第一話 この世界の雑魚はマネギンです
私の意識は戻った。なんとも身体が重いが、転生のせいだろう。
周りが明るくなると、見渡す限り草原と森が広がっている。日本でないことは間違いない。
どこか童話に出てきそうな世界だと思った。
そして自分の手を見る。長年親しんだ日に焼けたごつい手ではなかった。細く白い手だ。
さらに自分の胸も揉む。まるでメロンをふたつ背負っているみたいだな。
うむ、肩が重い。世間の女性たちはこんな苦労を背負っていると思った。
ついでに尻を撫でてみる。なんともすべすべして触り心地の良い尻だ。
これならばバニーガールになっても問題ないだろう。
顔はどうだろう。ちかくにある泉をのぞき込む。
なかなかの美人だ。金髪碧眼で、まさにバニー映えする女性だね。
問題はバニースーツを作るための材料と道具だ。それを集めなければならない。
私は念じてどうすればいいか考えた。すると頭の中に素材と作り方が浮かんできた。
それとバニーガールにふさわしい店を作らなければならない。バニースーツを着るだけでは満足できないからだ。
そのための道筋も能力のおかげで理解できた。ぼんやりした私には素晴らしい能力だ。
まずは大きな町、エアツェールングに行かねばならない。
そこで料理ギルドに入るのだ。衣装は裁縫ギルドに依頼すればいい。素材を提供すればいいのである。
さあ、行こう。冒険の旅に出発だ!!
☆
そういえば身に付けている服は白いワンピースだった。サンダルを履いており、旅をするのには不向きだが、私はまったく苦にならない。
おそらく神様のおかげだろう。この世界でも生きていける力を与えてくれたのだ。
「ピゴー!」
途中で親子連れを見かけた。母親と娘のふたりだ。その人たちが玉ねぎの魔物に襲われている。
スイカほどの大きさで、丸い目に笑みを浮かべていた。そいつらはぴょんぴょんと跳ねており、一般人には脅威だろう。
私はすぐに地面に落ちている木の棒を拾い、タマネギの魔物を片づけた。
というか、あっさりと片付きすぎです。一振りでこっぱみじんだよ。
まさにチートだな。正直達成感がない。チートは自分が経験するより、他人の物を見るほうがよいな。
親子連れは私を見て、恐れを抱いている。そりゃそうだ。魔物を一瞬で倒したのだから、当然であろう。
「あっ、あなたは勇者さまでいらっしゃいますか?」
はっ? 母親が何か言い出したぞ。もちろん違うと否定する。けどよく見ると色っぽい女性だな。胸も大きいし、男だったら食いつきたくなる美女だ。
「いいえ、私は勇者ではありませんよ。名前は……、そうですね、ハーゼと申します」
ハーゼはドイツ語でウサギという意味だ。バニーになるんだからこれでいいだろう。
「ハーゼさまですか。私はズンブフ村に住むツァールトと申します。この子はゲッティンです。助けていただきありがとうございます」
「ありがとうゆうしゃさま!!」
ツァールトは礼を言った。ゲッティンは私を勇者と勘違いしているようである。
さっき私を恐れたのは、新しい魔物が来たと思ったからだ。
しかし、私の姿が美しいので、勇者と思ったらしい。
これがブ男だったら、逃げられていただろうな。
さて、私はズンブフ村に案内された。村は沼の近くにあるという。
私はツァールトとゲッティンを背負っている。ふたりは恐怖で腰が抜けたからだ。
ふたりともまるで魔物みたいに力強いと驚いていた。
先ほど戦った玉ねぎの魔物は、マネギンという名前らしい。一番弱いが、一般人には脅威の存在だそうな。
女子供には対応できないのも無理はない。
今は村の男たちは魔物退治に勤しんでいるそうだ。昔は家畜を狙う悪い狼だけに対処していたが、今は魔物向けの武器と防具を作っているという。
さて私はツァールトの家に案内された。童話に出てきそうな一軒家だ。旦那はいるのかと訊ねたが、暗い顔になる。この件は踏み込まない方がいいだろう。
家の中は狭いが小奇麗であった。おそらくゲッティンが母親と一緒に掃除をしているかもしれない。
「ところでハーゼさまはどちらへ行かれるのですか?」
「エアツェールングの町です。そこで料理ギルドに所属したいのですよ。飲食店を開くにはそこに行かないとだめらしいので」
童話の世界にギルドなんてあるのだろうか。神曰く神託を使って作らせたという。
最初はただお城があり、村があり、普通の生活をしていたが、段々それが破たんしてきたそうだ。
それ故にギルドを作り、規制を作ったという。一見メルヘンな世界にも厳しい決まりがあるのだなと思った。
「まあ、料理ギルドですか。するとハーゼさまは料理が得意なのですか?」
もちろん能力でいろんな料理のレシピは頭にある。さらにこの世界にある素材を利用して、自分の世界の料理を作ることも可能だ。
ちなみにこの村の主食はパンだ。まあ、西洋童話に米なんか出てこないだろう。
私は村の中にある材料を使い、料理を作ることにした。
基本的に焼き肉とサラダ、スープしかないらしい。なんでだろうか。神様教えて。
『私は他の料理を知らないのだ。前世は料理を作れないOLだったのだよ』
答えが返ってきた。なるほど、料理を知らないから、この世界の料理は適当なのだな。
童話になら出てきそうな料理は出ても、凝った物は知らないから神託でもどうにもならないらしい。
私の場合は神様から能力を与えてもらったから、大丈夫のようだ。
というか神様は元女だったのか。
だから私がバニーガールになりたいといったとき、呆れていたのだな。
さて私は肉を使ってハンバーグを作ることにした。村にはイノシシの肉があり、それを利用するのだ。
玉ねぎと小麦粉をもらい、肉をミンチにする。そして玉ねぎを炒め、ひき肉と小麦粉と混ぜる。
そしてそれを焼いたらできあがりだ。
ゲッティンは未知なる料理に驚いていた。調味料はトマトソースを作ることにした。この世界でもトマトは存在するようだ。塩もあるのでこちらで味付けする。さすがに胡椒はない。
こちらも一緒に作っており、ソースをかけて完成する。
「……ハーゼさま、これは?」
「ハンバーグという料理です。柔らかくて食べやすいですよ」
ゲッティンは恐る恐る口に入れた。すると顔が満面の笑みになる。それを見てツァールトも食べた。彼女も同じ感想のようである。
「こんなおいしいの初めて!!」
「ふふふ、おいしいですか。それはよかったです。作り方は教えるのでぜひご自宅でも食べてください」
そう、私はこの村にある材料でも作れる料理にしたのだ。変に高級食材を利用したら、その味を覚え、それを求めてしまう。
贅沢を教えたら、麻薬のように癖になるからだ。
私はその晩泊めてもらい、翌朝、出立しようとした。
マネギンのモデルは某RPGの雑魚です。
昔双葉文庫のゲームブックで、タマネギのモンスターをあったからです。




