プロローグ:女になりたいのではない、バニーガールになりたいのだ!!
新連載始めました。なろうのテンプレを意識しています。
「ここはどこだろうか?」
私は首を傾げた。周りは真っ暗で何も見えない。自分の身体でさえ見えないのだ。
確か私はトラックにはねられそうになったのを覚えている。衝突する際はスローモーションのように見えた。
その後は覚えていない。気を失ったと思ったが、どうなったかわからないのだ。
「初めまして、私は神です」
目の前に老人が現れた。威厳のある顔つきである。
神を自称しているが、いきなり目の前に現れたから、疑う余地はない。
何より神々しい雰囲気は、信じるに値するからだ。
「はあ、そうですか。じゃあ、私は死んだのですね」
「受け入れるのが早いな。確かにそなたは死んだ。本来人が死ねばそれっきりなのだが、そなたの魂ははっきりと形作られている。そこでそなたに頼みがあるのだ」
なぜ死を受け入れたか。私は40歳だが人生に興味がなくなったのだ。別にひどい人生を送ったわけではない。
身内は普通に病気で亡くなったし、私は警備員として過ごしているがパチンコも酒を飲みに行かないので、生活できていた。
しかし、不安だけは消えない。今の普通の生活が崩れる恐怖が勝るのである。
弟は役所に勤める公務員で、給料は高く、奥さんもいて子供はふたりいる。幸せな家庭を築いているといえるだろう。
だが弟は奥さんの尻に牽かれており、うちの母親と折り合いが悪い。奥さんも役場に勤めているが、貯金が趣味で金を使うのを嫌っているそうだ。
それを聞いた私は貧乏でも自由に金を使える方がましだと思った。
それに広い世間では嫌な事件ばかり起きている。私が子供の頃に活躍した歌手やプロ野球選手が覚せい剤を使って逮捕されたのだ。
あれほどの有名人が覚せい剤に逃げるという現実を見ると、金持ちになっても幸せになれるとは思えない。
恋人がいても人付き合いがさらに大変だ。なら私はダラダラと過ごす幸せをかみしめたまま、死にたいと思っていたのだ。
ぜいたくな悩みだと思うが、世間の自殺する理由は案外なんでもないことかもしれない。
「死んだ身ならもうしがらみはない。どんな頼みでも聞きましょう」
「ありがたい。そなたには私の作った世界に来てもらいたいのだ」
「ほう、異世界転生ですか。よくライトノベルではありえる話ですが、なぜでしょうか?」
「ふむ、そなたがそう思うのも無理はない。少し説明しておこう」
神は説明してくれた。
自分の作った世界は、望んで作ったわけではないそうだ。自分の死後に生まれたという。
童話が大好きで、メルヘンのような世界が生まれたのである。
ところが数十年後、そこに魔物が現れた。自分が生み出したわけではないらしい。
調べてみると魔物は住民の心から生まれた存在だという。
今までの世界は幸せだけしかなかったが、それに無理が生じたのだ。
そのため世界は魔物に対して対処しなくてはならなくなった。
戦うことに慣れてない彼らは傷だらけになり、心の休まる日はないという。
一応戦う人はいるが、いかんせん数が少ない。エアツェールングというお城の兵士くらいだそうな。
これで神様がオンラインゲームでもプレイしていれば、冒険者ギルドが生まれたかもしれない。
しかし神様はゲームに詳しくないという。同僚の話を耳にした程度だ。
「ゆうべは、おたのしみでしたね」と訊ねたら、「確かお姫様を救出した後、宿屋に止まるのだったな」と答えられるくらいは知っているという。
続編は自爆魔法や即死魔法に悩まされたと、同僚がこぼしていたのも聞いていた。
「それでは私は何をすればよいのでしょうか?」
「簡単だ。私の世界に別の魂が入るだけで、大丈夫だ。そなたはそこで好きに活動すればよい」
神は私に力を与えてくれるという。神なら私の容姿を変えられるそうだ。
それなら私はあることを願った。
「じゃあ私を女性にしてください。そして自分の望むものを作り出せる知識を与えてほしい」
「もちろん、問題はない。だがなぜだ?」
「新しい人生を送るなら女性になりたい。そしてバニーガールになりたいんだ!!」
そう、私が好きな物にバニーガールがある。幼少時にその姿を見て、虜になった。
特に仮装番組のバニーさんが大好きで、毎回見ていたが、着ぐるみタイプになったときは殺意が湧いた。
色はやっぱり黒がいい。シンプルなワンピースに、シームの入った網タイツが理想だね。
「……そなたは女性になりたいのではなく、バニーガールになりたいのかね?」
「そうだね。女性になるならバニーにふさわしい身体がほしいな」
神は少し呆れ顔である。そんなにバニーガールが嫌いなのだろうか。
「嫌いというより、あれのどこがいいのか、わからんのだ。あんな女性の体形をモロにはっきりさせる衣装を着て、何が楽しいのだか……」
明らかに嫌悪感をあらわにしている。それでも願いをかなえてくれるようだ。
「あと後者の願いはなんじゃ?」
「はい。バニースーツを作るための設計図と、素材を瞬時で知りたいのです」
「それなら望むものを出す能力のほうがよいのではないか?」
「それではだめです。その世界の住人が作り出せなくては意味がありません。私がただ物を出すだけでは私の死後それを受け継ぐ人がいなくなります。どうしてもその力が必要なのです」
そう、古代ギリシャはひとりの天才に頼り切ったため、衰退したという。
逆に古代ローマ文明は、天才に頼らず、法を作ることで秩序を保った。もちろん大勢の血が流れているが。
私は自分のもたらしたものを、後世に残さなくてはならない。そのためには知識が必要なのである。
「うむ、なかなかの心構えだ。そなたのような人間に出会えて、わしは嬉しい。では転生させるぞ。ほほいのぱ!!」
神は呪文を唱えると、私の身体は吹き飛んだ。