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ダンジョン&ダメガールズ -岩の中にいる-  作者: 仲田悠
第二話「まち」
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魔女の大釜

「ありがとう。そなたのおかげで良い居場所が出来た」

「私はきっかけを作っただけ。成果を出せたのはニアが頑張ったからよ」

 ニアの道具屋が完成した。店の名前は魔女の大釜。看板は私がデザインしてて、ナイスバディな若い魔女のシルエットが名前を飾ってる。

「うおー。良い店になったなー」

「あっ。いらっしゃいませっ」

「ようラ……ぶふっ! やっぱ、女装か……!」

「似合っちまってるのがまた……!」

「ぅー」

 そして迎えるのはミニスカートがひらひらして可愛いゴシックメイド姿のラニ。やっぱり可愛いでしょ?皆揃ってお気に入りなの。

 イヴもそうだし、私と女神様もこれ。ランシェも気に入ってくれたんで着て貰ってる。

「ランシェもここで働く事になったのか?」

「うむ。専属行商人。普段は売り子。仕事は弟の鑑賞」

「ぶふっ! 酷え姉貴も居たもんだ……!」

「くくく……! ご愁傷様だぜラニ……!」

 ラニを眺めてニヤニヤしながら売り子をやると決めたランシェ。専属行商人なんだけど、流通ルートをしっかり作ってくれてるんで大きな仕事が入らなければ出張しない。あまり離れたくないらしい。萌える。

「うおー。イヴさんのメイド姿が超眩しい」

「探索には行かねえのか?」

「良い素材が見つかったら採取しに行く程度ですね。余程厄介な魔物が出ない限りは皆さんにお任せしますよ。わたくしが出ると皆さんの出番を減らしかねませんので」

「「あー」」

 なんてイヴは言ってるけど、実際のところはランシェと殆ど同じ理由。違う点は私にジロジロ見られたいから。ハイMフだし。美人なだけにゴシックメイド姿がばっちり決まってる。

「ニアさんも凄えきまってる」

「かかっ。妾も気に入っておるのじゃ。魅惑の魔女じゃぞ」

 唯一違うのはニアで、翼の為に背中を開けた白衣とワイシャツ、タイトスカートに黒ストッキングという魅惑の女医スタイル。伊達眼鏡を掛けさせたい。錬金術師だけど診察して貰いたい。

 華やかな店員に、色々な商品。開拓の手伝いをしながらも色んな商品を用意してたのよ。

「おい見ろ。アーティファクトが安いぞ」

「マジだ。銀貨でお釣りがくるとか頑張りすぎじゃねえか?」

「ニアさん印で銅貨とか買うに決まってんじゃんかな」

 雑貨品の生産工場も完成してて、そこと提携を結んだから良質で安価な物ばかり。冒険者達がこぞって買ってくれたし、一般のお客さんも開店に気付いて来てくれた。やっぱり即買い。一人一つの制限をかけてなかったらすぐ品切れると思う。

「こんなに安くアーティファクトが買えるなんて夢みたい!」

「ね! いつか水回りを一揃え買えればって思ってたくらいなのに!」

「あああ! 見て見て! お風呂セットも凄い安い!」

「「きゃーっ」」

 殆どが主婦かな。生活用品だから当然かも。湯船に設置するだけでアーティファクトのお風呂になるセットも手頃な値段だからかなり出る。後は照明ね。どれも便利に思えるでしょう。

「弟。作業場に入れ。工場から物が届いた」

「あ、うんっ」

 飛ぶように売れて、元になる道具もどんどん入る。開店初日はこうなるだろうって見越してたから工場も期待してた。イヴとランシェが会計で大忙しだし、私と女神様も説明とかで店内をあちこち飛び回ってる。混み具合も激しくなってきた。

「やっぱりこっちきて正解だった!」

「ね! ニアさんを信じて良かったよ!」

「え。もしかして錬金術ギルドも今日からだったの?」

「そうなの! ニアさんの店に合わせてって言ってたわ!」

「でも値段が全然違うの! ここの十倍以上!」

 ランシェが材料の流通ルートを作ってくれたおかげで用済みになっちゃった錬金術ギルド。何時から始めるか聞いてなかったけど相場通りって感じの値段で始めたのね。それは混む訳よ。

「スノウ! スノーウ! 水筒まだ有るか!?」

「器の生産を続けて貰ってるから売り切れても少し待ってくれれば買えるわ!」

「良かった! 寝坊しちまってよ! 外の混雑ぶりを見て青ざめちまってたんだ!」

 え。ちょっと待って。うあ、外も凄い混んでるじゃない。これはマズい。

「パラス! 外でお客さんに列を作って貰ってくる!」

「は、はい!」

 整列させないと出入り出来ない。妖精の体で良かった。出るの大変。

「ごめん皆ー! 列作ってー!」

「だよなー。列作った方が良いんじゃねえかって皆で話しててさー」

「ほんとごめん! 入り口の半分を開けて! ここから列!」

 整列ポールが欲しい。用意しておけば良かったわ。ああ、いや、店の奥に能力で作ろう。それらしいポールと紐で良いや。イヴに取りに行って貰おう。

「お待たせ致しました!」

「助かる! 並べて行って!」

 使い方も含めて伝えたからさくさく設置。折り返しも必要。って言うか生産工場大丈夫かしら。

「ねえ、スノウちゃん。まだ蛇口あるかしら」

「蛇口は多めに用意したし、生産工場でも多く作る様に頼んであるから間に合うと思う。銅貨二十枚だから凄い売れてるの」

「銅貨二十枚なら売れるわよ! え、一人一つよね!?」

「流石にね」

 頑張れ生産工場。死ぬ気で頑張れ。それとラニも。必死にエンチャントしなさい。まだまだ列は伸びそうよ。下手すると閉店時間までこんな調子かも。お昼ご飯食べられるかしら。

「ぬう。やはりこうなったか」

 あ、騎士団長。凄く苦い顔をしてる。

「団長さんも買うつもりだった?」

「いや、私は明日以降にするつもりだ。こうなるのは目に見えていたからな。落ち着いてからで良いと思っている」

 その方が正解かも。製水器は数を揃えられたから急がなくても生活が出来ない訳じゃないしね。しこたま楽になるのは間違い無いんだけど。利便性は強し。

「少し団員を手伝いに回そう」

「え。良いの?」

「でないと食事もままならんだろう。下手をすれば誰か倒れるぞ」

 それ凄いありがたい。ちょうどそれを不安に感じてたとこだし。特にニア。ダンジョンの生贄部屋に直接魔物を召喚して精を抽出しまくってるくらいだもの。食事だってちゃんと摂らせたいし。

「先程錬金術ギルドにも寄ってな」

「あー。お客さんから聞いたわよ。相場通りの値段らしいじゃない」

「そうなのだ。おかげでがら空きだった。ここではどれくらいの値段なんだ?」

 騎士団長にも値段を説明。深く溜め息をついてがっくり。錬金術ギルドは大丈夫なのかって。ほんとそれ。

「なぜそこまで値段に差が出るのだ……」

「材料確保の方法が違い過ぎるのよ。私でも解るわ」

「ほう?」

 技術料を結構抜いてるとは聞いてるけど、一番の理由は間違い無く材料確保の方法。ランシェの頑張りも大きく出てるけど、何より触媒よ。

「ニアの話だと、魔法を込める時に使う触媒が材料費で一番掛かるんですって。で、各商品に必要な触媒で最低限の質の物を冒険者達に依頼してダンジョンで集めて貰ってたの」

「それでか! 納得した!」

 最低水準の触媒をダンジョンで安く大量に確保したから実現した値段。その上で生産工場。このダンジョンを活用した結果って訳。おかげでダンジョンがどれだけの恩恵を齎すのか良く解る例になったわ。

 序盤ダンジョンの地下四階に居る魔物達がその水準だったみたい。ちょうど探索中のところだから冒険者達も快く引き受けてくれたわよ。

「実に面白い。ラビリンスの真骨頂と言う訳だ」

「それそれ。今後もギルドに依頼を出して集めるつもりだって。他にも触媒になる素材を持ち込んでくれればアーティファクトを割り引きしたり武装のエンチャントを格安で引き受けるって言ってたわ」

「いかん。それは後で詳しく聞かねば。騎士団の武装を強化する時はいつも費用が嵩んで困っていたんだ」

 是非とも利用して頂戴。馴染みの顔には更に値引きするとも言ってたし。宝石なんかが見つかり始めれば尚更よ。絶対安くなるから。

「魔法の武器を揃えられる日が来るかもしれないとはな……」

「ますます探索が楽しくなりそうよね」

「ああ。金属や貴金属も見つかると良いのだが」

 大丈夫、ちゃんと仕込んだ。次に解放されるニアのフロアでも金属質の骨が有るし、その先には鉄鉱山が待ってる。水晶が出る石英鉱山も割と早い段階で来るはずよ。

「居た! 団長!」

「む。どうした」

 あ、団員が来た。さっき感知したから、そろそろ報告に来ると思ってたのよね。

「大変です! ダンジョンの奥で大広間を発見したのですが、中に通常より大きなアイアンゴーレムが!」

「何だと!? 何体だ!?」

「一体だけの様です! その奥に大きな門も確認していますので、恐らく門番ではないかと!」

 ボスの部屋に到達。序盤ダンジョンのボスは鉄の巨人、アイアンゴーレム。序盤のボスには丁度良いってイヴが紹介してくれたんだけど、倒せば鉄が沢山手に入る。二週間で復活する様に設定してあるから乱獲は出来ないものの、普通に造られるアイアンゴーレムより大きいから今の段階の戦果としては大きくなると思う。

 各フロアにはそう言うボスを必ず用意してて、次のフロアに繋がってる分だけ存在するわ。

「重装兵を含めた二個大隊を編成する。鋼の武器を持つ冒険者に声を掛けてきてくれ。八パーティ程居れば何とかなるはずだ」

「はっ!」

 大体二百五十人ってとこかしらね。それくらい居れば十分なはず。

「私も出撃する。未知のダンジョンの奥に巨大な魔物となると冒険譚にしか思えん」

「あはは。確かにそうかも。気をつけてね」

「ああ!」

 これからここはそんな冒険譚が一杯な場所になる。色んなヒト達が色んな冒険をして色んな物語を紡いでいく。それを特等席で見れるなんて最高じゃない。

【女神様。アイアンゴーレムが見つかったわ】

【あらあらあら。そちらにも意識を向けないといけませんね】

【二百五十人の討伐隊ですって。ラビリンス最初の大作戦よ】

 楽しみだわー。本物のレイド戦。二百五十人も居れば死人は出ないと思うし、楽しませて貰いましょう。あ、そうだ。他の皆にも声を掛けてみよう。複数交信って出来るかしら。ルームボイチャみたいに。

【複数交信実験ー】

【ぬああ!?】

【うあ。便利過ぎませんか】

【流石ユキ様。急用?】

 出来た出来た。チート能力万歳。

【序盤ダンジョンのボスのアイアンゴーレムが発見されたの。戦闘風景を保存してみようと思うんだけど、出来たら見たい?】

【【見たい!】】

 じゃあ保存も実験しよう。到着前に適当な戦闘風景を録画してみて、出来そうならまた声を掛けるって事で。これくらいはダンジョン本人としては当然の権利って奴よね。

 あ、うん、出来た出来た。観賞用の装置も用意して皆で見よう。立体映像式で丸ごと見える装置とか元の世界でも無かったし。その分カメラワークでの演出が無いけど問題無し。テレビも無い世界なんだから皆も見れるだけで充分でしょ。




 開店初日は大成功。生産工場が力尽きたせいで買えないお客さんも出ちゃったけど入荷まで待つって声ばかりだったわ。

 そのお祝いって事でご馳走を用意し、大いに堪能したらお酒やデザートを追加してアイアンゴーレム戦の録画観戦会。

「おおお。迫力が有るのお」

「素晴らしいですね。こうして過去の光景を見直せるなんて。流石はユキ様です」

「戦闘だっ。本物の戦闘っ」

「凄いですっ」

 十メートルくらいは有りそうな鉄の巨人が縮小されてテーブルの上に。騎士団員や冒険者達もばっちり映ってて良い感じ。戦闘が始まると更に良い。小さいけど大迫力。

「イヴ。この面子だと今の段階でどこまで探索出来そう?」

「そうですね……。ニアさんが作ったフロアを超えられるかどうかでしょう。この近辺は平和なので冒険者も軍人も育ちが悪いですから。ランダムダンジョンでの修行が必須になります」

 買ったとは聞いてて、明日からニアが用意してくれたフロアに入るんだけど。ランダムダンジョンも明日の朝に解放するからもう暫くは時間を稼げそうね。作り置きもしてるから大丈夫。

 まだまだ序盤。それに寿命による代替わりもダンジョンを長持ちさせてくれる。イヴみたいな英雄冒険者が来ない限りは平気。お楽しみはこれからよ。

「そう言えばさ。凶暴な魔物は食べても不味いって言ってたけど、温厚な魔物で食べると美味しいって奴とか居ないの?」

「居るぞ。稀少種ばかりじゃが」

「有名なところでは幸運の使者とも呼ばれるウサギ型のフォルトゥーナでしょうか。一度だけ見た事が有るのですが、かなり素早くて逃げられてしまったんですよね」

 そう言うのも欲しいなー。でも稀少種かー。

 召喚魔法で呼べる魔物は術者が遭遇した事が有る物のみで、イヴは召喚魔法を使えないのよね。精霊使いとは相性が悪いみたい。

 ニアも話に聞くだけで見た事も食べた事も無いって話だし。

「山脈内に居てくれると助かるんだけど」

「イヴに特徴を聞いて探してみてはどうじゃ? 確か稀少種は元の動物が暮らしている範囲なら居る可能性が有ると言う話じゃったはず」

「ですね。動物の突然変異種ではと言う噂も有りますし」

 成る程成る程。イヴにフォルトゥーナの特徴を聞いて、そこから監視して行こう。

「稀少種までダンジョンで探せるとなるとまた楽しくなるじゃろうな」

「夢が膨らみますよね。フォルトゥーナは食べてみたいです。逃がしてしまった時はとにかく悔しかったですから」

 イヴから逃げられるって相当な話に聞こえる。稀少種の情報なんかもこっそり集めていこう。色んな場所に仕込みたい。とにかく夢のあるダンジョンに。

「あうっ!?」

「「え?」」

 あれ? 女神様が急に驚いた。何かあったのかしら。

「す、すみません! ちょっと一大事なので神界に戻ります!」

「あ、うん。世界の危機?」

「そうではないのですが、ユキさんに関係が有る話なので待機してて下さい!」

 え、ちょ、何それ。私に関係が有る一大事?

 まさかとは思うけど、他の神様にダンジョン作りを怒られたとか?

「ふむ。よもやユキのダンジョンが気に食わない等と言わぬであろうな」

「まさか。冒険者を弄ぶ場所と見ているなら筋違いと言うものでしょう。訓練の場としてはこれ以上に無い場所ですし」

「経済も動く。むしろ良い場所」

 皆もそう思うわよね? 何か言ってきてもそう言い返すと元から考えてたし。うーん、何なのかしら。あの慌てようはかなり気になる。

【ユキさん! 大変です! 実は――】

 ……は?

 嘘でしょ!?

「う、うあっ」

「ど、どうしたユキ!」

「ど、どど、どうしよっ。ほんと一大事っ。うあっ、どうしたらっ」

「お、落ち着いて下さい! 一体何が有ったと言うのです!?」

 何だってそんな事に!

 確かに私に関係が有るわよ!

 でも、どうしろって言うの!?

「私の姉さんが、こっち、来るって……!」

「「え!?」」

 姉さんが、転生してくる……!

 一体何が有ったって言うの!?

二話目までお付き合い頂き、ありがとうございました。

次への引きまで用意してしまいましたが、面白くなければブラバして下さい。躊躇無く。

一先ず次の第三話で区切ります。先生の物語と同様、不評なら新しい物語でも、と。

今後ともどうか宜しくお願い致します。

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