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1. 鳥と空と太陽(3)

 

 キュリリリリリリリリリリリリリリリ

 

 まだユキの異常を知らせる大音量は響いていた。男の顔にもイラ立ちと焦りと、そして未経験の音への恐怖が表れている。


「これはお前の仕業か? お前がやっているんだろう! この音を早く止めろ!」


 言われてもユキにはわからない。音を止める方法なんてそういえば知らないことにこの危機的状況下で初めて気づいた。男は倒れているユキからリュックをひったくると音の出所にようやく気付いた。袋から下がる卵のような白いものから音が出ていた。

「気味がわりいな」

 ひとりごちると、腰に帯びた剣を引き抜き思いっきり防犯ブザーに突き刺した。音は消え去り辺りを風の音がヒョウと舞った。

 男はユキに向き直ると見下ろして言った。

「手間取らせやがって。このアマ」

 ユキはピシピシと音を立てて体が凍りついていくのを感じた。


 モウニゲラレナイ。

 

 剣を腰に戻すと、固まったユキの体を荒々しく抱え上げ、もう片方の手でユキのリュックを持ち上げた。

 ユキを担いだまま馬の方へ戻る男が仲間に叫んだ。

「おうい。捕まえたぞ! 俺の手柄だ。お前達にも分けてやらんことも無いがな」

 男は上機嫌に笑っている。ユキの血の気はこれでもかというほど下がってしまい、もうどこにも行き場がなかった。


 無事では済まない――――


 それだけが何もわからないユキに、一つだけ分かる事だった。


 ピィィィィィィィ

 

 あの鳥の声がする。全てを諦めたユキの耳に初めてここに来て聞いた鳥の声が届いた。

 不吉な声だと思った。

 鳥の声が聞こえてから、すぐにこんな怖い目にあっているのだから。

 男の肩の上で揺られながら涙が頬を伝うのを感じた。腰から抱えられたユキの涙はそのまま唇には届かず、鼻の先まで流れると赤茶色の大地に吸い込まれていった。


 ピタリと揺れが収まった。

 顔を少し上げると男が立ち止っているのが分かった。表情はわからない。でも体が強張っているのがユキにも伝わった。男は何を見ているのか。気になってユキは更に顔を上げた。途端に地面へとそのまま落とされた。ドサリとリュックも投げ落とされている。慌てて振り返ると馬達のいる辺りに白い人影が二つ見えた。

 ユキを捕えていた黒づくめの男は、白い人影の足元に黒い物がうずくまっているのを見た。「チッ」と舌打ちをし、腰に差していたあの剣を抜き取ると、倒れたユキの髪を掴んで引き立てた。いきなり髪をひっぱられ「ヒッ」とユキの口から声が漏れた。男の剣先がユキの喉元に当てられヒヤリと首筋を走る。


「おい! お前ら! 何のつもりだ? 今すぐ立ち去れ。女を殺す」

 吠える男の唾がユキの顔ではじけた。

 

 コロサレル

 

 ユキの頭はもう正常には働けない。何が何だかわからずフリーズしてしまっていた。喉元の剣先が熱くなる。陽炎のようにゆらめいている白い影の一つが動いた。ユキを掴む男の体に力が入ったのがわかった。


 殺される!


 シュイイイイン


 空気がユキの前で切り裂かれ、男と共に後ろに吹き飛ばされた。剣先がもう首元に無いことがわかり、ユキはもがい

た。男の手から髪を振りほどき地面に這いつくばった。再び男に掴まれるのを恐れて、体を引きずり後ずさった。


 やっと男の方に向き直るとそれはピクリとも動かなかった。顔のあった場所には矢が突き刺さっている。ユキの頭をフリーズさせた何かは、今では体をも浸食したようだ。目を離す事も出来ず男の抜け殻を食い入るように見ていると、前方から声がした。


「大丈夫か? 怪我は?」

 ビクリとして頭だけ声のする方にソロリと向けると、白い影が目の前に立っていた。黒づくめの男よりもスラッと伸びた影は若い男のようだ。

「矢には当たったように見えなかったが、ひっくり返って頭でも打ったか?」

 若者は屈んでユキの顔をマジマジと覗き込んだ。


 明るい空色の瞳がユキを見つめる。

 頭上で「ピョルウゥゥ」とあの鳥の声がした。


「サイ!」

 空に向かって声を上げた若者の声で我に返った。


 逃げなきゃ……逃げなくちゃ!


 腰が抜けたようガクガクしたが、足を動かす力はまだ残されていた。フラリとよろめくように立ち上がるとユキは若者に背を向けて鉛のようになった足を一歩一歩と踏みだした。


「ちょっと待て。足ケガしてるぞ」

 若者の言葉に下を見ると膝小僧が血で滲み流れ落ちようとしていた。脳裏を矢の突き刺さった男の顔だったものがかすめる。へなりとユキは砕けて座り込んでしまった。

 若者が駆け寄る。

「大丈夫か? 痛むか?」


 もう一歩たりとも動けなかった。地平線はグルグルと斜めに回転を始め、画面は完全に暗くなった。

『シャットダウン』というフレーズがなぜだか頭に浮かんだ。


 ピィィィィィィイィ


 最後に聞こえたのもやっぱりあの鳥の声だった。



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