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ダンジョン&ダメガールズ -岩の中にいる-  作者: 仲田悠
第二話「まち」
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時には助言もしてみたり

 もう少しニアの株を上げようと思うんで提案してみる。皆が喜ぶ様な物を用意すれば良い。それも出来るだけ贅沢な物。すぐ使える物なら最高。

「そこまで都合の良い物にも心当たりが有るのかや?」

「お風呂よお風呂。大きい天幕を使って仮設お風呂を用意するの」

「おおお!」

 アーティファクトのお風呂が有るって聞いてるから、それをここで作って皆に開放すれば喜んでくれるはず。ニアの案って事にして騎士団長に用意しても良いか聞いてみよう。

「それは是非とも!」

 即決。迷わなかった。私でも迷わない。何しろまだまともな建物が一件も建ってない状態。水浴びする場所すら無いし、それで共同であってもお風呂に入れるなら入りたいと思うわよ。どう考えても皆の士気を高めてくれるから。

 騎士団が保有する大きな天幕の予備を四つ借りられたから男女別にお風呂と脱衣所を用意。大きなお風呂を作るから手伝ってと皆に声を掛けた瞬間に全員が仕事を放り投げた。

「ニアさんほんと良いヒト……!」

「川も無えからキツかったんだ……!」

「アーティファクトのお風呂なんて高級品よ!」

「ありがたいわ! 体を拭くだけなのは辛かったのよ!」

 即座に天幕が組み上げられて、お風呂用と脱衣所用とで合体。設置場所は距離を置いて女風呂の方は天幕を魔法の壁で覆ったりも。覗きは防止。

 浴槽はレンガで素早く作り、魔法も駆使してすぐ使える様に。建築用資材を使うけど誰も文句を言わない。お風呂優先。レンガを使わなくなるまでに何回お風呂に入れるかと考えればケチってなんていられないから。脱衣所も木材を使って簡素な足場や棚を作成。もう完璧に銭湯。完成してお湯が注がれた瞬間に大喝采よ。

「いやはや、ここまで喜んで貰えるとはのお」

「開拓とか災害復興って住民の士気を維持するのも重要課題なのよ。作業効率が変わるから」

「ううむ、道理じゃ」

 更にもう一声ニアの株を上げる。祝杯を挙げて戻って来てから話して無かった。と言うより、この為に話さないでいたリンゴの植林。また騎士団長に相談しましょ。

「本当か!?」

「うむ。そろそろ収穫出来るくらいじゃったぞ。植え替えにヒト手を割かんか?」

「割こう! 食料は少しでも多い方が良い! むしろ全団で向かうべきだ!」

 こっちも即決。住民を優先、とお風呂の順番を待ってた騎士団員や冒険者達を召集。

「やるよやる! 荷馬車を総動員しようぜ!」

「ニアさんのおかげで楽に運べるだろうしな!」

「私が植林の方法を知ってるから、指示通りに植え替えてよ。ニアとイヴに支援魔法を使って貰えば更に楽だと思うわ」

「「よっしゃ!」」

 植林大作戦決行。ここに有る荷馬車を全て使って盆地の外側へ行軍。お風呂に入る前に良い汗を流して貰いましょう。リンゴのご褒美も有るし。大変な坂道もあまり気にならない。だって食べ物が懸かってるんだもの。

「普通に考えっと、帰りが凄えキツいんだがよ。気分的にゃ全然気にならねえんだよな」

「そうそう。ダンジョンからお宝を持ち帰るのと全く同じだ」

「ははは。確かにお宝だ。荷馬車が足りなくても人力で持ち帰りたくなる」

「支援魔法が有れば可能なのではないか? 以前の騒ぎでニア殿から頂いた支援魔法はかなりの効果だったし」

 リンゴの木を積んだ荷馬車で坂道を下るとか普通は考えない。勿論今回だって真っ直ぐ下らないで蛇行しながら下るけど。そう言う事が全部吹っ飛ぶくらいに期待しちゃうわよ。

 開拓中は周辺国からの支援で食料も含めた色々な物資が定期的に届くんだけど、どうしても量に制限が掛かるから現地調達出来るのは本当に大きい。それが美味しい食べ物なら尚更。果物なんて殆ど送られて来ないし。そう言う事情も有って祝杯を挙げるのに我慢しなかったのよね。

「マジでリンゴだ!」

「結構有るな! しかも出来てる!」

「さあ、皆! 指示を出して行くから丁寧に抜いて!」

 そして到着。リンゴの木って言うお宝が目に飛び込んできて皆のテンションが最高潮に。凄いアイテムよりずっと貴重で重要な物だもの。とにかく慎重に植え替えないと。出来てるリンゴは先に収穫した方が安全だからリンゴ用に籠も持ってきてある。万全。

 支援魔法のおかげで作業も順調。皆が手順を覚えたら、今度はまたニアに頑張って貰う。坂道を確認しに行くと皆に断って、皆と離れてからニアに交信。

【えーと、物理障壁って呼び方で良いのかしら。物理的な攻撃を防ぐ防御魔法】

【うむ。物理障壁じゃな。それをどう使うのじゃ?】

【自由な形で壁を作れる様なら、帰り道を作ってよ】

【うはぁ……! 障壁を道にすると言う考えも無かったわ……!】

 そう言う事でお願い。幾ら蛇行しながら下ると言っても限度が有るからね。掘削魔法で削るよりかは壁を道代わりにした方が楽だと思うし。角度なんかを調整して理想的な坂道を作りましょう。多少強度が足りなくても私の力で支えれば良し。見えない形なら皆の前でも使えるわ。

「おお……! 障壁で坂道とは!」

 あ、騎士団長が来た。坂道もニアの案って事で。とにかくニアを持ち上げなきゃ。

 荷馬車が何台か積み終わったらしいから、先ずは一台を坂道に乗せて重量を確かめてみる。

「まだまだ余裕が有る。限界まで強度を上げておるが、厳しいと感じたら言う。その時は後続を止めてくれ」

「「おおお!」」

 魔法万歳。頭を使って活用すればどんな事でも出来そう。と言うか物理障壁が便利過ぎる。形も位置も自在なら色んな事に流用出来るわよ。イヴと交信して聞いてみよう。

【物理障壁ってぶっちゃけ最強の白兵戦用魔法じゃない?】

【え。どう言う事でしょう】

【好きな形に出来るんでしょ? 針山を作れば攻撃してくる相手を串刺しに出来るじゃない】

【あああ! 素晴らしい発想ですよ!】

【後は攻撃の動作を妨害する位置に展開して攻撃を中断させるとか】

【革新的ですね……!】

 自分を守る防御魔法とだけ考えるからよ。どう言う結果が生まれるかを把握して、そこからどう言う用途に使えるかと考えるべきだわ。既成概念って奴なんだろうけど。他の魔法でもそう言う別の使い道を模索してみよう。




 仮設お風呂にリンゴの植林。立て続けに皆を喜ばせたおかげでニアの株が大きく上がり、何とニアの家になる道具屋の工事を最優先にするとまで言って貰えた。

「皆と一緒で構わんのじゃが……」

「いやあ、どっちにしろ道具屋の優先度は高えんだ。それに、ちゃんと休んで貰ってまた何か魔法で手え貸して貰おうって魂胆でも有る」

「かかっ。そう言う事で有れば遠慮無く頼もう」

 開拓中は戦わないヒトでも怪我をした時にポーションを使って早く治そうとするから、元から道具屋の優先度は高かった。それこそ他との連絡を取る冒険者ギルドの次くらいに。でも今は冒険者ギルドの工事すら停止。ギブアンドテイクみたいに大工達は言ってるけと、ニアの負担を減らそうって気持ちの方が強いって解る。ニアもそれに気付いたみたいで嬉しそう。

 ここまでくれば援護の必要は無くなるから、念の為程度に女神様を同行させて私はふらふら飛ぶ事にしたわ。こっそり助言するくらいは良いと思うし。んー、ダンジョンの入り口に行ってみようかしらね。冒険者達がこれから探索に向かうっぽいし。さり気なく入り口での助言でも。

「お? スノウじゃねえか。一人たあ珍しいな」

「入り口だけでもダンジョンをじっくり見てみたいなって」

「ははっ、そいつあ良い。妖精だから気付くって事も有るかもしれねえ」

 妖精の特性を全部把握してる訳じゃないから何とも言えないけどね。壁面に彫られたレリーフを眺める様に移動して行きましょう。

 話題に出てないから気付かれてないままなんだと思うけど、デザイン的に別の入り口って解る様にしてあるのよ。近くだと解らないかしら。大きいし。ああ、うん、離れないと解らないわ。ちょっと失敗したかも?

「どうだ?」

「そこの壁、何か扉っぽく見えない?」

「「うおっ!?」」

 縁のレリーフは普通の入り口にしてあるから、落ち着いて見れば別の入り口だって解るはず。冒険者達も気付いてくれたみたい。

 扉のレリーフも良く見ると文字が刻まれてる。ニアに教わったこの世界の文字。"若き者達よ、先達に続け"と刻んでおいた。

「おいおいおい。また面白くなってきたぞ」

「謎解きまで用意されてんのか」

「これどう言う意味だろうな」

 私の助言はここまで。序盤をクリアすれば解放されるランダムダンジョンの入り口よ。後は皆で頑張って開けて頂戴。きっと楽しいから。

「こんな凄え場所を用意されっと、渡り鳥を止めちまうかと考えちまう」

 ん。今聞き慣れない言葉が。

「渡り鳥って?」

「一所に留まらないで旅をしながら依頼をこなす冒険者の事さ。色んな場所を見て回れるから楽しいんだが、ここ来ちまうとな」

「俺もうここに骨を埋めるんで良いよ。こんなダンジョン他に無えぜ?」

「な。浅い様ならまた渡り鳥やりゃ良いさ」

 成る程ね。旅立つなんて言わず留まって楽しんでよ。飽きさせないから。多分踏破まで百年単位だから。追加アップデートやるし。何なら季節イベントも企画するし。ネトゲ運営の気分。

「それじゃ、俺達は行くぜ。団長さんから地下三階まで降りる許可を貰ってきたんでな」

「あ、そうなんだ。気をつけてね」

「「おーう」」

 そっか、地下三階かあ。農法の指南書が見つかるのね。耕したばかりだから試すには良いかも。農家にも恩恵が来ると解れば生産業からも期待されるでしょう。ますます盛り上がるわ。

 冒険者達を見送ったら扉の事を話しに騎士団長の所へ。運良くギルドの支部長も居てくれた。

「ねえねえ。さっきダンジョンの入り口に行って気付いたんだけど、別の入り口が有るみたいよ」

「本当か!?」

「更に別の入り口かい!?」

 そのまま二人を案内。ほらほら見て。遠目からならレリーフで解るでしょ。

「やはり相当な規模だな。探索済みの階層だけでも広いと思ったのだが」

「ええ。同規模のダンジョンがもう一つと考えれば世界でも類を見ない規模になるでしょう。もう少し応援を要請しても良いかもしれません」

 あ、追加増援を頼めるなら頼みたいわね。まだまだ場所は有るし、戦闘員に開拓を手伝って貰わずに済む。探索が進めば進む程大きな存在感を感じるはずだしね。

「先達に続け、か。面白い。どの様な意味を持つと思う?」

「ふうむ。まだ開いて居ない扉が若者に向けて言葉を残している点が気になりますね」

「確かに。いや、待てよ?」

 気付いちゃったかな? 解りやすいと思うし、序盤の探索はすぐ終わると見てるから気付かれても問題無いんだけど。

「警告文か?」

「警告ですか」

 あ、あら?

「上級者向けだから駆け出しはまず開いている方から挑めと言う意味では無いだろうか」

 しまった、逆に取られた。まあ、それも良いけどね。開放されれば解る訳だし。

「成る程。むしろその逆とも受け取れませんか?開いている方をある程度進むと開き、こちらは訓練場の様なダンジョンとか」

 支部長正解。ヒントは序盤ダンジョンの敵の強さね。一階毎に少しずつ強くしてる。そう言う配慮をしていると気付けば訓練場用のダンジョンも用意出来る存在が作ったって考えに辿り着くと思う。やっぱり開放されるまで好きに想像してって話になるけど。

「面白いな。陛下に上申して駐屯期間を延ばして頂くか」

「ははは。町の治安を考えると、私としては是非と言いたいですよ」

「おお、それだ。それを口実に使わせて貰おう。ここがどの様に変わっていくのかどうしても見届けたくなった」

 歓迎歓迎。そうするだけの価値は有るわよ。ランダムダンジョンなんかは絶対に訓練になるし。死んでも蘇生して貰える実戦訓練場なんて他に無いから。

 その気をもっと強める為に少し移動しよう。ランダムダンジョンの入り口に向かって飛んで、振り返ってみる。

「あ、やっぱり。そっちも入り口っぽい造り」

「「うおっ!?」」

 実はもう一つ入り口を用意してあるの。そっちは奥のダンジョンとの転送式出入り口。各所に設置するセーブポイントがそこと結ばれる予定よ。

「"飽くなき挑戦者達に敬意を"。ふむ」

「これもまた意味深ですね。更に高難易度のダンジョンでしょうか」

「有り得る。賞賛する何かを設置する場所ではないと思うし」

 高難易度と言えば高難易度。途中から再開する訳だからね。それに素材集めとしても使える。素材が有る場所とも繋げる予定だから。

 セーブポイントや素材が発見されたらギルドに冒険者認証と同じ性質の採掘者用認証を発行する様にイヴに頼んで貰おうと思ってて、採掘者の護衛依頼も発生する事になるはず。ただ探索するだけじゃないのも楽しみになると思う。自分の装備を特注で作って貰う為に職人と奥まで探索するとか面白そうだわ。

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