表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン&ダメガールズ -岩の中にいる-  作者: 仲田悠
第二話「まち」
14/44

優しい悪魔

 漸く行商人達が自分達の無能さに気付いた。ランシェによる増援で商機を完全に失ってる。持ち込んだ物資が全く売れなくなり、騎士団やギルドに必要な物は無いかとやっと聞きに来たわ。

「足りない物は無いぞ。有能な行商人が近隣諸国を回って貴族からの協力を取り付けてくれてな。何もかも足りない状況を完璧に解決してくれたのだ。今後も増援は続くらしい」

「おや。来るのが随分と遅かったですね。自給自足出来るだけの元手や収穫までの食料流通ルートが確保されたところですし、現状で足りない物はもう有りませんよ」

 ヒトが増えた事でニアと開拓者との仲介が忙しくなってるから本体で色々と様子を見てるんだけど、最初の頃にちまちま物資を売りに来てた行商人は残らず泣きを見てる。騎士団長もギルド支部長と嫌味たっぷりに追い返したからね。最初から参加してる開拓者達もせいせいしてるわ。

 色んな物が手に入る様になったから士気も良い水準になってるし、ヒト手が増えた事で工事も順調。ニアも大勢に受け入れられ様と奮闘中。

「怖がらせてしまったお詫びと考えてくれ」

「ありがとうございます!」

「ほんと良いヒト!」

「風呂とか諦めてたんスよ!」

「凄えよ! かなり立派な風呂だった!」

 仮説お風呂は強いわー。製水器も強いけど、お風呂はもっと強い。アーティファクト製のお風呂が高級品だったのは幸いだったわね。それを惜しみなく出すってだけで受け入れてくれてるわよ。騎士団長も手を貸してくれて大型天幕を沢山仕入れてくれてるし、騎士団員も設置を手伝ってくれてる。冒険者が増えた事で探索より開拓を優先してくれてるのよね。

 ラニも手伝いを頑張ってくれてて、それを見た子供達もニアを受け入れ始めてくれた。失業者を集めてるから子供も来てるの。

「翼生えてるー」

「ニアお姉ちゃん、お空を飛べたりする?」

「飛べるぞ。疲れるから歩いた方が楽なのじゃがな」

「「へー」」

 悪魔族や妖精な私達に興味を示し、それが他の子供達にも移って集まってくる。子供にも優しいから順応する大人もどんどん増える。良い連鎖が起こり始めてるわね。

「あの。魔族ってヒトの精を吸って生きてるって聞いたんですけど……」

「生き物の精が正しいな。故に魔物の精でも良いのじゃ。争い事が嫌いな為にヒトを襲おうとは思わん。ここに来る前に魔王様に徴兵されてヒトと戦ったのじゃが、危うく殺されるところでな。もう二度とあんな怖い目には遭いとうない。平和が一番じゃ」

「そうでしたか……」

 魔物と戦うのはまた別みたい。クレイジーランナーと戦った時は普通だったし。今までも魔物から精を吸ってきたって聞いてる。家畜を買って吸っても良かったけどお金が掛かるから魔物で節約してたとも聞いてるわ。何か解る。節約大事。

 色んな場所で色んなヒト達を助けつつ、道具屋の宣伝なんかもしてる。魔法薬品の中には魔法肥料があるし、緊急でポーションを使う怪我人も居るみたいだから一般人も対象になるんですって。ここはちょっと意外だったかな。冒険者が利用する店だとばかり思ってたから。後は生活用アーティファクト。蛇口とか下水口、ゴミ箱なんかの一般人向けも用意するつもりみたい。

「冒険者用のアーティファクトは錬金術ギルドに任せるつもりなのじゃ。勿論冒険者用も作るつもりではあるが、出来れば皆の助けになる物を優先して作りたい」

「わ。どんな物を売るんですか?」

「値段次第ですけど、欲しい物が結構あるんですよ」

「ダンジョンで素材が見つかる様じゃから他より安く出来るかもしれぬ。そうじゃな、蛇口で――」

 上下水道が無いから当然なんだろうけど、蛇口単体とか下水口単体で売るって結構新鮮。値段を聞いた皆の反応を見る限りじゃ普通より安いみたいね。店が出来たら買いに行くってヒトばかり。

「他だとどれくらいなの?」

「最低でも銀貨十枚ですよ。銅貨で買えるなんて夢みたいです」

 平均して銅貨二十枚くらいって話。相場の百分の一じゃ確かに安い。元の世界で考えても水が使い放題で二千円とか絶対安いし。下水口と合わせて四千円でも充分安いわ。一ヶ所に一揃えでも余裕よ。

 後は明かりとか台所回り。考えてみると一度買うだけで光熱費が掛からないって凄く良いじゃない。電気もガスも使わないなんて最高。アーティファクト万歳。あ、騎士団員達も気にし始めた。

「水筒なども販売するのでしょうか」

「水筒は必ず用意する。蛇口より器代が掛かる故に銅貨三十枚くらいからになるか」

「それでも破格ですよ。品薄になるのではありませんか?」

「かもしれぬ。まあ、ラニが頑張ってくれればアーティファクト化は楽になろう。問題は器じゃ。量産体制が整えば話は変わるのじゃが」

 あー、問題はむしろ器の方かー。アーティファクト化は触媒を用意して魔法を使うだけだもんね。前から気になってた事を交信で聞いてみよう。

【ねえニア。魔力を固めて物質にするって出来ないの?】

【昔から試行錯誤が続いておるが、まだ成功したという話は聞かんな】

 うーん、駄目か。私の能力みたいに物質化出来れば素材が不要になるかなって思ったんだけど。

【そう上手くはいかないか。水が生み出せるならって思ったのに】

【ふむ? 何故そう思う?】

 あれ?

 誰もそこに気が向いてない? 水を生み出すって物凄い事だと思うんだけど。

【水だって物質の内じゃない】

【……あ】

 欲しいのは固形物だけど、物質と大きく括れば水だって物質。既に魔法で実現してる。それを応用して固形物を生み出せればって考えてた。魔物素材を混ぜた触媒込みの物質じゃなくても良い。単純に任意の形の固形物が出来れば別の部品をくっつけるだけで何とでもなる。やっぱり無理なのかな。

【そこから研究してみる価値はあるな。その時に意見をくれ】

【良いわ。もし出来たら産業が一変するわよ】

【間違いない。生活用アーティファクトを更に値下げ出来る】

 量産だって可能だし、研究する価値は絶対に有る。少しでも助けになるなら幾らでも意見を出すわ。元の世界の知識が使えるかもしれないしね。

「量産体制もそうですが、材料の問題もあるでしょう」

「うむ。そちらはダンジョン次第じゃな。魔物の中には骨が金属質なものもおる。そやつが見つかれば鋳造して量産も出来よう」

「「おお!」」

 そういう魔物も居るんだ。それは後で確認しないと。品質が低い魔物でも今のここには必要だわ。

【それ後で詳しく。次のフロアに置きたい】

【ユキならそう言うと思って次に設置する予定のフロアに配置してあるぞ】

 それは凄い助かる。なら冒険者達に期待ね。ちゃんと私の狙いを理解してくれてるのは嬉しいわ。

 第二フロアはニアが用意してくれたダンジョンで、洞窟の中って感じのフロア。どちらかと言えば中継点的な場所で、そこから色んなダンジョンに枝分かれしていく事になってる。新しい遺跡とか、別の洞窟とか。安全地帯も一ヶ所繋げる予定。内部が本格的になるって見せていきたい。

「今の内に量産用の工場の土地を確保して貰うと言うのは如何でしょう。その魔物が見つからなくても普通の金属を大量加工出来るだけで違うと思いますが」

「悪くないな。錬金術ギルドにとっても大きいか。ギルドに提案してくる」

「「はっ!」」

「「わああ!」」

 それにしても、道具制作の中心的人物になり始めてて良いわね。イヴとならんで大きな柱になってきてる。中枢と良好な関係を築けるだけでも大きいわ。騎士団長にも声を掛けて冒険者ギルドに行って提案しましょう。

「用意しましょう。それはとても大きい」

「ああ。そうか、骨を鋳造出来る魔物も居るのか」

「ミスリルやオリハルコンの主軸となる素材も魔物の骨じゃてな。錬金術師なら知っておるはず」

「「おお!」」

 ミスリルやオリハルコンもそうなの。やっぱり面白い。その魔物なんかも配置してくれてるんだろうなー。ほんと心強い。素材を知ってるニアと、強さを知ってるイヴ。どちらもダンジョン作りに欠かせない存在よ。

 量産工場の設置が本決定となり、大工達に指示を出して場所も指定。雇用枠を作る事にもなるから色々な意味で大きい計画になってくれた。雇用枠も大事。失業者が大勢来てくれてるから働き口がどれだけ大事か皆も解ってるはず。今の段階から向上で働いても良いってヒトを集められるし、工事を手伝って貰う事も出来るわ。それも踏まえて大工達に動いて貰いましょう。

「丁度良い。支部長に報告があったんだ」

「む。何かありました?」

 あら?

 もしかして騎士団についてかしら。何か進展があったのかも。

「最初に援助して下さった伯爵閣下からも口利きを頂けた様でな。我が騎士団は我が国に所属したままラビリンスに駐屯し、冒険者ギルドの指揮下に入る様にと陛下から勅命を賜った」

「おおお! それはありがたい!」

「ほ。中々に味な事をなさる君主じゃ」

 駐屯が本決定! それは凄いありがたいわ!

 国の所属を変えないままここで動けるなんて最高の条件じゃない! やるわね王様!

「近隣諸国の王族にも一ヶ所ずつ騎士団を派遣する様に呼びかけて下さるらしい」

「なんと……。とは言え、そうなると指揮系統が大変になりますね。基本的には騎士団ごとに動いて頂いて、連携が必要な時にこちらからと言う方法をとりましょう」

「その方が良いだろう。それでも衛兵は必要になると思う。規模が一気に膨れ上がったわけだし」

「確かに。そちらは独自に衛兵庁を設けますか」

 最初から都って規模を目指せる様になったし、治安はちゃんと考えるべきね。警察みたいな組織はやっぱり必要だわ。騎士団は軍人って形になるんでしょう。後はどうヒトを集めるかだけど、ここはシスを通して提案すべきね。

「問題は衛兵の募集じゃが、騎士団との連携を前提にした方が集まると思う」

「成る程、確かに。衛兵には事務的な事を頼み、騒動には騎士団員を使うという形か」

「うむ。冒険者に声を掛けても良かろう。単なる失業者を衛兵にするのは心苦しい」

 厄介事だって有り得るわけだし、最初は騎士団や冒険者を頼る形で衛兵を置く。巡回や事務的な事をやってくれれば良い。ここは軍人じゃなくて騎士団が駐屯してるって事に感謝ね。多分軍人より騎士団の方が身動き取れると思うから。将来的には衛兵にも訓練を積んで貰って衛兵だけでって事になっていくとは思うけども。規模が大きくなったからこそ、こういう事はしっかり決めていかないとね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ