盤ダンジョンを回って見つけてくれたのよね。

「あれ。確かお前達って序盤を探索してたんじゃなかったか?」

「ああ! だからめぼしい物は無えと思ってたんだけどよ! この本見てくれ! 酒の作り方が書かれてるんだ!」

「「なにぃ!?」」

 厨房に再配置した酒造法。蒸留酒の基本的な製法よ。強い焼酎なんかが出来れば果実酒も作れるから凄い待ってた。

【酒造法もかい】

【焼酎いけるわよ。そこから梅酒とか】

【うわーい! ユキちゃん最高ー!】

 アキは結構飲む方。甘いお酒が殆どだけど。梅酒が好きだったし作ってあげよう。私も果実酒なら飲みたいし。

「え、マジ? 前に料理本が見つかった所じゃねえか」

「魔物みてえに時間差で沸いたって事かね」

「ほんと面白えなー。今度は酒だぜ酒」

「どんな酒になるんだ?」

「あーっと、蒸留酒って書いてあんな。材料次第で名前が変わるらしい。強え酒も出来るってよ」

「「おおお!」」

 うん、置いて正解。冒険者達の目の色が思い切り変わった。次はビールいきましょ。また新しいフロアが解放されたら厨房に再配置っと。設定完了。あー、そうそう。支部長に話さないと。お酒に関する法律がどうか、細かいところは私見てないから。

「ヒトって勝手にお酒作って良いの?」

「あ。駄目ですね。許可が必要だったはずです。ここで受け付ける事になるので準備しないと」

 良かった、頭から抜けてた。こう言う所はしっかりと。法律は騎士団長のとこの国の法律を殆どそのまま使ってるから制定されてるはず。後は農家達に事情を話して相談かしらね。

「皆、良い本見つけたぞ!」

「「うお!?」」

 え。また来た。それ感知し損ねた。となるとランダムダンジョンの方ね。そっちは設置がランダムだからちゃんと監視してない。どこにどんな物を設置したかは覚えてるけど、ランダム出現だから。

「また見つかったか! 今酒の作り方が届いたところでよ!」

「マジかよ! そいつあ丁度良かった! ランダムダンジョンの十階で料理本見つけたんだ!」

「「うおお!」」

 料理本来たー! 待ってたー!

 こっちでも美味しい料理食べたい!

「どんな料理だ!?」

「それがまだ見てねえんだ! ここで皆と見ようと思ってさ!」

 えーと、その表紙だと確か……あ!

 一番欲しかった料理本!

「えーと、卵料理か? 卵と小麦粉……砂糖?」

「砂糖!? もしかしてデザート!?」

「「うおお!?」」

 アキ正解!

 デザートの初歩的な奴。中級上級と三種類用意したけど初歩的なのだけでも大きいから。

「ちょ、見せて!」

「お、おお! 知ってるのあるか!?」

「クッキー! マドレーヌ! うあ、焼き菓子だけじゃないよこれ! プリンも有るじゃん!」

「美味しいのばかりね!」

「「うおお!」」

 お菓子の登場は結構大きい。材料次第だけど皆が喜ぶ。定食屋も稼げる様になるし、それ目当てで外から観光客が来るかもしれない。食べ物でヒトを呼べるってのは良く聞く話だもの。

【細かいとこまで用意してるね……!】

【任せてっ。初級中級上級と用意したけど中級にはアイスも有るからっ】

【冒険者頑張れ! マジ頑張れ!】

 応援したくなるわよね。凄い解る。何か拾って来いって毎回思うし。食べ物関連は特にそう。農法もまだあるから、とにかく何でも拾って来て欲しい。

「ちょ、どれか一つ写して定食屋に持っていこうぜ。アキさん、どれがおすすめだ?」

「プリン! でも一つだけなの?」

「本の場合はギルドに提出して皆に広めて貰うのがルールなんだ。だから先に食いたい奴だけ写して持っていくのさ」

「うわー。じゃあ、これからは色んな所で色んなお菓子が食べられる様になるんだ。良いなー」

 良いでしょー。そこから試行錯誤してくれればどこでも美味しい。早速プリンだけ写して提出。そのまま全員で定食屋へ。

「えええ!? デザートのレシピまで見つかったんですか!?」

「そうなんだよ! 後でギルドに行ってみてくれ! 今日はその中でもこのアキさんがすすめてくれたデザートのレシピだけ先に持ってきた!」

「解りました! すぐ用意します!」

「「いえーい!」」

 新しい食べ物を先取り出来るのもダンジョン挑戦者の特権。流石に材料費は取られるんだけど。他のお客さんにも話が広まって、どんなデザートなのか期待しまくり。美味しいから安心して。

【あれ。でも確か、プリンってバニラエッセンスが必要じゃなかったっけ】

【うん。バニラエッセンスの作り方なんかも別の本に載せたし、レシピには有れば入れるともっと美味しくなるって形で書いておいたの】

【偉い!】

 そう言う配慮もちゃんとしたともさー。

 そして出て来た原始的なプリン。いただきまーす!

「「うおお!」」

 バニラエッセンスが無い分物足りないけど、それでもプリン! やっぱり美味しい!

「ダンジョンマスターに乾杯だ。こんな美味えの初めて食った」

「俺も俺も。ほんと潜るの楽しいよな」

「なあ、これ幾らくれえになる? また食いに来るぞ」

「それが銅貨二枚で収まりそうなんです」

「「マジ!?」」

 わりと良心的な値段。これなら毎日でもって声が出てる。他のお客さんも頼み始めて、そこからまた盛り上がったわ。

 この調子でどんどん良い物を発掘して頂戴ね。

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