第17話 まぼろしネズミとおおかみジェット
おおかみジェットの声は、千葉繁氏で変換してください。
「うぅ、ここになど来たくないのに……」
俺様は思わず弱音を吐いてしまった。おっと、俺様はまぼろしネズミ、赤い帽子に黒マスク、黄色いマフラーがトレードマークさ。巨大なネズミが立って歩いていると思ってくれ。
ここはハーゼという人間の屋敷だ。今は真っ暗な夜で、町の中は見回りの兵士しかいない。
そいつらは魔物なんか町に入り込むわけがないと、たかをくくっているから、俺様でも潜入できるのだ。
もっとも、本来なら用事がないので、長居したいところではない。
「うっふっふ。ここが例の人間が住んでいるところかね?」
俺様の後ろには、同じ魔物が立っている。巨大なオオカミが二本足で立っており、白いマフラーをなびかせていた。
こいつの名前は、おおかみジェット。俺様と同じネームドモンスターだ。
まあ、名前じゃなくて、肩書かな。マネギンのマネビンとはちょいと違う。
「そうだよ。だが正気か? ここに住む奴は強いぞ」
「むっふむっ~ん、たかが人間ジャマイカ、インカ。そんなものはぼくちゃんこと、おおかみジェットさまのミラクルボイスで、綺麗にぱっぱと、片づけてやるよ」
「そんなもので、倒せるとは思えないがな」
それが俺様の感想だ。こいつの武器はオオカミの牙じゃない。ミラクルボイスという必殺技だ。
こいつより一回り大きい、オーク三兄弟の住む家を吹き飛ばした実力がある。
ちなみに住人は全員無事だ。人の寝床を台無しにして楽しむだけなのだ。
前は小さな村に行って毎晩ミラクルボイスで、人間たちを不眠不休に陥らせたが、回収人という人間たちがやってきて、追い払ったという。
なんでもとうがらしの粉を利用して、こいつの目と鼻を潰したというからすごい。人間は腕力だけでなく、ちっぽけな道具や薬で解決するのだから。
それでおおかみジェットは現在人間に追われる毎日だ。ほとんどの村では伝令が来ており、こいつの対策ができている。
嫌がらせしかできないこいつは、次第に追い詰められていった。俺様はこいつが嫌いだし、子分のマネギンたちも同じである。
ちなみに俺様は毎回雲魔人のヴォルケに通い、お土産を持ち帰るのが役目だ。
毎回、珍しい料理を出してくるから、マネギンたちは楽しみにしているのである。
この間はホットドッグという、パンにソーセージを挟み、トマトで作られたソースをかけた食べ物を持ってきた。
ヴォルケは食べられないという。卵や牛乳は大丈夫だが、肉や魚は受け付けないそうだ。
なのに、なぜ夜食として持たせているかわからない。ヴォルケは「子分だからだよ」と言っていたが、どうにも府に落ちないのだ。
「うっふっふ。家は真っ暗、クラクラ、クララが立った。ぐっすり、どっさり眠りこけこけ、コケコッコーだろう。そこにぼくちゃんのミラクルボイスで、ずどーんとたたき起こしてやるんだ。それを毎日クリクリ、繰り返してモンブラン。そして、ノロノロのノイローゼになって、ブス面になるんぶスでコロンブス」
おおかみジェットは嫌らしい笑い声をあげていた。しかししゃべり方がなんとも芝居がかっており、笑いが起きるね。
それでも嫌味な正確なため、こいつは友達が少ないし、魔物仲間も陰口をたたいている。
まあ、こいつもでかい声で陰口をたたいているけどな。そのせいで魔物でも信頼を失っているのだ。
マネギンたちも「あいつの下で働きたくない!」と口をそろえていたっけ。マネビンも「彼は人の上に立つ性質ではありません。あなたとは雲泥の差がありますね」と言ってたな。
「さぁ、地獄のファンファーレを鳴らしてやろう! せーのっ!」
おおかみジェットはまず左手を腰に当てる。そして右手をまっすぐに突き出し、口元へ寄せた。
「うーやーたー!!」
おおかみジェットのミラクルボイスが発動した! これで屋敷の窓ガラスは割れてしまうだろう。
そう思った瞬間、屋敷の窓が開き、何かが飛び出してきた!
それは女だった。ハーゼではない。確か部下のマギーという女だった。
そいつは片手を突き出すと、ミラクルボイスを消してしまったのだ!!
「なっ、なんじゃとねーーー!!」
おおかみジェットはものすごく驚いている。一方でマギーは平然としていた。まるで鉄仮面を被っているように冷たい感じがする。鎧人リグコのような無機質な仮面に似ているぞ。
「おのれ、ドブスの人間!! ぼくちゃんの素敵で無敵なミラクルボイスを消し去る、言わざる、聞かざるとは!! 覚えていろいろ、お前の母ちゃん、でーべそ!!」
あいつは逃げ出した。強い者とは戦わない卑怯者だからだ。俺様も強い者と戦って負けることが多い。それでもマネビンは負けても、諦めずに戦うあなたはかっこいいですよと褒めていたな。
「……せっかく余韻を楽しんでいたのに。二度はありませんよ」
そう言うとマギーは大きく息を吸った。そして呼吸を止める。
「んちゃ!!」
それを一気に吐き出すと、おおかみジェットの身体は風船のように膨らんだ後、こっぱみじんに砕け散ったのだ。
「チバッシ、ゲルゥ!!」
おおかみジェットの身体はこの世から消え去った。なんとなく世紀末っぽい断末魔の叫びだな。
さすがの俺様も腰が抜ける。そして粗相をしてしまいました。うん、俺様の寿命も残りあと数秒ですね!
「あなたが、ハーゼの言っていたまぼろしネズミですか」
俺様はうんうんと頷いた。おもらししそうになる。
「ヴォルケさんがいつもお世話になっております。初めての友達、いいえ、子分になれたのがとても嬉しいようでしたよ。これからも遊んであげてくださいね」
マギーがにっこり微笑んだ。まるで悪魔のような冷たさを感じる。
ええ!? なんで俺様とヴォルケの事を知っているんだよ!! でもあいつはしゃべってなさそうに見える。もしかしてハーゼは聴いていたのではないだろうか?
「はい、ハーゼはあなたたちの会話をきちんと聴いてましたよ。主に屋敷の中でパーティをしている最中に」
俺様は恐ろしくなった。ハーゼは敵に回してはいけなかったのだ。俺様は腹が痛くなった。
うう、早く帰って思いっきり出したい。
「今回は見逃しますが、今度深夜に現れてみなさい。死ぬ事より辛いことがあることを理解できますから」
ぞわわわわ!!
地獄の底から響いていそうな、冷たい声だった。もちろん、俺様は同意するに決まっている。
否定などしたら、地獄よりもひどい目に遭いそうだからだ。
「そうだわ。ハーゼの作った料理が残っていたの。それをお土産に持って帰るといいわ」
そう言ってマギーは俺様に風呂敷包みをよこした。おおかみジェットは白いマフラーのみとなり、一応魔物同士なので持ち帰ることにした。
中身はパンであった。柔らかいパンに卵やハム、レタスやトマトなどの野菜が挟んであった。
サンドイッチという食べ物らしい。初めて食べるがなかなかの美味である。
マネギンたちも大喜びで食べていた。もっと食べたいとねだっていたが、マネビンが抑えてくれたのである。
あとおおかみジェットの死を伝えたが、全員ざまぁみろと喜んでいた。見捨てて逃げかえった俺様については、「おいしい料理を持ち帰っただけで偉業です」とマネビンが褒めており、他の仲間も同意していた。
「これからもハーゼの元に赴き、貢物を回収しに行かなくてはなりませんね」
マネビンがにやりと笑いながら、つぶやいた。他の仲間たちもそれを聞いて喜んでいる。
ああ、俺様は料理のために、ハーゼとマギーのいる人間の町に行かなくてはならないのか。それでもあの料理は魅力的なので行くけどね。
おおかみジェットは武内つなよし先生の少年ジェットから取りました。
オーク三兄弟のエピソードは、三匹の子豚ですね。




